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62・しぶとい敵・出口見えず

あけましておめでとうございます。

本年も「エルフ、砂に生きる」を宜しくお願い致します。


とにかく装備の補充をする。


くだんの大型スリーパーは、周りのサンドマンの捕食に夢中だ。これがいつ物足りなくなり目標をこちらに定めるか。


全員で逃亡が叶わない今、それまでに迎撃態勢を整えなければならない。


なけなしの水を革袋からあおり、全員に回して息を整える。




俺とダイアンは大して変わらない。


俺は、ばあさまのシャムシール、カイトシールド、腰帯に投槍器を差し、投げナイフをシールドの裏に少し。ジャベリンはエステルに預かって貰い、いざとなったら落としてもらう。


ダイアンは、いつもの斧に大型カイトシールド。他にはないのかと思っていたら、裏側を何やら弄っている。


”バシュッ”


弾ける様な音と共に、盾の下側から出てきたのは直径十センチ、盾から出ているだけでも長さ十センチの美しくも武骨な杭であった。恐らく一部しか出てはいまい。


「鉄?……いや、金属っぽくないし、牙とか角にしては真っ直ぐだな」


「こいつが俺の奥の手だ。昔の戦利品でな、ギルドや鍛冶屋に見せたんだが正体不明でさ、えらく頑丈で溶鉱炉に入れてもびくともしねぇし、ハンマー叩いても何しても壊れねぇ。で、逆に考えた。形も丁度いいから”杭打機”パイルバンカーの杭にしちまえってな」


よく見て納得した。使った杭は再利用できそうだが、再装填は骨だろう。


「一撃必殺だろうが、どうやって当てるかだな」


「核を引き摺り下ろしてやるよ」


「固執して捕まるんじゃないぞ」


「はっ、言ってろ」


スリーパーは屈みこんで人形のような手のない腕を伸ばし、サンドマンをまとめて数匹掴んでは胸元に押し付けている。


「ありゃ俺達じゃ届かないな」


「しゃーない、後衛がやり易い様に気を引くか」






初っ端しょっぱなでかいの行くよ!」


ナスリーンの宣言に突撃を留まると、なにやら詠唱しているのが分かる。


「■■ 風刃ふうじん ■■ ■■ 颶風ぐふう ■■ ■ ■■ 旋風せんぷう!!」


それはつむじ風としては大きく竜巻にしては小さいものだったが、巨大なスリーパーを包み込むには十分な範囲であった。


だがじゅうたん組は”風防”があるから良いものの、地上の俺たちはたまったものではない。


身体を小さくして耐え、目をつむり服の襟で鼻と口を覆い、手でしっかり押さえる。


文句を言おうにも言えない上、肌が剥きだしの所が砂で擦れて痛い。


不意に風が弱まるのが分かったので身を起こし、じゅうたんに向けてがなる。


「砂漠でその呪文禁止!!」


小さなサンドマン達が落下してくるのが見えた。


小さいが故に単純に吹き飛ばされるだけで、散り散りにならずに済んだのだろう。


それよりも、空から暴風の結果に相応しいものが落下してきた。




舞い上がった砂と共にスリーパーの核が音を立てて落下した。


額に手をかざし目を細めて見るに、核は剥きだしの状態で傷らしい傷は見受けられない。


いや、それどころか砂が纏わり付き始めるではないか。


「まだ生きてる!!」


投げナイフ……なんか届く距離でない。


「ジャベリン!よこせ!」


叫び声に驚いたナスリーンが投げ落とそうとするが、取り損なって真下に落としてしまう。


くっ、彼女に悪態をついても仕方ないので必死に駆け寄る。


”ギイィィン”


何の音かと聞こえた方を見ると矢が核に突き立っており、纏わりついていた砂もゆっくりとずり落ちていく。


見上げると、丁度アレシアが引き絞った弓から矢を放つところだった。


”ギイィィン”


核に振り返ると矢が”一本”突き立っている。


え?


