3話 物事は慎重に
ー小さい窓から差し込む優しい光に目を開け、朝になっていた事に気付く。
寝起きで身体があまり動かない状態で巨体を起こし、まだ視界がはっきりしない目を荒く擦り時計に目をやると、短い針が十二の位置に、長い針が六の位置辺りにある。
バジリアは理解ができないという風に何度も何度も目を擦る。しかし、突き付けられるのは昼頃に起きてしまったと言う事実。
すでに今日の予定は食材調達と依頼があったのだ。
こんな時間に起きてしまった以上、すべての事をこなすのは無理と考えるのが妥当なところだろう。
「あーもうなんだかなぁ」
なんだかやるせない気持ちになったバジリアはつい数分前まで寝息をたてていた、使い古しのベッドに舞い戻る事になった。
まだ起きていないのであろうルグは寝息をたてていた。
「もう昼だぞ。起きろ!」
バジリアは自分の腰をおそらく何年も使われていないであろう台所にあった、これもいつ使われたのか不思議になるほど錆にまみれたフライパンでまるで不登校の高校生を起こす母親のように、叩きまくった。
その音にさすがに驚きの色を隠せなかったルグは
「うわっ」
と声をあげ、
「これほどまでに目覚めが悪い寝起きがあるかよ! 素直にびっくりしたぞ!」
「仕方ないじゃない。 起きない子を起こすのが母親の務めだから」
「誰がお前の息子だ」
どこかの魔法少女のように片足をあげ、両手で錆びれたフライパンを持ち、ポーズを決めるバジリアと、
それを見たルグは呆れと情けなさが混じったため息を吐いた。
ー結局2人の用意が終わったのは昼の二時を過ぎてしまい、食材調達も依頼も断念する事になってしまったー
「よっしゃ、こうなったら神のお導きだな。ルグ、行くぞ」
と何か決意をしたようにバジリアはルグに語りかけた。
「お前は決めたら止まれない性格っていうのは、何十年の付き合いだから分かる。 でも、ありがとう。 俺は決めても進まない性格だから」
少しの不安を抱きながら大きな決意をしたルグは、森の中の深くに住むという転生商の老人に会いに行く事になった。
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森の奥についた頃にはもう日も落ち、空が暗くなり始めている頃だった。
小屋は思ったよりこじんまりとしていて、転生させるのを商売をしている家とは思えなかった。
「......本当にここであってるんだろうな。バジル」
少し不安そうな声を出すルグと、
「あってるに決まってるだろ! アタシの言葉を信じろって! んじゃ、開けるぞ!」
躊躇する事なく扉を開けようとドアノブに手をかけたバジリア。
「おおおおい!! 待て待て待て!! なんでも突っ切ればいいって訳無いだろ!! 物事は慎重にだなー」
「行くぞー!」
ルグの警告を聞く事なくドアノブに手を掛け、思い切り扉を開けた。
と、ここまでならそのままいくと転生商の老人に会える事になるのだが、ルグの予想は的中する事になった。
開けた瞬間に鼓膜が破れそうな破裂音と共に無数の藍色の破片が一斉に飛んできた。
これを直で受けると一瞬にして心臓までそのナイフの様な破片が届く事は確実だ。
なんとか間一髪でミシオンで攻撃を防いだバジリアとルグはそのまま地面に倒れこんだ。
「あっぶねぇ! こんなのアタシがミシオン使いじゃなかったら確実に! 確実に死んでたよ!」
と、興奮気味に扉に指をさし、訴えかけるバジリア。
「だから行ったんだよ! 物事は慎重に! だ!」
「騎士たるもの慎重という言葉はアタシの中にはないんだよ。 こんな攻撃防げて当然。 転生商よ来い来い!」
「調子いいんだから」
ため息をつくルグの隣では元騎士としての顔に戻りつつあるバジリア。
「そうですよ。 彼の言う通り物事は慎重に。 自分の身が滅ぶ前に」
聞いた事もないしゃがれた声がして扉の方に目を向けるとそこには白髪混じりの黒髪をした老人がニタリと不吉な笑みを浮かべていた。