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港街 ~ネコの行進~


マルクは今回の入港前で、ようやっと一人前の甲板員に格上げになった。


半人前の頃は仲間からこき使われてきたし、ロープワーク一つとっても半端な仕事をすると容赦なく拳も足も飛んできた。


先輩の船乗りたちには色々な奴がおり、面倒見が良い者もいれば、不出来な箇所を指摘しないで黙って自分でやり直す者まで様々だ。


しかしこの船の乗組員は一族の者のみなので、悪意を持って接する者はおらず、精々いたずらを仕掛けられる程度。


もちろんやり過ぎたり遣らかしたりすれば、簀巻きでマストから吊るされる。


それらも含めてマルクはこの船と仲間が大好きだった。


しかし一族の者としては未だ一人前のお墨付きを貰えてはおらず、変化した状態で姿を露わにしてしまった結果、街中を追い回されたのだ。






マルクが意識を取り戻すと、そこは見知らぬ部屋だった。


半覚醒状態でゆっくりと身を起こし辺りを見渡すと、壁際の椅子に一人の小柄な少女が座っていた。


年の頃、15・6にも見えるし、もっと大人びても見えたが、特徴的なのはエルフのような耳で先には柔らかな毛が生えている事。


ネコの様な大きなつり目でジッと見つめてくるが、口元はキリリと閉じられている。鼻筋もスッと通り、砂漠の砂色の長い髪は彼女のイメージそのものだった。


「あ……」


「具合はどう?」


たった一言だったが、口元から牙の様な歯がチラリと覗く。


「ぅぅ……」


何を話したものか狼狽えていると───


サミィはテーブルの水差しとコップを手に近寄り、水を注いて彼に手渡してくる。


「はい、自分で飲める?」


コップを受け取ろうと身を起こそうとした時、羽織っていた毛布がずり落ち、マルクは自分が素っ裸であることに気付いた。


「やはり毛布を掛けてあげて正解だったわね」


慌てて毛布を掻き抱き、余計なモノを披露しないで済んでホッとするが、彼女の言葉に嫌な予感が走る。


「え…ひょっとして……」


「豹からヒトに戻るまで全部見たし、毛布を掛けてあげたのも私よ」


淡々と無慈悲な一撃を発してきた。


青ざめるマルクであったが、それは裸を見られたことに対してよりも、ライカンの秘密を知られたことに対して血の気が引いた。


”まずい、知られた!怒られる……いや、それよりもこいつを何とかするか……どうすりゃいいんだ……”


