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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
砂岩窟脱出行

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示された光明

妄想があちこち飛びまくるのはいつものこと。更新できてよかった(/ω\)


ナスリーンのことを思い浮かべると、そこはどこかの個室だった。


そこには彼女だけではなく一緒に旅した女たち、エステル・ダイアン・アレシアと見慣れぬ小男が一人。


暗い雰囲気で酒を飲んでいるのを見て、何のために集まっているか察してしまう。


すると突然ナスリーンが見えないはずの俺を指さし、にじり寄って手を伸ばしてくる。


あぁ、見えているんだな。だが他の皆はナスリーンを宥めるばかり。


”ごめんな、ナスリーン”


俺は居た堪れなくなり、その場を後にした。




その次はばあさまの所だった。


地下の秘密工房か。


到着してすぐに分かったが、夜中に何もせずにお茶しているとか、どうしたんだろう。


ばあさまは封印の上のソファーに座り、ティーカップの湯気を顔に当てている。


俺がそのままばあさまの隣で顔を見つめ続けていると、ばあさまはゆっくりと首を回して視線をこちらに向けた。


……たまたまだ。俺を見えているはずがない。


だが半眼でこちらを凝視してくる。


いや、見えていないはずだ。瞳の焦点が合っていない。


そのはずなのに、こめかみが痙攣し始めた。


見えていないのに何に怒っているんだ、ばあさま。


「ヴィリューク?」


げっ、なぜわかった?いや、その、なんというか、悪気があったわけではなく、えー、なんだ。どこにいると聞かれましても……


今生の別れだ。挨拶しないと。


”仕事でミスってね……ばあさま、いままでありがとう、さよなら”


ばあさまと向き合い言葉を紡ぐと、意識が引っ張られ視界が変化した。






気付くと視界がホワイトアウトしている。


足を掴まれてぶら下げられている感覚があるということは、飛んでいた意識が戻ったのか。


そもそも呼吸ができて助かった。よく考えてみれば、幼生体を降ろしている時点で息ができるか、分かりそうなものである。


だが逆さ吊りになって結構時間がたっているみたいで、頭に血が上って苦しい。引き上げられるのなら早くして欲しい。


しかしそれを待ってもいられないので、腹筋を駆使して頭を持ち上げる。


───頭は楽になるが、今度は腹筋と足を抱えている腕がきつくなる。


身体強化(剛力招来)でよじ登ろうにも、押し寄せてくる魔力を通過させるのに必死で、そちらにまで手が回らない。


頭を持ち上げているのだってギリギリなのだ。なんでこうジリ貧な事ばかりなんだ。


状況が変化しても、死が待ち受けていることに変化はない。


「ヴィリューク探したわ。……遊んでいるの?」

「ヴィリューク見つけたわ。……鍛えてるの?」


状況変わった!助かった!


ばあさまのとこの精霊二人が、俺の左右の宙に浮かんでいる。


「ふ、ふたりとも!助け、引き揚げてくれ!そろそろ限界なんだ、早く!」


ドライアドとブラウニーは左右の俺の腕をとり、ゆっくりと持ち上げていく。


それよりばあさまの地所から離れて平気なのか?と心配したが、そう言えば先日の見送りの時、ばあさまのじゅうたんに乗って村の門まで付いて来たのを思い出す。


しっかりと魔力供給がなされていれば大丈夫なのだろうか。だとしたら魔脈の近くならば移動は自由という事か?


と、生命の危機に瀕している最中にも拘らずどうでもいいことを考えていると、漸く亀裂のから脱出できて空洞の中に戻ってこれた。


足に絡まっていたサンドクロウラーの触手もやっと解ける。こいつも何とかしようと引っ張ってくれていたのだ。持ち上げられなくとも律儀に力を振るうあたり、責任感が強いのかもしれない。


