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子ブタ聖女と呼ばれていますが、いつか役者になってみせます!! 作者:羽田遼亮
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子ブタ聖女とカーバンクル

 「わあー! 綺麗!」

 目の前で繰り広げられている光景に息を呑む。
 きらびやかな衣装を身にまとい、妖精のように舞っている役者たち。

 彼らの演技はとても表現豊かで、夢見がちな少女を現実とは違う世界に引き込んでくれる。

「これよ、これだわ」

 そこに少女が求めていた世界があった。
 少女が追いかけていた夢があった。


 ここは村はずれにある芝居小屋。

 なぜこのような辺鄙な村に芝居小屋があるのかといえば、それはひとえに国王陛下のおかげであった。この国の国王は大の演劇好きなのだ。

 このエフレム王国は別名、文化の国と呼ばれ、世界各国から芸術家を集めていた。だからこんな小さな村にも旅回りの劇団がやってきては村人たちの耳目(じもく)を楽しませてくれる。

 もちろん、その村人の中に少女も含まれる。

「本当は聖女としてのお務めを果たさないといけないのだけど……」

 ぼつりと口にする。

「今頃、神官長さまは怒っているかな? 怒っているだろうな」

 聖女としての仕事をサボリ、近づいてはならないと堅く注意されている芝居小屋に忍び込んでいるのだから、怒られてもやむを得ないが、それでも少女は芝居を見るのをやめなかった。演劇の世界から抜け出すことはできなかった。


 アリス・フローネ。それが少女の名前だった。歳は15。性別女。職業は聖女。


 アリスは物心ついた頃からお芝居が大好き。
 いつかは女優になると息巻き、神官たちを呆れさせる困ったちゃんだった。

 そんな少女に王都でも有名な劇団が村にやってくるなどという情報が伝わってしまえば、こうなることは必定であった。運命であった。

 アリスは神官長に「村はずれにある泉を浴びて身を清めてきます」と堂々と嘘をつくと、そのまま駆け足で芝居小屋に向かった。

 神官長も「芝居小屋にはアリスを入れないように頼んであるし、チケットを買うお金もないはずだから」とアリスの行動をいぶかしむことさえなかった。神官長は基本的に人を疑わない善人なのだ。

 アリスはその善人を騙して芝居を見ているわけであるが、はたしてどうやって見ているのだろうか。神官長の言葉が真実ならば、アリスが芝居を見られるわけがないのだが。

 ――と疑問に思う人もいるかもしれないが、答えは簡単だった。以前、芝居小屋を調べたときに見つけた「穴」の隙間からのぞき込んでいるのである。

 芝居小屋をぐるりと囲い込む木の柵、ここは元々、巫女たちが神に捧げる舞を披露する場所であった。巫女の舞は俗世の人に見せてはならないという決まりがあるから、周りは柵に囲まれ、村人はのぞき込めないようになっていたのだ。

 この穴はアリスが聖女になる前、巫女だったときに見つけたものだが、誰にも内緒にしていた。その穴を軽く修復し、いつでもぱかっと開けるようにしたくらいだ。

 ここに芝居小屋ができるという情報はその当時から耳にしていたし、いつか役に立つとは思っていたが、まさかこのように何度も利用できるとは思っていなかった。

 聖女になれば芝居小屋には入れてもらえなくなると分かっていたし、そもそもアリスはお金を持っていない。演劇を鑑賞するためのチケットを買えないことは想定済みだった。

 だからこのように盗み見ているわけだけど、良心がとがめないわけでもない。
 優しい神官長さまを欺くのも気が引けたし、芝居をタダ見する罪悪感もある。
 だけど、それでもアリスはのぞき見をやめない。


 なぜならばアリスは芝居が大好きだから!
 演劇が大好きだから!
 いつか女優になって一旗あげたいから!


 それは幼き頃からの夢であった。子供の頃から切望している願いであった。

 今は聖女などという望まぬ職業に就いているが、機会があればさっさとやめて女優になりたかった。

 アリスはそのチャンスをものにするため、こうして足繁く芝居小屋に通っているのである。

「いつか、大物劇作家や演出家がわたしのことを見つけてくれるかもしれないし、そもそもお芝居をたくさんみないと女優さんになれないものね」

 アリスはそう口にするが、その言葉を聞いてため息を漏らすものがいる。
 草むらからひょっこり顔を出す緑色の生物、カーバンクルのカーくんである。
 彼はやれやれと前置きすると言った。

「アリス、聖女の務めを放棄して、芝居なんか見ていて本当にいいと思っているの?」

「あ、カーくんだ」

「あ、カーくんだ、じゃないよ。僕は神官長様に君がさぼらないように言いつけられているんだけど」

「これはさぼりじゃないよ。未来の大女優になるための練習だよ」

「君の職業は聖女だろ。しかもこの村唯一の」

「聖女と女優を兼任しちゃいけないだなんて法律はないよ」

「法律はなくても戒律はあるの。……そもそも、君は本気で女優になれると思ってるの?」

「お母さんは願えばなんでもかなうと言ってたよ」

「脳天気なお母さんだね。あのね、ボクは君の友達だからはっきり言うけどね、君は演劇には向いていないと思う」

「どうして?」

「まず、君は善人過ぎる。人が良すぎる。お芝居というのはいわば人を騙すのが商売だからね。アリスには向いていないよ」

「そんなことないもん!」

「そんなことあるよ。まあ、性格の話は置いておこうか。長くなるし」

 カーバンクルはそこで言葉を句切ると、「あのね」と続ける。

「役者になるってことは、君は女優になるんだよね」

「うん」

「女優ってのは基本的に美人しかなれないんだよ。知ってる?」

「知ってるよ。でも、わたし、美人だと思う」

 なんの迷いもてらいもないアリス。カーバンクルは呆れながら言った。

「そこまで言い切れるのも才能だと思うけど、君、自分が村の人たちからなんて呼ばれているか知っている?」

「聖女?」

「違う、頭に二つ名が付く」

「未来の大女優」

「違うね。このままだと延々と続きそうだから、答えを言うけど、ショックを受けないでね。君のあだ名は子ブタ聖女だ!」

「こ、子ブタ聖女!?」

「そう、君のあだ名だ。そんなあだ名を持つ女の子が女優になんてなれるわけないだろう。道化役ならばなれるかもしれないけど」

 と、カーバンクルは手鏡を見せる。
 そこにはたしかに子ブタのような女の子がいた。
 愕然とするアリス。たしか聖女になる前、巫女のときはスレンダーだったはずだが、いつの間にこんなに太ったのだろうか。

 思い当たる節は……ありすぎる。

 聖女になって村人からお供え物を一杯貰えるようになって以来、常になにかを食べていたような気がする。

 アリスは改めて手鏡を見る。たしかにそこにいるのは女優ではない。子ブタだ。
 その姿を見てアリスは心の底から叫んだ。

「ぶ、ぶひぃ~!! だ、誰かわたしを女優にしてください!!」

 アリスの心の叫びが辺りに響き渡った。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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