何が起こったか理解できないまま注視していると、刺さった矢が数回揺れて下に落ちた。


再生するのか、こいつは。


しかし本調子では無い様で、小物サンドマンが少しでも魔力を横取りしようと群がってくる。


よく見ていると、その小物たちも程々に吸い取って満足して逃げていくものは頭がいい。欲張って核に張り付いてるやつは、吸い取り合いに負けて取り込まれてしまっている。


ダイアンがスリーパーに、俺がジャベリンに辿り着いた頃には、奴の再生がある程度済み、核は武器の届かぬ高さに戻ってしまった。






間に合わなかったダイアンと合流する。一対一とか無謀だからな。


さぁ仕切り直しだ。


上空にはじゅうたんの三人も待機している。


手始めにダイアンの斧が、復活したスリーパーの手の先を斬り落とす。


束縛を逃れられたサンドマン達は、遅いながらも逃げ出していく。


注意がダイアンに向いたので、俺は胸元目掛けてシャムシールで突くが、腹から胸へ突き上げる形となっている。


すると狙い通り今度はこちらに向かってくる。つまりは攪乱させて隙を作らせるのだ。


「はなれて!」


エステルの声を合図に距離を空けると、スリーパーの胸元に”火球”が着弾する。


敵と相対してると呪文の詠唱が聞きにくいので合図は助かる。


煙が晴れると、折角露わになっていた核が砂に隠れる所だった。


そこに弓から二連で射かけられるが、一本は砂で阻まれ、もう一本は端に当たるだけでダメージにならない。


「んもぅ!見えなくって煙が晴れるのを待ってたら間に合わない!」


「あっ!」


アレシアの上げた声にエステルが何かを思いついたようだ。


自分の収納魔法陣に手を突っ込むと、中をまさぐっていく。


「これ!!これつけて!!」


何かを掲げているのだが、下から見上げるとさっぱりわからない。


「ヴィリューク達も!」


”とすっ”


射かけられた矢に縛り付けられていたのは”エルフの眼帯アイパッチ”であった。


「エステル!これっ!?!!」


「あれから何日経ってると思ってるのよ!あんな便利な物作らない訳ないじゃない!!」


見て使っただけで作ってしまうとは……ほんと天才だよ、お前は。




全員で眼帯アイパッチを装備し、リベンジ開始だ。


だが時間は相手にも余裕を与えてしまっていた。


スリーパーは身体を押し潰すように平たくなったと思ったら一気に伸びあがる。


目の前に聳え立ったスリーパーは先程よりも巨大化。それは砂漠の砂を取り込んだとしか考えられない。


否定したい気持ちが溢れ出たが、目の前に現実があるのだから否定しようがない。


俺を含め喚くものが一人もいないというのはいいことだ。どうやらみんな腹をくくったたしい。


まずは砂上の俺たちが接敵しようと駆けだすと、奴が巨大化した理由が判明した。


取り込んだ砂を吹き付け、そして浴びせかけてきたのだ。


奴を中心に扇状に砂が押し寄せる。


だがそんな事はお構いなしに俺たちは突き進める。


先程のナスリーンの呪文と違い、今回は正面から吹き付けられるだけだ。


盾を構え、襟を砂除けの為にたくし上げ、眼帯アイパッチだけを覗かせて前進する。


盾の影の目をつむっても、眼帯アイパッチの補助で視界を確保できるし砂除けにもなる。




じりじりと前進していると、頭上を火球が通過していき弾ける。


すると砂の放出が止まった。まだ空中に砂が滞留してるが、一気に距離を詰めてしまおう。


やることはさっきと同じだが、俺は中距離で待機する。


眼帯アイパッチ投槍器スピアスロウアー投槍ジャベリンの三つが揃えば、狙い過たず貫通させられる。


ダイアンは既にサンドマンの注意を引き、迫りくる砂の手を盾と斧でいなしている。足場の悪い砂地を感じさせない動きだ。


下では俺が、上ではアレシアが、ナスリーンの火球を待っている。


エステルはじゅうたんを横滑りさせながら、ナスリーンが呪文を放ちやすい角度を窺っている。


とうとうダイアンの攻撃に苛立ちを隠せなくなったスリーパーは、砂の腕を高々と振り上げた。


待ってましたとばかりに、火球ががら空きの胸元に着弾。


眼帯アイパッチ越しに奴の核を探すが、まだ感知でき───”ギイィィン”音と共に視界には弾けた魔力が煌めく。


アレシアの矢だろう。エルフに引けを取らぬ腕だ。お蔭で核の位置がハッキリ分かったみえた


後はいつも通り。なんてことはないし、外すなんてありえない。


大きさは三十センチはあるだろうか。だがあれが三センチだとしても今なら貫ける。


全身を使って放ったジャベリンは、晴れ切っていない煙を切り裂く。


”キイィィン”


当たった勢いで空気が風巻き、煙が一気に晴れる。


結果は明らかだ。


矢はやじりまでしか刺さっていないが、ジャベリンはなんと石突きが少し見える位まで深く貫いていた


核はずずるずると砂から滑り落ちていく。




滑り落ちていく……


滑り…


止まった。


状況を察したダイアンが斧を振り被って駆け寄り、勢いをつけて叩きつけた。


ひびが入る──が、再度振り被った時には殆ど消えてしまっている。


刺さっていたはずの矢は、もう落ちている。


それどころか、ジャベリンの石突きが少しづつ出始めるではないか。


「くそっ」


この期を逃してはならない。


ダイアンは盾を、杭打機おくのてを構え、杭の先端を石突きに叩きつけた。


”ゴゥン”


