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57・すな の あくま

半人半馬ケンタウロス半人半魚マーメイド半人半蜘蛛アラクネー辺りはヒトに対して優位に立てる種族特性を持ってますが、彼の優位特性って……ありますかね?

アンドロスコーピオン


遭遇頻度は稀である。いやほとんど無いと言ってもいい。


過去の遭遇例も砂漠の遺跡で数例あるかないかだし、この旧王都は遺跡と言うにはまだ新しい部類だ。


本来であればこんな場所に現れる相手ではない。




「ま、魔法陣から離れれば攻撃しない、じゃなくて離れないと攻撃するぞ!」


ゆっくりと魔法陣から離れる様に後退する。


「あまり荒事を経験したことがない感じだな」


「そうね、一般人がへっぴり腰で武器を構えてるって感じ」


そうアレシアと囁き合う。エステルはナスリーンをじゅうたんに乗せ、ダイアンはじゅうたんを盾を構えてかばってる。


それぞれ同じ方向に、しかし固まらない様に後退する。まとまった所に魔法を一発喰らうのは避けたい。


「よーし、じゃあそのままここから退出願おうか」


俺達が魔法陣から離れて余裕が出来たのか、その分こちらに歩いてくる。


「あなたいったい何者なの?何が目的!?」


皆の心を代弁するようにナスリーンが問いかける。しかし、あまり興奮させてくれるなよ。


「一々答えられるか。悪い様にはしないから大人しくここから出ていってもらおう」


「出ていけって言われて”はい分かりました”って言うわけないでしょ!子供のお使いじゃないんだから!」


「うるさい!後からのこのこ来やがって邪魔なんだよ!」


『妙な気配が途切れないと思ったら、あなただったのね』


言い争いに割って入る落ち着いた声。認識していなかった侵入者の声に振り返るアンドロスコーピオン。……長いな、サソリ男でいいか。


「もう一人いたのか!お前もでていひゅぅぅ!!?!」


奇声を上げて後退るサソリ男。後退る方向は俺たちの方向だが。




隠し扉を塞ぐように(ネコサイズでは全く塞げていないが)佇むサミィ。いつもの様に立てた尻尾を揺らしているのだが、既に二本目の尻尾を出している姿は心なしか不機嫌にみえる。


