優しい二人
オレは、化け物だ。
日本で生まれ、平和な国で育ち、そして死んだ。
ごく普通の感性を持った人間だと思っていた。
けど優しい二人といると時々、本当に自分が化け物なんじゃないかと思ってしまう。
オレはキャロと共に走っていた。
当然だがキャロはオレほど速くは走れない。
だからオレは遅く走る分の余力を魔法へと回している。
風はキャロを押す追い風。キャロが転ばないよう大地を平らに。
キャロの息が切れたらその都度休み、水を出す。
オレに使える魔法なんてこの程度だが、無いよりマシな筈だ。
平らな道を野盗に利用されない様、整地した道を崩しながら進む。
色んな魔法を一度に使っているせいか頭痛がする。頭がふらつき熱を持っているのがわかる。
それでもオレは魔法を使うことを止めない。
愛する人を失いたくないから。
辺りはすっかり暗くなり夜となっていた。
それでもオレたちは止まらない。
そうして走っているとやがて村に着く。
来る時よりもずっと速い。
オレたちはまずお婆ちゃんの元へ向かう。
お婆ちゃんは帰りが遅くて心配だったと嘆いた。オレとキャロを抱きしめ、その髪を撫でる。
お婆ちゃん、ごめん。
けどそれどころじゃないんだ。
キャロが慌てて野盗の事を話す。
お婆ちゃんは驚いていたが、信じてくれたようだ。
良かった。
これで助かる。早く荷物をまとめて逃げよう。
だが二人の考えはオレと違った。
二人は村人たちに知らせないと、と言った。
何故?あんなに酷い仕打ちをしたのに、彼らを救う理由がどこにある?
オレがそう考えていると、お婆ちゃんがオレに向き直す。
キャロと同じ緑色の瞳がオレを見つめ、ゆっくりと口を開く。
「今は嫌われてるかもしれないけどね、今まで一緒に暮らしてきた村人たち、あの人たちも家族なんだ。それに、明日はまた仲良くやれるかも知れないじゃないか」
お婆ちゃんはオレに笑顔を向けた。
どうして? なんでそんな考えが出来る? オレたちだけで逃げれば良いじゃないか! 他の村人に伝えてたら逃げる時間がなくなってしまうかも知れない。 いや、村人全員で逃げたら野盗たちは追って来るに決まってる。
そこまで考えて気付く。
自分が村人たちを犠牲に逃げ、生き延びようとしている事に。
バロウたちを置いて逃げた時、あれほど辛い思いをしたというのに。
けど、あんな奴ら殺されたって……。
そう考え俯くオレの頭を、お婆ちゃんは優しく撫でてくれた。
「大丈夫、前向きにおなりよ。これで村を救えたらアリスとキャロはヒーローになれるよ」
それはとても優しい声だった。
オレは、黙って頷いた。
凄いな……。オレが何も話せず言葉もわからないのに、オレの事は全部お見通しだ。
「さ、キャロとアリスは先に皆の所へ行って教えておやり。私もすぐに後を追うからねぇ」
その言葉を聞きオレとキャロは駆け出す。
あれほど憎んだ奴らだけど、確かに仲良しだった時もあった。
オレは自分の化け物の思考を改め、優しい二人に感謝する。
オレが心まで化け物に変わらないよう、止めてくれてありがとう、と。
村人ども……。助けてやるから、優しい二人に感謝しやがれ!
オレたちは家を後にした。