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子ブタ聖女と呼ばれていますが、いつか役者になってみせます!! 作者:羽田遼亮
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8/12

アリスの演技

 こうしてアリスが万全の準備を整えると、その日が訪れた。
 アリスがダイエットに成功し、最高の演技を見せると約束した日である。
 ダイエットの方は成功した、と言い切ることができるだろう。

 ニーナが用意してくれたきらびやかな衣装、身体の線がくっきり出るドレスを着てもそのドレスの美しさを損なうことはなかった。いや、それどころかアリスの美しさはそのドレスを何倍にも魅力的にしていた。

「アリスちゃん、すごい可愛い。わたしの作ったドレスがみすぼらしく見えるよ」

「そんなことないよ、最高のドレスありがとう」

 アリスはぎゅっとニーナの手を握りしめる。

 口の悪いカーバンクルは、
「馬子にも衣装」
 という言葉でアリスの艶姿を表現するが、その後、小さな声でこう言った。

「まあ、見た目はいいよね、君は昔から」

 聞こえているが、あえて無視をしていると、カーバンクルは尋ねてきた。

「ダイエットの方は成功した。問題なのは劇の方だ。ボクの都合で台本が遅れてしまったけど大丈夫?」

「芝居の練習は子供の頃からやってるから。台本も一日で覚えられるよ」

「え? 一日? 冗談でしょ

「冗談じゃないよ」

「じゃあ、10ページ目の4行目にはなんて書かれている」

「ああ、お母様、私の本当のお母様。あなたは今、どこでなにをされているの?」

 アリスはすらすらと答える。
 カーバンクルとニーナは合っているか台本を確認する。
 ニーナはその大きな瞳をぱちくりとさせ、カーバンクルは尻尾を硬直させていた。

「あ、あってるよ、すごい。アリスちゃんは天才だね」

「えへへ、そうでもあるけど」

「調子に乗らないの。台本を覚えられても問題なのはそれをどう演じるかだよ」

 カーバンクルはアリスを戒めるため、語気を強める。

「分かってるよ。本番はこれから。わたしの目的は神官長さまを感動させること」

 アリスはそう結ぶと、客席の最前列にいる神官長を見つめた。
 改めて神官長を見つめる。

 彼女の歳はたしか40歳くらいだったはず。だけど見た目はとても若々しく、20代でも通じるくらいだ。

 綺麗な黒髪を腰まで伸ばしており、そのたたずまいは清楚にして可憐だった。

 ある意味、アリスよりもずっと聖女らしかったが、彼女は聖女ではなく、神官の長であった。

 誰よりも厳しく、そして優しく神殿のものたちに接し、彼女たちを善き方向に導いてくれる存在だった。

 カーバンクルはアリスを手元に置いておくため、絶対に感動しないと言っていたが、そんなことはないと思う。

 神官長は誰よりも厳しいお方であるが、自分を律することができるお方でもあった。他人以上に自分を戒めることができる人なのだ。

 そのような人が人を欺くような真似はしまい。
 アリスはそう信じて舞台に立った。


 アリスが舞台の中央まで歩くと、照明が灯る。
 スポットライトがアリスに降りそそぐ。
 どよめきが起こる。ざわめきに包まれる。

 アリスがダイエットを始めたという情報は神殿内に伝わっていたはずだが、実際に痩せた姿を見たものは少数だったのだろう。

 きらびやかな衣装を身にまとい、女優然としているアリスを見て驚くのも無理はなかった。

「これがあの子ブタ聖女……?」

 そんな声も聞こえてくるが、アリスは気にしない。
 今、侮られようともどうでもいい。舞台が終わったとき、彼女の記憶から子ブタだった頃のアリスの姿は消えているだろう。

 彼女たちの記憶に残るのは大女優の卵アリスの初舞台での活躍、それだけだった。
 そう確信しながら、気合いを入れるため、アリスは心の中で叫んだ。

(ぶひー! この舞台、絶対に成功させてやる)
 と――。


 数週間前まで子ブタだった少女の舞台が始まる。

 演目は当初の予定通り、
『父を訪ねてどこまでも』
 これは古典的な名作で誰しもが知っているものであった。

 少なくともこの神殿に住まう年長の神官たちは皆、知っていた。一般教養なのである。

 しかし、彼女たちは最初の改変に気がつき、少しだけ驚く。
 たしかこの劇の主役は男の子だったはず。
 それがなぜ、主役が女の子になっているのだろうか。
 神官たちはそれが気になったが、言葉にも表情にも出さなかった。
 舞台で主役を演じる少女の気迫に圧倒されたからである。

 アリスはぼろきれのような汚いドレスをまといながら、日々の生活に追われる農村の少女を演じる。

 彼女は本当は王様の子。運命の悪戯で農民の娘として暮らしていた。
 彼女は毎日、馬車馬のように働きながら、年老いた父と母の面倒を見ている。
 彼女はいつも笑顔を絶やさないが、ある日、星空にぼやいてしまう。


「ああ、神様、どうして私は農民の子供なの? 数理離れた先には貴族様の別荘があって、そこでは毎日、楽しげな夜会が繰り広げられているのに、私はいつも農作業ばかり。これが運命ならば神様はとても不公平だわ」


