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ずっと一緒に

『お止めなさい!貴方が傷付くだけです』


 オレはキャロたちが置いていった手提げのカゴとその中身を拾い集める。


『以前貴方に魔物と手を組む冒険者もいるとは言いましたが、そんな者は滅多にいないのです!ですから』


 オレは教会で待ってるキャロのもとへと向かう。


『力無い人間は無条件に魔物を怖れるのです。ですから……』


 ハピア、ありがとう。


 オレを心配してくれてるんだよな。


 けどオレはキャロから離れないって約束したんだ。


『それでも、きっと……。貴方は傷付きます』


 あぁ。そうだろうな。


 それからは何も言わず教会まで歩く。


 オレが教会の前まで来ると既に夕方になっていてシスターが迎えてくれた。


「あらあらぁ、いらっしゃったんですね〜。魔物のワンちゃん」


 シスターは軽快に言い放ち教会の扉を開き、オレを歓迎するかの様に腕で中を指し示す。


 やはり既に知っていたか。


「わん(いい加減に芝居掛かった身振り手振りも飽きてきたな)」


 オレはシスターへと言い放つ。


「おやおやぁ、随分と嫌われてしまいましたね〜」


 シスターがクスクスと笑う。

 彼女の美しい顔。その目と口が三日月状に不気味な変貌を見せる。


 オレはシスターに導かれるまま中へと入る。


 キャロがいた。子供達と塊になって身を寄せ合い震えている。


「何しに来た!魔物め!」


「キャロちゃんには指一本触らせないぞ!」


「ココにお前の居場所は無い!出て行け!」


 口々にそんな言葉を言われる。だがそんな事は気に止めない。オレはキャロを見つめる。


「わん(キャロ、ゴメンね)」


「アリス……?」


「わんわん(魔物だって隠してた。キャロに嫌われたくなくて。本当にごめん)」


 言うべき事は言った。後はキャロが話を聞いてくれるかどうかだ。


「アリス、どうしてそんな犬のフリをしてるの……?」


 犬のフリ?キャロは何をーー。


「どうして!!わんわん吠えるだけで何も言ってくれないの!!」


 アリスが叫ぶ。

 その顔は怒りの形相を示しており呼吸は荒い。こんな顔のキャロは初めてだ。


「わん!わん!(ごめん、キャロ!落ち着いてくれ!本当に悪かったと思ってる。だからお願いだ、話を聞いてくれ!)」


 オレは焦り懇願する。


「馬鹿にしてるの?今まで魔物だって気付かなかったから」


 キャロが吐き捨てる様な言葉を口にする。

 違う、馬鹿になんてーー。

 そう言おうとして言葉が止まる。まさか、キャロにオレの言葉が届いていないのか……?

 何故……?どうして急に?

 オレの体から血の気が引いていく。


「うふふふ。答えは出たみたいですねぇ。では悪い魔物さんはお母さんが追い払ってあげましょう」


 シスターがオレを掴み上げる。

 しまった! 動揺して反応に遅れた。 くそ! 離せ! 離しやがれ!!


 シスターはオレを掴み教会裏にある水場へと連れて行く。


 くそ!オレをどうする気だ!お前なんかにオレが止められると思うなよ!


 シスターがオレの顔を自分と向き直させる。

 視線が交差する。


「では、神の御加護があらん事を」


 シスターが笑顔を見せる。

 見せるや否やシスターが水場へとオレの顔を突っ込む。


 ぐ!? コイツ! オレを溺れ死にさせるつもりか!? やはりコイツはおかしい。 くそ! 仕方ねえ!!


 魔法を使うしかない!だがどうする。


 土を弄ったとこでオレの力じゃぶっ飛ばすには足りねえ。


 水を操るのも上手くねぇ。


 風か? 突風を起こしてバランスを崩させ一瞬の隙を突く。


 悪くねえ! だが足りねえ!


 いや、確か近くに木があった筈だ。


 植物も軽くなら操れる。


 どうせやるなら先にソッチを試してからだ!


 オレは木を操作するよう念じる。


 オラ動け! 枝折れろ! しなれ! 何でも良いからシスターに攻撃しろ!!


