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65・傷だらけの帰路

いまさらながら三人称を頑張ってみました。


ヴィリュークの中を巡っていた過剰魔力は、夕方になって漸く収まった。


容態が急変した初期には下帯一丁まで剥かれて、心臓と額を中心に手足はもとより全身に札が貼られていたのだが、小康状態まで収まった現在では、新たに書き起こされた一枚を胸に貼るのみである。


因みに使ってしまった日誌だが、残った余白に無事であることと港街に向かう事を書くので精一杯であった。同じ枚数の帳面でやり取りをしていたので、向こうの紙もないからお互い連絡が取れないと察するだろう。


ともかくそれを機に、夜明け前から活動していた面々は、順番で仮眠を取りはじめる。


しかしエステルの手は、じゅうたんの修繕にひたすらに動き続ける。


手が止まるのは食事の時のみ。日中は水分補給で手が止まるが、日が落ちて気温が下がると汗もかかなくなり、作業に集中していく。


「エステル、少し休憩しないと……」


「大丈夫。徹夜なんてザラだったし、とにかくじゅうたんを飛ばせるようにしてヴィリュークを運ばないと」


「でも飛ばすのは?」


「ナスリーン、あてにしてるわよ。何も無い砂漠なら練習にもってこいよ」


いつもならば操縦をしろと言われたら理由をつけて拒絶していた。しかし非常事態の今、わがままを言ってられない。


”何回も腹をくくりたくないなぁ”と思いながら、ナスリーンは毛布にくるまり、少しでも身体を休めて明日に備えることにした。





翌日、何事もなく朝日が昇った。


いや、サソリが数匹、サミィによって狩られたのが簡易かまどの前に並んでいた。


恐らく侵入してきたところを退治したのだろう。サミィはサミィで仲間の安全の為、働いている。


特に会話もなく質素で味気ない朝食を咀嚼していると、”痛い”と声が聞こえた。


声のする方に振り向くと、ヴィリュークが手を突いて上体を起こしている最中だった。


「大丈夫か?」一番近くにいたダイアンが、身体を起こすのを介助し支えてやる。


「ぅ、あぁ。水、くれ」


「慌てないでね、いっぱいあるから」エステルが飲みやすいようにコップに水を注いで手渡すと、両手でコップを持って飲み干していく。


「少し食べた方がいいよ。おかゆ、食べないかい?」ナスリーンが昨晩から用意し、今朝も温め直してあった麦粥をよそってきた。


「あぁ、もらおうか」


粥の皿を持って近くに寄り添ったナスリーンは、一匙すくうと一言。


「はい、あーん」


反射的に口を開けそうになったヴィリュークだったが、周りに気付いて苦笑いする。


「なにやってるのよ、もう。積極的ね」アレシアがからかいだす。


ヴィリュークは皿を受取ると、ゆっくりと匙を動かし咀嚼していく。


「ふぅ。ごちそうさん」そう言ってあくびを一つ。


「悪い、もう少し寝る……」


返事も聞かずに横になったヴィリュークであったが、快方に向かっているのは確実であった。


ゆっくり寝かしてやろうとそっと離れて食事を再開する面々であったが、先程まで味気なかった燻製肉が噛み締めるたびに旨味を感じていった。




翌朝には仮修繕も終わり、朝食もそこそこに出発する。


ヴィリュークといえば移動中は起きては食べそして寝るを繰り返し、少しづつ起きている時間が長くなったがまだ寝ている時間の方が長く、今もじゅうたんの上で丸まって就寝中である。


そして彼と背中合わせで、一緒にエステルも丸まって寝ている。睡眠時間を削っての修繕だったので、操縦はナスリーン任せなのは致し方ない。


しかも限られたスペースのじゅうたんである。


詰め合うのは当然なのだが、背中合わせでくっ付く二人をナスリーンがチラチラ(うかが)うので進路がななめっていく。時々アレシアの指摘で修正するのだが、今度は修正した方向に行き過ぎていき、それはエステルが起きるまで続いた。




