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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
森エルフ、砂エルフ
78/196

VS スプリットS

本日二話更新です。ご注意ください。



今年のエアレースは宙返り(ループ)無双となった。


どれだけ垂直旋回でリードを稼ごうとも、スラローム辺りで追い付かれ、容易く追い抜かれてしまうのだ。


速度が速いと言う事は必要となる連射速度も上がり、スラロームの三連射は言うに及ばず、その先にある高速コーナーの難易度も自ずと上がっていく。


何とかこの曲芸飛行を成功させたペアもいたのだが、連射が追いつかず矢を落としてしまったせいで、敗退してしまう有り様だった。


それでも尚、成功し続けているのは、フレッド・ヴィリュークペアとジェラルド・アンナペアである。


そう、この二組がトーナメントの両端から駆け上がって来ているのだ。






コースでは三位決定戦が始まっている。


例年と比べると十分にハイレベルな戦いなのだが、決勝に勝ち上がった二組の飛行と比べると如何せん見劣りしてしまう。


それもその筈。


毎年変わり映えしないアクロバットの精度を上げ、その中で確実に弓の腕を見せつけるのが今までのレースだった。


今までは毎回コースを変え飽きの来させないレースであったのだが、新たな機動(マニューバ)が披露された今、観衆がそちらに熱狂するのは当然と言えよう。


”ぱちぱちぱち”


散発的な拍手でゴールを向かい入れられた三位の組も、惜しくも敗退し四位の組も、あの立体機動を来年までにものにすることを心に誓った。






『長らくお待たせしました!いよいよ決勝戦がスタートします!!』


拡声魔法陣によるアナウンスが会場に響き渡り、毎年の名物の心地の良いバリトンで紹介が始まる。


その声を背に、二枚のじゅうたんがゆっくりとスタートラインに向かって行く。


『それでは改めてご紹介しましょう、まずは挑戦者から!


射手、フレッド!最近の大会では上位入賞に絡むも、今一歩上に抜け出ることは出来ませんでした!今年は新作新型の弓を引っ提げて登場、見事決勝進出です!因縁の相手に勝利して───っとこの先は皆さんの方がご存知ではないでしょうか?


そして相方の操者は砂漠からの助っ人、砂エルフのヴィリューク!異国情緒たっぷりの装いで、今大会注目度ナンバーワン!新空中機動(マニューバ)を駆使するところからも、その実力は疑いようもありません!


その彼らを阻むのはこちらの二人!まだ優勝経験が無いので王者と呼ぶことは出来ませんが、幾度となく挑戦者を阻んできた実力者です。


まずは射手のジェラルド!森の衛士としても実力を発揮している彼です。今回も婚約者兼操者の彼女と出場です……え?先進め?あーはいはい。


その相方を務めますは、ギルド職員兼シルク工房の人気者、アンナちゃん!───?ちゃんづけするな?いーじゃないですか!むさい男の中での紅一点!私でなくともちゃんづけしたくなるってもんです!普段大人しい彼女も、じゅうたんを使わせればこの大会でも五指……、いや三指にはいるといってもいい実力を備えております。事実、先のヴィリューク氏の新空中機動(マニューバ)も、初見でやってのけるほどあります!』






