悪い癖
彼女には幸せになって欲しい。
たとえ自分がどうなろうとも。
オレは衛兵たちに連れられ、キャロのいる検問所へと戻ってきた。
着いたのは夜明け前、オレは未だ医務室で眠るキャロのもとで眠りについた。
しばし眠り、目を覚ました時。今自分がいる場所と大切な人の死を思い出し、泣いた。
そのまま眠らずにいるとキャロが目を覚ます。
お婆ちゃんの死は衛兵が伝えてくれた。衛兵たちはオレがキャロと話せる事を知らない。彼らが伝えるのは当然だろう。
オレが伝えるべきだったが……、オレには言えなかった。
オレは掛けている二つのペンダントの内一つが、お婆ちゃんの形見であることを伝えた。
キャロは黙って片方を手に取った。
キャロは悲しみ、泣いていた。声をあげて泣き、オレを抱きしめた。
オレとキャロはお互いに何度も謝った。ひとしきり涙を流すと、オレたちは再び眠った。
次の日も、オレたちの涙は枯れることが無かった。
衛兵が食事を用意してくれたが、二人とも手を付けられなかった。
あの時のお弁当が、お婆ちゃんの最後の手料理になってしまった。
どうして、こうなってしまったのか。
『悪い癖が出ていますわよ。貴方は昔からそうですわね』
ハピアか……。今はそっとしといてくれ。オレのせいだ……。全部、オレのせいなんだ。
『しっかりなさいアリス!キャロの家族は今貴方しかいなくてよ!貴方が彼女を守るのです!』
そんな事言ったって……。オレは所詮、犬の延長線だ。全部オレの努力不足が招いた結果だ。
オレにキャロを守る事なんて出来ない。
『えぇ、えぇ!貴方がもっと真面目に修練に励んでいれば文字だって書けましたし、進化して言葉を話せる様にもなれたでしょう!それこそ貴方一人で野盗を蹴散らせるほどの強さも得られたでしょうね』
そうだ。だからコレは全部オレのせいなんだ。オレの弱さが、オレが頑張らなかったからこんな事に……。
『それを今言ってどうなりますの?そんな後ろばかり見るより、貴方が今どうするべきか考えるべきではなくって?』
オレが今、どうするべきか……?
オレは、キャロの側にいてやって。
キャロもキャロの大切なものも守れるようになって。
それで、それで……。
『それで良いではありませんか、だからもう泣くのは最後になさい。少なくとも今キャロが生きているのは貴方の頑張りのおかげです』
ハピア……。オレのおかげ…。
ハピアの言葉が脳内で反芻する。キャロがいま生きているのは、オレの頑張り……。
ありがとう。オレはハピアに告げ、顔を上げる。そして目の前の皿にある料理を勢いよく食べ始める。
キャロが顔を上げる。
「アリス……?」
「わん!(キャロ!これから先は心配すんな!オレがずっと側にいて守ってやる!)」
そうキャロを振り返り笑顔を見せる。オレを見つめる泣き腫らした翡翠の瞳。揺れる麦色の金髪。
オレが、この子を守る。そう決意をし、すぐさま皿に視線を戻した。
もう、泣くのは最後って決めたんだ。涙を見せる訳にはいかない。
皿のご飯は……、なんだか少ししょっぱかった。