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子ブタ聖女と呼ばれていますが、いつか役者になってみせます!! 作者:羽田遼亮
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みっつの物語

 カーバンクルのカーくんは無事、帰ってきた。

 ところどころ緑の体毛が抜け落ち、擦り傷などもあるが、彼は気丈にも、
「なにごともなく、お芝居のネタを覚えてきたよ」
 と微笑んだ。

 その気高さ、優しさに感動するが、アリスはぐっと言葉を飲み込むと、カーバンクルの治療に専念した。

 アリスはこう見えても聖女なのである。
 カーバンクルに回復魔法を掛けながら首尾を尋ねる。

「……カーくん、それで男爵さまのお屋敷には良い物語はあった?」

「あったよ」

 カーバンクルはうなずく。

「あの屋敷にはびっくりするくらい戯曲があった。小説もたくさんあったけど、取りあえずひとりでも演じられような戯曲を中心に読み込んできた」

「ありがとう」

「候補はみっつに絞ったよ。その中から気に入ったやつを選んで」

 カーバンクルはそのみっつの題名を列挙する。


「ひとつめ、『とある聖女の一生』これはとある聖女が無実の罪で捕まるんだけど、親友を守るため、その罪をかぶり、一生を牢獄で過ごすお話。主人公の独白シーンが多いんだ。だからひとり劇で使えると思う」


 なるほど、たしかに使えるかも。それに主人公が聖女ってのがアリスにぴったりかもしれない。


「ふたつめは、怪傑ニルス。これは悪漢たちを蹴散らす娯楽活劇なんだけど、主人公が男装する女の子ってことで選んだ。登場人物は多いけど君なら演じ分けられると思って」


 アリスがザムドさんの前で演じた即興劇のことを言っているのだろうか。たしかにアリスは役柄を演じ分けるのが得意だ。昔からひとり、演劇の稽古をしていて、必然的にひとりで多くの役を演じなければならなかったからだ。


 老若男女、正義の味方、悪役問わず演じてきたアリスの演技力はなかなかのものであるはず。


「みっつめ、これはオススメしようか迷ったのだけど、一応、覚えてきた」
 カーバンクルはそう言うとその劇の題名を言う。


「『父を訪ねてどこまでも』これはとある王様の落胤として生まれるのだけど、手違いで貧しい村人の夫婦に拾われて、そこで育った少女が大きくなって自分の本当の親を探すお話」


 なぜ、それがオススメでないのだろう。疑問に思ったアリスは尋ねるが、カーバンクルはこう説明する。

「これはオチがあまりよくないんだよね。主人公であるアレクサンダーが旅の果てに本当のお父さんを見つけるんだけど、単純にその後、幸せに暮らしました、で終わっちゃうんだ。なんの驚きもカタルシスもないの」

「なんでそんな戯曲があったの?」

「まあ、娯楽とは得てしてそんなものなんだろうけど、創作者の端くれであるボクとしては納得いかないから勧められない」

 カーバンクルは偉そうに言った。

 そういえば昔、カーバンクルが面白い小説を書いたよ、と見せてくれたことがあるが、この緑色の獣は小説家志望なのかもしれない。

 そのときは軽く読んで取りあえず褒めておいたが、そういえば彼はどうやって小説を書いたのだろうか。

 彼は四本足の獣で、ペンを持つことはできないはずであるが。
 気になったが、今はそれを尋ねるべきではないだろう。
 今、尋ねないと行けないのは、みっつめにあげた戯曲の詳細を聞くことだった。

 アリスが興味深げに『父を訪ねてどこまでも』の内容を尋ねると、カーバンクルは怪訝な表情を浮かべた。

「まさか、アリス、君はみっつめの戯曲を演じるつもり?」

「そのまさかだよ」

「これって一番、面白くないと思うけど」

「たしかに一番面白くないけど、これが一番、神官長様を感動させられると思う」

「どういうこと?」

「この戯曲をベースにちょっとオリジナルを加えるの」

「つまり内容をいじるってこと」

「その通り。今からわたしがいうように結末を変えて」

「それは簡単だけど、どんな結末にするの?」

「あのね――」

 とアリスはカーバンクルに耳打ちする。
 ごにょごにょ、と話すアリス。
 ふむふむ、と聞き入るカーバンクル。
 五分ほど話し込むと、カーバンクルは「なるほど」と、うなった。
 その改編ならばたしかに神官たちを感動させられるかもしれない、と結んだ。

 四本足の大小説家さまの太鼓判をもらったアリスは「ありがとう」と微笑むと、ニーナのところへ向かった。

 彼女にもお願いごとをしなければならない。


 ニーナの部屋に行くとニーナは椅子に腰掛け、縫い物をしていた。
 ぶかぶかになってしまったアリスの服と下着を縫い直してもらっているのだ。
 アリスはこの手の針仕事が苦手で、昔からニーナに頼りっぱなしである。

「いつもごめんね、ニーナ」

「ふふふ、気にしないで、アリスちゃん。私は縫い物得意だから」

「あのね。さらに追加で申し訳ないのだけど、今度、神官長様の前で行なう劇の衣装を縫って欲しいの」

「ついに神官長様にお披露目するのね」

「うん、隠れてこそこそ練習してたけど、その成果をみんなの前で見せるよ」

「みんな?

「神官長さまにお願いをして、その日は神殿のお仕事をお休みにしてもらったの。これで神殿の皆にわたしの演技を、……ううん、思いを伝えることができる」

「今から楽しみにしてるね、アリスちゃん」

 と木漏れ日のような微笑みを浮かべる親友。
 アリスはその親友にチケットを渡す。
 そのチケットには丸っこい文字で、「さいぜんれつ」と書かれていた。

「これは?」

「わたし特製のチケット。今はまだ手作りのだけど、いつか印刷したのを送るよ」

 アリスはそこで言葉を句切るとこう伝えた。

「いつか、わたし、大女優になる。大女優になったらちゃんとしたチケットをニーナに送る。そこで最高の演技を見せるよ」

 他人が聞いたら笑われるような大言壮語であるが、ニーナは笑うことはなかった。
 微笑みとともにこう返してくれた。

「分かった。そのときは絶対、見に行くね」

 ありがとう、最高の笑顔と最高の友人に感謝すると、アリスは数日後に迫った舞台初日にそなえた。

 台本も衣装もまだ制作途中であるが、役者であるアリスにはやることがたくさんあるのだ。

 舞台初日に最高の力を出せるように備える。
 それがアリスを応援してくれる人たちに報いる唯一の道だった。
 アリスは発声練習をするため、神殿を出る。
 町外れにある崖まで向かい、そこで大声を張り上げる。
 その声は隣村まで届かんばかりだった。

(よし、これならば劇場でなくても会場の隅々まで声が届く)

 それを確認したアリスは神殿まで駆け足で帰った。
 贅肉がそげ落ちた身体であるが、まだまだ落とすべき肉はあったし、鍛えるべき箇所もあった。

 当日までに1キロでも多く痩せ、美しく成長したところを神官長に見せたかった。
 そして演技によって神官長を感動させたかった。
 それがここまでアリスを育ててくれた神官長への恩返しでもあった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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