二枚のじゅうたんがスタートラインに向かっている間、湖畔では好き勝手に紹介されているのか聞こえてくる。


男三人は平気な顔をしているが、アンナだけが赤面してしまっている。持ち上げられるのに慣れていないのだろうか。


「ようやっとここに来れたな」


「……負けないよ」


「そこは”勝つ”って言っとくもんだ」


フレッドの言葉にジェラルドはダメだしする。


「砂エルフの兄さんも凄いが、勝つのは俺達だ。砂漠でどれだけ腕を鳴らしてきたか知らないが、地元なめんなよ」


ジェラルドの威嚇にもヴィリュークはどこ吹く風。


「お手柔らかにな、アンナさん」


「あっ、はい……」心なしか更に赤くなったようだ。


「!!アンナ!早く位置につけ!」


やれやれと肩をすくめるヴィリュークであったが、それに肩をすくめて答えてくれたのは、旗を手にしたスターターだけであった。






旗が高く掲げられている。


湖畔から歓声が聞こえてくるが、内容までは分からない。


「用意はいいか?」


「おう」

「はい」


それぞれに緊張が走る。


「3・2・1」早すぎず遅すぎずカウントダウンされて行き───


「0」力強く旗が振り下ろされると同時に二枚のじゅうたんが飛び出すと、スターターの両脇をかすめて一本目のパイロン目指す。


開始早々、目聡い観客たちが違和感を感じ始める。


二枚のじゅうたんに高低差が出来始めたのだ。


二本目のパイロンを過ぎた辺りから誰の目にも明らかになり、三本目の的を射抜いたとき、二枚のじゅうたんはお互いに逆向きに高度を取った。


ジェラルド()アンナ()のじゅうたんは高度を下げる勢いも利用して加速すると、パイロンを巻き込むように宙返り、頂点で半転(ロール)し、次のパイロンを視界に入れる。


しかし周囲にフレッド()ヴィリューク()ペアのじゅうたんがいない。


二人は相手も同じ空中機動(マニューバ)を駆使するはずなのに、姿形が見当たらない。


不審に思いつつも稼いだ高度を利用して急降下、じゅうたんを加速させ次のパイロンを目指そうとした時、視界の下方に映ったのは一歩先んじているFVペアのじゅうたんだった。


驚愕で目を見開く二人であったが、なぜ先行されているかなど後回しにする。今は相手に追い付くことが先決だ。






打ち下ろし気味に三枚目の的へ矢を放ったのを確認したヴィリュークは、一気に高度を上げる。


少しづつ視界から離れる様にしていたのもあるので、相手からは気付かれてないはずだ。


「いくぞ。歯、食いしばれ」


フレッドは頭を抱えて、これからの機動に対して防御姿勢を取る。


パイロンを眼下に望みながら、じゅうたんを半転(ロール)させ急上昇。つまり水面目がけて急降下である。


それを巻き込むように宙返りをしていくと、JAペアのじゅうたんの裏を回って掠めるという珍しい視界も一瞬だ。


じゅうたんの推力は使っていなくとも、落下──もとい宙返りのせいで十分速度は出ている。


そろそろ水平となる手前で推力ON。


湖面ギリギリなんて失態はないが、じゅうたんの加速につられて左右に水壁が立ち昇る。だがそれもすぐに高度を上げて発生させなくし、水飛沫による速度ロスを避ける。


「フレッド!構えろ!」


「み、見えない!あ、あぁぁ…見えてきた」


「失神してないだけ上等だ!的の正面に付けている、早く番えろ!三連射だぞ!」






スラロームへは同時に両サイドからのアプローチとなった。


アンナが小刻みするように蛇行していくのに対して、ヴィリュークはじゅうたんの推力に任せて大きくうねらせる。


Uターン時の空中機動のせいで、ターン終了時にはJAペアとFVペアには高度差が出来てしまった。当然FVペアが下で、上のJAペアからは相手の動きが丸見えだ。


下からはスラロームの折り返しの時に、上のじゅうたんが見える程度である。


射撃地点で交差し、離れる。射手の二人は的だけに集中し、相手の事など気にしている余裕もない。


しかしアンナは焦っていた。


”どうやってUターンしてきたの!?それよりフレッドのじゅうたん凄すぎ……いや操っているあのヒトもとんでもないわ。あんな暴れ馬、私じゃ絶対制御し切れない”


当のヴィリュークは舌を巻いていた。


”じゅうたんの性能も悪くはないが、あの操縦は何だ!?無駄な推力なんざほとんど無いし、何と言う繊細な操縦!針の穴を通すとはこのことか!”


