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遅れて来た者

案の定、砂エルフは端役となりました。



砂漠での朝の日課。


ヴィリュークは砂漠の朝の空気を胸いっぱいに吸い込むと、水袋にセットしたジョウゴに向けて水を集めていく。


「無詠唱で水を作り出すとは、水術師とは凄い物だなぁ」


「起きたか。朝飯を済ませてさっさと出発するぞ」


「もう少し記録を取りたいんだが」


「いい加減にしてくれ。もう時間が無いんだ。ちんたら地図作りしてる余裕はないんだ!」


「測量と言ってくれたまえ」


「う・る・さ・い」


ヴィリュークはこの普人の小男に辟易していた。


髪はテキトーに刈り込まれているのに対し髭は丁寧に整えているこの普人は、ヴィリュークの先導を無視してあちこち迷走しまくる。


かと思うと乗っているリディを停止させ、画板を首にかけ、みょうちきりんな魔道具片手に地図を書き込み始める。


本人曰く”揺れると正確に描けん”との事。


「到着期日は今日までなんだ!あんたの本職は地図描きじゃないだろうが。いくぞ!」


水術師云々は、否定するのも面倒で放棄した。




この小男、名前をラザックと言い、国よりとある腕を買われて招聘された一人なのだ。


他の者たちは王都ラスタハールに到着、任務地へ出発しているのに、この男だけが港街シャーラルでウロウロしている。とうとうギルドに”首に縄を付けてでも連れてくるように”と依頼が来る始末。


おまけに砂漠ルートでないと無理な期日が切られている所を見ると、ラザックは寄り道して相当時間を食っていたらしく、依頼者(上司から圧力を掛けられた部下とも言う)も切羽詰まっているのだろう。




この依頼がラスタハールのギルドに来た時、内容を聞いた受付の女性職員は簡単には依頼を受けなかった。


エステル謹製の”交換日記”が要所に配置され、国内では瞬時に情報が回る連絡網が構築されたとは言え、移動時間に変化はない。


これは余程正確な腕を持つ案内人でないと間に合わないと判断した女性職員は、勿体を付けた。


「これは当方でも困難な依頼です」


”ガンッ” 依頼者はテーブルに頭を打ち付けて懇願。


「何とか引き受けて下さい。お願いします」


「───もう一度調べて参ります。お待ちください」


女性職員は席を立つとカウンター内の書棚に向かい、書類を二・三確認していくが、実のところ彼女はこの依頼がほぼ間違いなく達成できると踏んでいた。


頭の中で日程を指折り数え、万が一の為に予備日も付け加えても、期日には十分。彼ならば大丈夫だ。


「幸運なことに、向こう(シャーラル)に二・三日後到着する者がいます。連絡は付きますので、到着後すぐに発ってもらえば何とか期日には間に合うでしょう」


その回答に依頼者は安堵のため息を漏らすが、女性職員の言葉は続く。


「通常過酷な砂漠の配達員は、一回の配達後数日の休養を取ります。それを押して折り返して貰うのですから───」


「分かっております!多少の割増料金は致し方ありません、間に合ってくれるのならば!これで首にならずに……」


その後も女性職員が淡々と説明していくと、多少だった割増料金は少しづつ膨らんでいき、結構な額に。おまけに期日越え時の違約金の項目も削除。逆に一日早まる毎に特別報酬まで取り付けた。


「ありがとうございました!貴女に相談してよかった、ウルリカさん。ありがとうございました」


「まだ早いですよ。お礼は無事に到着してからで結構です。吉報をお待ちください」


成功することを疑わない依頼者を宥め、ウルリカはヴィリュークに渡せる多額の報酬を思い浮かべながらにっこりと微笑み、依頼者はその笑みが誰に向けられているかも知らずに赤面した。






