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異変

 第七戒

 私をたたいたりする前に、私はあなたを噛んだりしていないことを思い出してください。

 私の歯はあなたの手の骨をかみ砕くことぐらい簡単にできるのに。




 ざわついている。 不穏な気配を感じる。 人々が忙しなく動き回っている。


 まあオレには関係ないけどね!

 キャロからのプロポーズを喜んで受け取ったオレはウキウキ気分で彼女とデート中だ。

 まあ村でいつもの様に散歩しているだけなのだが。

 しかしオレの胸に輝くのは、真っ赤な宝石付きのペンダント!


 妖艶に輝く真紅の精彩。炎よりも濃い赤。それでいて高い透明度を誇っている。オレの言葉では表現できないほど、まさにこの世の物とは思えないほど美しい。……補正入ってるかな?


 こんな宝石を村中の女性が持ってるって凄いな。特に生産してる様子も無いし、村自体におかしなところなんて無いのにな。


 歩みを進めると人だかりを見つけた。

 アレは、いじめっ子Aの家か……。何だ?

 あ!もしかして最近来たって聞いた旅の商人か!

 キャロもお婆ちゃんもそーゆーの全然興味なくて見れなかったんだよなー。

 けど聞こえる声があんま楽しげじゃないな……。

 あんま人の不幸に関わりたくないんだよなぁ。


 ……やれやれ、オレの可愛い姿を見せて和んでもらおう!幸と不幸は分け合わないとだもんな!よし!


「わん!(ちょっと見てくる!)」


「え!急ぐと危ないよー!」


 わかってるってー!だいじょぶだいじょぶ!見るだけ、もとい見せてくるだけだから!


 人混み、というか足をグイグイと掻き分け人だかりの中心へと潜り込む。

 御無礼!御無礼!セクハラじゃないよ!この体メスだからそーゆー欲求無くなっちゃったんだよね!


 中心まで来ると男の人が嘆き号泣している。

 周囲の人が宥めているが……。この人は……、いじめっ子の親父さんか?この人はいじめっ子達とは違った厳格者で優しいおじさんだ。

 時折ソーセージをくれてオレを可愛がってくれている。

 周囲の声に耳を澄まし会話を聞き分け、状況を把握する。


「大丈夫だって。すぐに見つかるさ」


「この村にそんな物盗む奴いるわけ無いって」


「どうせお前がどっかに仕舞って忘れてるだけだろ?」


「こんな往来で大の男が泣くなって」


 どうやら何か大事な物を失くしてしまったらしい。だからってここまで泣くか……。

 まあオレもキャロに貰ったペンダントを失くしたら焦り血眼で探し周り、見つからなければ途方にくれて泣いてしまうかも知れない。


 オレも彼を慰めるか。日頃の御礼だ。とびきり可愛い鳴き声で癒やしてやろう。

 オレは小さく鳴いてボリュームを調整する。

 テス、テス。よし!オッケー!


「ワオン♪」


 その声を聞き一同の視線がオレへと集まる。


 オレの可愛さを賛美する声。

 泣いていたおじさんに最強のぷりちースマイルなオレを見て弱々しい微笑みを見せる。

 そしてその表情が徐々に変わっていき……、アレ?なんかメッチャ怒ってる?

 あ、もしかして不幸な人に笑顔見せたのがいけなかった!?

 まずいな……、やってしまった……。そんなつもり全然無かったんだけど……。

 彼は大きく息を吸い込んだ。


「コイツ!オレのペンダントを掛けてやがるぞ!!」


 は……?


「本当だ!コイツが取りやがったのか!!」


「犬だと思って油断してたが何て奴だ!!」


 え……、え……?


「この野郎!オレの宝物を返しやがれ!!」


 そう言っておじさんがオレからペンダントを奪おうとする。

 あ!痛い痛い痛い!!何すんの! 離してってば!!ホント痛いから! やめてやめて! あーー!!腕引っ張るな!折れちゃうだろ!