スラロームからはJAペアが一歩リードして抜け出た。






じゅうたんは一番の観戦スポット、高速コーナーに差し掛かる。


「「「おおおお!!!」」」


会場は熱気を帯び、観客はヒートアップしていく。


更に加速していくじゅうたんは、連射出来るギリギリの速度でコーナーを回る。ヴィリュークも速度を上げるに上げられず、依然と差は縮まっていない。


”ダダン”


だが最後の的を射抜いてしまえば、もう遠慮はいらない。


身体を小さくし、風防領域も偏平にし、最後の直線を速度全開でゴールを目指す。


じりじりと差が無くなっていくが、上下に分かれて飛行している二組には分かる筈もない。






『ゴール!!!激しいデッドヒートでした!こちらから見る限り同着にしか見えませんでしたが、果たして判定や如何(いか)にぃぃぃぃ???』


アナウンスの声に、否応もなく注目されている三名の審判。


そして下された判定は───


審判員たちが揃って腕を交差させる。


『なんぉぉぉ!判定不能!!同着、同着です!これはどうなるんだぁ?!おぉっと主催者側と審判達が集まり始めました。協議が始まった模様です!皆さん、しばらくお待ちください!』




”ほんとに同着だったのか?!”

”だからそうだと言ってるじゃないか!”

”耄碌してないだろうな!”

”何だとぉ?今でも飛んでくる矢を矢で撃ち落とせるぞ!”

”まぁまぁ、近年まれに見るいいレースでしたし、彼らの目は確かですよ。それより───”




