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子ブタ聖女と呼ばれていますが、いつか役者になってみせます!! 作者:羽田遼亮
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わたしのお母さん

 神官長が優雅な物腰で舞台の上までやってくる。
 その横にいるのはこの神殿の神官四人。
 彼女たちはアリスの演技を審査するためにやってきた。
 神官長を含め、この五人がアリスの女優適性を評価するのだ。

「つまり、五人中、三人の人に素晴らしいと思ってもらえればわたしは女優になれるのね」

 アリスが口にすると、カーバンクルは同意する。

「そのうちひとりは必ず反対票を入れると思うけどね」

 そのひとりとは神官長さまのことだろうか。カーバンクルの視線を追ったが、神官長は毅然とした表情を崩さなかった。

 カーバンクルは眉を下げる。

(……アリス、君のがんばりはボクが認める。でも、君は女優にはなれないんだ。神官長様はもちろん、年かさの神官たちは皆、君の幸せを願っている。この神殿に留まって欲しいと思っているんだ)

 だから君は女優にはなれない。カーバンクルは心の中でそう結ぶと友人であるアリスを見つめた。

 彼女もまた、そことを知っているはず。

 どこか抜けていてアホの子のアリス。だが、彼女の感受性は人一倍強い。他人の心の機微に人一倍敏感な娘なのだ。

 そんな彼女ならば神官長たちの気持ちなど分かるだろう。
 そしてその気持ちを改めて悟り、絶望していることだろう。
 ああ、ボクの可愛いアリス、君の綺麗な顔が絶望に染まるところはみたくない。
 カーバンクルはそう思いアリスを慰めようとしたが、それはできなかった。
 アリスは目を灼熱のように燃え上がらせていた。
 必ず女優になってみせる、そんな表情をしていた。

(……これがあの子ブタ聖女の目なの? 信じられない)

 そんな気持ちでことの推移を見守るカーバンクル、やがて審査員たちがすべて席に着くと、一同を代表し、神官長が言葉を発した。

「まずはこの舞台創作に関わったすべての人たちに礼をいいます。日頃、忙しく働いている神の使徒たちの安らぎのひとときとなったことでしょう。ありがとう」

 神官長はそう言うと、まずは役者のアリス、衣装係のニーナ、舞台装置などを手がけた巫女、脚本を書いたカーバンクルに頭を下げる。

 謝辞を受けたものたちは皆、頭を下げ、返礼する。

「しかし、今、ここで行なわれた舞台は余興ではありません。我が神殿の聖女、アリス・フローネの未来を決める大事な試験でもあります。彼女はわたくしとの約束通り、その身に付いた贅肉をそげ落としました。そして素晴らしい劇を用意し、それを演じました。今からその劇の審査を行ない彼女の適性を判断します」

 神官長はそこで言葉を句切ると、こう続けた。

「審査員のみなさん、今しがた行なわれたアリスの演技を見、感動し、アリスが女優としてもやっていけると思った方のみ、紅い札を上げてください。女優としてはやっていけない。聖女として生きていくべきだ、そう思った方は蒼い札をあげてください」

 神官長がそう宣言すると、一列に並んでいた神官たちが、アリスのことを論評しながら札を上げていく。

 まずは右端にいる若い神官が紅い札を上げながら言った。

「アリス・フローネ、正直、最初は彼女の演技に期待などしていませんでしたが、芝居を見てその評価は変わりました。私は不覚にも涙し、感動した。彼女は女優を目指すべきです」

 その言葉を聞いたアリスは目を輝かせる。
 ニーナやカーバンクルも喜ぶ。
 次に札を上げたのは年配の神官だった。彼女は蒼い札を上げる。

「たしかに素晴らしい演技でしたが、彼女はこの神殿でただひとりに聖女。その役目をおろそかにするのはどうかと思います」

 たしかにその通りなのだけど、それは今、言うべきことではないだろう。カーバンクルはそう思った。しかし、彼女の意見は保守的な神官の総意なのかもしれない。

 会場を見回すと若い神官ほど涙を流しているが、年配の神官ほど平静を保っている。

 年を取れば感性が摩耗する――、わけではないのだろうが、それでも打算的になるのは仕方ないことであった。

 アリスはこの神殿ただひとりの聖女。そしてなんだかんだで皆から愛されていた。
 感動していない、そう一言いうだけで彼女を手元に残せるのならばそう言う神官がいるのも仕方ないことではあった。

 その後、若い神官が感動したとアリスに一票、中年の神官が反対に一票を入れた。
 これで五分五分となったわけだが、カーバンクルは背中を湿らせる。

(……まずいな)
 と。

 最悪の想定が現実のものとなった。

 もしもアリスに勝機があるのだとしたら、それは神官長以外の票を3票以上取ることであった。神官長はアリスを手元に置いておきたい代表格である。彼女が紅い票を投票するなどありえなかった。

 もはやこれで勝敗は決したかな、そう思った矢先、アリスは大声を上げる。


「お母さん! わたし、やっぱりお母さんが大好き! お母さんの側にいたい!」


 なにごとが起きたのだろう。
 周囲の人間はざわめくが、アリスは気にした様子もなく続ける。

「わたしがまだ子供だった頃、わたしの本当のお母さんは死んじゃった。でも、わたしは全然寂しくなかった。神官長さまがわたしを引き取ってくれたから。ずっと側にいてくれたから」

 アリスは声を震わせながら首を横に振る。

「……ううん、本当は寂しかった。悲しかった。大好きなお母さんが死んじゃったから。でも、神官長さまはわたしの方を抱きしめてこう言ってくれた。

 アリス、泣かないで。あなたの母親は天国に旅立っただけ、いつか必ず再会できるわ。それまでわたくしのことをお母さんと呼んでいいから。

 そう優しげにいってくれた。

「神官長さまはみんなのお母さんだから。親のいない巫女たちみんなのものだから、わたしは結局、今までお母さんと呼べなかったけど、最後に一度だけでいいからこう呼ばせてください」

 アリスはそこで言葉を句切ると、目一杯思いと息をため、言い放った。
 鼻水と涙を流しながら叫んだ。


「わたしのお母さんは神官長さまです」


 と。
 その言葉を聞いた瞬間、耐えに耐えていた神官長の涙腺が崩壊した。
 彼女の両目から絶え間なく涙がこぼれ落ちた。
 神官長は涙でむせびながらこう言った。

「……アリス、あなたはずるいです。そんなことを言われてしまったら、目から汗が流れてしまうではないですか」

 目頭の熱さを押さえきれなくなった神官長はそう結ぶと、大切な娘であるアリスを抱きしめた。

 こうしてアリスは演技によって神官長を感動させ、最後の紅い札を手に入れたわけであるが、彼女の最後の演技は本当に演技だったのだろうか。

 そんな疑問が残る。

 後日、カーバンクルはそのことを尋ねたが、アリスはこう言うだけだった。

「わたしは女優だよ。自由自在に涙を流せるの」

 でも、とアリスは続ける。

「わたし、カーくんがアレンジしてくれた物語みたいに、最後にはここに戻ってくると思う、ここはわたしのふるさとだから。わたしの大切な家族がいる場所だから。いつか大女優になってみんなに恩返しできるくらい偉くなったら、必ず帰ってくるよ」

 カーバンクルはそう結ぶ少女の瞳に溜まっている涙が偽物ではないことを見抜いた。

 カーバンクルと少女の付き合いはこの神殿で二番目に長いのだ。
 それくらい簡単に察することができた。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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