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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
砂岩窟脱出行

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92/200

光る地下空洞

新年あけましておめでとうございます。三が日に間に合いまして投稿です。

……そこ「火曜日じゃねーか」とか突っ込みはなしで。


前話の両手を使った二進数での数え方ですが、正しくは1023まで数えられます。”0から1023”で1024通りなのを誤認していました。

指摘してくださった方には改めてお礼申し上げます。




今や眼帯を跳ね上げても、周囲を窺えるほど明るくなっている。


カーブを曲がったその先からは明るい光が発せられており、俺を乗せたサンドクロウラーは足取り確かに進み続ける。


通路を抜けるとそこは───


広い空洞であった。


空洞の床中央には大きな亀裂が走り、そこが光の源だ。


周囲の壁はサンドクロウラー達が補強したのだろうか。乾いた粘液がその光を反射している。


よく見てみれば天井も壁と同じ光具合で、どうやって粘液を塗ったのか見当もつかない。




道中一緒だった三匹は、到着するなり散り散りになる。


特定のグループでもあるのかと見ていると、どうやら似たサイズで集まっているようだ。


乗っている軍馬サイズの集団にもみくちゃにされては敵わないと、俺は飛び降りて安全な場所を探し始める。


大きい彼らの傍は危険だろうとポニーサイズの方へ向かうが、不自然にぽっかり空いた空間に気付いた。


何だろうかと近付いてその正体を目にした瞬間、別のサンドクロウラーに割って入られた。


空洞を自由に歩いていても彼らは無関心だったのだが、”そこ”は駄目らしい。しかも口が開き始めて触手がチロチロと覗いている。威嚇、なのだろう。


刺激してはいけないと足早に立ち去ったそこは、サンドクロウラー達の産卵場所で、この広い空洞はサンドクロウラーたちの繁殖地だろうと俺は推察する。


距離を空けると威嚇もおさまり、サンドクロウラーは卵の元へ戻って行く。


よく観察してみると乳母がわりの個体は複数いるようだが、空洞に集まっている個体数に対して産卵数が少ない。


一回の産卵数が少ないのか、産卵の周期が長いのか、受精から産卵までが長いのか───いや全てなのかもしれない。






それよりも気になるのはこの光の正体だ。


だが俺にはある予感がしている。件の亀裂に歩み寄ってもサンドクロウラー達の反応は無い。


素肌に加わる刺激を形容するならば、太陽光か。


砂漠のあれほど強い刺激ではないが、今もピリピリと感じるこれは───魔脈だ。


実家のばあさまの所で不完全ながらも封をされていた魔脈が、今俺の目の前の亀裂の下で光り輝いている。


”この中に落ちたらどうなるんだろう”


