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港街 ~ねこ、ひろいました~





ズズズ───


深夜の住宅街。


月明かりで照らされるも、人通りは皆無である。


そこを半分立ち上がった格好の豹が移動していく。そう、四足の獣らしからぬ、まるで幽霊のような水平移動だ。


誰かが目撃しようものなら、女性なら絹を裂くような悲鳴、男性なら野太い絶叫を上げるに違いない。


しかし種を明かせばなんてことはない。


一人の少女が、豹を獲物宜しく担いで移動しているのだ。


彼女の体格と豹のサイズの差があるせいで、奇妙かつホラーな光景になっている。




少し前───


サミィは倒れ込んだ豹の前に座り込み、容態を確認していた。


幸い身体の内側──胸や腹などに傷はなく、一番深いのは二本の矢傷。他に切り傷が多数あったが浅い物ばかりで、さらには何かで殴られたのか腫れている。


『しっかり』


ヒトの言葉は分からぬであろう。そう思い、声にならぬ声で語りかけるが反応は返ってこない。


何度目かで薄っすらと目をあけたがすぐ閉じてしまう。


サミィは少し考えると、豹の前脚を取りその身体を獣の下に潜り込ませていく。


そして苦労しながらもなんとか豹の前脚を両肩に乗せ、背中と腰に豹の身体を乗せることに成功した。


豹の頭が顔の真横きて鋭い牙が視界の端に映るが、一々気にしない。


「んっ」


気合と共に一歩目を踏みしめ、サミィはエステルの工房へ向かった。






体格差での苦労はあったものの、変化(へんげ)した身体は運搬でパワー負けなどはしない。


無事エステルの工房に到着したのだが、入口はしっかりと戸締りされている。


豹の身体を地面に横たえ、サミィは自身の身体をプルリと震わせると一瞬でヒトガタからネコの姿に。その逆の変化もお手の物である。


ネコの姿に戻ると、扉の下に開けてあるネコ用出入り口を潜り抜ける。


待つこと十数秒。


”カタン”鍵の開く音がすると音もなく扉が開く。


入居時は扉の開閉時に軋む音がしていたのだが、それを良しとしないエステルがあっという間に調整してしまっている。




ここまで来ると一々担ぎはせずに、サミィは抱き上げる様に中へ運んでいく。


邪魔にならない場所に横たえ、扉の鍵をかけ直すとエステルが奥から出てきた。


「おかえり。鍵の音がしたから来てみれば……珍しいわねぇぇぇ……」


エステルは横たわっている豹を見つけ、語尾が思わず伸びてしまう。


「サミィ、これどうしたの?」


「拾った」


「どこから拾ってきたの?!どうすんのよ、これ!」


「面倒見て」


「見れる訳ないでしょ!元いた所へ返してらっしゃい」


「「むー」」


エルフと化けネコは睨み合う。


「手当だけでもして。お願い」


手当てという単語に、エステルは改めて豹を見る。


確かに傷だらけであちこち血が滲んでいる。矢も刺さったままだ。


「あ゛ー……」


エステルは髪の毛を跳ね上げながら頭を掻きむしった。


何だかんだ言って、見捨てらず、他人に甘く・情に(ほだ)されやすいエステルだ。勿論頼まれるだけの技術を習得しているせいもあるのだが。


「豹なんてこの辺にはいない獣だからね。どこからか逃げ出したんでしょ。手当てしたら飼い主を捜すから、大人しくさせるのよ」


”不本意”といった口調で奥の部屋へ道具を取りに行くエステルだが、なにをいまさら。


「わかった」


エステルの口調に、サミィは小さく口角をつりあげた。






傷も大小さまざま。


治療中に意識を取り戻して暴れられても困るので、麻酔作用のある薬を豹の舌下に垂らしていく。


ヒト用なので用量やどこまで効くか分からないが、無いよりまし。因みに量は豹の体重で見当を付けた。


浅い傷口は水で洗浄した後、火が付くほどの蒸留酒で清める。


打撲痕を調べると、腫れているだけで骨には異常はなかった。サミィに濡らした手拭いを交換しながら冷やさせる。


さて問題の矢傷。


傷口を少し広げて鏃の形状を確認、傷を大きくしない様に真っ直ぐ引き抜く。


鏃を洗って状態を確かめると、予想通りのまっとうな鏃でエステルは安心した。


錆なと浮いていないし、形状も小さく扁平な柳葉状の物だ。


錆のせいで容態が変わることもあれば、特異な鏃の形状だったりすると、傷口をずたずたにして失血死を狙うものもあったりする。


そして傷口を清める手順は一緒。しかし、そのままにしておくには大きい傷だった。


エステルは小鉢に絹糸と湾曲した針を入れ、そこに先程の蒸留酒を注ぎ暫し置く。


「ああ、もったいない」自分の両手も呟きながら蒸留酒で洗っていく。


そうして絹糸を針穴に逡巡なく通していくと、針片手に傷口を見据える。


大きくはない傷だが、矢傷と言う事もあり結構深い。一針掬って結ぶ、一針掬って結ぶ。縫合の強さも加減をして引き攣らぬよう、細かく等間隔に縫合し終わる辺り、縫う対象は違えども職人の仕事だった。