「間に合った……」


疲労困憊のヴィリュークは、リディの鞍からずり落ちる様に地面に降りた。


ラスタハールの門番は砂エルフの珍しい様子に、ただ「タグを……」と言うにとどめる。


もう一頭のリディの上では、鞍にしがみ付いて息を荒げている小男。どうやら道中、走るリディから振り落とされまいと必死だったと見える。


「坊主、二人が到着したから知らせてこい」


それを合図に使い走りの男の子が走り出す。ギルドが到着を一刻も早く知る為に待機させていたのだろう。




ギルドに到着すると、その前では今や遅しと待ち構える人影が数名。


「せんせぃぃぃぃ、遅かったじゃないですかぁぁ!お待ちしておりました、ささ、こちらへこちらへ。おいっ、荷物をお持ちしろ!ささ、砂漠は暑かったでしょう、風呂も食事も整っております───」


やつれた小役人が髪を振り乱しラザックを連れて行ってしまう。荷物持ちの数名を含め、あっという間に道の彼方に消えてしまった。


「お疲れさまですヴィリュークさん。中へどうぞ。あなた、彼のリディをお願い」


出迎えたのはウルリカ。ヴィリュークの出迎えを他の者に譲る筈もない。そして馬番の小僧に追加の小銭を数枚握らせ、居残り仕事を労う。




「これにて依頼完了、手続きは以上です。引き受けて下さって有難うございます、お疲れさまでした」


カウンターを挟んで相対しながら、ウルリカはヴィリュークに深くお辞儀をした。


「全くお疲れだよ。ヒトを”運ぶ”のが一番疲れる。特に今回は疲れた……」


珍しいヴィリュークの愚痴に、いつもなら凛としたウルリカの表情から、申し訳なさそうに眉尻が下がる。


「申し訳ございません……」


「いや、ウルリカさんのせいじゃないし、それに依頼は完了したから」


その言葉にウルリカはいつもの穏やかな表情に戻って行くが、ヴィリュークの背後のラウンジではたむろしている男共が、ウルリカの表情に顔を弛めヴィリュークに睨み殺さんばかりの視線を浴びせる。