自身の思い付きに、思わず俺は身震いしてしまう。この膨大な魔力の流れに身を投じるだなんて、どんな影響が出るか想像もつかない。


同道した三匹まとめたよりも広い亀裂を前に、腰が引けていく。


俺は踵を返すと、比較的安全そうなポニーサイズ群の近くへ逃げて行った。




俺が逃げた先は、もっと小型の個体達が集まっている場所だった。


少し距離を空けて胡坐をかき、彼らの様子を眺めていく。


小さい所ではサミィサイズが”むいむい”と進んでは止まる。


ポニーサイズから成体なのか幼生体の周囲を囲み、まとまっているそれ以下のサイズの幼生体に口移しで何かを与えている。


普段彼らは何を摂食しているのだろう。この空洞で餌らしきものは見当たらない。


しかしサンドクロウラーが成体が幼生体の面倒を見て、育てているとは予想だにしていなかった。




それより、入る数より出る数が多いのは当然と言える。


生まれた幼生は各地に散らばって行くのだから。あの砂漠もその一つなのだろう。


しかしマイヤも中途半端な情報を寄越してくれたものだ。空洞にはもう一つ通路が口を開いているが、この様子では、増々地上に繋がっている可能性が低くなったと思う。





俺の思考を余所に、餌を食べ終わった幼生体がうろつき回りると、俺の近くに寄って来る。


そして俺の脚にぶつかると避けていくかと思ったら、”もいもい”とよじ登り胡坐の中に納まる。


”どうすればいいんだ”と固まる俺だったが、意を決してそーっと抱き上げ、外に降ろす。


しかしそいつは俺の意を介さず、またもや”もいもい”とやってくる。


三回外に出したがしっかり戻ってくるので、原因を考えてみるがピンと来ない。


何かに惹かれているのかとも思ったが、ズボンに染みがある訳でもない。道中、ヤツに跨って乗せてもらったが綺麗なものだ。


それとも俺が気付かないだけで何か付いているのか。


ならばと思いついたら即実行。


予備のズボンに履き替えると、履いていた方を放り投げる。


すると案の定。


しばらく足回りにうろついていたが方向を変えると、脱ぎ捨てたズボンの上を占領した。


少し惜しい気もしたが、その気持ちを振り払う。


それよりももっと考えることがあるのだ。






それはこれからの行動方針だ。


しかし選択肢は多くない。


1・俺が入って来た地下墳墓の入り口。


2・三匹がやって来た通路を逆走。


3・どこに続くとも知れない未知の通路。


4・この空洞で衰弱死。


5・魔脈に身投げ。


後半になる程悲観的になるのは良くない傾向だ。俺は大きく息を吐いてゴロリと横になる。


下に耳を押し付けていると、サンドクロウラー達の足音が聞こえてくる。軽い足音、重い足音、トトトト、ドドドド。


”ガガガ”


ん?思わず身を起こすが、周囲に違和感の正体は見受けられない。


もう一度押し当てると確かに聞こえる。


”ガッガッガッ”


近い?と思っていると、壁際の幼生体達が逃げ出してくる。


何だ?と壁を見ると壁の半透明なコーティングの向こうで、何かが突入しようと激しく打ち据えている。


その壁から数メートル先に、一匹の幼生体が俺のズボンの上で空回りして進めていない。その様子にデジャヴを感じてしまうのは、昔誰かが似たような状況になったからだろうか。




これは間違いなく敵性生物だ。でなければ必死に逃げたりしない。


俺は背負いっぱなしのバックラーを装備し直すと、幼生体めがけて駆けだした。


幼生体の元に着くのと、壁を突き破って何かが出て来たタイミングはほぼ同時だった。


まず目についたのは、長く伸びた顔の先端に見える鼻。


豚鼻の様な形状の先端には、放射状に突起が生えている。四足でその大きな前脚は鋭く、土を掘り進めるのに特化してる事は一目瞭然だ。


脚の付き方も違う。


熊であれば前脚を外から内へ振るうだろうが、こいつの脚の付き方は内から外に掻き出しやすい構造だ。


こいつは───モグラか!


体高は馬並みで、二メートルは越すモグラだ。しかも馬ならある腹から地面の空間がなく、密集した黒い毛並みがサンドクロウラーと違った威圧感がある。


これは魔獣化に伴い巨大化したということか。




幼生体を足の甲ですくい上げ、転がす様に力を込めて押し出す。──結構重たい。


上手い具合に転がって逃がすことが出来たが、今度は俺のピンチだ。


どうやって俺との距離を測っているかは知れないが、その前脚は間違いなく俺を狙って突き出された。


だが俺は盾を構えて抜刀し、待ち構えている。


突き出された前脚を受け止めずに外に流し、シャムシールを敵の鼻先目掛けて振るう。


間合いはギリギリで、切っ先しか届かなかったがそれで十分。


鼻先からぐるりと生えている突起の下側数本を斬り飛ばす。


”KYURUIIIEEE!”


