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子ブタ聖女と呼ばれていますが、いつか役者になってみせます!! 作者:羽田遼亮
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回り道

「らん、らんらららっらっら♪ らん、らんららら♪」

 鼻歌交じりで荷馬車に乗るアリス。

 もしもアリスが一ヶ月前の姿ならば、その様は街に出荷されるブタそのものだったろう。

 しかし、今のアリスは違う。少女の身体は美しくやせ細り、どこぞの貴族の令嬢のようだ。

 あるいは今、王国の護民官がやってきたら、ジャックは街に少女を売りに行く人買いに間違えられたかもしれない。

 それくらいふたりは怪しげなコンビであった。
 長年、世界を旅した商人。
 村しか知らない聖女にして女優の卵。
 歳からしてふたりは祖父と孫くらい離れていた。
 顔なども似ていない。
 共通点があるとすればそれはふたりの性格であろうか。
 アリスとジャック、双方とも明るい性格をしていた。

 アリスの脳内はすでに女優で、大女優になったらどうしよう、という計算と打算で埋め尽くされていた。

「ジャックさん、ジャックさん、大女優になったらなにを着ればいいのでしょうか。やっぱり王都の目抜き通りにあるヘルメスのお洋服を買えばいいのですか」

「お嬢ちゃんはよくヘルメスなんて知っているな」

 ヘルメスとは王都の目抜き通りにある仕立屋で王室御用達のお店である。歴代の大女優が愛用していることでも知られ、洋服を仕立てるのに金貨数百枚かかることでも有名だった。

「まあ、たしかに大女優になったらヘルメスかねえ。でも、その前に女優にならないとな」

「女優は楽勝です。なにせ、わたしはあの『ベアトリクス・アマーチェ』にその才能を見いだされたのですから」

「へえ、あのベアトリクスに。そりゃあすごい」

「だからわたしがヘルメスを着るのは定められた未来なのです」

「そりゃ実現しそうだ。まあ、でもものには順序ってものがある。お嬢ちゃんが今、着ている服じゃヘルメスも門前払いだろうから、まず、ヘルメスには入れるような服から買わないと」

「ぶ、ぶひ、この服じゃ駄目?」

 アリスは自分の衣服を見下ろす。一番、おしゃれなのを着てきたつもりだけど。

「十分、可愛いが、王都向けじゃないな」

「ぶ、ぶひぃ……」

「だが、安心しな。もしもお嬢ちゃんがそれなりの女優になったら、良い服を仕入れてきてやろう。ヘルメスには及ばないが、それでも王都で流行のだ」

「ほんとですか?」

「ほんとだとも。ワシがお嬢ちゃんに嘘をついたことがあるかい?」
「ないです」

 と、首を横にぷるんぷるんと振る。

「じゃあ、信じておくれ。そして大女優になっても旅の商人ジャックを贔屓にしておくれ」

 とジャックは笑った。
 その笑いに釣られアリスも笑顔になる。
 このように少女と老人の旅は快調そのものであった。


  
 ――と思ったのもつかの間、二日目にしてトラブルが訪れる。
 隣町へ繋がる橋が半壊していたのである。
 アリスの目の前に濁流が流れている。
昨晩の大雨によって川が氾濫し、橋が流れてしまったようだ。
 今、復旧業の見積もりをしている、と農夫は言った。

「どれくらいかかるのですか?」

 アリスが尋ねると、農夫は「ぷはあー」とたばこを吹かしながら、
「この調子だと一週間かねえ」
 と言った。

「い、一週間……」

 正直、長い。もっときびきび修復してくれればいいのに、そう思わずにはいられないが、農夫たちにも畑仕事などがあるのだ。

 ジャックが尋ねてくる。

「さてはて、出だしからついていないね。ここは一回、村に帰って様子を見るかね?」

「それはいや」

 と言下に首を横に振る。

 アリスは幼い頃から生活をともにした神官や巫女たちと涙の別れを済ませてきたばかりである。そんな中、「橋が落ちてました、てへへ」と頭をかきながら戻るのは滑稽だった。

 それに神官長の一件もある。

 最後は快く送り出してくれたが、いつ彼女の気が変わるか知れたものではない。

 ここで一週間も村に出戻ってしまうと、そのままなし崩し的に約束を反故にされそうな気がした。

 だからアリスは是が非でもこの橋を渡りたかった。

「橋が渡れないならば真ん中を渡ればいいんじゃ!?」

 とあるお芝居のとんちを思い出したアリスであるが、落ちた橋を渡るとそのまま川に落ちるのは必定であった。

 見かねたジャックがこんな提案をしてくれる。

「分かった。お嬢ちゃん。お嬢ちゃんがそういうのならば奥の手を使おう」

「奥の手?」

 ぶひ? とジャックのしわがれた顔を見る。

「この川は渡れないが、上流に行けば川幅が狭まる。馬車が通れる浅瀬もあるから、そこを使おう」

 おお、なんと魅惑的で素敵な提案なのだろうか。
 しかし、そんな上手い話があるのか、アリスは尋ねる。

「普段は使わない道を使う。三日ほど余計に時間が掛かるし、盗賊のたぐいに出会す可能性もある」

「と、盗賊」

 物語に良く出てくるあれであるが、アリスは実際に盗賊など見たことがなかった。
 もしも捕まったらどんな目に遭わされるのだろうか。

「そうだな、お嬢ちゃんならばそのままふん縛られて、異国の奴隷商人に売られるだろうな。それなりに高値がつくはず」

「ぶ、ぶひ、売られる」

 養豚場から屠殺場に出荷される豚さんが脳裏に浮かんだ。

「そういう売られるじゃないさ。世の中、お嬢ちゃんみたいなめんこい子供が好きな貴族や商人がいる」

「ぶひ?」

 どういう意味だろう。考えているとジャックは「まあ、いいさ」と続ける。

「ワシはこう見えても剣の達人。盗賊くらいならものの数でもない。もしも襲ってきたら返り討ちにしてくれる」

 それは頼もしい。

 アリスにはジャックが細身の老人にしか見えなかったが、そこまでいうのだからきっと強いのだろう。

 そんな気軽な気持ちで回り道を選ぶことにした。
それがちょっとした騒動を生むとも知らずに――。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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