「そうでした。ダイアンさんとアレシアさんが二日前に戻ってます」


どうやら近況報告がてらの食事の誘いらしい。ヴィリュークは明日の配達が済めばフリーになるので、都合を知らせるよう伝言を頼む。


「今日は旅の埃を掃って飯食って寝るよ」


そう言うとヴィリュークはウルリカに別れを告げて、ギルドを後にした。




昨晩の伝言の返事は、翌朝の配達に出る前には返信が届き、それには店と時間が記されていた。


その晩、指定された店に着いてみると、以前調査隊の顔合わせで使った店より敷居が低い所ではあるが、なかなか小洒落た店構えである。


しかしアレシアはともかくダイアンの場合だと、小ぎれいで居心地が悪そうだと思ってしまうのは彼女に対しての偏見だろうか。


中に入ってみると、広い吹き抜けのフロアにはカウンター席のほかに、テーブルが10席、奥の一面には個室が並んでいる。


二階にも個室の扉が並び、、壁の両側には上に向かう階段が続く。


ヴィリュークが案内されたのは二階の個室の中央の部屋。


係員に案内されるままに入ると、久しぶりのダイアンとアレシアの顔があり、当然ナスリーンも並んで座っている。


「よっ、久しぶり」


「話しは色々聞いてるわよ」


「その辺もじっくり聞かせてよね」


入るなりご挨拶の女三人。


「俺の近況報告だけじゃなく、皆の報告会じゃないのか?」


何となく予想はしていたものの、席に着きながら一言言わずにはいられない。


「まぁまぁ。だけどエステルがいないのは残念だな」


「そうね、商売は順調なのかしら?」


最初からトップスピードの会話であったが、ヴィリュークの前には酒と取分けられた料理が続々と並んでいく。


立て板に水の言葉に、目まいがしたのは気のせいだろうか。それでもヴィリュークは立て直しを図る。


黙って杯を掲げると、一瞬会話が切れるのを逃さず割って入る。


「なぁ乾杯くらいしようぜ」


きょとんとして会話が止まり、三人が手元の杯を手に取ったのを確認するとヴィリュークはすかさず音頭を取る。


「再会に。乾杯」


「「「乾杯!」」」


そして杯が打ち鳴らされた。






食事も酒も進むと同時に会話も進んでいく。


思えば調査隊の顔合わせの時の第一印象も、今や払拭された。


がさつな大女と思っていたダイアンは、気の良いさっぱりした女だった。


ねこをかぶって一線を引き外面が良く見えていたアレシアは、相方がダイアンなせいもあるのだろうか、視野が広く気遣いの出来る調整役だった。


しかしナスリーンは大して変わらない。好奇心に忠実で仕事(趣味?)に熱心だ。だが異性に対してはどうなのだろう。恋に恋する年頃でもあるまい。


”だが気の良い奴らだ”ヴィリュークは相槌を打ちながら酒を酌み交わす。




「そういえばダイアン、助平なお師匠さん……ファルロフといったか?今日は来ないのか?腰でもやったか?」


何気ないヴィリュークの問いかけに雰囲気が変わり、ダイアンでなくナスリーンが答える。


「ファルはね、息子さんの所に行っちゃったんだよ」


「免状は貰っているから後は自分の鍛錬次第なんだが、師弟の別れが手紙一通だけってのはあっけないもんだ」


「さみしいの?確かに傍から見ていても仲のいい師弟だったしね」


「んだと?あんな助平爺いなくて清々してら!」


ダイアンとアレシアの話しが横に逸れていくので、ヴィリュークはナスリーンに疑問をぶつける。


「こっちで一人暮らし出来るくらいの蓄えはあったんだろう?なんで態々同居を?」


「ここ数年水不足が続いてるのは知ってる?特に今年はひどくてさ、疎遠だった息子さんから手紙が届いたんだって」


さらにナスリーンが告げる地名を思い返すと、河からも遠い土地だった。故に作物も雨頼みと想像がつく。


「中古の井戸掘り道具を見つけて、それ持って帰っていたよ」


「んだぁ?爺さん余生は井戸掘りして過ごすとか、想像できないな」


「素人の枯れ井戸再生とか、無茶にもほどがあるよ……そうだ!ヴィリューク、今後の仕事は?やっぱり定期便?」


ヴィリュークの首肯に残念そうなナスリーンであったが、気を取り直して二人にも都合を聞いて来る。


「あたしたちは……特になかったよな、アレシア?」


「そうね、そろそろ次の仕事を探すとして、二・三日後位までには見つけたいわね」


すると我が意を得たりとばかりに、ナスリーンが手を打ち鳴らして迫って来る。


「じゃぁ護送……じゃなかった護衛がてらファルの様子を見てきてよ」


護送では対象は犯罪者である。なぜ間違った?




「ラザックって名前を聞くとヴィリュークなら分かるんじゃないかな?───あぁ、そんなに苦い顔しないで。


道中見てたから知ってるだろうけど、彼ってば暇さえあれば地図を書いてたでしょ?


元々は井戸掘りを生業にしていたんだけど、最近では治水にまで手を出し始めて、有志を募ったら集まっちゃったんだよ。何でも常にあちこち打診してたらしいけど。


あぁ、治水に手を出したと言ったけど、彼が有志に声を掛けたのは灌漑、つまり用水路を掘りたいんだって」


それを聞いたアレシアが面倒くさそうな顔をし、ヴィリュークが呆れた顔をする。


「だったらラスタハールまでの砂漠ルートの地図はいらんだろうに……」


「うわぁ……用水路を引くための地図とか、また面倒なものを……」


「ん?どういうことだ?」


ダイアンが酒を片手に、残っていた手羽先に手を伸ばしながら尋ねる。


「水は高い所から低い所に流れるわよね?」


「んなの当たり前じゃないか。馬鹿にしてんのか?」


「裏山の湧水を誘導するなら、手間はかかるけど苦労はしないわ。高低差もしっかりあるしね。平地をどれくらいの距離を通す計画なの?」


要らぬことを思い出させられて、ナスリーンまでもが口をへの字にして酒に手を伸ばす。


「直線距離で12キロ」


「──高低差を考えて掘り進めないと、水は流れてくれない。迂回して掘ることも考えると、15キロ……20キロに達しても驚かないわ。その計画を立てるため、一枚の地図にどれだけの情報を詰め込まなくちゃならないか……考えただけでもうんざりするわ」


