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60・帰路、出発ならず

ひざまづき】が変換できなくて、読み方間違って覚えていたかと真剣に悩みました。

手書き入力で何とか変換。IMEおバカすぎ(ノД`)・゜・。


2021/01/06

感想欄からの指摘で「ひざまずき」にて修正。恥かし(*ノωノ)


ムアーダルと別れた後、中央広場まで戻って来た。


ヒトで賑わっていたこの旧王都も、今となっては誰もいない。


あんなことがあって何をいまさら、と思うだろうが、これだけの規模の廃墟を歩いていると物悲しくもなる。


「あのおっさん、寂しくないのかね」


「あの手の人種ってのは、逆に思索を邪魔されるのを嫌うのよ」


「そうそう、しかも食事の必要もない。定期的に魔脈の上にいれば飢えることも無いんだから、願ったり叶ったりじゃないかな」


「だよね。私も調子がいい時にお腹がすくと、恨めしく思ったものよ」


ナスリーンにエステル、お前たちの発言はちょっとおかしい。そのうち腹がすくのが面倒くさいとか言うんじゃなかろうな。




「なぁ、調査も終わりなんだろう?ここらからじゅうたんでいいんじゃないか?」


「うーん、こんなになっちゃっても、この街並みが好きなんだよね。ゆっくり飛ばしてくれるかい?」


ナスリーンのただのこだわりだった様だ。お許しが出たので巻いてあるじゅうたんをごろりと広げ、準備を始める。


その間でもナスリーンは、ダイアンを引き連れて周囲の街並みを眺めてる。


サミィは早速じゅうたんの先頭にお座りで待機だ。


「さぁ、いこう。乗ってくれ」


準備が終わって皆に声をかけた時、それは現れた。




曲がり角から現れたのは、またしても蜘蛛。しかも三匹。


大きさで距離感が狂ってしまう。


あぁ、よくみたらこの間の奴と同じくらい。一軒家くらいの大きさ……それでもとんでもない。いつからここは魔都と化した!?


まだこちらを見ていない。


俺が身じろぎもせず固まっているので、その視線の先を見た者は同様に固まってしまっている。


一刻も早く……


「逃げるぞ」小声だったはずなのに、響いて聞こえた気がして身動(みじろ)ぎしてしまった。


そろり、そろり。


俺とエステルにアレシアがまず乗り込み、片膝をついて待ち構える。


街並みを眺めていたナスリーンとダイアンであったが、大分近くまで戻ってきている。


彼方では、蜘蛛たちが小刻みに方向転換しながらじわじわと距離を詰めてくる。まだ気付いてないようだ。


摺り足で二人が戻ってくるが、この状況でお約束は止めてほしいのに期待を裏切らないのがナスリーンだった。


「きゃっ」


ガラビアの裾を踏みつけて、地面に五体投地してしまう。


一瞬三匹は静止したのち、即こちらを発見したらしく猛然と接近してくる。




ナスリーンは慌てて立ち上がろうとするが、また裾を踏んずけてしまいうまく立ち上がれない。落ち着いて裾を捌け!


じゃなくて!気付かれたからには自重は無用だ。じゅうたんを寄せて拾ってしまおう。


しかし……


制止する間もなく、ダイアンがナスリーンの襟と腰帯を掴んで放り投げる。


近寄ろうとしていた軌道を修正し、受け止めるべく落下地点へ慌てて移動させる。


ナスリーンが軽いのかダイアンが馬鹿力なのか、放物線を描いて飛んでくる。


アレシアとエステルは立膝のまま俺から離れている。……俺が受け止めるのね、はい。


仰向けに飛んでくるのであればお姫様抱っこで受けとめるのに、突っ伏した状態で投げやがったから面と向かって受け止めねばならない。


迫って来る蜘蛛を視界の端に捕えながら、体勢を整える。


ナスリーンは俺に抱き付くべく、腕を大きく広げながら落下してきた。


なぜそこまで顔や耳を真っ赤にして慌てた顔をする?


