黄色い鴉
コツコツコツと、小気味良い音が響いていた。しばらくして風が吹くと、きぃ、と軽い音がした。そこには枝のブランコがあった。
次の日。またコツコツコツと小気味良い音が響いていた。風が吹くと、からんからんと、涼し気な音がした。そこには木の風鈴があった。隣には得意げなキツツキがいた。
「どうだい、いい仕事だろう」
彼はそう言って胸を張った。確かに、素晴らしい出来栄えだった。素直に伝えると、努力をすれば、きみにも出来ると言い残して飛んでいった。自分はキツツキじゃないはずだと思った。
黄色い鳥が近くにやってきた。同じ巣で育ち、共に助けあって生きてきた鳥だ。彼はキラキラと輝く黄金色の羽を広げて、入念に手入れをしていた。彼ほど綺麗じゃなくても、黄色い羽を持つ僕も、きっとあんな外見なんだろうと思っていた。
ふと、さっきの言葉を思い出す。試しに枝をつついてみる。ほんの少しだけ、削れるぐらいだった。鈍い音がして、クチバシがしびれた。
「何をやってるんだい」
黄色の彼が呆れる。
なにか、面白いものを作りたくて。と、笑ってみた。彼は呆れているようだった。
「まずは手入れをしたらどうだい? 汚れているよ」
たしかに僕は少し煤けているように見えた。でも、初めて枝を削って付いた汚れは、ちょっと誇らしかった。職人って感じがして、いかしてるだろ?
「薄汚れてるように見えるよ」
黄色の彼は飛び立った。せせらぎで汚れを流すらしい。
ゴツ、ゴツゴツ。
不器用だけど少しずつ枝を削っていると、キツツキがやってきた。
「筋は悪くないじゃないか」
なんだか認められたようで、汚れた羽を腰に当ててみた。
「得意なことがあるのは良い。作品だけは汚さないようにな」
キツツキの目線の先には、僕の羽と同じように煤けた作品があった。これじゃあ、いい仕事はできないと思った。
「味はあると思うがね」
キツツキは飛び立った。しばらくして、小気味良い音が響いてくる。まだまだ精進が必要だ。
カツ、ゴツ、コツ。
いつものように枝を削っていると泥だらけの鳥がやってきた。
「いつまでそんなことしてるんだい」
黄色の彼だった。黄金色の羽は汚泥のようなものに覆われて、ムツゴロウのようだ。手入れはどうしたんだ?
「そんなことを言ってる場合じゃないぞ。キミも早く塗った方がいい」
どうやら、近頃狩人がこの森にやってきたらしい。綺麗な羽をしていると、撃ち落とされて工芸品にされてしまうという。彼にされるがままに泥を塗った。同じ汚れでも、まったく誇らしくないと思った。
「俺は別の兄弟を探してくる。みんなで生き残りたいからな」
さよならのために振った羽は、やけに重たかった。
あまどいと水受けを作っているキツツキを見つけて声をかけた。彼もまた、きれいな羽をしていた。打たれて工芸品にされてしまうから、早く泥を塗った方がいい。
そう伝えると、肩を竦められてしまった。
「近頃泥だらけの奴らが多いと思ったら、そんな理由だったのか。真っ黒で並んじゃって、鴉じゃあるまいし」
それでも、死ぬのは怖い。しかたのないことなんだ。
「この羽根さえも、作品になるのならいいじゃないか。私はクリエイターなんだから」
キツツキは不機嫌そうに飛び立った。
自分は、何になりたいのだろう。何者なんだろう。
すっかり黒くなった黄色い彼が声をかけてくる。
「泥が落ち始めてるぞ。塗り直したほうがいいんじゃないか」
彼がひどくみすぼらしく見えた。でも、生きるためにはしかたのないことなんだ。遠くに狩人が見えた。
「俺らは工芸品なんかにはならないさ。怯えることはない」
彼がそういったと同時に銃声が聞こえた。
気が付くと僕らは地面にいた。体のいたるところが痛い。
「おや、鴉にしては小さいな」
狩人の声がする。
「どのみち不潔なのはかわらんよ。燃やしてしまえ」
別の狩人がそういうと、僕らは袋に詰められた。中には鴉が詰められていた。
コツコツコツと小気味良い音がする。
「おぉ、キツツキですなぁ」
「ああいった鳥を守るためにも、保全活動は大事なんだ」
狩人たちは次の鴉を探して歩き始める。
僕は、何をしていたんだろう。
バン。また一つ、黄色い鴉が撃ち落とされていた。