プロローグ
今章から地名を導入しました。
適当な名前を付けたくなかったので今まで付けてこなかったのですが、気に入ったネタが見つかりましたので命名です。
昔々、王都ラスタハールの東。
直接的な砂の人造精霊による被害はなかったものの、この村を含め周辺一帯は緩やかな衰退を辿っていた。
原因は広大な砂漠地帯の出現による気候の変化。
砂漠から来る熱くも乾いた風は、ゆっくりとこの一帯の植生を蝕んでいった。
当然作物の収穫量も落ちる。
ならば自然の恵みをと探すのだが、年を経るごとに森の実りのサイズも小さくなり、場合によっては実を付けず、果ては枯死しているのも見受けられた。
異変は水にも表れた。
いつもの季節に大雨は無くなり、降ったとしても地面を湿らす程度。
いち早く川の流れが衰えていることに気付いた住民は溜め池の作成を急いだが、結局の所それは使われず仕舞い。
川とも呼べぬ一筋の流れは、泥水の流れに変わってしまった。
ならば井戸だ。
しかし井戸は浅い物から枯れていく。
最後の水源として、掘削に苦労した深い井戸が残ったが、それ一本で周辺の人々や畑を賄える筈もない。
早い段階で見切りを付け、別の場所で新たな職に就けたものは稀である。
普通そう簡単に生まれ育った村に、見切りを付けられるものなどいないのだ。
一人減り二人減り、そして家族単位でヒトが村から去った。
数十年後───
そこの変化は止まり、ある意味安定した。いや、安定と言ってはいけない。荒廃したのだ。
乾いた風が吹きすさぶ荒野が広がり、低木は散発的に茂り、枯れた雑草の横に未来の無い小さな芽が顔を覗かせる。
ここはかつて麦畑であったのだがもはや見る影もなく、土は痩せ地面は固くひび割れててしまった。
枯れ井戸には砂が堆積し、割れた扉から風が吹きすさんだ家の中は荒れ放題である。
もう何年もヒトは住んでおらず、生き物の影すら見えない。
この先ずっと、廃村にヒトが戻る事は無いのだろうか。
そして、現在。
「だぁ~っ、つかれた~」
「お帰り、ミリー」
ミリヴィリスは自分の研究室の扉を開けるなり、派手に息を吐いた。
対して留守を預かっていたセツガが、彼女の労をねぎらう。
「会議はどうでした?」
「どうもこうもないわよ。お膳立ても整っていないのに、植物学者の出番なんかまだないわよ」
王立研究所による緑化事業が一進一退の攻防を続けている中、新たな問題が湧き起こった。
いや、その問題は以前から存在していた。
目を反らしていた事実が、表面化しただけである。
王都ラスタハールの東側の一帯は例のアレによる直接的な被害は受けなかったが、砂漠化による気候の変化で作物の収穫量は減少の一途をたどった。
しかし、いち早く作付作物の切り替えを行った結果、人々が飢えない程度の収穫量を得ることが出来たのは幸いと言えよう。
例えそれが、食べ慣れない異国の作物だとしても、収穫には変わりない。
だがヒトは慣れるもので、何年かすると独自の調理法を編みだし、世代を重ねていくと、その作物はその土地に初めから存在していたかの様に馴染んでいた。
だが王都ラスタハール東の一帯を旱魃が襲った。
例のアレの影響があっても、住人たちの先祖はここを捨てなかった。
苦しい年を何回も乗り越えてしがみ付いて来た土地だ。
ここ数年、何とかやりくりして春に植えた種が芽吹き、今年こそはまともな収穫が見込めると思っていた夏。
国からの援助で育てていた乾燥に強い作物は、小さいながらも実を付けたが、辛うじて飢えを凌げる程度。
国の肝いりで乾燥に強い麦が作付されていたが、それでも限界がある。
結果、税として納める作物が目の前で枯れていくのを目の当たりにした村人の一部が、村を捨てることを決断も誰が責められようか。
いや、逃げ出せる余裕がある者はまだマシだ。
大部分の者達は、逃げられる余裕すらなかったのだから。