その晩の事。ふとヴィリュークが訊ねる。


「なぁ、今どっち目指してるんだ?」


「え?港街の方だけど?」


その返答にきょろきょろと視線を投げ、小首をかしげるヴィリューク。


「その割には大分ずれてるぞ。谷間の近道を通るにしても、結構王都寄りの進路だ。まだ港街の方が近いけどな」


「え?マーカーを確認しないで現在位置が分かるの?」


ナスリーンの問いかけに”あれ?そう言えば”と、言われてから更に首をかしげるヴィリューク。


ヴィリュークはマーカーを確認すれば大体の位置は(そら)んじられるくらい砂漠には慣れているし、実際いつも通ってきた砂漠の近くまで戻ってきている。


しかし彼はそれをマーカーの確認なしで指摘したのだ。


「地図と…ナスリーン頼む」


ナスリーンは立ち上がると手を打ち鳴らしてから真横に広げ、ぐるりと一回転。


大分戻って来たので、王都と港街のマーカーは容易に見つけられた。


方角を記憶し地図と照らし合わせると……


「あら、ほんと。真っ直ぐ飛ばさなくちゃ駄目じゃない」アレシアがちょくちょく修正させていたとは言え、マーカーの確認なしでは限界があった。


「なんで分かったんだ?」


「うーん?」


原因がわかる筈もなく、その日はそのままお開きとなった。




その後は何の変哲もない砂漠の旅に戻って行った。


日の出とともに出発し、気温が上がる前に休息に入る。気温が下がればまた進み始め、日没後も日中の遅れを取り戻すべく進み続ける。


数日そんな日々を過ごし、港街への近道である谷間まであと少しとなった。


ヴィリュークの体調と言えば停滞気味である。怪我から回復するには現在の食事だと栄養が十分ではないのだ。


にも拘らずヴィリュークはストレスが溜まっていた。怪我で身体をろくに動かせないのに、力があふれている感覚があるのだ。


だが試しに手足に力を入れると痛みが走る。


魔力にしてもそうだ。


飽和状態からさらに詰め込まれていた魔力はエステルのお蔭で無理なく放出され、今は順調に回復しつつあるが回復の割合は芳しくなく、ようやっと五割六割感覚である。


あの魔剣を振っていたことは覚えているが、果たしてあれは自分だったのだろうか。身体の感覚や調子が依然と戻っていないことも相まって、不安に苛まれている。


だがあれもこれも心配しても仕方ないので、まずは街に戻ってから順番にと自分に言い聞かせた。




谷間の入り口の見覚えのある干上がった川(ワジ)の辺りで昼休憩することにした。


ここまで来れば夜には街に到着できる。本調子でないじゅうたんでも大丈夫だろう。


昼飯を食べているとサミィがわざわざ断りを入れていた。


『ちょっと挨拶してくるわ』


そう言ってワジ沿いに駆けていく。


「あまり遅くなるなよ」何の事やら分からなかったが、一応声を掛ける。




だが疑問はすぐに解消した。


昼寝から目が覚めると、サミィが五匹に増えていた。


違った。


サミィとスナネコが四匹、天幕の下をウロウロしているのだ。


荷物の影からこちらを窺うやつ。


度胸試しとばかりに、一番大きなダイアンに上って縦断するやつ。


そして、あたまを蹴飛ばして降りてく。あれで目が覚めないとはダイアンも大分砂漠慣れしたものである。


一番安心なサミィのそばから離れないやつ。


そしてヴィリュークの周りをグルグル周回するちっこいやつ。おまけに時々からだを擦り付けてくる。


