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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
砂岩窟脱出行
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砂岩窟の終わり・無情な遺品



サンドクロウラーの歩みは人並みであった。


緊急時ともなれば疾走するのだろうが、置いて行かれずに済んで胸を撫で下ろしている。


床に関してもそうだ。


硬い砂岩は彼らの歩みによって大変歩きやすい。百年単位であろう通行によって凹凸は消えたが、歩かない所は摩耗しないので、緩く下弦のカーブを描いている。


歩みは楽なのだが、黙々とこいつの後を付いて行くのも気が滅入る。


なので暇つぶしの歩数を数えていくことにした。




俺の歩幅だと、10メートルを20歩で歩く。この場合、単純化した方が間違い難いので、2歩で1と勘定。10カウントで10メートル。


これを1として右手を指折り・開いていくと片手で31まで数えられる。そこへ反対の手も使えば、なんと両手で1024まで勘定できるのだ。


約10キロ強だな。


ばあさまにこれを教えられた時は”何の役に立つんだ”と不平たらたらだったが、こうして書くのもままならない状況では役に立つな。


しかも指の折り方を間違えない様に気を使うので、退屈を紛らわすことが出来る。


と思っている傍から、通路がカーブしていく。


……そうだよな。真っ直ぐな通路ばかりの筈がない。


山道だって歩いた距離と登れた高さは等しいとは限らないのだから、この通路がどこへ続くかは言葉通り闇の中(・・・)ときたもんだ。


俺はくだらない言葉遊びを頭の隅に追いやり、ひたすら数を数えていもむしの尻を付いて行った。






指折りは二周目に入った。


暇つぶしで始めたカウントだが飽きた。疲れた。面倒くさい。


前を歩くイモムシを見てると愚痴が零れる。疲れを知らないのか、こいつ。


すると愚痴が聞こえたのか唐突に停止するイモムシ。


えっと、今いくつだ……左手の親指・人差し指と小指で、合計……800。右手の小指を足して816ってことは、一周目を足して18キロ強か。


結構歩いたな。


この距離だといつものペースなら四時間といったところか。今のうちに休憩だ。


俺は水を飲み、干しデーツを口にする。甘噛みしつつゆっくり口の中で戻し、少しでも長く味わっていく。


しかし、この先もずっとこの調子なのか。ずっとこいつの後ろをついていくのもうんざりする。


とか思っていると、進みは止まっているがもぞもぞ動いているのに気付いた。何をしているのか脇から窺うと……別の通路にぶつかっている。しかも今の通路より広い。


そしてサンドクロウラーと言えば、またしても通路の境目を触手を伸ばしてぬらぬらにしており、相変わらずの気色悪さだ。




他にも通るのかと左右を見渡すと、丁度左から大小三匹のサンドクロウラーがやって来た。


大小じゃない、大中小だ。サイズを例えるならば、順番にポニーサイズ・中型の馬・大型の軍馬と言えば分かるだろうか。


軍馬サイズが大波がうねる様に進む前を、ポニーサイズは小波(さざなみ)の様に身体を動かしていく。


その必死な動きを知ってか知らずか、最後尾を中型がマイペースを保っている。


目の前を通過する三匹だったが、軍馬サイズがポニーを小突く様に通り過ぎて行った。


ほう。


思いついたことを実行すべく、踵を返して荷物を取ってくると俺は三匹を追いかける。