ナスリーンは腕を俺の首に回し、俺は背中と腰に手を回し抱き留めるが、抱き締めたままぐるりと一回転して勢いを殺す。


そして振り飛ばされない様に、ナスリーンは俺の頭を掻き抱く。


それは彼女の胸元に俺の顔が押し付けられるわけで。


思わず息を深く吸ってしまうと、彼女の体臭をほのかに感じる。


………


嫌な香りでない。


っ惚けてる場合じゃない。


むぐぐぐ(ナスリーン離せ)


声が出ない、と焦っていたらじゅうたんに新たな重量がかかる。


「ヴィリューク、出せ!」


やはりダイアンだった。




何とか片目だけ視界がひらけたので言われるがままに発進させるが、正常な視界ではないので速度も遅く蛇行してしまう。


『ナスリーン、サカる場所は考えなさい』


なんとサミィからツッコミが入った。


硬直して反射的に胸に押し付けられが、すぐに解放される。


「ちょっ、ちが、サカってなんかっ」


「スピード上げろ!!」


ダイアンの声が上がり、ナスリーンの反論は無視して速度を上げたが少し遅かった。


蜘蛛たちがじゅうたん目掛けて飛びかかってきたのだ。




緩やかな放物線などではない。


獲物を屠るための、力を込めた真っ直ぐな跳躍である。


不幸中の幸いは、奴ら同士の大きさが邪魔となって、攻撃は一匹づつに限定されることだった。


されど一匹。


じゅうたんへ覆い被さる様に飛びかかる蜘蛛の牙を、ダイアンは落ち着いて大盾で受け止める。


抱え込むように左右から前脚が接近するが、じゅうたんの速度のお蔭で逃れることができた。


だが幸運はそこまで。


大盾に突き立てられなかった牙は、そのまま盾の表面を傷つけながら滑り落ちる。


そして滑り落ちた牙はじゅうたんの端を千々に切り裂いた。


じゅうたんを切り裂いた蜘蛛は、その頭を無防備にダイアンへさらけ出す。


「こなくそ!!」


好機ではあるがじゅうたんを傷つけさせてしまったダイアンは、仇とばかりに蜘蛛の頭めがけ斧を振り下ろし致命傷を与える。


じゅうたんは一瞬加速するも、目に見えて速度を落としていく。


「くっ、どこだ?どこをやられた?」


調べてる余裕はない。まだ二匹残っている。


「エステル!じゅうたん任せた!」


「任された!」


操縦を代わったエステルは被害状況を確認していく。


収納魔法陣はまだ生きている。


手に触れたジャベリンやら飛び道具を引き出し、いつでも投擲できるように構えながら周囲を見渡すと、ダイアンが俺達の攻撃の邪魔にならぬように盾を構えて待機していた。


杖を掲げナスリーンが呪文を唱え始めるが、発動にはもう少しかかるようだ。


速度が落ちた我々を見逃す蜘蛛(やつら)ではない。


二匹目が駆け寄ってくる所を、アレシアが弓矢の連射で牽制する。


複眼の周囲に矢が刺さるが大して効いてないのか、お構いなしにその巨体で飛びかかってくる。


しかしそれは悪手。


次の矢を番え、待ち構えていたアレシアがその機会を逃す筈もない。


複眼の一つに矢が刺さり、蜘蛛は宙でバランスを崩して不格好に着地。


こうなると俺の必勝パターンだ。


構え、引き絞り、身体を捻転、手首を利かせて投擲。


結果は当然。


ジャベリンが目と目の間に刺さった蜘蛛は、足を痙攣させて横たわる。


最後の一匹!




応急処置が済んだのか、速度が徐々に上がりはじめた。


しかし諦めの悪いこの蜘蛛は、始末した二匹と違いジャンプの仕方がいやらしい。


狙いを定めさせない為か、左右のショートジャンプで攪乱してくる。


アレシアの矢も俺の投げナイフも、当たっても弾かれたり、刺さっても浅かったりで効果が無い。


だが時間は稼げた。


ナスリーンの杖の先に、火球が渦巻きはじめる。


それを見てアレシアに視線を向けると、向こうもこっちを見ていた。


軽く頷くのでこちらも頷き返し、俺から投擲を始める。


左右の手それぞれ二本づつ、計四本のナイフを連続投擲して蜘蛛が左側に跳べない様に弾幕を張る。


アレシアは少しタイミングをずらして、右側に跳べない様に立て続けに矢を放つ。


ナスリーンが呪文の仕上げに入った。


「■ 火の矢 ■■ 火球」


これは……呪文を上乗せしていっている?