「さて、かあさまが事情を知りたがっているわ」

「さて、かあさまが成行を聞きたがっているわ」


俺は助かるかもしれないという希望より先に、ばあさまに絞られる恐怖を覚えた。





それから俺は二人に、今回の顛末を順を追って説明した。


砂嵐が迫る中、緊急の配達依頼があったこと。


リディを引いて徒歩で砂嵐を進む途中、窪地に何かの入り口を発見。一息つこうと中に入ったこと。


しかしそれは砂嵐によって一時的に掘り起こされたに過ぎず、砂の落下に気付くのが遅れたせいで生き埋めになったこと


奥へ進んでみれば、そこは豊穣神を信仰する者達の墓所の入り口であることが明らかになったこと。だがマイヤに出会ったことはなぜか話さなかった。


さらにはその入り口をサンドクロウラー達が利用していて、この魔脈までの通り道が出来ていること。


「で、サンドクロウラーと一緒にここまで旅した?」

「で、サンドクロウラー扱いされて魔脈に落ちた?」


「……あー、はい。そんな感じです」


この後二人は、ばあさまに報告するのだろう。


彼女らのおかげで生き永らえたとはいえ、出口がない以上、いずれ死はやってくる。


「一人で死んでいくと思っていたが、お前たちに会えて寂しさもまぎれたよ。みんなによろしく伝えてくれ」


しかし二人は小首をかしげる。


「ん~ヴィリューク、一応伝えるけど。じゃ」

「ん~ヴィリューク、死にそうにないけど。じゃ」


返事を待たずに二人は魔脈の中へ飛び込んでいった。……いやいや、変に希望を持たせないでくれ。






★☆★☆






「豊穣神の墓所と言ったのね」


ヤースミーンはその場所に覚えがあった。


あの頃の王国には沢山の聖域とも呼べる墓所や祠が存在していたのだが、今やもれなく砂の下に埋まっている。


だが今の話を聞くに、埋もれてはいるが聖域は現在も存続しているらしい。


「ちっ」


だが手元にあるのは最新の地図(魔道具)


「最新ってのも善し悪しね」そう言って書棚を荒らし始める。


「むぅ、二百年近く前の地図、無いか。あるとしたら……ギルドの資料庫かしら……あ、ヴィリュークに伝えて頂戴。今のうちに、その墓所の入り口に戻りなさいって。干物になる前に掘り起こしてあげるってね」


そう指示すると、ヤースミーンは再び魔脈に飛び込む二人を尻目に、ギルド目がけて走り出した。




「ヤースミーン、こんな夜更けに何を探してるのだ」


そろそろ真夜中と言ってもいい頃合い。資料室に入っていく後姿を見かけたナヴィイドは、その姿の主に質問した。


「ギルド長自ら夜勤とは感心ね、ナヴィイド。昔の地図を探しているのよ、砂の精霊騒ぎ頃の地図。知らない?」


「村規模のギルドだぞ。役職があっても夜勤は持ち回りに決まってるわ。そこをどけ。適当に漁るな」


ヤースミーンの知らないが故の探し方に、ナヴィイドは彼女を移動式書架の間から引きずり出すと、お目当ての書架を探すために隙間なく寄せられていた書架をスライドさせていく。


空間を確保するとナヴィイドはその隙間に滑り込んで、手を棚の前で彷徨わせる。


「あの時期というと180から200年前か。ラスタハール周辺でいいか?」


「そうね。南東部を調べたいのよ」


「今では砂漠だろうに。昔の地図で何を調べるのだ?っとと、これだな。書見台でないと広げられん、移動しよう」


「ヴィリュークが地下洞窟で生き埋めになってるっぽいのよ。埋まっている出口を何とかしないと干物になるからね」


「!!?! そんな緊急事態をさらりと言うな!間に合うのか!?」


「ラスタハールのギルドも事態を把握しているでしょ。救出部隊を差し向けるにしても、具体的な情報がないと無駄足になるし、場合によっては私が出るわ。あ、エステルの交換日誌使わせて貰うわね」