何年かければ完成するか見当もつかない。


想像力のある者は天を仰ぎ、想像力が足りない者は下を俯き、想像力が無い者は料理と酒に手を伸ばした。




「で、それでね。仲間を招集したにもかかわらず、当の本人が未だに来なくて現地で困ってるらしいのさ」


と、ナスリーンが説明するが、ヴィリュークは関係は終わったとばかりに斜に構えて酒を口に含み、アレシアは半眼で手元の杯の中を見つめてる。


「その何とかって井戸掘りに、爺さんとこの井戸を点検させて、目的地まで首に縄付けて連れてきゃいいんだな?」


「ダイアン、疲れる仕事になると思うわ。やめとかない?」


「やめとかない。手紙一枚で出て行った、萎びた爺さんの顔を拝んでやる。んで期日に遅れそうになったら、その井戸掘りを簀巻きにして運んでやるさ」


「時々解いてやらないと暑さで死ぬから、気を付けろ」そう言ってヴィリュークは”俺もそうすればよかった”と物騒な事を呟く。


「よし決まりだね。ギルドには指名依頼出しとくから。ぃよっし、一個解決っと」





余程切羽詰まっていたのか、準備は直ぐに整った。


今回の移動にも乾燥に強いリディが用意され、三人は自己紹介もそこそこに鞍の上のヒトとなる。


移動初日。


王都ラスタハールの周辺では、ラザックも大人しかった。


二日目。


地図を引っ張り出して辺りを見渡すラザックであったが、夕方前にとうとう足が止まってしまった。


”ああ、こういうことか”


仕方ないのでダイアンとアレシアは、早めの野営の支度を始めるのであった。




「ラザックさん、なんでそんなに地図に拘るの?」


魔道具の灯り頼りに地図を仕上げるラザックへ、アレシアが問いかける。


ラザックはめんどくさげに顔を上げるが、すぐに視線を戻してしまう。


「この国はな」


答えてはくれるらしい。


「この国にある地図はな、子供の落書きだ。


道は適当なカーブで描かれているし、川も適当。何年も氾濫の無い川でもだ。


橋が描かれているからそちらに行ってみれば、縮尺もまちまち。到着目安が倍ってのも珍しくない。


地形の高低差?話しにならん。これでは水路も引くに引けんわ」


その地図(子供のお絵かき)虫除け(対スパイ)用ね。正確な地図は国が管理してるでしょうけど、軍事利用されるといけないから、閲覧も出来ないでしょう?近年どころかここ数十年、周りの国との関係は良好だけど、用心するに越した事は無いもの」


アレシアの言葉に目を見開くラザック。誰も教えてくれなかったのだろう。


「水が無ければ生きていけないと言うのに。そんなことのために隠すとは!」


「でもあれでしょ?この先っていうと、ザパルド川からザパルド平原に通すんでしょ?」


「ありゃぁ平原というより荒野だろ。見渡す限り平らな所なんざ、地図なんかいらないだろ」


「それが意外と起伏があるんだ。だからこうして地図を作ってる。───用水路を、ラスタハールまで横断させるんだ」


総延長は100キロを優に超える。なんとも大風呂敷を広げる小男である。


その間もラザックの手は休みなく動き続ける。昼間の測量結果を清書しているのだ。


「夢を語るのもいいけれど、順番に動かないと出せる結果も出ないわよ」


「………」


アレシアはラザックの描く地図を見ながら、書いている範囲の見当をつける。そして自分も紙を引っ張り出すと何やら描き始めた。





”ン~ン~ン~♪”


始めは地面に手を突いて描いていたアレシアだったが、暫くすると毛布に寝そべりながら鼻歌交じりで絵筆を動かしていく。


鼻歌が気に障るのか、ラザックの視線がちらほらとアレシアに向いていく。


「でき、たっと」


ぴょんと飛び起き、正座して両手で紙を前に広げる。


そして自分の紙に集中しているらしいラザックの前に、アレシアはそっと置く。


「こんなかんじかな?」


”がばっ”