移動距離の把握は、もうどうでもよくなった。




ちょっと走ればすぐに三匹に追い付き、ちょっと加速すれば楽々追い抜ける。


若干先行して反転、三匹に向けて助走するが、俺を認識してないのか歩みに陰りは無い。


ひょいとジャンプしてポニーサイズにふわりと着地。間髪入れずに跳躍すると、楽々軍馬サイズに飛び乗れた。


しかし進行方向が違うせいでよろめいてしまうが、素早く反転し跨ってしまう。これでよし。


サンドクロウラーは暴れることも無く、大人しく俺を乗せて進み続ける。


しかも俺と言う重しが加わったせいだろう。前を進むポニーサイズを小突く事は無くなった。


期せずして、俺は乗馬ならぬ乗芋虫、乗虫?で砂の下を進むことになった。




跨ってみると意外に乗り心地がまともで驚いた。


ならばと背嚢から毛布を出し、広げはせずにうつ伏せになって顔の下に置く。


これならば眠っても落とされはしまい。


俺は両手で毛布を抱えてうつ伏せになると、浅い眠りに落ちて行った。






どれくらいの時間が経過しただろう。


腹の減るペースから考えると(勿論食べる量は加減している)九食分。つまり地下墳墓を出て三日換算だ。


その間サンドクロウラー達は休むことなく進み続けた。どこにそんな体力を兼ね備えてるのやら。あれから脇道も無い。


俺とは言えば、時々降りて自分で歩いている。跨ったままだと股関節がいたくなるからな。


それにやはり俺を乗せていると負荷になっていると見え、降りてしばらくは大型クロウラーが小型を小突く事は無いが、暫くすると小突き始めるのでそれを合図に俺も上に戻る。




登って彼方を伺うのだが、まだ終点は見え無い。


広さを確かめて思うのは、高さが倍ほど余裕があると言う事。つまりはそれくらいの大きさの物が、ここを掘り進めたと推察できる。


始めに遭遇した個体も楽々通れる高さだ。


費やした歳月も、掘り進めた”それ”も想像できやしない。


いや俺は、いや彼女たちから聞いているので想像はできるか。


あの砂漠で、巨大な柱が屹立しサンドマン達を喰らっていった様を。


俺には話してくれたが、他の者は信じないだろうと彼女たちは口をつぐんでいる。


しかしこの通路の様子は、間違いなく彼女たちの話を裏付けられるものだ。だが問題は”どうやって見せるか”なのだが。


───暇だとくだらない事が頭を巡るな。俺は息を一つ吐いた。







もうどれだけ時間が経過してるか分からない。


さらに三食食べた。眠るにしても仮眠程度だ。


揺られていて熟睡できないが、俺を乗せて落としもせずに運んでくれているのだ。こちらから文句は言えない。


ヒトが歩く速度で、四日?五日?経過しているとすると、単純計算で500から600キロ進んでいる計算になる。


砂嵐で埋まったのがラスタハールまで一日の辺りだから、そこを起点に考えるが……範囲が広すぎて皆目見当もつかない。


それこそ実家のクァーシャライ村や、レースをやった湖畔のヴーリライ村は余裕で範囲内だが、港街シャーラルや旧王都ツァグブリルはギリギリ範囲に入るか入らないかだ。


そう考えると人造精霊のせいで、砂に埋もれた村や町の多い事に改めて気付く。


それに壁の質感が変化していない事を考えると、この通路は(ある意味獣道だが)まだ砂漠の下を通ってるのかもしれない。




見え方がおかしい。


気付いた俺は目を凝らすが今一つ分からない。だが交互に片目で見て分かった。


緩やかに弧を描いている道の先が明るい。


”何かがある!”