「魔道書簡伝達器だ。エステルが羞恥で悶えそうだからやめてやれ」




書見台に広げた地図は探していたものであった。


「地図で見ると昔を思い出すわね。この辺りは豊かとは言えなかったけれど、十分生活できる恵みがあった土地だったのに……」


ヤースミーンは地図を指でなぞりながらこぼす。200年前の地図の街道を指でなぞっていくと、ある地点で止まった。


「その村か?」


「そう。南の窪地に掘られた横穴が墓所だったはず。村の関係者か豊穣神の信徒でないと入れなかったから、私は入り口までだったけれど覚えがあるわ」


うち(エルフ)の地図だからその辺の落書き地図と違って正確だが、砂漠でピンポイントで特定するのは難しかろう?これでは大体の位置しか分かるまい」


「私の地図に目印を付けるとして、実際コレを持っていかないと駄目よね……やはり出張るしかないか」


そういいながら計測すると、ヤースミーンは自分の地図に正確な位置をマークしていく。


「そうだな。お前のじゅうたんを飛ばせば半日でラスタハール、そこから現地まで二日三日といったところか。徹夜で飛ばすんじゃないぞ、目的地でダウンは本意ではあるまい」


「徹夜用の覚醒薬、持ってくわ」


「ヤバい薬じゃあるまいな?」


「まさか。重ねて飲んでも二徹までね。その後は泥のように……って奴よ」


マーキングを済ませると、二人は伝達器へ向かう。ラスタハールの当直を呼び出して、現状を把握するためだ。






【それは事実ですか?ヤースミーン様?】


ウルリカは震える手を抑え、伝達器に書き込む。若干の筆跡の乱れは致し方無いだろう。


【事実です。孫からの連絡によると地下洞窟に閉じ込められ、彷徨っている様子】


流麗な筆跡ですぐに返信が書き込まれ、それまでの経緯と続いて新たな情報が続く。


【洞窟の奥にいるらしい孫には、こちらが一番場所を特定し易い、入り口に戻るよう指示しました。その入り口の位置も私の方で特定済ですが、案内こともあるので私がそちらに出向きます】


【実は砂の下から彼の遺品を回収しているのですが】


とウルリカが書いていると、向こうからの書き込みが重なるように加わる。


【回収方法は?】


思わず手を引っ込めてしまったが、回答を書き込む。


【エステルさんが連れてきたスナネコによるのですが。彼女がスナネコに聞くに、ヴィリュークさんの匂いがするとの事で、遺品(それ)が決め手で捜索は打ち切りになりました】


その一文を記入後、ヤースミーンからの書き込みが止まってしまう。しばらく待ったウルリカであったが、書き込みで問いかけてみる。このような場合の為に、単純な音ででも鳴らす機能が欲しいとウルリカは思った。


【ヤースミーン様?】


【申し訳ありません。少し考え事を。エステルはそちらにいますか?いるのであれば、私がそちらに赴く時間ロスが無くなるかもしれません】


【悼み酒の最中の筈です。あの調査隊メンバーが奇しくも揃ったので】


【酔っぱらっていたら水でもかけて起こしてください。師である私が許可します】


【では呼んでまいりますので、暫くお待ちください】


ウルリカはそう書き込むと、夜勤の受付嬢にひと声かけてギルドを飛び出した。


瞳はもう悲壮感を湛えたものではない。


”もしかしたらもしかする”