「サミィ、状況を説明してくれ」


『私が前にいた群れのみんなよ。新しい群れの事を話したら、様子を見に来たの』


「あぁ、”群れ”ね。間違ってはいない、かな?……サミィ、今朝のあれ、やってしまっていいか?」


『構わないわ』


許可も出たので、サミィが今朝仕留めた獲物を彼らの前に置いてやる。


突然出された獲物に、スナネコたちは興味を示すが警戒して手を付けない。


『なぁぅ』


サミィが一声鳴くと、それぞれ獲物を咥えて走り去り、そこに平ぺったい砂の塊が三つ付いて行った。


「サミィ、あれは?」


『私についてきた砂の精霊。仲間にこれから街に行くって言ったのを聞いていたんだと思う。これからは彼らと過ごすのでしょうね』


「あれ?精霊って四匹いなかったか?」


『背中に乗ってるわ。付いて来るみたい、変わり者ね』


そう言われて目を凝らすが、よくわからない。手を伸ばして背中を撫でると、一か所違和感を感じる。


「ありゃ?摘まめてしまった」


俺の摘まんだ指先には、十五センチくらいに伸びた砂色の葉っぱがぶら下がる。


と思ったら、くるんと巻き付いて手の甲に乗っかる。感触はさらさらとして嫌ではない。


ゆっくりと手を回転させて手のひらを上にすると、回転に合わせて移動し手の甲から手の平に移動する。


ならば!と、ゆっくりと手を垂直にし、指先を真上に持ってくる。


すると砂の精霊頑張る。


指先に留まり、感触も砂がギュッと締まった感じになる。


『大丈夫?』


「なにが?」


『魔力、吸ってるわ』


そんな感触は無かったのだが、言われて集中してみると微々たるものだが確かに吸われている。気を使ってるのだろうか?


「こら、勝手に吸うな」


反対の手で摘まみ直し、空いた手で魔力を込めた指先で突く。


すると、その指先の魔力を吸っていくので、連続して突いて吸わせてやる。


「あんた何やってるの!」


突然声を掛けられて指先が弛むと、その隙に砂の精霊はサミィの背中に逃げていった。


「え?なにって?」


エステルとナスリーンが目を剥いていた。


「なにから突っ込んでいいか……」


「なんで精霊が具現化して、じゃなくて。なんで精霊を摘まめるの、もそうだけど。ええっと、あーもう!魔力量で体調崩してるのに、何で魔力を分け与えてるかな!」


「そんな…ほんの少しじゃないか」


「あんた感覚おかしいんじゃないの?精霊が吸ってた時のは味見かなって分かったけど、どんだけの量を突いてるのよ!倒れても知らないから!」


「悪かった、悪かったから。エステル、そんなに怒るな」


えらい剣幕で怒るので全員起きてしまい、出発が少し早まった。




いつもの速度を出せないとは言え、じゅうたんはリディ並みの速度で谷間を進んでいく。


両脇は切立った崖で、以前ヴィリュークが賊に襲われた街への近道である。


「なぁヴィリューク。なんともおっかない道だなぁ」


ダイアンのセリフは怯えているが、口調は全く怖がっていない。それどころか少し嬉しそうだ。


「そうなんだよ。近道なんだけどこんな地形だろ?盗賊が時々出るんだ」


「えー、討伐されないの?」


「討伐隊が編成されたって話は聞かないね。それより盗賊ってあれだよね?四十人いるとか、岩山に魔法の岩戸があって、合言葉で開けると中には金銀財宝があるってやつだよね」