 オレの頭を掴むシスターの腕が緩む。


 木が動いてくれたか?今か!?


 即座に突風を起こしシスターへと吹き付ける。


 オレの拘束が更に緩む。


 あと一息、もう少し何か……! くそ! 全部喰らいやがれ!!


 シスターの足元の地面を引っ張る。さながらテーブルクロス引きをイメージし魔力を込める。


 地面ズレろ! バランス崩して転びやがれ!


 拘束する手から力が抜けシスターが転ぶのを感じ、オレの拘束が完全に外れる。


 オレは水から顔を上げる。


 畳み掛けろオレ! 勝機はココしかねえ! コイツを殺す!

 オレを殺そうとしたんだ。 殺されたって文句は言わせねぇ。


 オレは倒れたシスターに勢いよく飛び乗り再び衝撃を与えマウントし、顔へと牙を突き立てる。

 思っていたよりも柔らかい感触と血の味が口の中に広がっていく。


 だが、一度では全く足りない。


 この女の命が尽きるまでオレは噛み続けなければならない。


 ズブリズブリと牙を刺し続ける。頬の肉を噛みちぎり、鼻を抉る。


 コイツは生かしておいたら危険だ。


 傷を負わせるごとに吐き気が増していくが、オレは決して止めない。


 首を噛み切って終わらせてやる。


「お母さんを離せ化け物!!」


 オレの体に鋭い痛みが走る。それは一度では終わらず次々と襲い掛かってくる。

 石を浴びせる様に投げられている。


 くそ!ガキどもが助けに来やがった!


 ダメだ、耐え切れねえ。魔法を連打したばかりで結界も貼れないオレは後ずさってしまう。

 ちくしょう!後少しだったってのに……!!


「アリス……?あなた、何やってるの……?」


「わんわん!(キャロ!お前は危ないから離れてろ!!」


 オレが吠えるとキャロが小さく悲鳴を漏らし後ずさる。

 しまった……!今のキャロにオレの声は……!


「お母さんを殺すの?本当にアリスは悪い魔物なの?」


「わん!(違う!コイツはキャロのお母さんじゃない!)」


 伝わらないと理解しつつも叫ぶ気持ちを抑えきれない。キャロが震え、怯えている。

 クソ!ダメだ、どうしてだ……!

 全く考えが浮かばない。


「ずっとそうやって吠えて……。やっぱりお婆ちゃんを殺したのも、アリスなんだね」


 アリスの言葉に思考が止まる。

 何だ……?今何を言った?オレが、殺した?何故、どうしてそんな話に……。


「あらあら皆さん、ココに居てはいけませんよ〜。とっても危険な魔物さんがいますからねぇ」


 背後からシスターの声が聞こえ慌てて飛び退く。この女!まだそんな元気があったのか!


 そしてオレはシスターの顔を見て絶句する。


 顔の傷が……、消えている……? 何だ? 何が起きた! どうして傷が消える!!


 オレが牙で息の根を止める寸前だったのは幻だったのか?


 違う、幻なんかじゃない。


 口の中に残る血の味も、地面に残った血の跡も幻覚なんかじゃない。


 治癒魔法を使ったのか? 魔法を使ったってのに何の気配も出さなかったのか? こんな女がそこまでの技術を持ってるのか?


 くそ!何もわからねえ!


「ココから消え失せろ!不吉の象徴!」


 子供達が口々にその言葉を放つ。

 馬鹿な、何故その言葉を……!?不吉の象徴だと? それはオレが村人から呼ばれた忌み名だ。何故それを知っている?偶然か……?


 違う筈だ。なら一体何故……!


 思わずキャロに目を向けてしまう。


 何を期待してしまったのか、キャロを見ずにはいられなかった。


 キャロが顔を怒りで歪め、オレに石をぶつけるる。


「私を見るな!不吉の象徴!!私の前から消えていなくなれ!!」


「そろそろ消えてくれませんかねぇ。 飽きてきましたので。 しつこいと嫌われ、あぁ!あなたはもうとっくに嫌われてましたねぇ! 不吉の象徴さん」


 オレは何も返す事が出来ない。


 オレはシスターとキャロ、どちらからも目を背け走り出した。


 もう、ココにいても仕方がない。

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