こぼれそうな涙をぬぐった瞳は、力強いものに変わっていた。






ギルドの魔道書簡伝達器の横に、新たな机が(しつら)えられた。


そこに並べられたのは───


大判の紙が一枚。


地図が二枚。


大量の測量結果のメモ用紙。


形の違う数枚の三角定規や、様々な形のコンパス。


そして大判の白紙の上で、製図道具が踊り始める。




ウルリカに連れてこられた一行。


伝達器でエステルが遣り取りすると、追加(オプション)魔法陣がヤースミーンに送られ、あっという間に双方で文字とは別に、大判の紙での情報を交換できるようになった。


向こうではヤースミーンとナヴィイドしかいないはずなのに、だ。


誰とは言わないが規格外っぷりが発揮されたようである。


「まさかヴィリュークさん()との道中での測量データを、ここで起こすことになろうとは」


ラザックが補助線を引きながら地図を起こしていく。


「ここは確かですか?ギルドの地図とは少し違うようです」


「私の地図では不明瞭ね」


ウルリカとエステルが書き込まれていく地図に対し、自ら(ギルドとエルフ)の地図で確認していく。


「ラザックの測量の腕は正確よ。私があやふやな記憶で書いた間違いを指摘できるくらいにね」


アレシアがラザックの補助をして地図を補完する。


彼方クァーシャライ村のヤースミーンも、流石に手作業での地図作成までは無理と見え、たまに起こす方角指定のコメントがつく程度である。






「解毒魔法を使える神官様をお連れしましたぁ」


そこへ使いに出していた夜勤職員が、老神官を連れて戻ってきた。


「あら、救護院の先生は?」


「年寄りは眠りが浅くての。あやつらを起こす前に儂が気付いて、馳せ参じたわけよ。それで何があった?小娘は一大事としか言わんのだ」


眠りが浅くて目覚めても眠気がないわけではないらしく、老神官は目を擦っていく。


「お願いというのは───」


「……あン?酒精の分解?酔い覚ましに叩き起こされたのか?精々二日酔いで苦しむがいい」あくび一発帰ろうとする老神官。


「悼み酒の最中に砂エルフの生存情報が届いたのです。お力をお貸しください」と慌てるウルリカ。


重ねて今救助地点を明らかにしている最中だが、現場に向かうに酩酊していては困ると説明していく。


「なんと……それを早く言わんかい。■■ ■■■■ 酔っぱらいども、目覚めよ!」


なんとも適当な掛け声とともに呪文が発動すると、酔いが回っていたものは酩酊感が無くなる。さらに呪文には覚醒効果もあったのだろう、意識が明瞭かつさっぱりとした目覚めといったところだ。


ここで一人事態を把握できていない者が目覚めた。


「え?ここどこ?」


泥酔して寝落ちしたはずのナスリーンが、二日酔いもなくぱっちりと目覚めた。ただし腫れた目までは治らなかったが。






★☆★☆






ばあさまの伝言が届いた。


豊穣神の地下墳墓まで戻り、砂で埋もれた入り口で待てとの事。伝言を届けた精霊たちはさっさと帰っていった。


今生の別れなどと、露程も思っていないのが分かる。


サンドクロウラーに乗っていた時間を考えると、自分の足でどれだけ時間がかかることか。


ならば新たな手段を講じるまで。


俺は背負っていた背嚢を降ろす。佩いていた剣も同様にだ。


身体の中にいつもより魔力が満ち溢れているのを感じながら、意識を集中する。


「剛力招来」


全身が薄っすらと発光。とどまることなく一つ上の位階へ集中。


「超力招来」


さらにあふれた魔力は、要所を守る鎧に変化する。


「ふむ」


突きと蹴りを素振りし、その場で軽くジャンプして感覚を確かめる。


「ちょっと違うか?」


やりなおし───と意思を込めると簡単に鎧は細かく崩れ、身体に吸収される。今までなかった現象だ。腕や体を叩いて確かめるが、かけらも残っていない。


「ふっ」


鋭く息を吐き、気を取り直して再度意識を集中させる。


必要なのは速さだ、力強さではない。


強力な一撃を放てる力ではなく、遠くまで駆け抜けられる持続力と速さだ。


「疾駆招来」


少し悩んで発した言葉が、すとんと腹の中心に収まった。


続く言葉も決められたかのように唇に昇ってくる。


「疾風迅雷」


発した瞬間、腹の中心の魔力は体幹を駆け巡り、思わず背骨が魔力の芯棒に変化したと錯覚してしまう。


魔力は鎧のように形作らず、纏ったそれは動きを阻害しないような、薄い道着を纏うようであった。


感触を確かめるべく、再度手足を繰り出す。


突きは重い一撃ではなく、素早い連撃。


繰り返す蹴りは連続する廻し蹴りになり、最後に放った蹴りを身体に引き付けると、勢いあまって独楽のように回転する。


これならば。


外した装備を全て身に着け、来た道を戻る。通路の手前で振り返り、眼帯を持ち上げて裸眼で空洞の様子を見渡す。


サンドクロウラー達は俺に構うことなく変わりない。幼生体一匹はズボンの上でじっとしている。あれはご満悦なのだろうか?


眼帯を付け直すと暗い回廊に飛び込み、俺はもと来た道を走り出した。




次回で今エピソード完結予定。今しばらくお待ちくださいませ。


お読みいただきありがとうございます。

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