心臓の鼓動が速まるが、何もない可能性も忘れない。期待させておいて落胆とか、今の状況では一番避けたい。


汗ばむ指先をぬぐいながら、俺は到着を待ちわびた。






★☆★☆






「誰でもいいから状況を教えて!」


砂嵐を迂回してせいで時間がかかり、エステルは現場への到着が遅れてしまった。






ヴィリューク遭難の一報を聞いて、エステルは両親に店を頼み、じゅうたんに飛び乗った。


部屋で寛いでいたサミィも引っさらい同行させると、当然抗議の鳴き声が上がったが、状況を説明するとじゅうたんの前に陣取った。


砂嵐の中の遭難、しかもその嵐がこちらに向かっているとなると現場へのルートも考えなくてはならない。


幸いなことにじゅうたんの魔力補充は万全だ。




低空をいつも通りに飛ぶのは無理なので、高度を上げて飛び越える事にするのだが、砂嵐を目の前にしてから悠長に高度を上げてはいられないので、今のうちにやっておく。


問題はどこまで高度を上げられるかだ。


だが問題ない。


クァーシャライ村の(エルフ)は、全てこの空中機動を使える。


”|180度ループの頂点で捻り高度を上げる《インメルマンターン》”を繰り返し高度を稼ぎ、いつも以上の高度まで昇って来た。


───未体験の高度は流石に怖い。


しかしそうも言ってられないので”風防領域”を二重三重に展開させ、うつ伏せで操縦。


サミィも伏せさせると、落ちないように自らの胸の下へ保護しておく。




現地への到着は四日はかかるだろう。


徹夜慣れしているエステルでも寝ずの飛行は無理なので、ここはじゅうたんに頼ることにする。


このじゅうたんをそこいら既製品と一緒にされては、じゅうたん職人たるエステルの名折れだ。


まず各街のマーカー探査機能、複数のマーカーの観測による現在位置特定、そこからのルート設定、過去のルート検索、そして今回の目玉はそれらを駆使した自動巡航機能だ。


そもそもヴィリュークのじゅうたんに組み込む魔法陣(機能)なのだが、自分のじゅうたんでテスト運用をしているのだ。


流石の彼女でも、テストもしない魔法陣を入れたりはしない。


ただ気象状況が最悪なのでルートは最短ではないし、何が起こるか分からないので警報機能も完備してある。




三日目の早朝に警報で目が覚めると、周囲は砂で薄暗くなっていた。


朝と分かったのは高度を上げていて、砂の影響が少なかったお蔭で太陽が見えているから。


そっと下を見るが、砂で地上の様子を伺うことは出来ない。


サミィも警報で起きたのか、ぐぐっと伸びをしている。狭いじゅうたんなのに付いてきてくれて、すごく有り難いとエステルは思う。


風防領域をかけなおしながら進行方向を見ると、警報が鳴った理由が目の前に迫っていた。


この高度でも砂の壁が形成される規模の嵐だったとは、ヴィリュークはどれだけ無理無茶を押し通ってきたのか。


いや、その結果の遭難ではないだろうか。


『砂除け、する?』


サミィの言葉にハッとして、返答するエステル。


「まだいいわ、少し迂回しましょ。それに現地であなたの力が必要になると思うから、温存していて」


言葉に返事は無かったが、尻尾が不安気に揺れていた。




夜を徹しての飛行の甲斐あって、四日目には朝日を拝むことが出来た。


後ろを振り返れば、昨晩通過した砂嵐の黒い影が遠ざかるのが今でも見える。


エステルは完全防備を解くと、収納魔法陣へ放り込んでいく。使っていたのは一枚布で作った砂除け用のポンチョの様なものだ。


もちろん襟元や顔も布で保護し、彼女もまたエルフの眼帯で視界を確保していた。


その布の皺になっていた所に砂が溜まっていて、外していくと音を立ててじゅうたんにこぼれ落ちる。風防領域を突破して砂が入って来たのだ。


「うへぇ」


掃除はまた後だ。エステルは後ろに向かって砂を掃って同様に仕舞って行く。


「ふぅ」


エステルはプルプルと耳を震わせながら大きく伸びをする。


サミィと言えば砂のドームの中で引きこもっていた。どうやら砂の精霊に作ってもらったらしい。


ドームの維持を止めたのだろう。砂がさらさらと流れ、サミィの姿が露わになっていった。




魔法陣を操作して現在位置を確認すると、最短ルートから大分外れている。


迂回したせいもあるが、風に流されたせいでもあろう。


”時間くっちゃった……”