その突起は神経が集中している箇所とみえ、巨大モグラが絶叫を上げた。


一撃離脱とばかりに間合いを取り、シャムシールを振るって切っ先の血を飛ばす。




次のターン。


と、身構えた俺の目の前を何かが飛んでいった。


”べしゃ”


”べしゃべしゃ、ばしゃしゃしゃしゃしゃ”


周囲のサンドクロウラー達が、口から粘液を発射している。触手から分泌された粘液を、触手を振るって飛ばしているのだ。


誤射されては敵わんと、俺は匍匐前進でその場を離脱。


その間も粘液の斉射は続き、数分も経たずに巨大モグラの乱入は終了してしまった。


後に残されたのは粘液まみれの巨大モグラの彫像。


攻撃用の粘液は成分が違うのか早くもカチカチに硬化しており、巨大モグラは這いずることも出来なければ身動き一つ取れなくなった。


正に窒息待ったなし。これは俺がいなくても問題は無かったのではなかろうか。




しかしこの後、モグラの死骸はどうするのだろうか。まさか食べるとも思えない。


そんなとりとめもない事を考えていると、幼生体が足元を呑気に通過していった。


どこに行くかと見ていれば、死骸の手前で止まり、固まった地面を触手で撫で擦っている。


何だろうと近寄って見ると、俺のズボンが粘液の下に固まっていた。どうやらそれを取り出そうと頑張っているらしい。


なんというか……こいつのおもちゃとしてくれてやるか。洗っても穿きたくはない。


だがこんな近くの位置にズボンがあると言う事は、俺が手を出さなければこの幼生体は死んでいたのかもしれない。


そう考えると俺の手出しも無駄ではなかったのだろう。そう思う事にした。






★☆★☆





ナスリーンはラスタハールの門の前で、捜索隊が戻るのを待っていた。


自分が駆けつけても足手まといになるのを分かっていたからだ。だからと言って心穏やかでいられるわけではない。


詰所の一角で待たせてもらっていたが何をするわけでもなく、ただ捜索隊が向かった方向を見つめ続けている。


食事も碌にとらず、睡眠も自ら取らない。限界がくると居眠りしてしまうが、眠りが浅いのか慌てて飛び起きるのを繰り返す。


見かねた門番が何かあったら起こすから寝る様に言っても、ナスリーンは頑としてそれを拒んだ。


目の下にクマを作りながらも待ち続けた6日目、捜索隊が砂煙を上げて戻って来た。


だが目を開けていてもナスリーンはそれに気付かず、門番達はせめて門の近くに来てから知らせることにした。


今のナスリーンだと、走り寄る途中で倒れるのが分かりきっていたからだ。


それでもナスリーンは気付いてしまう。


捜索隊のリディに並走してじゅうたんが飛んでいることに。


止める間もなくナスリーンは駆けだした。


足をもたつかせながらも走る。


リディ上のウルリカとじゅうたん上のエステルの顔が、こちらを見つけたのが分かったが、表情が晴れないことに嫌な予感を覚える。


「ヴィリューク、ヴィリュークは?!」


ウルリカとエステルが止まる横を、捜索隊の面々が通り過ぎていく。


ナスリーンはじゅうたんの上を見るが、そこにはエステルとサミィがいるのみで期待していた砂エルフの姿はない。


エステルはじゅうたんから降りると、懐から一枚の布を取り出しナスリーンに差し出した。


「ヴィリュークのガラビアだって。サミィが砂の下から見つけてくれて……匂いもするから間違いないって……」


ナスリーンは一歩また一歩と近寄ると、布を手に取り懐に掻き抱く。


「ヴィリュークっ!」


ナスリーンはショックと蓄積した疲労のせいで気を失ってしまった。






★☆★☆






目の前に死骸が一つ増えただけで、状況は全く変化していない。


いつの間にか幼生体が俺のズボンを固まった床から回収しており、身体の下でくしゃくしゃにしている。


固まった粘液を溶かす手段も持っているとは、使い勝手のいい性質の粘液だな。製作系や建築系の職人たちが目の色を変えそうだ。


興味深いことをたくさん体験したが、もう誰かに話すこともできないのか……


そんなことを考えていると、モグラの周囲にサンドクロウラーの成体達が集まり始める。


なにが始まるのかと見守っていると、その周囲のをもぞもぞし、しばらくすると死骸を押し始める。


進行方向のにいた成体は進路を開け、道を譲る。死骸をどこかに始末するのだろうか?


”バキッ”


音を立てて死骸が床から剥離すると、ずりずりと動いていく。軍馬サイズが三頭がかりで押せば、その重さもどうということはないようだ。


どこに押していくかは分かりきっているみたいで、彼らは次々と移動すると一本の道が見えた。


”魔脈の亀裂?”