 瞬間、絶叫。


 そしてオレからおじさんの手が離される。


「コイツ……、噛み付きやがった!!」


 おじさんの手から血が滲んでいる。

 あ……、ごめん……。けどそんなに強く噛んでないし、咄嗟だったから……。

 それに、おじさんだって決め付けで人の事疑っといて乱暴したんだぞ!おあいこだ!

 ……大丈夫?


「このクソ犬!許さねぇ!!日頃の恩を仇で返しやがって!!」


 あ、ヤバイ。逃げよう。

 おじさんは今正気じゃないんだ。目がおかしいもん。落ち着けば普段の優しいおじさんに戻るさ。その時には噛み付いた事もちゃんと謝ろう。

 オレは急ぎ振り返り駆け出すが人混みが壁となり逃走を許さない。


「おい!誰かそいつを捕まえろ!!」


 いやいやいや!皆はオレのこと疑ってないよね?おじさんは今トチ狂ってるだけなんだ。

 他の人たちはもっと冷静に判断してくれる筈だ。

 しかしオレの思いもむなしく周囲からはオレを非難する声。


 ちょっと待ってくれよ! ペンダントがどこまで大切って知らないけど疑いだけでここまで言うかよ! もうこの人たちの中ではオレが盗んだで確定なのか? 

 そりゃ大切な物を犬が持ってる訳無いって理屈も、村のペンダントはどれも同じ見た目だから勘違いするのもわかるけどさ!


「犬の分際で村の宝に手を付けやがって!!」


「可愛い顔して中身はとんだ悪魔だよ!」


「この泥棒犬!くたばれ畜生が!!」


 オレへと暴徒と化した村人の手が伸びる。


 うお!捕まってたまるか!


 オレは村人の鈍臭い手を躱すが逃げ道が無い!


 右往左往し逃げ回るオレに村人の拳が迫る。


 避けられねえ!!


 思わず目を閉じる。


 ……ん?痛くない?何故?え、この程度で死なないよね?


 ゆっくりと目を開け見上げる。


 キャロ!?


 見るとキャロが多い被さりオレを守ってくれていた。肩を抑えとても痛そうに抑えている。


「ギャンギャンギャンギャン!!!!(この野郎!!キャロに何しやがる!!やって良いことと悪いことがあるだろうがよ!!大人が自分より小さいやつに手ぇ挙げるって何考えてんだよ!!)」


 オレは怒りに任せ怒鳴り散らす。


 しかし、それは悪手だった様だ。


 キャロがオレを庇い狼狽えていたところにオレが吠えたとこで彼らの怒りを再燃させてしまった。


 彼らはオレもキャロも御構いなしに殴る蹴るを続けた。


 くそっ、何考えてやがんだコイツら。

 集団心理か?だからって子供の女の子殴るなんてありえねえだろ!

 まずい。オレもまずいが、何よりキャロがまずい。

 小型犬とはいえ魔物のオレより人間の女の子であるキャロの方が恐らく打たれ弱いだろう。

 だが、オレは魔法は使う訳には……。


 ちらりと視界に映る物。


 村人の手に棒が握られている。


 おい!それはダメだろ!マジで殺す気なのか!?


 怒号が収まる。


 そしてざわめきと変わり攻撃の手が止まる。


 魔法、悪魔、魔物、化け物。


 そんな声が聞こえる。


 オレは、使ってしまった。


 魔法を。


 彼女を守る為に。


 薄青のドーム状の膜が結界となりオレとキャロを包み守っている。


 オレが最も得意とする魔法。


 治癒魔法と防御魔法、合わせて聖魔法。オレの初めての大ピンチを救ってくれた魔法。


 そのまま防御の結界を維持してキャロの怪我を治療する。


 自分の怪我なんか後回しだ。

 平気か?キャロ。痛いよな。今オレが治してやるからな。オレのせいでゴメンな。


 オレはキャロの治療を終え、結界を張ったまま村人へと向き直る。


 オレは咆哮し、魔法を使う。


 村人たちの頭上からタライをひっくり返したかの様に水を降らせる。


 突然の事に驚く彼ら。


 そのまま地面を操り彼らの足を拘束する。


 魔法が解けるまでそこで動けないまま頭冷やしやがれ。


 オレは気絶したキャロを引きずり結界ごとその場を後にした。

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