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スマホ

 ハピアが叫ぶ。逃げろと。


 何故? オレは子供たちを見守る。




 オレ達は孤児院、本来は教会か。その近くにある町にいる。

 時が経つのは早いもので、オレもキャロもここでの新しい生活にすっかりと順応した。


 今はキャロと共に、ハートに頼まれた食材を買いに来たというわけだ。

 だが今のオレはすこぶる機嫌が悪い。

 何故ならキャロの隣を歩くのはオレでは無い。孤児院へ来て以来キャロがすっかり熱を上げているクソ……、少年だ。


 前世ではあまりそーいった男女の機微には疎かったがキャロの事ならわかる。出会ってから一年程だがオレはずっとキャロを見続けてきたからだ。


 そこそこ顔が良くてちょっとリーダーシップがあって、子供達のまとめ役で皆から多少信頼されているだけの兄の様な存在。

 あいつと出会ってからオレはキャロといる時間が前よりも減った。正直堪え難いほどの苦痛だが、おかげでキャロはすっかり元気を取り戻した。

 だからアイツには感謝もしている。


 故にオレは特別二人を邪魔する事なく、憎たらしいクソガキとキャロが歩くのを後ろから眺めながら歩く。


 む?クソガキが何か拾っているな。何だ?


 オレが見に行くとそれは綺麗な装飾で縁取られた、鏡?いや違うな。向こう側が透けて見える、ガラス板のようだ。


「おい!すげえもん拾っちゃったよ!」


 小僧が驚く、何だ?そんなちょっと綺麗な何に使うかもわからん物で喜ぶなど所詮は子供だな。

 キャロも何かわかって無いようだ。

 フフン、少年よ。お前の目は節穴の様だな。そいつはただのガラクタだ。見た目が綺麗なだけのな。


『節穴はどちらですの。もう生まれてから三年以上も経つというのに』


 何だとハピア!オレは前世の知識を持つ転生者だぞ!更には二年という短期間で魔法も習得し使いこなし、この世界の常識もある程度把握している。


 魔術では無く魔法!


 魔術は勉強ばっかしてるだけの魔力の扱いにそう長けた者で無くとも使えるが魔法は違う。

 イメージ力や魔力を扱う素質が無ければ成り立たない。

 まあ逆に言えば特にコレと言った勉強をした訳ではなく、なんとなく風よ吹け!とか水出てこい!とか念じて出しているだけだが十分に天才的だ!


 それを僅か生後三歳にしてやってのける賢人ならぬ賢犬と評さずに節穴だと!?

 まあ、小型犬の三歳は人間で言うとこの凡そ二十八才だがそんな事はどうでも良い。


『現にあのガラス板が何かわからないのでしょう?』


 ぐっ!あ、あれは、そうあれだ。何かこう、アレをアレするやつだ!そうに違いない。


『もうよろしいですわ。アレはマギアレコードデバイス』


 そう言ってハピアはガラス板の説明をしたが正直なところ、ほとんど頭に入らなかった。途中から今夜の夕飯は何だろうなぁ、とか飛んでるチョウチョを追いかけたり、そっちに頭が向いていたから仕方ない。


 聞きかじった感じで言えば、あのアイテムはスマホだ。

 所有者の魔力をバッテリーにして動くスマホ。


 通話機能の他にガラス板を通して見た相手の筋力やら魔力の大きさを数値化して見ることが出来る測定機能があるらしい。

 BMIを測る機械みたいだな。百年以上前にこの世界に来た異世界の人が作ったそうだ。


 この話を聞いた時は驚いた。こんなファンタジー世界にスマホあんの!?とか百年以上前ってオレたちの世界にスマホ無いじゃん!とか。


 でもまあ転生やら転移やら、世界を移る時に過去に行ったり未来に行ったりタイムラグでもあるんだろう。

 それかオレが魂のまま百年ほど彷徨ってた可能性もある。


 そして驚きとは別でオレは歓喜した。スマホがあると言うことは写真機能があるではないか!