ゴールした二組は、会場の様子がおかしいのを訝しみながら戻って来た。


「「同着?」」


「はい。審判の三名とも差を見極められませんでした。よって同着です」


まさかの状況に、四人は思わず顔を見合わせてしまう。


「過去のレースでは一見同着に見えてもきちんと判断が付きましたが、今回は三名が三名とも同着の判断です。であれば今大会は、同着優sh───」


「ヴィリュークさん。もう一回、飛ぶことは出来ますか?」


審判の言葉を遮ってフレッドが訊ねる。


「おいフレッド」


「ジェラルド、今度こそ誰にも明らかなように僕が勝つよ。ヴィリュークさん、どうですか?」


フレッドの宣言にムッとしたジェラルドであったが、押し黙ってしまう。


ヴィリュークは自分の返答如何(いかん)でこれからの展開を察したが、フレッドの目を見てしまったら誤魔化すことは出来なかった。


それはフレッドにとっても自分にとっても分の悪い賭けだ。そしてそれはジェラルド・アンナ・ミューシャ全員が、更なる泥沼に陥る事になる賭けだ。


「一回だ。少し休んで回復すれば、あと一回飛ばせる」


「ふぅ~……本気か?フレッド?」


当然ジェラルドは確認してくる。


「本気だよ。白黒つけようじゃないか」


細い身体でフレッドは啖呵を切ってくる。


「なんで!?もういいじゃない!前例のない同着判定でしょ!?どっちも一着でいいじゃない!ばか!この季節の度にギスギスするのはもう沢山よ!もう…たくさん……」


アンナが泣いて抗議するのを、フレッドがそっと詫びてくる。


「ごめんねアンナ。でもミューシャと約束しちゃったんだ。ジェラルドに勝って迎えに行くって」


「……全力の俺に、俺達に勝つってか?」


「ああ」


「……簡単には勝たせないぞ」


男二人のやり取りに、とうとうアンナが爆発する。


「ジェラルドのばかっ」パーン

「フレッドのばかっ」パーン


二人の胸板に一発ずつ平手打ちをかまして背を向けて立ち去っていく。シャツをはだけたら、手の形に赤く腫れあがっている事確実である。


「ミューシャには悪いけどっ!一生行かず後家で過ごしてもらうからっ!でもって先に結婚してやるっ!!」






誰も”女のヒステリー云々”と言葉に出来ない。黙って顔を見合わせるだけで、そのうちの二人は胸の痛みを必死に噛み締めて、声に出せないのもあるのだが。


ヴィリュークはと言えば、アンナの言葉に胸のうちでうなずいていた。


ああは言ったもののフレッドは気持ちばかり先走っており、確実な勝利には遠いのがヴィリュークの見立てである。


となると一計を案じるのも当然。


「一つ提案があるんだが」






ヴィリュークの提案とは、確実に決着をつけるためのものだった。


それも至極単純。


「高速コーナーの最後に的を一枚追加でどうだ?」


提案された位置を見やった途端に、他の者の顔が渋い物に変わる。


「射手の反応速度が追いつかないぞ!?」


そんな抗議にヴィリュークは平然と返す。


「射手二人の勝負じゃないですよ。操者の俺達も勝負をしているんです」


静かになったのでヴィリュークは続ける。






「彼女のじゅうたんの腕前は素晴らしい物です。丁寧な操縦で見ていて気持ちがいい。ライン取りといい姿勢制御といい、加速減速も滑らかで、射撃地点に入る前からあれだけ安定していると、射手も余裕を持って狙い打てるでしょう。あれが速度勝負ならもっと速く飛ばせる筈です」


唐突な称賛に周囲の胡乱気な視線を集めるが、ヴィリュークは構わず続ける。


「そこに新たな仕事が加わった時、変わらぬ操縦が出来るでしょうか?勿論それは俺にも言える事ですが」


その言葉にハッとするジェラルド。ヴィリュークは搦め手を承諾させてこのレースに勝ちに来ている。


「……操者にも弓を持たせるのか?」


アンナの弓の腕前は村の中では並みだ。提案の的へ確実に当てられるとは言い難い。


「男と女だ。フェアじゃない」


ヴィリュークは自信があっての提案と踏んだジェラルドは、ハンデを要求する。


「矢を二本増やすのは?」


「高速コーナーではあまり意味がない」


「じゃぁ、こちらは投げナイフってのは?」


隠しから取り出したナイフを見せると、近くにあった的目掛け、腕の振りと手首のスナップで命中させてしまう。


「その腕前でハンデになっているとでも?」


「細かいな。ちょっと待ってろ」


風がどちらに吹いているか怪しくなっている中、ヴィリュークが収納鞄を持って戻ってくる。


取り出したのは、むかし腕前を披露した投擲武器ばかり収めた革の反物。


紐解いて広げると、内側に作られたポケットに収納された投擲武器が披露される。さらには収めきれない大きさのブーメランやらジャベリンやら並べられるが、流石に魔盾を並べるのは自重したようだ。


「風に影響されやすいのは勘弁してくれ」


エルフと言えども森に入るので、手斧や山刀くらいは見慣れているが、あまりの節操のない武器の種類に唖然とする面々。


ジェラルドは端から検分していくが、取り回しの良さそうなものは使わせたくないし、どれもこれも使い込んであり手入れも抜かりなく見える。


となると……


「こいつならいいぞ」


「まて。それを投げるのは全身運動だぞ」


「ん?大丈夫だから並べたのだろう?」


「重さも相当だ。せめて補助器具を使わせてくれ」


「あー…。使うならアンナの射撃はなしだ。俺が射る」


「うぐっ……仕方ない。その、条件で」


ジェラルドは背を向けてしてやったりと表情が見えないようにし、天を仰いだヴィリュークは両手で顔を覆い笑みを隠していた。


最終的に最後の的は、ジェラルドが弓で、ヴィリュークは投槍器付ジャベリンで狙う事に決まった。






一気に終わりまで書こうと思ったのですが、手直しをしていたら”あ、これ無理”と分かりました。

まずはここまで更新です。

次週も更新できそうです。


お読みいただきありがとうございます。

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