「あぁ、おとぎ話のあれね。実際はどうだろ……あれ行き止まり?」


そこには見覚えのある棘植物で作られたバリケード。


と言う事は……


「ったく相変わらず速ぇな!砂エルフ!」


盗賊団のお出ましである。




ヴィリュークは身体の痛みを我慢しながらじゅうたんを降りる。


「まだ足を洗ってなかったのか?」


以前追い払った髭面の頭目が、山刀片手に子分どもを引き連れていた。


「たりめぇよ。てめぇのせいで所帯が小さくなっちまったがな。今までの分、色つけて寄越してもらおうか?」


「親分!通行料は半分のはずじゃ!通る奴が居なくなったら商売になりませんぜ」


「るせぇ!こいつには何度も煮え湯を飲まされてるんだよ!おう、なんなら姉ぇちゃん達でもいいぜ!」


じゅうたんの上には体調が万全でない男と、特に武器を携帯していない女が四人。これだけ見れば”カモがネギを背負っている”てなものである。


本来であれば武器を構えて威嚇し、戦力差を誇示してスムーズに金品を差し出させるのだが、ニヤニヤ笑うばかりで武器を抜いてすらいない者もいる。


「ねぇ、僕はまだヒト殺しにはなりたくないんだけど」ナスリーンが置いていた杖を手に立ち上がる。


途端に盗賊どもが後退るが、頭目はすかさず啖呵を切ってくる。


「妙な真似するんじゃねぇぞ!崖の上から弓で狙ってるんだからな。詠唱中に矢がブスリってのは嫌だろう?」


その言葉にナスリーンは反応を示さず、陽射し除けに手を額に当てて左右の崖の上を見上げる。


「なんだ、どれだけ潜ませてるかと思ったら弓持ちは二人か。持ってない二人は何でいるのかな?」


「てめえ、なんで分かる?!」


「親分!バラしちまっちゃあ駄目っす!」




「的が小さいなぁ……”火の矢(ファイアアロー)”」


ナスリーンの杖から二筋の火が飛んでいくと、時間差で複数の男の悲鳴が上がる。


「なっ!詠唱無しだと!?」


予想外の敵戦力に盗賊どもが慌てはじめる。


「あれくらいの魔法なら鍵言語(キーワード)一つで発動できるし。ん~少なくとも弦は焼き切れたね。矢とかは心配しなくていいよ」


その言葉を合図にヴィリュークは収納魔法陣に手を入れ、各々の武器を取り出す。


エステルとアレシアは弓矢で威嚇する。


先日の一件で愛用の斧が使えなくなったダイアンは、傷ついた大盾(カイトシールド)を構えるがヴィリュークに呼び止められる。


魔法陣より取り出されたのは、鞘も柄もきらびやかな装飾を施された大剣。


黙って抜刀して見ると、それはフランベルジュであった。


合言葉(コマンドワード)を唱えると切れ味が増すから。合言葉(コマンドワード)は─────だ」


「うへぇ、かっこよすぎで恥ずかしいわぁ」


ダイアンは鞘を魔法陣に戻し、フランベルジュを構える。


「大剣は久しぶりだから、手足を斬り落としたら許してくれ」


「許せるわけねぇだろ!お前ぇらやっちまえ!」


その命令に先んじて、矢と火の矢が盗賊たちの爪先に突き刺さり、気勢を削がれてしまう。


「今度は爪先じゃなくて足を縫い付けるわよ」


アレシアが可愛らしい声で忠告するが、それに対して黄色い声は上がらず沈黙が返ってくる。


機先を制した隙にダイアンがするりと前進し、頭目に対して大剣を袈裟斬りで振り下ろす。


頭目は一歩も動けない上に、左手を真っ直ぐ上げて微動だにしない。


「こ、こ、この距離で外すたぁどんだけ下手くそ…」


頭目の左胸から右足にかけて服が斬られており、足には一本線で血がにじんでいる。


「あ~最後の引付けが足りなかったか。わりぃな、ちょっと傷つけちまった」


頭目は口をパクパクさせ言葉も出ない……そこへ半分斬られ腰の骨にひっかかっていた下帯がずるりと落ちる。


慌てて右手で下帯を支え、顔を真っ赤にして左手を振り下ろす。


「ちきしょう、てめぇら全員死んじまえ!!」




頭目が何をしたのか分からず、辺りを見渡すが変化はない。


そこに上から小石が落ちてくる。


ヴィリュークはハッと見上げると、今まさに大岩が落下するところだった。


「またかよ!走れ!!」


エステルとアレシアは現状を理解し、落下する大岩から逃げおおせる。


「ナスリーン走れ!」


しかしダイアンの呼びかけにも、ナスリーンは腰を抜かして尻もちをついて動けない。


「くっ、身体強化(ブースト)!」


ダイアンが身体能力を強化して飛び出して行く。この勢いでナスリーンを攫って救い出そうとしても、衝撃ダメージで怪我をしてしまう。


「”身体強化(剛力招来)”!」


ヴィリュークは自身も強化して追従。


ダイアンも分かっていたのであろう。生身では決してできない高い高いジャンプをすると、フランベルジュを大上段に構え合言葉(コマンドワード)を叫ぶ。


「”刃よ煌めけ(シャイニングブレイド)!”」


フランベルジュは、いとも容易く大岩を一刀両断。切り口も滑らかであった。いっそメイスやハンマーなどで弾き飛ばせればよかったのに、切れ味の良さが仇となりナスリーンの危機は去ってはいない。