 少女はいけない、と神様を恨む言葉を飲み込むが、それでも遠くに見える灯火――、

 貴族の屋敷の明かりが羨ましくて仕方ない。
 そしてそれを悲しげに見つめる彼女の母親、物語はそんな出だしで始まる。


 その後、物語の主役フィオナは母親に自分が王様の子供であることを告げられ、旅に出るのだが、アリスはこの作品の名シーンと謳われている母親との別れも熱演する。

 彼女はひとり、たったのひとりで母親と娘双方を演じ分ける。
 娘を演じるときは都会に憧れる素朴な娘。

 母親を演じるときは娘に幸せになってもらいたい、だけど秘密を打ち明けることができない母親の苦悩を演技によって表現した。


「…………」


 神殿内に設けられた観客席は沈黙に包まれる。
 アリスの演技があまりにも凄すぎて、皆、言葉がないのだ。
 これがあの子ブタ聖女?
 まさかあのアリスにこんな才能があったなんて。
 皆、一様に心の中でそう思っていた。
 この子は天才だわ、誰しもがそれを認めた。

 ――神官長以外は。

 神官長は冷静に、動じることなく、アリスの姿を見つめていた。
 それを横目で確認したアリスであるが、気にしない。今は演技に集中したかった。
 アリスはその後、完璧にフィオナを演じる。
 他の役もすべて完璧にひとりで演じて見せた。
 実の親を探すために旅に出た際、襲ってくる悪漢。
 悪漢から救ってくれた謎の男(実はこれは王族でフィオナの従姉妹)
 その後、出てくる王宮の人々も年齢、性別問わず、アリスは演じ続けた。
 皆がアリスの演技に注目し、この劇の世界に引き込まれる。
 そしてやがてやってくるラストシーン。
 艱難辛苦、長い長い旅の末、フィオナは実の母親である女王と再会する。

 原作では女王ではなく、王なのだが、ここでも改変が加えられているようだ。しかし、その改変は物語を邪魔する要素はなく、ごく自然に観客に受け入れられるものだった。

 脚本家のアレンジが良いのか、あるいはアリスの演技力が多少の改変などものともしないのかは分からないが。

 ただ、ひとつだけ言えることは、このあと、観客たちはラストシーンに驚き、涙するということである。

 原作はここで実の母親と出会い、王子は末永く幸せに暮らす、で終わるのだが、この劇には続きがあった。

 実の母親と再開し、王女であると認められたフィオナ。その後、彼女は綺麗な服を着て、美味しい料理を食べ、宮廷暮らしを楽しむのだが、ある日、ふと、自分を取り戻す。

 幼き頃、高熱で苦しんだ自分を一晩中介抱してくれた実の母親の顔を思い出す。

 自分はお腹がいっぱいだから、と自分の皿には肉を入れず、フィオナの皿に自分の分まで肉をよそってくれたこと。

 真冬の夜、同じベッドで互いの体温で温めあった夜のこと。

 それらを思い出したフィオナは綺麗な衣服を投げ捨て、豪華な生活を放り出し、自分が生まれた村に戻った。

 そこで育ての母親を抱きしめると、フィオナは叫ぶ。


「お母さん大好き!」


 と――。
 そこでふたりは号泣し、舞台に幕が下りる。


 これがアリスがほどこした改変であったが、観客の反応はどうであろうか。
 舞台の幕が下りたあと、アリスは気になり、幕の隙間からのぞき込む。
 そこには感涙に包まれている観客がいた。
 神官や巫女たちは例外なく、涙に包まれていた。

 その姿を見て、
「やた♪」
 と、軽く握り拳を振り上げる。

 舞台袖にいたニーナも涙目をぬぐいながら駆けつけてくれる。

「アリスちゃんやったよ、みんな感動してくれているよ。これでアリスちゃんは女優になれるよ」

 抱き合って喜びを分かち合うが、それに冷水を浴びせるものがいる。
 カーバンクルのカーくんである。
 彼はひときわ冷静な口調で言った。

「それはどうかな?」

 ファンシーな姿からは想像できない低い声だったので周囲の人間は聞き漏らしそうになったが、アリスの耳にはしかと届いた。

「どういう意味? カーくん」

「そのままの意味さ。たしかに君の演技は素晴らしかった。この会場にいる神官や巫女たちは皆、感動しているだろう。でも、君が感動させたいのはたったひとりだけじゃないのかい?」

 カーバンクルはそう言うと神官長を指さす。肉球で。

「見てみな。神官長様はいつものクールフェイスだ。涙どころか、眉ひとつ動かしていない。これじゃあ、勝負は君の負けだよ」

 カーバンクルがそう言うと神官長は席を立ち上がり、こちらの方にやってきた。
 神官長は、彼女はアリスに死刑を宣告するためにやってくるのだろうか。
 それともアリスに福音をもたらすのだろうか。
 それはまだ分からないが、アリスはすべてをやりきった。

 このあとどうなろうともアリスはこれからの人生をまっすぐに生きていくだけであった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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