1話 たった1人の家族
遂に、本編入りました。
暖かく、時に厳しく見ていただけたら幸いです。
「それで何本目だよ。本当にお前の身体の細胞全部それで出来てるんじゃない?」
と、ルグは呆れ顔になりながらため息混じりに言った。
正確に言えば、呆れ顔になったような口ぶりでバジリアの心に語りかけたというのが正しい。
その語りかけられた当の本人はそんな事など気にもせず、
「身体の細胞というよりは、もうアタシ自体がコイツで出来てるって感じだな!」
と、ガハハと笑いながらまた"それ"を飲み干す。
褐色の良い肌に焦げた金色の髪。
肩まで伸びたその髪を無造作にまとめたヘアースタイル。
百七十センチは軽々超える大女で体格もかなり良い。
これで五十歳を過ぎているとは誰も思いはしないだろう。
話を戻し
先ほどから出てきている"それ"とは飲むだけで快感得られる酒と呼ばれる液体である。
かつて、英雄と呼ばれた元女騎士の右手には何千人もの命を奪った剣ではなく牛肉を干したおつまみが、
左手にはその何千人もの攻撃を受け続けた盾ではなく、なみなみと注がれた酒がある。
その、酒をバジリアは浴びるようにかれこれ5時間ほど止まる事なく飲み続けている。
ルグはもうどうしようもないと言うように、またため息をついた。
「そんなに飲むと身体に異常をきたす。そうなると俺自身も生存出来なくなる。 お前の身体は俺の身体でもあるんだぞ。 もうちょっと大切にだなー」
「あぁ! もう、うっせぇうっせぇ!! 何時まで飲もうが、何本飲もうがお前の知ったっこっちゃねぇよ! アタシの身体だ。 お前の身体じゃない!!」
「これだから酔っ払いは...... このままじゃ強行姿勢を俺も取らせてもらうぞ」
「......なんだよ」
ルグはクスッと鼻で笑うと全神経をバジリアの右腕に集中させていく。
「お、おいおい!! お前まさか.....」
何をするんだよといいたげにバジリアはルグがいるであろう自分のたくましい胸を金槌のような太い腕でバシバシ叩いたが、
そんなダメージがルグに効くわけがなく、
バジリア自身の意思とは関係なく、ルグのミシオンの力が右腕に溜まっていく。
右腕がジンジンと熱を持ち始め、手のひらに鮮黄色の結晶がメキメキと音を立て生え始める。
こうなれば勝利はルグ・アールフォロスの手に渡る。
「一度、頭冷やしてくれよ」
というルグの氷のような囁きが聞こえたと思うと、
目の前の大量の酒のビンや牛肉の干したものなど、が一瞬にして自分の手から放たれた鮮黄色の結晶、今となっては鮮黄色の塊だが、それが目の前の酒たちも、 そしてその奥にあったバジリアにとって命ほど大切であった酒蔵でさえをも飲み込んでしまった。
「あ......あぁ......」
と、声にならない声で膝から崩れ落ちるバジリア。
その仕掛け人本人はそんな気持ちのバジリアを気にもかけず、
「おお、おお、やっぱり改めて俺のミシオンはすげぇや。
お前の身体もまだ衰えてないな」
と、心なしか楽しそうに話すルグに
「てんめぇ......」
と、怒りを向けるにも自分の身体自身がした事なのでどこに向ければ良いか分からず顔を真っ赤なしたバジリア。
ここで、凄まじいバトルが繰り広げられるのかと思いきや、
「まぁ、これでバジル、お前が少しは反省してくれたいいって話なんだよ」
流石は四十年来の友人というか、そのためかルグはバジリアの事を昔からバジルと呼んでいる。
ルグは微笑んだ風でバジリアに語りかけると
彼女も満更でも無い様子で
「お前は本当にそういう所があるんだよ。
でも、 まぁ、 頭冷やせたってゆうかなんてゆうか......」
「なんていうか?」
「なんでもねぇよ!!」
と最後にはやっぱり怒鳴り散らし自分の胸を力一杯叩き倒した。
ー後になって、酒場の店主から金の請求が来たのは笑えなかったー
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夕暮れの空気は誰もがノスタルジックな感情になるほどに魅力的なものがある。
それと共に夕暮れの空気は朝から飲んだくっていた元女騎士の身体をゆっくり冷ますように酔いを溶かしていった。
バジリアはあの騒動の後、最後の力を振り絞って掴んできた酒のビン3本を抱えて自分の家へと続く道を歩んでいた。
「なぁ、明日はなにするんだ?」
唐突に素朴な疑問をぶつけてきたルグ
いつもそんな事聞かないのにとバジリアは内心思いながら
「適当に食料調達にでもいって、村のじぃさんからの依頼するわ。大切に飼ってた猫が行方不明なんだとよ。」
「そっかぁ......」
いつもは返事は皮肉がかっているのに今日のルグは珍しかった。
バジリアはかつては鋭いナイフと呼ばれた目をぱちくりさせながら
「どーした。 なんかあったのか」
と今度は自分の腰辺りを軽く叩くと、
「あのさぁ、バジル」
とバジリアにも聞こえにくい程の声量で呟くと
流石にバジリアも何かを悟り静かに足を止めた。
「なに?」
と無造作にまとめあげられた焦げた金髪を撫でつけながら聞くと、
「俺さ、外の世界見てみたいんだわ」
今度こそ、本当に聞こえない声量で呟いた。
しかし、バジリアに聞こえていないはずがなく
バジリアは静かに口を開いた。
「それってつまり......」
ー俺はアフターライフを送るー
ルグは次はしっかりとした、口調でそう言い放った。