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子ブタ聖女と呼ばれていますが、いつか役者になってみせます!! 作者:羽田遼亮
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旅立ち

 演技によって神官長を感動させたアリス。

 こうして彼女は大女優「ベアトリクス・アマーチェ」の弟子になる許可をもらうことができた。

 神官長は快くアリスを送り出してくれることになった。

「神に仕えるものに二言はありません。わたくしはあなたの演技で感動した。アリス、あなたには人の心を動かす力がある。それはきっといつか聖女としても役に立つでしょう」

 そう祝福してくれた。

 いつか聖女としてこの神殿に戻ってきてくれることを願う発言ではあったが、アリスは聖女はきっぱりやめるつもりでいた。

 女優と聖女、どちらも極めるには難しい職業だからだ。
 聖女に後ろ髪を引かれてしまえば女優としては大成できないだろう。
 二兎を追うものは一兎をも得ず、そう感じたアリスだが、口にはせず。

「この神殿で学んだこと。神官長さまに教えてもらった教えを忠実に守り、女優として大成し、この村に凱旋します」

 と返した。

 賢い神官長はそれですべてを悟ったようだが、それでも最後に祝福の祈りを捧げると、アリスに餞別を手渡した。

「これは?」

 布袋を受け取るアリス。布袋はとても重かった。

「開けてみなさい」

 神官長の許可をもらうと、そこには大量の銀貨が入っていた。

「これはお金……」

「そうです。銀貨です。この神殿にいる限り、お金など不要ですが、俗世では必要なもの。大切に使いなさい」

「ですが、神官長さま、この神殿は貧乏です」

 ぶっちゃけるねえ、とはカーバンクルの言葉。
 アリスは周囲を見渡す。
 ここは神官長の執務室だが、余計な装飾は一切ない。

 むき出しの壁に申し訳程度に絵画が飾れているが、それも絵が上手い神殿の巫女が描いたもの。

 置かれている家具も神官長が生まれる前からあるもので、ソファーなどは定期的に巫女たちがカバーを縫い直していた。中に入っている綿は薄い。

 それがこの神殿の台所事情である。そんな中、こんなにたくさん銀貨をもらうのは申し訳なかった。

 神官長はゆっくり首を振りながら言う。

「アリス、あなたは大人になりましたね。でも、もう少しだけ、いえ、今、この瞬間だけでも子供に戻りなさい。あなたはまだ15歳になったばかりの娘。あなたが行く先は花のような都会。こことは違ってお金がなければ生活できない場所です」

 わたくしはあなたにひもじい思いはさせたくないのです、と続ける。
 神官長さまの瞳は真剣で、それでいて慈愛にあふれていた。
 アリスはその優しさに包まれると素直に布袋を受け取った。
 その布袋は皆の思いが詰まっているため、とても重かった。
 アリスはそれをリュックサックに入れる。

「……それでは神官長さま。名残惜しくなってしまいますので、この辺で旅立たせてもらいます」

 神官長はこくりとうなずく。

「この村に滞在している劇団に向かうのですか」

 そう尋ねてきたのは年長の神官だった。
 アリスは首を振る。

「いえ、『銀色航路』はすでにこの村での巡業終え、次の街へ向かったそうです。わたしはそこに向かいます」

「先方は承知なのですか」

「一度、お断りしましたが、神官長さまの推薦状があります。それに最初は向こうが弟子入りの話をしてきたんです。是が非でも入れてもらいますよ」

 アリスは冗談めかしていったが、ふと思う。

 伝説の名女優に弟子入りする気まんまんであったが、果たして本当に自分を迎え入れてくれるのか、と。

 一度断り、別の街に旅立った劇団を追いかけて弟子入り志願をするなど、大丈夫なのかと。

(大丈夫もなにもするしかないのだけど……)

