ヒーローを目指して
もうどれほど走り続けただろうか。
これほど疲弊したのは以前一人で逃げた時以来だ。
けど今は、一緒に走る親友がいる。
だから、これからも。
オレは村人たちに失望していた。いや、むしろ期待していたのが間違いだったのだ。
キャロは村人たちに必死に訴えた。野盗が来る。危険だと。皆殺しにされてしまうと。
しかし村人たちは相手にしなかった。お婆ちゃんに対してもそうだ。
悪魔に取り憑かれた奴らの言うことなんて聞けないと。
キャロとお婆ちゃん。二人は必死で訴えかける。しかし、その声は届かない。
オレは絶望し立ち尽くす。
『走りなさい』
ハピア?何を言っているんだ。走る?
何処へ行けと言うんだ。もう、どーしようも無いじゃないか。
ぽつぽつと雨が降り始める。
あぁ、あの時と同じだ。
オレが幸せな世界から追い出された絶望の夜。
あの時と同じ様に雨がオレの体から体温を少しずつ奪っていく。
『先ほど地理を調べました。その村の先、山とは反対方向に検問所があります。そこに衛兵がいるから助けを求めるのです』
その言葉を聞きオレの心に小さな光が差す。
まだ手はあるのか?
『あります』
間に合うのか?
『走りなさい』
そこに行けば助かるんだな!
『走りなさい!』
オレは駆け出しキャロに叫ぶ。検問所がある、と。まだ希望は残されていると。
そしてキャロはオレの話をお婆ちゃんへと伝える。お婆ちゃんはココに残って説得を続けると言った。
私は走れないからお前たちだけで行きなさい、と。
お婆ちゃん、すぐに衛兵さん連れて戻るから。それまで待ってて!絶対すぐに戻る!
約束だ!
お婆ちゃんが笑顔でオレとキャロの背を押す。
オレはキャロと共に駆け出す。
山道を来た時と同じ様に追い風を起こす。
いや、同じじゃない。地面が先ほどより平らな分、さっきよりも強く、速く。
オレたちは駆ける。
道はハピアが案内してくれる。大丈夫。何も心配はいらない。
いざ野盗たちが来れば村人たちもわかるさ。オレたちが皆を助けようとした事も、そして衛兵を連れて助けたオレたちに感謝するだろう。
そんな明るい未来を想像し、力を振り絞る。
今日はずっと歩き通し、走り通しだが。まだ走れる。
オレはキャロの痛むであろう足を治癒魔法で癒しながら進む。
痛みを誤魔化す程度の効果しか無いが、今はそれでいい。走り続ける。
走り終わったらオレたちは村のヒーローだ。その時はゆっくり休ませてもらうさ。
だから今は走る。
息を切らして、ただ駆け抜ける。
助けを求めて、ただひたすらに。
オレたちは絶対に、諦めない。