最後に縫合箇所を蒸留酒で優しく拭う。


「その辺でいいでしょ」


傷を冷やし続けていたサミィに声を掛けると、床に毛布を重ね、その上に洗い晒しの布を敷く。


「こっちに移すわよ」と言って二人掛かりで豹を移動させた。


「目を覚ましたら、よく言って聞かせてね。治療した相手に襲われたくはないわ」


夜明けまで間もないが、エステルは一眠りするらしく手を振って自分の寝室へと帰って行き、サミィはネコの姿に戻ると豹の正面の椅子の上で丸くなった。






それでも一眠り出来れば身体は休まる。


サミィは魔力の揺らぎを感じて目を覚ますと、丁度日の出の頃合いだった。


そして魔力の揺らぎの源は、探すまでもなく目の前の豹から感じられ、今まさに変化(へんか)の真っ最中である。


身体からは体毛が抜け落ち、骨格が変形していく。痛みが伴っているのだろう、時折押し殺した声がもれる。


それを見ながらサミィはぷるりと身を震わせ、一瞬でネコから服を着たヒトガタに変化(へんげ)を完了させてしまう。


それとは対照に変化(へんか)も終盤、突き出ていた鼻も頭蓋の形も丸みを帯びる。


呼吸が落ち着いた頃、そこには一人の少年が横たわっていた。当然素っ裸で。


変化の様子を目を見開いて固まっていたサミィであったが、手の平に拳をポンと打ち鳴らした。


こういうヒト臭い仕草も順調に蓄積しつつあるサミィは、奥の部屋から毛布を取ってくると少年にかけてやる。


ヒトは何故か人前て裸を見せることを嫌うと学習していたのだ。






夜明けからしばらく経つと、エステルが起き出してくる。寝足りないはずなのに何時もの時間に目が覚めるのは、誰しも覚えがあるだろう。


昨晩の事も気になるので、欠伸をしながら井戸へ向かう。


洗顔と水分補給を済ませ、水差しとコップと手桶を持って豹のいる部屋に入ると、豹に毛布が掛かっていた。


特に何も考えず、そっと毛布をめくって様子を見ようとすると……


「……誰?」


変わり果てた豹の姿を見て、驚きながらも腕の中の物を何とか抱え込めた。


毛布を掛け直し、荷物をテーブルの上に乗せながらサミィに問いかける。


「昨日の豹。さっきヒトに変わった」


再度エステルが顔を覗き込むと、まだ大人と言うには早い少年の寝顔があった。肌の色はこの辺の住民より明るい褐色である事を見ると、他国から来たのか?


一番可能性として高いのは船乗りだ。


毛布の足側をめくると、素足が見える。そのまま持ち上げると、太ももに傷の縫い痕が。


見覚えのあるステッチ?があるので、間違いなく自分が縫合したものと分かる。そしてその少し上には、少年の引き締まった臀部が見え───


そっと毛布を掛け直してやる。


「どうしたものかしらね……」


「群れからはぐれたなら、戻してやるのが一番。一人でここまで旅してきたとは考えにくい」


サミィが言うのも尤もだと悩むエステル。


「……まずは朝ご飯、っと買ってこないとね」


サミィに後の事を頼むと、エステルは朝市に向かって家を出た。






エステルがいつもの朝市に到着すると、なぜかいつもよりヒトや露店が少ない事に気付いた。


それでも開いている店を巡って食材を買い集めていくと、買い物を済ませた客が何人も、大きな荷物を抱えて足早に立ち去って行く。


周囲を伺いながら道を進んでいくと、警邏の者達とよくすれ違う事に気付き、明らかに船乗りと思しき者たちが徘徊しているのも分かってくる。


エステルは首をかしげながら、思い出したように露店の古着屋に声を掛けた。


「男物というか少年位の物で一式お願い、ガラビアなんかで揃えてくれるかな」


「身長はどれくらいだい?」


これくらい?とエステルは手の平で、自分のあご位の高さを指し示す。


「ねぇ、様子が変だけどなにかあったの?」


「なんだエルフのねーちゃん、まだ知らなかったのか。昨晩、豹が出たらしいんだよ。なんでも男が二人襲われて怪我して救護院行きになったとか。しかも倒しきれなくて手負いで逃亡中なんだと」


「手負いは危険ね」エステルは相応に怖がって見せる。


「襲われた男達ってのも、良からぬことを企んで路地裏にいた所をやられたそうで、ザマミロってとこなんだがな。で、警邏隊の連中と、積んでいた船の乗組員が走り回ってるんだとさ」


「ふーん……」


「あんたも家で大人しくしておいた方が身のためだぜ。じゃ、これな」


「はい、どうも」


エステルは支払いを済ませると、受け取った服を収納鞄に放りこみ、あいさつもそこそこに足早に立ち去った。



終わりませんでした(´・ω・`)


けして ぽけもんごうを していたわけではないんだよ。

やすみのひに すまほにぎりしめて じてんしゃ こいでいたわけじゃないんだ。


や、妄想の神様がおりてこなかったんです。マジで。

てことでいつもの半分です。申し訳ない。


今回もお読みいただきありがとうございます。

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