「街の東門前には、難民たちのテントが日に日に増えてるそうですよ」
「そうなんだってねぇ。会議でも問題になってたわ」
セツガが水差しを掲げて問うが、ミリヴィリスは手を振って断ってくる。どうやら暇に飽かせて、お茶を飲み過ぎたらしい。
現在王都ラスタハールでは水を節約するように通達は出ているが、制限までには至って無い。
「お役所では何かしらの仕事を与えて、スラム化だけは避けたいって繰り返してるわ」
「王都ラスタハール内での雇用も限界があるでしょうし、公共工事でも立ち上げてって感じでしょうか」
「そうだろうけれども、私たちは私たちにしかできないことを……ってね」
そう言ってミリヴィリスは、書類をぱさりとセツガの前に置く。
「何ですか?これ?」書類を手にして読み進めるセツガ。
「ふむ、枯れ井戸の再生と灌漑計画ですか……では?」
「それを基にした緑化計画を立てるわ」
こうして彼らの仕事に、南の砂漠だけでなく東の荒野の緑化も追加された。
「やぁファル、待たせてすまないね。元気にしてたかい?」
ナスリーンは自分の部屋に戻ってくると、待たせていたファルロフに詫びを入れた。
「お気になさらず、ナスリーン様。押し掛けたのはこちらですので」
ナスリーンは秘書に温くなっているお茶の入れ替えを指示し、ファルロフの向かいのソファに腰を下ろす。
「元気そうで何よりだよ。ダイアンとアレシアはどうしてる?」
「あれから音沙汰ありませんな。あの調査隊の後、ヴーリライ村経由で西に向かいまして。暑いのはもう十分だと申してましたから、涼しくなったら戻って来ましょう」
「だとしたら暫く戻ってこないね。あっ、ヴーリライ村と言えば聞いたかい?」
何を思い出したのか、突然ナスリーンが声を上げる。
「湖畔の村のロマンスでしたか。あの砂エルフも隅に置けませんな」
ファルロフは顎を撫でながらニヤニヤ話してくる。
「全く僕たちにはつれないくせに、何やってるんだか!」
ナスリーンがぷりぷり怒っていると、”お待たせしました”と秘書がお茶を並べていく。
お茶を手に取り”ふんす”と鼻息一つ。一口喉を湿らす。
「それで、今日はどうしたんだい?」
ファルロフもお茶を一口すすって居住まいを正すと、深々と頭を下げた。
「やらねばならぬことが出来まして、ラスタハールを出ることにしました」
「ふむ……何かやる事でも出来たのかい?」
頭を上げたファルロフにナスリーンは問いかけた。
「死んだ妻の故郷で息子夫婦が暮らしてましてな、その息子から手紙が届きまして。
……暮らしているその村が旱魃でやられて、水が足りないそうです。
妻が死んでからあいつとも疎遠にと言いますか、父親と息子ってのは上手くかみ合わないと言いますか……
……その息子が頼ってくれたのです。何と言いますか、こう、…くるものがありましてな。
へぼ水術師がどこまで出来るか分かりませんが、一丁やってきますわ」
たどたどしく話したファルロフは、二・三本歯の抜けた笑顔で笑って見せた。
ファルロフが去った後、ナスリーンは地図を広げて自分の記憶を確かめる。
ラスタハールから東へ道を辿って行くと、探していた村が記憶通り見つかる。
”ラシュット村”
馬車で三日、歩けば倍はかかる距離。先程の会議で報告された、旱魃の被害が酷い村の一つだった。
「初投稿から一年以上たってから何を今さら地名付けてんだ!」と思われるでしょう。作者自身も思ってます。
悩みどころは遡って地名の修正をしたものかなのですが、どうしようかな(´・ω・`)
これはこれでいっかな、と思ってる自分もいたり。
今章は作者の自己満足で書くことになりそうです。派手な展開は無いと思います(今まで?有ったとは言っていない)
更新速度も今まで以上に遅くなりそうです。(初めて資料を買ってしまいました)
奇特な方がいらしたら、どうかお付き合いくださいませ。
今回もお読みいただきありがとうございます。




