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大切な日

 オレは幸せだ。


 この幸せを守る為なら何だってするだろう。


 オレはキャロの幸せの為なら何だって出来る。


 キャロにはいつだって笑顔でいて欲しい。


 ……だが今日は、キャロの様子がおかしい。


 オレがキャロと出会ってからかなりの月日が経った。

 オレは我が愛犬ボディの美貌を遺憾無く発揮し、村のアイドルとなった。そしてそのオレの主人であるキャロが最早イジメられる筈も無い。


 キャロがオレの愛犬の、生まれ変わった姿。と思い尋ねたこともあったが何を言ってるかわかってもらえなかった。おそらく記憶を無くしているんだろう。


 仮にそうでなかったとしても、オレはキャロが好きだ。一緒にご飯を食べ、一緒に寝て、一緒に遊んだ。どんな時も、オレはキャロと共にいたんだ。


 そんな幸せな日々を過ごしてきたというのに、今日のキャロはおかしい。

 朝からソワソワとして家の中をウロウロしたり窓やドアを開け閉めしている。

 ぶっちゃけ昨日一昨日あたりから何かおかしかった。


 思春期特有の何かだろうか?まさか、まさかまさか!好きな人でも出来てしまったのか?


 バカな!キャロはほぼ四六時中オレと行動を共にしていた筈!恋なんてする暇もない!


 オレの知らない男と恋に落ちるなんぞ断じて許さん!ペットさん許しませんよ!


『なんて独占欲の強い方なんでしょう』


 ハピアが何か言っているが全く聞こえない。


 これは、キャロに確認しなくては……。

 むっ、キャロが手招きしている。いつもなら名前を呼ぶのに……。

 何だ……?恋の相談だろうか……。

 いいい良いだろう。じじじ人生の先輩にななっ、何でも聞くが良い。


『声が震えてましてよ……』


「ねーねーアリス!今日は何の日かわかるー?」


 こっ、この質問は!?

 記念日か!記念日だな!何だ……、誕生日か?

 しかし、お婆ちゃんのもキャロのも割と最近祝ったばかりだ。オレか……?けどオレの誕生日っていつなんだ?

 やはりオレの知らない、もしくは忘れてる『村の男A』が存在するんだろうか。

 Aか、Aの誕生日なのか!?


『なんて鈍感なんでしょう……』


 鈍感だと!?知らんのか?犬は人の四倍以上の聴覚と千倍以上の嗅覚を持っているんだぞ!

 そんなオレが鈍感なワケが無い!


『ヒントは貴方。アリスとキャロ、二人に関係していますわ』


 オレとキャロ……。え、まさか!

 え、でもこれ違ったら恥ずかしい!しかし満面の笑みのキャロの期待に答えるにはコレしか!?くっ、行くぞ!!


「わんわん!(もちろんオレとキャロが出会った日!一年前の今日、オレたちは運命の出会いをしたんだ!)」


 ファイナルアンサー!!


 …………。


 …………。


 …………どうだ?


「せいかーい!アリスすごーい!わぁー嬉しい!!アリス覚えててくれたんだね!しかも運命の日だなんて……!」


 キャロが喜び飛び跳ねる。なんて愛らしい姿なんだ。

 そしてどうやら正解だった様でホッと胸を撫で下ろす。しかし一年か、もうそんなに経っていたとは……。

 人間だった頃からだが日付や曜日の感覚を覚えるのは苦手だったしカレンダーを見る習慣も無かった。

 携帯電話のスケジュール機能にはよく助けられたものだ。

 だがこの世界の一年が地球時間と同じ進み方かもわからない上、例えカレンダーがあったところでオレはこの世界のカレンダーなど読める気がしない。

 思えば森でも一年記念などはバロウ達から聞いていた。


 バロウか……。もはや懐かしさすら感じるその名前。

 一年経っても来ないが、人里に来れないというだけだろうか。それともやはり既に亡くなってしまったのか。

 この一年苦悩したがキャロとの日々がそんな辛さを忘れさせてくれた。

 だからオレはキャロに感謝している。例え何が起きようとオレはアリスと共にいようと思う。


「じゃあそんなお利口さんなアリスにプレゼント〜!」


 アリスの声でハッとする。

 いかん、また考え事に集中しすぎた。オレは今アリスといるんだ。目の前の幸せを第一に考えろ。

 プレゼントって……。アレ?付けてるペンダントをカチャカチャと外している。


「アリスに付けてあげるね!」


 そのペンダントにはルビーの様な赤い宝石が嵌め込んであり、確かこの村で特別な物だった筈。

 村にある風習で女性が幼少期から身に付け、プロポーズの際に渡すとか何とか……。


「わんわん!(それ貰っちゃって良い奴なの?)」


 それ結婚する時に渡す物だよ!?キャロってば絶対それの価値わかってないでしょ!?


「うん!アリスにあげるー!コレを渡した人とは一生一緒になれるって聞いたから、アリスとずっと一緒にいれる様にって!」


 な、なんて良い子なんだ……!!

 かわいい。可愛すぎる。オレには勿体無い程の天使だ。こんなの、受け取らずにはいられない!


「わおぉん!(一生大切にする!オレもキャロと一緒にいたい!)


 キャロが特別微笑みオレの体を撫で回す。

 あぁーー!くすぐったい、くすぐったい!


 そしていそいそと嬉しそうにオレの首へとペンダントを掛けてくれる。

 どうだ、似合うか?似合うよね!これでオレはキャロと一生を添い遂げるというわけだ。


『あら……、ご結婚おめでとうございます』


 結婚!?いやー照れるなー、まだ生後二歳で前世含めても成人前だけど結婚かぁー!キャロ!一生大切にするよ!


 ……とはいえオレは犬だ。犬の寿命は人と比べ短い。魔物は別、かも知れないが確証も無いし…………。もし良い奴が現れたらオレが恋のキューピッドになるのも良いのかもな。

 ふふ、恋のキューピッドか、悪くない。可愛いこの姿にピッタリじゃないか!


 どこぞの馬の骨程度では絶対認めんけどな!


 オレはいずれ来る未来に目を向けつつも目の前の幸せを噛み締めた。

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