眼帯の刺繍をなぞりながらエステルは思いを馳せる。


この眼帯を作った時、一組だけ一見分からないお揃いの刺繍を施したのだ。魔法陣には影響のない、小さく目立たぬお揃いのステッチ。


パーティメンバーに配るとき、とっさにペアの眼帯をヴィリュークに手渡した。


この砂嵐なら、彼は絶対眼帯を使っている。


眼帯が彼まで導いてくれますように───エステルはじゅうたんの高度を下げながら願わずにいられなかった。




何がどこで見つかるか分からないと考えたエステルは、眼帯はそのままに見張りを怠らない。


大きな砂丘を通り過ぎれば、振り返って影に何かないか洩らさず確認をする。


”いっそのことゴーグルか仮面にした方が使いやすいのかも”


長時間の使用に目が疲れ、思考が余所に移ってしまう。見張りという行為も、エステルの疲労を蓄積していってるのだ。


しかし徹夜で砂嵐を突破したエステルが、じゅうたんの上で舟を漕いでしまう事を誰が責められようか。


だが問題は無かった。


サミィがぷるりと身を震わせると、ヒトガタになって周囲を窺い始める。


砂嵐の中ずっと寝ていたサミィがヒトガタになれば、エステルが目覚めるまで見張りを代わる位は、そう、何の問題も無かった。




居眠りから目覚めたエステルがサミィに礼を言いながら、何も発見できない四日目が過ぎ、そして五日目の朝日が昇る。


『エステル、ヒトが見える』


サミィの言葉に飛び起きたエステルだが、ヴィリュークの発見ではなく、捜索隊との遭遇に落胆する。


だが何かしらの情報はあるに違いないと、じゅうたんの速度を上げ大声で呼びかけて行った。






「今、どんな状況なの?どこまで探したの?手がかりとかは?」


現場指揮を執っているウルリカに、矢継ぎ早で進捗確認をするエステル。


だが捜索隊の様子を見れば察することは難くなく、それでも聞かずにはいられない。


「起点をここに定めてから、それぞれの方向に目印を立てながら捜索しているわ。漏れが無いように、重複しないように範囲を拡大しているけれども、まだ……」


砂嵐を突破してやって来たエステルに、ウルリカは状況は既に遺体捜索・遺品捜索に切り替わっているとは言えなかった。


沈黙が辺りを支配し、じりじりと太陽が辺りを焦がしていく。


「……そもそもなんでここから始めたの?」


捜索の起点が間違っていれば、捜索範囲もずれていく。見つけられるものも見つからなくなるのは道理である。


ウルリカは捜索地点の根拠を説明していく。


「おまけに彼のリディもここに立ち止まっているし……これはあまり根拠のある理由にならないわね。つまりそういうことよ」


砂漠での捜索は虱潰しでやっていくしかない。そこを計算し、推察し、最後は験を担ぐ。


エステルはウルリカの言わんとすることを察してしまった。






「サミィ」


「なぁぅ『なに?』」


人目がある状況。サミィはエステルだけに向けて返事(・・)をした。


「あそこのリディの下、穴掘っているリディの下、探れる?」


サミィは返事をしないで行動で示す。


穴掘りを止めないリディの近くまで寄ると、じっと下を見つめて髭を震わせ始める。


「エステルさん、あのスナネコは?」


「ええ、助っ人よ」


その助っ人(スナネコ)が何をしているかも分からないが、エステルが助っ人として連れて来たからには只者ではなかろうと、ウルリカは黙って見守ることにした。





サミィは髭を震わせ、砂の奥底へ探査の脚を伸ばす。


10メートル……


20メートル……


30メートル……


スナネコに深さの単位など分からないが、相当深い事だけは理解している。


「ぐるるる『硬い、岩?』」


リディは狙い過たず地下墳墓目掛けて砂を掘っていたのだが、しかしその意思は堆積した砂の量に阻まれていた。


「それに沿って探してみて。何かない?」


双方で意思が疎通できていることに驚いたウルリカだったが、事態が進展している予感に沈黙を続け、スナネコの背中を見つめ続ける。




エステルとウルリカがリディの近くで頭を突き合わせ、それを見た休憩中の捜索隊の面々が少しづつ集まってきた。