嫌な汗がにじみ出て、思考が堂々巡りしていくがマルクは結論が出せないでいた。






「ただいまー、あ、目が覚めたのね。具合はどう?朝ご飯もうちょっと待ってね」


エステルが帰って来た時、サミィは平然と対峙していたのに対し、少年は毛布に包まって固まっていた。


「もう、なにお見合いしてんだか。あ、古着だけど着る物買ってきたから、着ちゃって頂戴。裸じゃ落ち着かないでしょ」


そう言って荷物を押し付け、サミィにはテーブルに着く様に指示する。


「それから」


エステルは少年の胸に指を突き付け宣告する。


「事情があるようだけど、朝ごはん食べるまで逃げるんじゃないわよ」


きっちり釘を刺してエステルは台所へ向かう。


後ろ姿を見送ったマルクは服を検めると、サイズも丁度良さそうだ。しかし───


「えー…着替えたいんだけど」


「どうぞ」少女の視線が鋭く刺さる。


「どうぞじゃなくて!席外してくれよ!」


「なぜ?」


「なぜって……」


どうしても男所帯にならざるを得ない船乗りであったが、マルクは”陸の女はこうなのか?”と焦りはじめた。


「仕方ないわね。恥ずかしがるモノでもないでしょ」


何やら不穏な響きの発言であったが、サミィは”外へ”席を外した。






「早く戻らないとみんな心配してるだろうな……」


着替え終わったマルクは水差しから直接水を飲み、室内を見渡していく。


暑い地方と言う事もあり、エステルの工房も風通しの良い作りになっている。庭にはこの地方特有の樹木が植わっており、地面に影を落としている。


「服をくれたのはありがたいけど……」腐っても豹のライカン。ネコ科特有の足さばきで、衣擦れ一つ立てず庭を進んでいく。


もうすぐ壁に到達という時、頭上の木の枝から何かが飛び降りて来たと思ったら、頭を蹴飛ばされて背後にまわられてしまう。


ネコか?と思って背後を振り返ると、先程の少女(サミィ)がマルクを睨むわけでもなく真っ直ぐに見つめてくる。


思わずたじろぐマルクであったが、サミィは意に介さず彼の手を取ると、スタスタと連行していく。


有無を言わさぬその行動に、マルクはサミィの為すがままであった。






「丁度良かった。そろそろ呼ぼうかと思ってたのよ」


サミィに手を引かれて入って来たマルクを見て、エステルは気持ち目を細めるが、彼が何をしようとしたかは咎めない事にした。


「さ、席について。食べないと傷も直らないわよ」


各人の皿には薄焼きのパンが数枚、おかわりもテーブルの真ん中に用意されている。


深めの皿には根野菜と腸詰のスープ、そしていつもの黒胡椒をエステルはスープにゴリゴリとミルで挽いていく。


「使う?」


「い、いいのか?」


「ほどほどにね」


普段滅多に使う事のない胡椒に、マルクは”ぃょっし”と小さくガッツポーズをしてミルを手にする。


その横でサミィは、フォークに刺した腸詰に息を吹きかけて冷ましていた。






マルクはスープのおかわりを数回繰り返しながらパンも頬張り、最後は数個目のパンで皿を綺麗に拭って腹に収めた。


さらに出て来た食後のお茶を啜って,ようやっと落ち着く。


「よく食べたわねぇ……」


「食事や着る物までありがとうございました。自分、月の女神号で甲板員をしてますマルクといいます」


「私は織物職人のエステル、この子はサミィよ。なんというか……災難だったわね。だけどね」


エステルはお茶で喉を湿らせてから続ける。


「今、街では豹が出たって大騒ぎよ。君、なにやらかしたの?」


その言葉にマルクは青ざめながらも、ぽつりぽつりと説明していく。


上陸を許可されなかったので、夜にこっそりと抜け出したこと。月の力を甘く見た結果、魔力に呑まれて意図せず変化してしまったこと。


それに構わず出かけたら、女性が男達に路地へ引っ張り込まれたのを目撃したので、男達を一撫でして懲らしめたこと。


追い払って女性の無事を確かめようとしたら悲鳴を上げられてしまい、それを合図に警邏隊に追い回されたこと。


「何とか逃げ出せてホッとした所までは覚えてるんだけど、気が付いたらここだったんだ」


「で、君を拾ったサミィがここまで運んで、私が傷の手当てをしたってことね」


それに対してマルクは改めて礼を言う。


「仲間が心配してるので、この辺で」


「あー、普通に帰られちゃうと、困るのよね」


恩人とは言え何を要求されるか、マルクは思わず身構えてしまう。


「街が君のせいで混乱してるの。わかる?」






「1・第三者から見ると”ヒトが豹に襲われた”。2・退治しようとしたが、傷を負わせて逃げられてしまった。3・手負いの豹は街のどこかに潜んでいる。これだけあれば街に緊張が走るには十分だと思わない?」