 ここで不安な表情をしたり、弱気になっては神官長たちを心配させるだけだし、最悪、心変わりされてしまうかもしれない。

 なのでアリスは一刻も早く劇団を追いたかったが、そういうわけにもいかなかった。

 神官長は言う。

「このエフレム王国は諸国の中でも最高の治安を誇ります。だから旅芸人が各地を回れるのです。しかし、女の身であるあなたがひとりで旅するのはあまりにも過酷」

 神官長はわずかに眉目を下げる。

「だけど、あなたはとめてもひとり、街におもむいてしまうでしょう。ですので今回は旅のともを用意しました」

 神官長はそういうと奥から人を呼ぶ。

「ジャック、ジャック、おいでなさい」

 彼女がそういうと、奥から真っ白な髭の老人がやってきた。

「あ、ジャックさんだ」

 この人のことはよく知っていた。

 ジャックはこの村出身の旅の商人で、神官長が生まれるずっと以前から世界各地を回っている。ただ、こうして時折、村に帰ってきては村にとって貴重な物資を持ち帰ったり、都会でしか買えないような商品を売ってくれたりする。

「よう、お嬢ちゃん久しぶり」

 ジャックは気軽に声を掛けてくる。

「知り合いなのですか」

 神官長が尋ねてくるとアリスは、
「ぜ、ぜんせん」
 と嘘をつく。

 本当は超が付くほどの知り合いで、仲良しなのだが、それは神官長さまには内緒。

 アリスは世界各地を回るこの旅商人が大好きで、村に帰ってくるたびに世界中の土産話を聞いていた。

 どこの国でどのような舞台が流行っているのか、最近、どの女優が人気なのか。
 彼から得られる鮮度ある外界の情報はアリスにとって貴重なのだ。

 だからアリスは彼が村に帰ってくるたびに、彼の好物の根菜のシチューを作り、土産話をしてくれとせがんだ。

 ジャックの方も身寄りがなく、子もいなければ孫もいない。

 人懐こいアリスのことを孫のように思っていてくれた節があり、毎回、お土産まで買ってきてくれた。

 そんな仲なのだが、アリスに外界のことは教えてはならない、というのはこの村の不文律であり(理由はいうまでもないだろうけど)それを堂々と破っていたとは伝えにくかった。

 もっとも、賢い神官長さま、彼女はアリスとジャックの関係などとうの昔にお見通しなのだろう。

 やれやれ、という顔をすると説明を始めた。

「これから、ジャックは隣町に向かいます。馬車を使って。アリスはその馬車に乗せてもらいなさい」

「なるほど、旅慣れたジャックさんが一緒ならば安全ということですね」

「そういうことです。ジャック、少々大きな荷物だけど大丈夫?」

「大丈夫でさ。この前会ったときのお嬢ちゃんならば街の関所で豚と間違えられて税金を取られるかもしれませんが、今のお嬢ちゃんなら大丈夫でしょう」

「ぶひっ……」

 そういえばジャックさんは先週、村に帰ってきたばかりでアリスがやせ細っていることに驚いているようだ。ジャックはアリスの巫女時代を知っているからなんとかアリスがアリスと気がついたようだが。

(まあ、いいや、この際、ブタでもなんでも隣町に行ければ)

 アリスは気持ちを切り替えるとまだ見たことのない隣町に夢をはせた。
 この村は超が付くほどのド田舎。
 これから行く隣町は魔法灯などもあるという都会。

 もちろん、大都会王都とは比べようもないはずだけど、それでも都会志向の少女にとってそこは夢のような場所であった。

 アリスは胸をときめかせながら、神官長に別れの挨拶をした。
 涙ではなく、笑顔で。
 神官長も悲しむことなく抱きしめながら別れを告げる。
 永遠の別れではない、すぐにまた会えると彼女はいった。
 すぐにではないですが、次、戻ってくるときは女優になっています。
 とアリスは返した。

 まだアリスを手元に置いておきたい神官長さまを軽く牽制すると、アリスはジャックとともに神殿の外へ出た。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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