それをよそに、サミィの探査の脚は地下墳墓の入り口を通過。だがサミィはそれを表現する語彙を持ち合わせていなかった。


『なにか、ある。とれない』


ウルリカの目の前でサミィは身体を”ぶるり”と震わせると、何も無い背中から砂が一塊湧き出て滑り落ちる。


思わず目を(しばた)かせるが、もう砂地と見分けがつかない。


そんな事はお構いなしに、サミィは見つけた物の位置を砂の精霊に教えて取りに行かせる。




砂中を自在に移動する砂の精霊。


サミィははしゃぎまわる精霊を制して誘導すると、なんとか確保。だが持ってこさせるには少し勝手が違った。


自在に動ける精霊と違い砂の中を何か移動させるとしたら、対象物に砂の重さがかかってくる。


砂の精霊の力だけでは二進(にっち)三進(さっち)も行かないので、サミィもフォローに入る。


”るるるるるぅぅぅ”


必死な鳴き声と共に髭の振動も細かくなる。


その様子に、遠巻きにしていた捜索隊の男達が近寄って来る。


”何事だ?”

”エルフが連れて来たネコが何かやってるらしい”

”スナネコってあんな声出すんだな”


サミィは精霊と運んでいる物体の周囲の砂を操り、砂中の行動を手助けする。深度が深い所では中々上昇出来なかったが、浅くなるにつれ動き易くなってくる。


最後の5メートルからは加速がつくと、サミィの目の前を砂柱を上げて飛び出した。




”ばっ”


野生の本能だろうか?


飛び出した物目掛け、捕獲せんとばかりにサミィも跳躍。思い切り伸ばした前脚二本の爪で獲物を捕らえた。


それは───


一枚の布。


サミィは爪で引っ掛けた獲物を手繰り寄せ、しっかと牙を立て着地。同時にひらひらする布に、サミィは思わず転がってじゃれついてしまう。


「サミィ!」


エステルの声に我に返ったサミィは布から飛び退ると、一回左右を見渡し何事も無かったかのように顔を洗い始める。


「「「………」」」


一同はそれぞれ思う所があったが、言葉を押し殺す。


「それは……?」


それよりも今砂から飛び出してきた布の方が問題だ。


エステルはへたり込んで布を広げていく。


「ガラビア……ヴィリューク、の?」


「まだそう決まった訳ではありません!」


エステルの言葉をウルリカが否定するが、居合わせた捜索隊の者達は納得して肩を落としてしまう。


ヴィリュークのいつもの服装、彼のリディが居座り掘り続けた場所、その場所から出て来たガラビア。


状況が全てを物語る。


「なぁーぅ『──────』」


そしてサミィがエステルにだけ揺ぎ無い事実を突き付けた。


「うそ!うそよ!」


エステルは即座に否定した。


「エステルさん、どうしました?」


聞きたくないが確かめずにはいられない。


「サミィが、言うの。……ガラビアから」


エステルがウルリカを見上げて答えた。見上げても尚沢山の涙を流して答えた。


「ガラビアからヴィリュークの匂いがするって」


”あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛”


彼のガラビアに顔を埋めて号泣するエステルを見て、ウルリカ自身も涙が溢れそうになる。


だが彼女は涙を振り払って指示を出した。


「捜索に出ている者たちを戻してください。集合が済み次第、ラスタハールに帰ります」


休憩中だった者たちが動き始める。


エステルを見ると、彼女の周りにはスナネコとリディが寄り添っている───いや、そうではない。


ヴィリュークのガラビアにそれぞれが寄り添っているのだ。


エステルの涙する様子を見て”あんな風に泣ければ、私も可愛げがあるのかしら……”と自虐的になるウルリカであったが、彼のガラビアを見ていると自然と足が向いて行く。


そしてエステの隣に座ると、一緒にガラビアに手を添える。


”今だけは、皆が集まるまでは、涙を流そう”


ウルリカも静かに涙を零し始めた。


両手を使った二進数カウントは主人公補正と言う事で。作者は片手でさえ時々間違えます。


お読みいただきありがとうございます。


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