「■ ■■ 炎!」


(ごう)


火炎が放射される音が轟き、炎が蜘蛛へ浴びせられていく。


生きたまま焼かれていく蜘蛛はたまったものではない。必死になって火を消そうと、周囲を転げ回る。


容赦なく呪文は続く。


「■■■ 竜巻!!」


杖からの炎は途切れたが、包まれた炎は消えない。それどころか炎の竜巻となって蜘蛛を焼き尽くしていく。


蜘蛛は真っ黒に焦げ上がり、微動だにしない。


「「「「………」」」」


「スムーズに繋がっていくから行けるとこまで行ったけど、やりすぎちゃったね」


……ムアーダルの講義を早速応用かよ。


火炎嵐(ファイアストーム)を使えなかったのに、それに近い威力を出せるとは。ちょっと真面目に練習してみようかな」


「……練習は安全な所でやってよね」


アレシアが炎で火照った頬に手を当て、熱を冷ましながらぼやいた。






じゅうたんを着陸させると、その場でエステルはじゅうたんに(ひざまず)き、切り裂かれた部分の魔法陣の連結を閉じている。


可能な所はバイパスを繋いで迂回をさせる。


エステルがいてくれて助かった。場所によっては仮設魔法陣を設置して、時間を稼いでいる間に処置を施しているのだ。


流石本職。真似事レベルの俺ではお手上げだっただろう。


とうとう作業を目で追えなくなってしまった。手伝おうにも邪魔にしかならない。、


「ちっ…ちっ……ちっ……」


エステルの舌打ちが続く。状況は芳しくないようだ。


他の三人が蜘蛛たちの後始末を終えて戻ってきたのだが、エステルの必死な形相に固唾をのんでいる。


あぁ、俺のジャベリンも回収してきてくれている。ありがたい。


「あぁっ、くそっ!!」


珍しいエステルの罵り声とほぼ同時に、じゅうたんから魔力が噴出した。


多少の漏れどころではない。魔力貯蔵庫がやられたか!?こちらは魔力濃度にクラクラ来ているというのに、エステルの手は止まらない。


「んぐっ、り゛やぁぁぁ!」掛け声一発、噴出が止まってくれた。


忙しなく動いていた手が止まったのは、周囲の魔力が薄まり、魔力酔いが治まった頃だった。




「ふぅ」


一区切りがついたのだろう。


じゅうたんの上に仰向けにひっくり返って深呼吸を繰り返す。


「助かった。それで飛べそうか?いや、直りそうか?」


労をねぎらい、コップで水を手渡す。


「んっんっんっ……直るかどうか、ってことなら直せるわ」


コップを突き出してくるので、水を注いでやると今度はゆっくり飲み始める。


「飛ばせられるか、ってことなら現状は無理」


悲壮感もなければ慌てた様子もないので、全員が続きの言葉を待つ。


「なるべく簡単に説明するね。八つある内の一つの魔力貯蔵庫が今ので空になったわ。なんていったらいいかしら……飛行系魔法陣への魔力供給ラインが断たれたの。弁みたいなのがあってね、それが壊れちゃったから貯蔵庫を閉鎖したんだけど、一個間に合わなかったわ」


「じゃぁ歩いて帰らなくちゃいけないのかよ!めんどくせぇ!……歩けるけどさ」


「エステルのじゅうたんがあるわ。全員乗れなくても荷物は載せられるでしょ?歩くにしても負担は減るわ」


「水の心配がないのが救いだねぇ。食料はギリギリなんとかなるかな?」


「揃いも揃って前向きだな。まだ続きがあるみたいだぞ」


不敵な笑みを浮かべてエステルが言葉を続ける。


「舐めて貰っちゃ困るわ。確かに完全に直すには工房でやらなくちゃいけないし時間がかかるけど、街まで飛ばすくらいまでなら何とかするわ。まぁ工房設備は収納魔法陣にあるけど、こんなところで店を開く訳にもいかないしね」