エステルは指を一本づつ立てながら説明していく。


「このまま帰られちゃうと君や君の仲間はいいかもしれないけど、この街の混乱は解消されないわ」


「俺にどうしろって言うんだよ……」


「どうしろってねぇ……警邏隊のとこに行けば殺されるだろうし、君の仲間に迎えに来てもらっても、しこりは残るでしょ」


「あー、もう。だからどうすりゃいいんだよ!」


マルクが項垂れている所を、エステルはお茶を一啜りしてこう言った。


「ちょいと一席ぶちますかね。サミィ、あっちの部屋で───」


何の事やらきょとんとした視線に、エステルは返してやる。


「エルフはね、茶番が大好きなのよ」






人通りのほとんどない通りを、一人と二匹が歩いて行く。


少し行くと香辛料店(エステルの実家)の前を通過する。


いつもであれば朝の仕入れで行列が出来ているのだが、今朝に限っては閑散としており、母親のナフルが暇そうに店番をしていた。


「あらエステルちゃん、おはよ」


「おはよう、母さん」


「なかなか特徴的なパーティね」


ナフルが示したメンバーは、先頭にスナネコのサミィ、真ん中に豹のマルク、殿にエルフのエステルと言う行列だ。


しかも豹の首には縄がゆったりと掛けられ、その先端をスナネコが咥えている。


その縄の輪は、少しの抵抗で抜けられるくらいの輪っかなのだが、逃げる様子もない


サミィが店先で止まってお座りすると、マルクもそれに合わせる。


しかも豹はナフルに向かって、申し訳なさそうに上目遣いで見上げてくる。


ナフルも店先にエステル達が現れてから、特に何かを問いかけもしなかった。


「ふーん……」


ナフルはカウンターから出てきて豹の前にしゃがみ込むと、顔を両手で包み込んで逃がさないようにし、しばらく視線を合わせ続ける。


「騒動の元は君ね。もう、おいたしちゃダメよ」そう言ってゆっくりと瞬きして豹を解放した。


「これからどうするの?」


「えー…彼を連れてお詫び行脚かな?」


「気を付けていってらっしゃい」




「絶対感付かれてるよ」マルクは十分離れたのを確認して断言した。


「感付かれてると言うか、ヒトの姿で行っても、普通に挨拶されるわよ。きっと」


「……あんたのお母さん、何者だよ」


「さぁ?」エステルは笑ってごまかした。


『まずは警邏隊のとこね』そんな事はお構いなしに、サミィは進む。


「急にスピード上げるなよ。縄が抜けるだろ」豹とスナネコとで注意する内容が逆になった。






警邏隊の詰所には少数の連絡員を残して、残りの隊員は街中に散らばっていた。


残っていた隊員に、取り敢えずエステルは豹は大人しく危険がない事、サミィが首に縄を掛けて管理するので安全な事を説明する。


”Gurrrrr”マルクが喉を鳴らして何かを知らせて来た。


『知った匂いがいるみたい』サミィが中継してエステルだけに通訳する。


「先客ですか?」


「あぁ、昨日の被害者、とは言っても男達じゃなくて、大元の被害者に事情を聴いてるところだ」


「じゃ、昨晩の詳細は?」


「ああ。あの娘のピンチに、豹が男どもに襲い掛かった──じゃなくて撃退したとか。だが”大丈夫か”としゃべったってのは信じられん。錯乱してたとしか……なぁ」


そう言って隊員は同意を求めてくる。


「少なくとも助けようとしたのは間違いないみたいよ」


”Gru~”


「大人しくするから会えないか、だって」


「あんた、言葉が分かるのか?」


エステルは黙って肩をすくめる。


「……聞いて来るから待ってろ」






二匹と一人は詰所の応接室に通された。


もちろん犯罪者や被疑者用ではない。それらにはもっと居心地の悪いところが用意されている。


警邏隊と言えども来客はあるし、被害者の事情聴取でデリケートな場合はこちらを使用するのだ。


被害者と付き添いの女性二人がソファに座っていたが、豹を見て悲鳴は上げなかったものの、明らかに身を強張らせる。


豹はしなやかなに歩み寄ると、女性たちの足に身体をこすりつけてから前にお座りし、喉を鳴らす。


エステルが”無事で安心した”とサミィ経由で通訳してやると、おっかなびっくりで頭を撫でていく。


豹はそれに気を良くしたのか、ソファの端に登ると女性たちの膝の上に長~く寝そべるではないか。


女性たちは、まずみられない豹の人懐っこさに気を良くし、慣れてくると覆い被さる様に上から抱き付く。


対して豹は仰向けになって、爪を引っ込めた脚でじゃれ合い、おまけに顔を胸元に繰り返し擦り付ける。


それを見ていた警邏隊員のこめかみには青筋が走り、エステルの頬が数瞬痙攣する。




”なぁ~ぉ”