鈍い発射音が響く。


杭打機パイルバンカーの直撃を受け、ジャベリンは貫通して突き抜け、スリーパーの核は吹っ飛ぶと共にいびつに二つに割れた。


すると脅威から逃げていたサンドマン共が、エサ目がけて寄ってくる。




「まずっ」


ダイアンは慌てて割れた核に近寄り、斧を砂に突き立てて片手を空ける。もう片方の腕に固定されている盾を外すのも時間が無い。


両腕の小脇に割れた核を抱えてサンドマン共から逃げ出す。その際、腕と背中に何匹か取り付かれてしまうが、ダイアンはお構いなしに走りにくい砂地で必死に足を動かす。


標的はダイアンの抱えた核だ。


あれを再び喰われると、もう一度やり直しになってしまう。


ブーメランがあれば低空を這わせ多少なりとも薙ぎ払えたのだが、今回は盾のバインダーには挟んでいない。


とにかく唯一の武器のシャムシールで援護をする。




「今行く!」


じゅうたんとダイアンがお互いに走り寄る。


「エステル、水で洗い流せ!」


水使いでなく唯の水術師のエステルには荷が重いが、今はやらねばならない。


”ぼこん、ぼこん”水球が二つ生まれる。


辿り着いたダイアンの両肩を水球で洗い流す。


しかし更に現れた水球は明らかに先程より小さい。


「ぃぁ゛あ゛あ゛あ゛」


絶叫と共に十二分な渦巻く水球を生み出す。


そしてそれをぶつけるのではなく、ダイアンの身体に押し当てて確実にサンドマンを除去。


「へはっ、さっぱり、したぜ……」


「早く乗って!上昇するわ!」


じゅうたんに倒れ込むのを確認すると、エステルはサンドマンが届かぬ高度まで上昇する。






じゅうたんが上空に退避したのを見て、サンドマンから一旦距離を空ける。


ひとまず危機は脱したようだ。


見渡しても共食いを始める個体は出ていない。


だが興奮は続いているようで、お互いを牽制・威嚇を繰り返しているようだ。


このまま終息してどこか散って行って欲しい。


幸いなことに俺とも距離を空けてくれているし、正直もう水を輪にして周囲に巡らせる余裕もない。


そう考えたらのどの渇きを覚えてしまう。革袋の中身はないので、なけなしの力を振るって水を作って袋に入れる。


そこから一口、水を含む。


あぁ、空が白み始めた。これからの方針を決めないといけないが、どうしたものか。




☆★☆★




ぜいぜい……


何とか敵を倒せた。核も回収したし、これでサンドマンが厄介な事にならずに済む。


だが事態は変わっちゃいない。


じゅうたんも定員オーバーだし、サンドマンの群れからの脱出だって厳しい。


そもそもヴィリュークを残して行くだなんてあり得ない。


出発の時はいけ好かない奴だと思ったが、砂漠の旅で頼りになる奴だと分かったし、それにサミィのご主人様だしな。


エステルのじゅうたんの上ではみんなが小さくなって座っている。


アレシアは弓を片手に立ち上がり、下を警戒している。足元ではサミィも一緒だ。


ナスリーンは、なんとエステルからじゅうたんの操縦を任されておっかなびっくりだ。


エステルは──ひどい状態だ。”狭い狭い”と呟きながらヴィリュークのじゅうたんを直している。


小さく畳んでの作業なので、素人目にもやり難いのが分かる。


俺は革袋から水をあおって一息つく。


でかい核だったなぁと、ひょいと横を見やる。


「なぁぁぁ!」


二つに割れた核が動いて、合わさろうとガチガチ音を鳴らしてやがる!


なんて生命力?だ。とんでもねぇ。


ギリギリ割れ目に両手を突っ込められ、元に割るべく腕に力を籠める。


アレシアが手を突っ込み協力してくれるが、狭いじゅうたんの上ではうまくいかない。


傍ではナスリーンやエステルが介入できずにいる。


しかし核は最後の力を振り絞っていたが、じわじわと元の二つに割れていく。


そこにサミィがパンチを連続して叩き込むと、核の色が一瞬褪せる。


そして力の均衡が破れた。


一気にがばっと二つに割れた。


───割れて勢いが余り、割れた小さい方が……落下していった。




★☆★☆




突然じゅうたんの上が騒然とし、じゅうたんが迷走していく。


少し経つと全員の悲鳴が聞こえ───


何かがサンドマン共の上に落下していくのが見えた。




年末年始で丸二日書けなかったのですが、何とかいつもの分量に。

少しホッとしています。


戦闘回は次回で終わりのはず。

完結までに総合評価を1000pt獲得したいですね。頑張ります。(現在913pt)


評価ボタン、ブクマ、お待ちしております。


今回もお読みいただきありがとうございます。


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