いやはや頼もしい。エステルが居なかったらどうなってたことやら。


「それで仮修繕にどれくらいかかる?」


「うーん、仮とは言え万全を期したいから。砂漠のど真ん中でトラブルはいやでしょ?夕方くらいかしら?」


「じゃ出発は明日に延期しよう」




取り敢えず俺たちは門まで進み、天幕を設置した。


収納魔法陣から夜営に必要な物は全て引っ張り出し、エステルの作業の邪魔にならないようにする。


手伝いたくても俺達では足手まといにしかならない。


明日まで何をして暇をつぶそう。




……じゅうたん、やられちまったな。


こんな時でも腹は減るし。今のうちに仕込んでおかないと。皆も腹を空かす。


じゅうたんに被害が出たのは初めてだ。


よし、あとは時間を見て鍋に火にかければいい。


ばあさまに申し訳ない……


暇だし投槍器作りの続きでもするかな……あ、魔法陣にしまったままだ。


はぁ……端っこで済んで良かったんだ。防いでくれなかったら真ん中からやられていただろう。


あ、ナッツ。こんな所にあったんだ。丁度いい、ツマミにして酒でも飲むか。




「なぁ、ヴィリューク(あれ)、相当落ち込んでないか?」


「落ち込んでるわね」


「俺がしっかり防げなかったからだ……」


「あなたはしっかりやったわ。彼だってそれを分かってるし、責めて来たりしないでしょ?あれが精一杯だったの」


「……なんとかしてやれないのか?」


「何ともならないわ。いえ、エステルがしてるわ」


視線を向けると、周囲を裁縫箱に囲まれたエステルがせっせと手を動かしている。


「仮でもじゅうたんが直れば少しはマシになるわよ。そっとしておきなさい。警戒はこっちでやっときましょ」




師匠のじゅうたんの修繕に、不謹慎にも興奮している自分がいる。


自分のじゅうたんに組み込んでいない魔法陣や、数回試しただけの織り方が目の前にあるのだ。


お手本としてこれ以上のものは無いだろう。


凶器的な分厚い三冊のマニュアルも並行して読んでいく。


時間を掛ければマニュアルは不要だけど、今は悠長なことは言ってらんない。


これ以上(ほつ)れないように処置を進めて、仮設だった魔法陣消して別の布に描いた魔法陣をじゅうたんへ仮縫いしていく。


じゅうたんの魔法陣設計なんかで使う手法だ。


紙上だと分かりにくいけど、実際魔力を流すとミスが解り易いのだ。勿論起動はさせない。


しかし今回は起動どころか、きっちり稼働させなくてはならないからしっかりやらないと。


村にいた頃は精々村を一周程度だったからよかったけど、今回は間に合わせとはいえ街まで働いてくれなくては困るからね。


王都までとなるとギリギリだ。港町行きも提案しよう。みんなきっと分かってくれるわ。


あとは魔力はどうするか。


マナ変換器は無事だけど、貯蔵庫は魔力弁と切替機構を再構築しない限り飛行系魔法陣に繋げない。残りの貯蔵庫に魔力があっても、蓋が開かなければ使えやしない。


なんて言ってみたが、実はあてがあったりする。


馬鹿みたいな魔力量を備えた貯蔵庫(ヴィリューク)がいるしね。


直結して巡航速度を守らせれば大丈夫だろう。ただ魔力管理はしっかりして、急性魔力欠乏症にはならないようにしないと。


となると……わ、わたしも同乗して管理しないと!


この状態で安全も考慮するならば、何人かは私のじゅうたんに乗って貰おう。


いや、三人とも乗せて二人っきりで……そうだ、サミィも向こうに押し付け、こほん、移って貰おう。


追尾モードにしておけば、彼らが操縦する必要はないし。


ふふ、二人っきり♪

ムアーダルやりすぎ(汗

ちょっとした追いかけっこを見たかっただけなのに。

一方、サミィと砂の精霊たちは、美味しく魔力を貯め込んでいたり。


評価、お待ちしております。

今回もお読みいただきありがとうございます。


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