男一人で少女兵だけの小部隊を頑張って率いてきたんだけど、部下が全員スパイだった件
「隊長、私たちがスパイだと知れた以上は、ここで消えていただきます」
そう言いながら拳銃の銃口を向けてくるのは、ショートカットでボインな俺の部下の少女。
いや、『元』部下と言うのが正しいか。
まさか、彼女含めた四人の部下全員が敵の工作員とは思いもしなかった。
ひょんなことから知ってしまった俺は、山中での夜戦の真っただ中、ぼっこぼこに殴られ、後ろ手に縛られて木を背に座らされてる。
後ろに控える三人も、何の迷いもなく、敵に向けるような冷たい目で見下ろしていた。
少し前まで確かな絆を感じさせる温かさを持っていた、同じ目で俺を射抜いている。
「はは。男一人で少女兵を率いろなんて言われて、色々と大変だったんだがな。――あの日々も全部、嘘だったのか?」
「ここまで来て、その問いを投げかけますか。愚問ですね」
四人とも、動揺すら見られない。
情に訴えればもしや、とも思ったけど、効果はない。
結局、上手くやれてたつもりなのは、俺一人だったってことらしい。
「まあでも、お世話になったのは事実ですからね。何か言い残すことがあるなら、聞いてあげるくらいはしてあげましょう」
言い残すこと、か。
そうだな。最期なら、今まで言えなかった思いをぶつけてやろう。
「お前のおっぱい、詰め物でサイズを膨らませてるって本当?」
「……え?」
「だから、ほんとは『ちっぱい』だって本当?」
きょとんとする、ボイン(仮)少女。
いやぁ、やっと聞けてすっきりした。
なんせ、こんな失礼なことを聞いたら、人間関係に修復不能なダメージが入るのは確実だからな。こんなときでもないと聞けないし。
「ば、バカバカしい! それだけなら、さっさと――」
「ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁあああああ!!」
「な、何ごとです!?」
そこで俺の処刑に割り込んできたのは、四人の中で一番小柄で、一番ちっぱいなセミロングの子。
ちなみに、四人とも年齢はあまり変わらないが、四人の中では一応最年長である。
「ねえ。あんた、人様のちっぱいを上から目線で見てたよね? 自分とは住む世界が違うみたいに鼻で笑ったよね? それで詐欺っぱいたぁ、どういう了見なの!?」
「ち、違います! 天然物です! そもそも、隊長がどうやって確認するんですか!? あと、敵の言葉を真に受けないで!」
「うっ!? ……ま、まあ、それもそうか」
「え? でも俺、詰めて膨らませるの見たって聞いたぞ?」
そうして俺が見るのは、我関せずって様子で控える、クール系ポニーテール少女。
全員の視線が集まるのを感じた彼女は、おもむろに口を開く。
「ん? だって、本当のことだし」
「な、何を言うんです!? 事実無根です! 悪質なデマです!」
「じゃあ、はっきりさせようよ! 今ここで確認だ!」
「!?」
ちっぱいさんの要求に、動揺するボインちゃん(偽)。
ああ、これで決着だな。
「うぅ……な、なんで人の秘密を簡単にばらすんですか!? しかも男性に、敵に!」
「敵に漏らしたらマズいような情報じゃないでしょ。むしろ、色々と深い話もしてくれるようになったって意味じゃ、プラスだよ? あと、『あのボインを揉みしだきたい』とか酒の勢いで言われてさ、隊長が実践した時にがっかりするのもかわいそうだったし。大体、本当のことなんだし」
「そ、そんな理由で言ったんですか!?」
「おい、隠れちっぱい! こっちの話は終わってないぞ!」
「み、みんな止めて!」
そこで声を挙げたのは、最後の一人。気弱そうなサイドテール娘。
今も、全員の視線を集中させて震えている。
「ああ、またいい子ですアピール? 今はややこしくなるだけだから、ちょっと引っ込んでてよ」
「うぇ!? そ、そんな――」
「そうだ! ひっこめ、ぶりっ子!」
「男といえば敵である隊長しか居ないっていのに、いつもの男へのかわいいアピールですか!? ここまで徹底的に男に媚びようなんて、一周回って尊敬に値しますね」
「ひ、ヒドイよ、みんな! そんな風に思ってたなんて……」
で、そこからは何の生産性もない暴言の嵐。
正直、四人ともがテンション上がりまくりで、どこからどこまでが本音なのかは分からない。
ただはっきりしているのは――
「「「「ぶっ殺す!」」」」
「という顛末で、私の部下は全滅した次第であります、司令官!」
俺は、すっかり朝日が昇って戦闘の終結した前線司令部で、衆人環視の中、ナイスミドルなおじさまである司令官に報告を終えたところだ。
あのあと、同士討ちで四人の少女は死に、動けない状態だった俺は、勝利でもって戦闘が終結した後で味方によって救出されて今に至る。
どう見ても死んでる状況が味方同士で撃ち合ってて不審すぎるからと、治療を終えた後で報告を求められたのだ。――憲兵に銃を突きつけられながら。
まあ、生き残った状況的に思いっきり不審者だし、仕方ないよね。
「うん、うん……え?」
「はい、司令官! お気持ちは分かりますが、間違いなく事実であります!」
「……え?」
連載作のプロットに頭を悩ませてたら、こんなものが降って湧いた。
俺の頭は大丈夫なのか、判断に困る。