不機嫌な鳴き声が室内に響いた。


女性たちが反射的に上体を起こすと、豹の腹が(あら)わになり、その無防備な腹目掛けてサミィが飛び乗った。


そのまま数歩、頭側へ歩いて行くと、サミィは頭めがけて数発ネコパンチを喰らわせた。


その剣幕に怯んだ豹はエステルに助けを求めて駆け寄るが、彼女もまた味方では無く一発頭を平手打ちする。


「ごめんなさいね、こいつオスネコだもんで。あなた達に甘えてるのよ」


そういって助平豹の耳をつまんで軽く引っ張る。


「ほどほどにしないと棒に脚括り付けて、獲物宜しく運んであげるわよ」


その言葉に豹がもう片方の耳を申し訳なさそうに伏せると、エステルの表情も元に戻り、隊員が言葉を続ける。


「これだけ慣れた豹なら問題ないだろ。しっかしとんだ騎士さまに助けられたな」


結果、入る前まで重かった空気が程よい具合に抜けていった。


「これからどうするんだ?」


「元の船に返しに行くわ」


隊員はその言葉に”ふむ”と呟くと、一人同行させると言ってきた。丁度良い安全宣言として利用するつもりらしい。






居住区から商店街を抜け、露店区画を通り過ぎる頃には、スナネコを先頭とした豹の行列は長いものになった。


誇らしげなサミィの手綱で従順に従う豹に、住人たちは温かい視線を投げかけ、エステル達は道中何度もこれまでの経緯を説明する羽目になった。


警邏隊が数名先導する頃には、豹を探していた船員たちも騒ぎを聞きつけてきた。


船までの案内を頼むと一人を残し、他の船員は仲間たちに無事を知らせに走って行く。


波止場に着くとマルクの仲間が全員集合していた。


事情は良く知らないながらも、サミィに連行されている(マルク)を見て、彼らのニヤニヤ笑いが止まらない。


当の(マルク)は仲間に見られて恥ずかしいのか、頭も尻尾も項垂れている。


行列は桟橋で止められ、警邏隊が甲板長に事情を話し厳重注意を行いはじめる。


話を聞き終わると、甲板長が豹の頭を一発しばき、重ねて謝罪をし、警邏隊の方もこれで手打ちとした。


「しかし良く慣れた豹だな。悪いと思ってるのか、あれだけ叩かれても反撃どころか牙すらむきやしない」


「慣れてるのはいいんですが、どこまで反省してるやら。本当に申し訳ない」


「よく言って聞かせてくれ、って言葉が理解できるならな。じゃ、ここらで失礼」


”かいさーん、邪魔になるから帰った帰った!”そう言って警邏隊は行列と野次馬たちを追い立てながら帰って行った。


「あんた時間はあるか?済まないが寄っていってくれ。うちの船長が会いたいそうだ」


残ったエステル(と手綱を咥えたままのサミィ)は、そのまま船上のヒトとなった。






「船長、おつれしやした」


「おう」


部屋に入ると所狭しと器具が置かれたり吊るされたりしているが、整理はしっかりされていた。おそらく航海用の道具なのだろう。


「狭い所ですがどうぞお掛け下さい」


中にいたのは、黒く日焼けし筋肉質な髭面の男だった。しかし黒い髪も髭も丁寧に整えてあり、常に身綺麗にしているのが見て取れる。


「船乗りは荒くれ者ばかりってイメージがあったけど、そうでもなさそうね」


「そっちのほうがお好みなら、リクエストに応えるぜ」


「やり易い方でどうぞ」


勧められたソファに座りながら、なげやりにエステルは返事する。


「なんでも、ウチのを助けて下さったそうで」


余計な詮索はされたくないのか、名乗ってこないのでエステルも名乗らずに流す。


「豹なんか見た事ないでしょうに。怖くは無かったのですか?」


「始めは驚いたけど、ウチのが助けてくれっていうもんだから」


自分の膝に乗って来たサミィを撫でながら答える。サミィは咥えていた縄を放しはしたが、手元に抱えているので(マルク)も自ずと近くに座ることになる。


「ほう」何やってるんだとばかりに、豹を睨みながら声を上げる。


彼は船長として、どこからそしてどこまで突っ込んでよい物か頭を悩ます。


一人の正体が明らかになることによって、乗組員たちのも芋蔓式にばれてしまうのは避けねばならない。


「なんかやりにくそうね……じゃぁ手の内を一つ明かしてあげるから、個室貸してくださる?」


エステルはサミィを伴って空き部屋に入って行った。






しばらくして案内した甲板長が戻って来た。


「船長ダメです」


「なんだと?」


「例の部屋に案内したんですが、あの女エルフ一発で見抜きやがりまして」


「物音でも立てた馬鹿がいたか?」


「女の部屋覗くのに、そんなヘマする奴ぁウチの船にいやしません。でなくて!」


甲板長が語るには、扉を閉めてからエステルがぐるりと見渡すと、四方上下、それぞれの覗いている人数を言い当て、それでも無視して息をひそめていた者に対しては、覗き穴一個一個にナイフをちらつかせて脅していったそうだ。


