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誕生

 何故だ。何故オレばかりがこんな目に合う。


 どうして。どうして人間はこんなにも残酷なのか。


 オレは魔物として生まれた。


 生まれたばかりの魔物の殆どは弱く、周囲に頼らなければ生きていく事は出来ない。


 オレは、弱かった。


 けどもう、頼る事はやめよう。


 殺してやる。


 心が黒く染まり闇と化す。闇が身体を包み込む。黒い輝きが覆い尽くす。


 殺意を込め、咆哮する。


 人間を憎む。この世界を憎む。


 オレを包む闇が、一際強く輝いた。




 ーースキル『ラピスラズリの魔眼』を獲得ーー


 眠い、何の音だ?


 オレの意識が目覚める。


 ーースキル『以心伝心』を授与ーー


 ゲーム付けっ放しで寝ちゃったかな?

 起きよう。いつまでも夢にひたってダラダラとしていては、愛犬の散歩の時間がなくなって……。


 もう……、いないんだったな。


 学校に行かねば。夜更かしも低血圧も交通事故も、遅刻の言い訳にならないとは。嘆かわしい。


 あれ……、交通事故……?


 辺りを見回すと、そこにはのどかな大自然。


 側には泉、小鳥のさえずり、暖かな日差し。眠ってしまいそうなほど気持ちいい。


 いや、何処だよ……。


 オレは記憶を辿る。


 交通事故……。迫る巨大な鉄の塊。オレは、死んだのか……? ここは天国なのか? それとも夢……?


 落ち着こう。せっかく側に泉があるんだ。水でも飲んでゆっくりと考えよう。


 しかし感じる違和感。


 何故オレは手を使って歩く?


 足元を見ると見慣れた小さな手が見える。そう、見慣れた前脚。つい最近亡くなった愛犬の前脚。


 目の前の泉を見つめる。鏡写しに自分の姿が確認できる。


 そこには可愛らしい小型犬種である、黒い成犬パピヨンの姿。

 耳はピンと立ち、クリクリとした丸い目は大きく、小さな黒い鼻がチョコンとしていて可愛らしい。

 長く艶やかな直毛が流れる様は、清純派小悪魔系美少女を思わせる。


 その姿を見てやはりウチの子が1番可愛い事を確信する。


 え、待って。おかしいおかしいおかしい。これ夢だわ。なんでオレが愛犬になってるの? 


 たしかにオレが死んだら天国で再会したいなぁ、とは思ってたよ。


 けどオレ自身が愛犬になりたいなんて一言も言ってないよね。


 そしてココどこ!?


 だがそんな思考も長くは続かなかった。


 突如上がる獣の雄叫び、眼前に現れる黒い影。


 そいつは涎を垂らし、唸りを上げている。血走った目で爛々とオレを見据える、狼の姿。


 あ、これ夢ですね。完全に夢です。


 だって狼にしてはデカすぎるもん。尻尾の先とか剣になってるし。


 何だこれ、ゲームのやりすぎか?


 だが夢の中の意識がそうさせるのか、冷静な思考とは別に恐怖感が沸き上がる。


「ガアゥ!!(どうした? 恐怖のあまり声も出せないか?)」


 狼が吠える、だが同時に聞こえる言葉。


 この人、人じゃ無いけど喋りましたか……?


 いや、やはり夢なんだコレは。だが……。


 気付くとオレは逃げ出していた。


 早く覚めろ。早く覚めろ。早く覚めろ。早く覚めろ。


 木々の生い茂る森の中、息を切らして走る。


 行き止まりの壁にぶち当たってしまった。近くに川があるがオレは泳げない。

 夢だという可能性も考慮すると水に飛び込むなんて却下だ。いざ目が覚めた時にベッドがびしょ濡れなんてゴメンだ!


 オレは振り向き、追跡者を見る。


 オレの息は荒く、走ったせいで呼吸が乱れている。リアルすぎる……、やはり夢じゃないのか……!?


 くそ、どうする……。どうするんだオレ……!! 頼む、夢なら早く覚めてくれ!


 剣狼が近付いてくる。


 オレの嗅覚が、狼から放たれるむせ返る様な血生臭い空気を感じる。それが恐怖を増幅させる。


 その恐怖の前にオレの足はグラつき、倒れそうになる。


 瞬間、一つの異変。


『世界を漂う精霊よ 我が呼び掛けに応えよ』


 突如脳内に、少女の様な澄み切った声が響き渡る。


 何だコレ? 誰!? 幻聴? 何言ってるんですか!? オレは精霊じゃないんですけど! 絶体絶命の危機に瀕してて呼び掛けに応えてる暇無いんですけど!!


「ガアァゥ(この俺様が貴様を頂いてやろう。感謝するが良い)」


 狼っぽいモンスターが勝手な事ほざきやがる。


 圧倒的、恐怖……!


 頂くって何だよ……! エサか、エサ的な意味なのか! 感謝なんて出来る訳ねーだろ!!


『火の精霊よ 我が願いを聞き届けよ』


 やかましいわ! 火の精霊じゃないから! 仮にオレが火の精霊だったら目の前の狼燃やしてるわ!! 良い感じの焼き加減でそのまま頂いてやるわ!


『炎 炎 炎 荒ぶる炎よ 形となりて我が前に出でよ』


 聞けよ!! 出ねーよ! むしろオレの前に出て欲しいわ!! そんで狼肉の焼肉パーティだわ!


 狼は動かない。奴の息遣いが荒くなる。脅えるオレを見て楽しんでいるのか?


『肉を燃やし 我が晩餐とせよ』


 え!? 何か違う! ファイアボール的な詠唱だったのにオレの意を汲んで焼肉寄りになってる!?


『焼き 炙り 油よ滴れ』


「わんわんわん!!(完全に焼肉じゃねぇかあぁぁっ!!)」


「ガァウァアアァァッ!!」


 オレの叫びと共に突如目の前の狼が燃え、苦痛の叫びを上げて地面をのたうち回る。


 呆気に取られて見つめる。


 何これ? なんで狼さん、いきなり燃えてんの? え、熱い、てゆーか怖い。


『騒々しいですわ!!』


 頭の中に絶叫が響く。あまりの声の大きさに仰け反ってしまう。


 え、ごめんなさい。そして誰ですか貴方は……。勝手に人の頭の中で喋らないで下さい。


 オレは目の前の焦熱地獄を、ただ呆然と眺めるのだった。

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