しかしダイアンの後ろをヴィリュークが追従してジャンプしていた。


傷ついた身体を押して飛びかかったのは岩の片割れ。


頭から突っ込む所を半回転して蹴りつけると、ヴィリュークは足をめり込ませながら岩ごとナスリーンの頭上を通過。


しかし彼の視界の端に映るのは、もう半分の岩がナスリーンに襲い掛かる所だった。




その様を目の当たりにしたヴィリュークは、無意識のうちに身体強化に対してさらに魔力を注ぎ込んでしまった。


瞬間身体が何かを突き抜け、溢れる魔力は鎧の様に留め置かれる。


ヴィリュークは一緒に飛んでいた岩を足場にして、ナスリーンに襲い掛かる岩に飛びかかる。


スピードは先程の身体強化と比べ物にならず、振りかぶった拳をただ目の前の岩に叩きつけると岩は粉々に砕け散り崖に衝突。


拳を振ったヴィリュークは、着地後地面を転がらぬように四肢を踏ん張ってブレーキをかけると、丁度盗賊どもの前で停止した。


そのまま頭目の前へ歩いていくと、胸倉掴んで持ち上げる。


「殺しにかかってくるなら受けて立つぞ」


頭目は返事も出来ず歯を打ち鳴らす。その間ヴィリュークの身体からは、留め置かれなかった魔力がパチパチ音を立てて漏れ続ける。


”ふんっ”と鼻を鳴らしたヴィリュークは頭目をぶん回し、水平に投げ飛ばすと砂煙を立てて十メートルほど先で停止した。


「お帰りはあちらだ。帰れない奴は俺が飛ばしてやる」


ぐるりと睨みつけても盗賊どもが動かない。


「じゃぁ、お前から送ってやろう」


手近の盗賊へ一歩進むと、堰を切った様に悲鳴を上げて逃げ出した。


「そいつも持ってけ!」


命令してやっと気付いたのか、子分どもが頭目を担いで逃げていく。




カーブで盗賊が見えなくなってからヴィリュークは仲間に振り返った。


「なんだよ、それ」


ダイアンはヴィリュークの異様な姿に瞬きも忘れて見つめる。


「”身体魔装(超力招来)”……師匠が見せてくれたけど会得者は数えるほどって……」


苦笑いを浮かべこちらに戻ろうと一歩進もうとした時、ふいっと身体を覆っていた魔力が立ち消え、ヴィリュークは魔力切れのゴーレムの様にくたりと倒れてしまった。


「無茶しすぎ!」

「欠乏症?!」

「えっ、魔力切れか?」

「傷を増やしてどうするの!」


倒れしなに側頭部を地面にぶつけ、血こそ出てはいないが大きく腫れてしまっている。


「揺らすな!」

「じゅうたん持ってきて!」

「運ぶにしてもバリケードが!」

「あんなものっ!」


ナスリーンは杖を掲げて呪文一発、バリケードは一撃で吹っ飛び破片がパチパチと燃えていく。


「ぶっ飛ばすわよ!姿勢を低くして!」


少しでも風の抵抗を少なくするため、”風防”の領域を扁平にして飛ばしていく。


谷間を抜けるとまた砂丘が連なっており、彼女らの目で街を視認するにはもう少し飛ばさねばならない。


「もう少しよ!」


エステルは自分に言い聞かせるように大声で宣言する。





港街の門では、そろそろ目印の明りを灯そうかという頃合い。


「なぁおい、あれ、じゅうたんじゃないか?」


「そうだな。だけど人数多くないか?」


彼らの知っているじゅうたん乗りはヴィリュークだけである。たまに行き倒れを拾って来ても、人影は精々二・三人なのだ。


日も落ちかけているので、門番の二人の目でも細かいところまで見えない。だが此方を目指しているのは確かなので、早めだが目印の明りを灯してやる。


暫く待って現れたのは、じゅうたんに乗った女ばかり四人。いや、近くまで来ると男が一人横たわっているのが分かった。


「急病人よ!」

「救護院はどこ?」

「早く通して!」

「黙ってないでなんか喋りやがれ!」

「なぁーう!」


「「砂エルフが救助されてる!」」


その晩、ちょっとした騒動となった。


次回最終話です。


なかなか評価ポイントは増えませんね(現在966PT)

いいものが書けないとポイントも頂けませんよね。実力不足ですなぁ。


今回もお読みいただきありがとうございます。

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