その報告の最中に、突然扉を開けてエステルが入って来た。


「ノック位してほしいのですが」


「あら、そちこそ船員さん達のしつけがなってませんよ」


一瞬睨み合ったが、船長は後ろに従う小さな姿に気付いた。


「その子は?」


「いやですわ、うちの子ネコちゃんですよ。さっきもいたじゃないですか」


ヒトガタで佇むサミィを見て、船長と甲板長ははたと気付く。


「マルクが助平なのは周りの環境がいけないと思う」覗かれたサミィが淡々と指摘する。


「そうね。マルク、いい加減着替えて来なさいよ。これ、あげるわ」


エステルが未だ結ばれていた縄を解いてやると、買ってきてやったガラビア一式の入った袋を床に置く。


唖然としている二人を残し豹が袋を咥えて立ち去ると、しばらくしてガラビアを着たマルクが戻って来た。


マルクがどこまで明らかにしたか察した船長は、彼に歩み寄ると平手一発頭を引っ叩いた。


いい音がしたが、これは然程ダメージはない音だ。


「罰として船底掃除一週間」


「そりゃないよ!親父!」


「船長と呼べ!」


船長にしてみれば、サミィの正体を察すると、牽制し合っていたのも馬鹿馬鹿しい。


だが相手が勝手にサミィをライカンと察したのであって、エステルもサミィも敢えて訂正するつもりもなかった。




「そうですか、あなたが手当てを」


改めて名乗って来たルカス船長が相好を崩して話しかけてくる。


「しかし遠い異国で同族に出会えるとは。なんとも喜ばしい」


聞くと船の乗組員はライカンばかり。だが混血が進み、マルクのように変化出来る者は少ない。


この港へは遠路はるばる三か月かけて辿り着いたのだが、航路の開拓が航海の目的の一つ。


そこに、少なくなった同族の捜索も目的に入っている。


迫害されている同族が居ればその保護もしているのだが、今回の航海ではまだ出会えておらず、サミィが一人目との事。


「しかしマルクが大人しく従ってたところを見ると……どうです、こっちにいらっしゃいませんか?」


ルカス船長の押しが強い。なにが彼をそこまでさせるのか。


だがエステルはそれを断るセリフを用意していた。


「んー、サミィもこちらの暮らしに満足してますし。同族として付き合うのは構いませんが、”そのつもり”になるのは止めた方がいいですよ」


そういってエステルは自分の耳を触って合図すると、ルカスはサミィの柔らかな毛の生えた長い耳を見て、彼女の言わんとすることを察した。


「複雑な道を歩んでいらしたようですね」


ルカスは色々と察したつもりのようだったが、エステルからすれば材料を少し与えただけで、都合の良い解釈をしてくれるルカスに助かっていた。






マルクとルカス、そして甲板長が二人を桟橋まで見送りに降りてくる。


「マルク~、首に縄つけて引いてもらわなくていいのか~?!」


早速、乗組員たちが最新のネタで冷やかしてくる。


「ちくしょう、あとでぶっとばす」マルクの赤面が治まらない。


「満月の夜に寄港したら呼んで。縄を引いてあげるわ」淡々とだが、サミィがからかうのも珍しい。


「あ、あんたまで!」


「航海の無事を祈っているわ」


そういって二人は彼らに別れを告げて陸に戻って行った。


サミィは何時も食べている屋台のそばを通りながら、エステルに訊ねてくる。


「ネコとヒトとで、変化した大きさが違い過ぎるのに、おかしいと思わないのかしら」




娯楽に飢えている街の者達が、今回の騒動も尾ひれを付けて流布させたのは言うまでもない。







後半、加筆修正したいのはやまやまですが、全ては妄想の神様の思し召しなのです(´・ω・`)


閑話はこれにて終了。しばらく妄想期間に入ります。


お読みいただきありがとうございます。

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