それは絵筆で描かれた、野営地周辺の地図であった。


荒地に道が一本うねり伸び、起伏が濃淡で表現されている。


視界に入った所だけしか描けないのであろう。道の両側はしっかり濃淡が付いているのにそれ以外は空白で、遠方で所々濃くなっているのは視界に入った丘と思われる。


ラザックは自分の地図と並べて違いを探していくが、空白はあれども間違いが見つからない。


しかも数字ばかりの自分の地図より、濃淡で表現されたそれは、地形のイメージが掴みやすくなっている。


要所に数字を入れれば更に解り易くなるのだろうが、”絵”にそんな事をするのは憚られてしまう。


「こっ、こりょぇわっっ」


ラザックは地図を両手にアレシアに詰め寄って行く。


「ん~私の特技?ちゃんと進んでくれれば、”時々”描いてあげてもいいわよ?」


特技とは控えめな表現である。”地図要らず”の二つ名の側面を露わにしたのだ。


「お絵かきはその辺にしとけよ~。遅れてる分、明日はあさイチで出発だかんな」


ダイアンにかかっては名作(地図)も、お絵かきと変わらないようだ。






今日もファルロフは一人、例の岩と格闘していた。


井戸掘りは既に村の男達に任せており、五本目の再生に取り掛かっている。


見通しの立っていないのは、息子の家の井戸のみ。


老骨に鞭打って、ひたすら鏨に金槌を振り下ろす。


ぱっくり割れてくれれば何とかしようもあるのだが、やれどもやれども破片が少し剥がれるだけである。


何か別の方法は無いか、思考を巡らすファルロフ。


岩を割る魔法は無かったか。


岩を砕く手練れはいなかったか。


岩を切り裂く武器は無かったか。


そしてこの狭い空間(井戸)を物ともしない存在はいないだろうか。


”ゴッ”


「ふぅ」


一息ついて道具を置くと、握り締めていた両手をほぐし、水袋に口を付けて生温い水を飲み干すと、大きく伸びをする。


うつむいていたので手元の明かりしか見えていなかったが、井戸の底から見上げた空はとても高く、星が見え始めていた。


と、そこへ息子(ドゥハ)が顔を覗かせる。


「親父、そのへんで切り上げよう。あと客…が来たぞ」


誰が来たのか思い当たらぬファルロフであったが、会えばわかると縄梯子に足をかけた。






「ダイアン……」


「よう爺さん。近くを通りがかったから顔見に来たぜ」


客と言って言い澱むわけだ。


「元気してた?ん~ちょっと老けた?」


「アレシアまで……」


孫とは言わないが、いい年の女二人が訪ねて来たのだから。


「ジジイなんだから元々老けてるだろ!」


家族とは自己紹介済みなのだろう。


がははと笑うダイアンの膝には、孫息子が収まっている。最近ようやっとファルロフにはにかんでくれるようになった孫と、ダイアンはあっと言う間に交流を深めたらしい。


「何しに来た」


ムッと不機嫌な口調のファルロフ。けして孫を取られた嫉妬からではない。


「親父!遠くから訪ねて来てくれたのに、そんな言い草ないだろ!」


そんな親子のやり取りにダイアンは構わない。


「奥さん、料理美味しいっすね」


「おかあさんおいしーい」


「ありがとうございます。でも、いただいた食材が良いお蔭もありますよ」


「や、家庭の味もいいものだ」


ファルロフは知らない顔が舌鼓を打っている事に初めて気づいた。


「こちらさんは?」


ダイアンはフォークの先の肉を、大きく開けた口の手前で止め答える。


「井戸掘りの助っ人だよ。ナスリーンのコネで寄り道してもらったんだ。あんだよ?奥さんの料理が冷めちまうぜ。全部喰っちまうぞ」


「くっちまうぞー」


ダイアンの陽気は周囲に広がり、久しぶりに家には笑い声が響き渡る。ファルロフは自分の目頭が熱くなるのを感じた。




次回、やっと剣と魔法(ファンタジー世界)の井戸掘りが始まります。


お読みいただきありがとうございます。

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