三頭はためらうことなく、一気に死骸を突き落とした。


……その手の処理に利用していることに、俺は驚きを隠せない。


奇行はそれだけにとどまらなかった。




今度は成体達は、幼生体を一体づつその触手で持ち上げて運んでいく。


運ぶ先を目で追うと……魔脈の亀裂に進んでいくではないか。


まさか!と息を殺して見守る。


触手で運ばれていく幼生体は、予想通りその亀裂に入れられていく。


死骸と扱いが違ったのは、成体が触手でそのまま保持しているらしく、亀裂のふちでじっとしている事だった。


いつまでそのままでいるのか、ひたすら待つしかできないが、次々と成体達が亀裂に並んで幼生体を降ろしているところを見ると、これは彼らにとって必要な儀式の一環なのだろう。




どれだけ待ったのか。


ようやく一番初めに降ろされた一体が、亀裂から引き揚げられた。その幼生体の体は身動きもせず、うっすらと発光している。


触手によって幼生体は運ばれて行き、空洞の隅に安置される。


大丈夫、なんだよな?


俺はただ見守ることしかできない。


だが俺の心配をよそに、変化はすぐに訪れた。




頭頂部?の辺りにヒビが入ったのだ。


これは、まさか?


ヒビはあっという間に広がり、そこから幼生体が脱皮してくる。


魔脈の魔力を浴びるさせることによって、幼生体の成長を促進しているのか。


これは持ち上げられるサイズ限定の成長方法なのか?


次々と引き上げられる個体に、ポニーサイズのものはいない。どうやらそこで一線が引かれているようだ。


などと傍観者のつもりでいた俺であったが、それは間違いだった。


彼らはサイズで判別していたのではなかったのだ。


俺は背後から近寄ってきた一番大きな成体に気づかず、触手で持ち上げられてしまった。




「あっ」


咄嗟に出てきた声はそれだけだった。


身に着けていた荷物もろとも触手で持ち上げられ、手足を暴れさせようとも外れやしない。


それどころか触手の数がどんどん増えていく。こいつ、どれだけ口腔内に触手を隠してやがる。


その間にも亀裂へは着実に運ばれて行く。


何か、何かないか。


下手に武器などで傷つけてしまったら、振りほどけたとしても粘液攻撃で彫像となっては元も子もない。


はは、死の選択肢が増えていく。乾いた笑いでも笑えるんだな。


あと、俺にできる芸当といえば……


”どぷん”


これだけだ。


俺は馬鹿の一つ覚えのように、手のひらから水を生み出す。


それも球ではない。長い水のロープを作ると頭から順次、体に巻き付けるように伸ばしていく。




生物にとって水は必要なものだが、砂漠の生物が大量の水を前にしてどんな反応を示すのだろうか。


群がってくるか、離れていくか。


幸運なことに、サンドクロウラーの場合は後者だったようだ。


触手は水に触れると次々と離れていき、水のない場所を捕まえようとしてくる。


そうして上半身を何とか脱出し身体を起こしたが、現在の状況を理解して次の一手に躊躇してしまう。


眼下にはもう亀裂があり、魔脈の光が俺を照らし出している。


これは水への忌避反応を利用して一気に脱出し、亀裂のふちにつかまるか、彼らの気のすむままに魔脈に身を晒すかだ。


まだ亀裂のふちだ。亀裂の真上ではない。


素早く水を全身に纏うと、触手の支えがなくなり落下する。


ギリギリ届く!


と思いきや、手を伸ばした俺の足を何かが引っ張ると、捕まえられたはずの亀裂のふちを逃し、頭から落下。


”え?”


それもそのはず。先ほどまでは絡みつきぐらいだった触手は、今やしっかりと俺の右足首を拘束し、俺を宙吊りにしているのだ。




もはや優しい降下ではなかった。


”あぁ……”


足首を触手で縛られて、俺は頭から魔脈に落下していった。





お読みいただきありがとうございます。


本年も「エルフ、砂に生きる」を宜しくお願いします。

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