 うおおおお!オレのぷりちーな愛犬ボディを後世に残すチャンス到来!!と思ったがどうやら写真機能は無いらしい……。大ショックだ。

 オレの写真を見てイイね貰ったりブックマークしたりで成り上がるチート展開では無かったのか。オレほど写真に映える動物はこの世界にいないだろうに。


 やれやれ、携帯に写真機能なんてあって当たり前……、まあ再現が出来なかったんだろうな。

 むしろココまでそれっぽく作っただけでも上等か。


 だが写真機能は無いくせにゲーム機能はあるみたいだ。どうやら測定した人か魔物のデータを魔術で再現して、戦闘のシミュレーションさせたりテニスさせたりできるとか。

 なんかバーコード読み取って遊ぶオモチャとかみたいだな……。どんな技術を使ったらそうなるんだ。

 しかも魔力の扱いに長けた者なら操作も可能で、さながら対人格闘ゲームの様に遊べるとかなんとか。


 何だろう?ゲームばっか遊んでたら魔力が疲弊してリアルな戦闘で困ったり、逆に戦闘で疲弊して通話する魔力が無いとか言うんだろうか。

 便利なんだから不便だかわからんな。


 たしかにそんなオーパーツを見つけてしまったらキッズのテンションの上がり方も納得できる。

 その証拠にオレがこうやってボケーっとしてる間もキャロと少年は楽しそうにはしゃいでいる。


 お、キャロがオレを呼びスマホを向けてきた。前世からの癖でつい笑顔になりポーズを取ってしまう。


『いけません!お逃げなさい!!』


 うお!いきなり大っきい声出すなよ!めっちゃ耳がピンッてなったわ。一体どうしたと言うんだ。


『さっきの説明を聞いてませんでしたの!?早く離れなさい!!』


 そんなに慌ててどうしたと言うんだ。説明なら聞いてたさ。写真機能無いんだろ?わかってても癖で構えちゃうんだよ。


 突如キャロの表情が固まり、その場でスマホを地面へと落とす。カツーンと乾いた音が響く。

 キャロ?どうしたんだ?どっかスマホの装飾で怪我でもしたのか?


『さっき説明したではありませんの!測定されると種族や持っている能力も表示されると!』


 種族?あぁ、パピヨンだろ。能力って何だ?聞き逃しちまったかな。色んな魔法が使えて賢い、とかそんな感じか?


『そんな訳ありませんわ!魔物と表示されて正体がバレたらおしまいですのよ!それに……』


 キャロがオレを震えながら見つめ、ゆっくりと口を開く。


「ふ、不吉……?」


 へ?


「う、嘘だよね……?どうして……?」


「わん!わん!(どうした?キャロ!大丈夫か?)」


 オレはキャロへと駆け寄る。だが突然オレの体は衝撃を受ける。


「キャロに近付くな!邪悪な魔物め!!」


 いってぇ……!何だ?オレはどうなった。

 視線を上に向けるとキャロが怯え、少年が怒りの眼差しをオレに向けていた。


 蹴られた、のか? なんで?さっき、何て言った?邪悪な魔物?


 クソガキの頭は良い方だ。仮に魔物と表示されたところで、オレが危害を加えた事なんて一度も無いだろうに突然怒りの表情を見せるなんて。


 キャロだってあの怯え方は。オレが村人たちに魔法を使い、魔物だと言われた時。あの時はオレを、親友のオレを信じてくれたじゃないか。


 それとも魔物だなんて思ってなかったってのか?仮にそうだとしても今までずっと一緒だったじゃないか。


 何かが、おかしい。


 痛みの中、思考の波が押し寄せる。


 少年がキャロを連れ教会に向け駆け出す。

 待て、行くな。 キャロ、話を聞いてくれ! くそ! 痛みで体が動かねぇ。 早く治癒しねえと。


 オレは急ぎ体を治して立ち上がる。

 キャロたち、買い物カゴも置いてっちまった。

 キャロたちの姿は見えない。


 オレはその場に立ち尽くすしか無かった。

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