「ね、ねねねねねこ!?ああああ、あっちいけ!しっしっ!」


『ふーん、じゃ行こうかしら』


(きびす)を返して隠し扉の向こうへ行こうとする。


「あああああ!そっちは駄目だっ!こっちの扉から出てけ!」


『注文が多いわ、あなた』


サミィは大回りせずに真っ直ぐサソリ男へ歩いていく。真横を通るつもりなのだろうか。





★☆★☆






出ていくように威嚇した声が少し裏返ってしまったが、ゆっくりと後退していく侵入者に気持ちが少し落ち着いていく。


じゅうたんの上から誰何(すいか)の声が上がるが、答えてやる義理もない。


離れた分だけ距離を詰める。最終的には扉の向こうに追いやり、魔法で全力で施錠してしまえば実力的にも解錠は出来まい。


今まではばれないように、開けたら閉める、同じ魔力量で開けたら閉めるを繰り返してきたのだ。もうそれも必要でなくなる。あとは”あれ”をこちらで厳重管理だ。




『妙な気配が途切れないと思ったら、あなただったのね』


不意に後ろから声がした。いや、頭に響いたそれはそう錯覚させられたのだ。


振り返ると”砂の悪魔”(スナネコ)が隠し扉の前に立ち塞がっていた。


瞬間動悸が激しくなる。


音もなく退路を塞いでくるとは、何と言う狡猾な悪魔!小さな身体にふさわしくない溢れ出す魔力は、悪魔の証拠に他ならない。


ネコで悪魔だなんて、恐怖で思わず後退る。





恐怖で目が逸らせないのか、目が逸らせられないから恐怖なのかよくわからない。


魔力灯の光に反応した眼は爛々と輝き、私の動きを封じてくる。


その大きな耳は、死角にいる眷属の動く音を聞き洩らさぬよう常に角度を変えて探っている。


うっ、口元から牙を覗かせ威嚇してきたが、あれは囮だ。一瞬出した鋭い爪が本命に決まってる。


いくら硬い甲殻でも、あの爪で関節を狙われたら一振りで引きちぎられてしまう。


一番厄介で恐ろしいのは揺らめく尻尾だ。しかも二本もあると言う事は、この悪魔(スナネコ)の位階が高いことが窺い知れる


しなやかに揺らめく尻尾は強制的に隙を作らされる。気付くと揺れる尻尾を視線で追っているのだ。




ワンドの先を悪魔に向けたまま身動き一つとれない。


額から汗が流れ、あごを伝って落ちる。二本の尻尾から視線が外せない。


その時、額の汗が目に入ってしまい、反射的に目をつむってしまった。


”しまった!”


すぐさま目を見開くと、恐怖の権化は真横まで来ていた。正面を向いていたはずの顔は、いつの間にか真横を向いている。


目をつむった瞬間に移動したのではない。尻尾に目を捕らわれている間に、ゆっくりと歩いて来たのだ。


恐怖で身体が震え、歯がカチカチと鳴り出す。逃げ出したいのに脚が動かない。


何もせず通り過ぎてくれ、あいつらとここを出ていってくれ。


それは虫の良い願いだった。


こともあろうに、悪魔は私のサソリの背中へ足取り軽やかに飛び乗ってきた。




「ぎゃああああああぁぁぁ!!!」


絶叫と共に毒針付きの尻尾を突き立てる。


しかし前脚の一振りで流されたどころか、さらに二本の尻尾の連撃を喰らってしまう。


もう駄目だ、悪魔に触れられた。


生気を吸われ、魔力もしゃぶり尽くされるんだ……


そう思ったら血の気が引いていき、意識が遠くなっていくのが分かった。






★☆★☆






サミィが姿を現すと突然サソリ男の動きが止まった。


「あああああ!そっちは駄目だっ!こっちの扉から出てけ!」


『注文が多いわ、あなた』


サミィは面倒くさそうに返事をすると、散歩のような足取りで尻尾を揺らしながらサソリ男の真横を通り抜けようとする。


刺激してはならぬと固唾をのんで見守る俺達。


サソリ男は彼女の移動に合わせて視線とワンドを動かしていく。


真横まで来た時、突然サソリ男はビクリと反応し、ガタガタ震えはじめたではないか。


スナネコ一匹に何を怯える?


それを知ってか知らずか、奴のサソリの背中に飛び乗るサミィ。


決着はあっと言う間だった。


絶叫と共にサソリの毒針が突き立てられたが、スナネコの前脚と尻尾で打ち払われる。


打ち払うだけの力は込められていただろうが、ダメージどころか傷一つ入っていない。


それだけなのにサソリ男は、ワンドを取り落としてひっくり返ってしまった。


一連の流れは見ていたが、何が何だか訳が分からん。




「サミィ、何をした?」


『別に。じゃれてきたから相手してやっただけよ』


ダイアンと俺が盾を構えて接近する。


他の皆は魔法陣の外周で待機させる。


近寄ってみるとサソリ男は気絶していた。サソリの脚がピクピクと痙攣しているが、命に別状はないようだ。


「どうしよう、こいつ」


「凶悪な相手だったら退治一択なんだが……」


「だよなぁ、妙にヒト臭いヤツだし。殺しちまったら目覚めが悪そうだ」


「じゃぁ話を聞くだけ聞いてみるか」落ちていたワンドを拾うと、腰帯に差しておく。


取り敢えずダイアンと二人掛かりで、魔法陣の外へ引っ張り出すことにした。




目が覚める前に拘束してしまおう。


何は置いても一番は物騒な毒針だ。革袋を二重にして被せてしまう。


手は後ろ手に縛りあげるが、脚は拘束のしようがない。なので動きにくい状況を作っていく。


丁度ひとまとめできるくらいの長髪なので、五センチくらいの幅を布の切れ端でまとめ上げる。(女性陣にリボンの提供を求めたのだが、全員に拒否されてしまった。)


そして、まとめた髪と縛り上げた手を別のロープで結ぶ。この時長さを短めに、大体ロープで引っ張られて顎を突き出すくらいの短さがいいのだが、やりすぎないようにしておく。


こうすることによって静かにしている分にはよいが、走るのはもとより歩くのも苦労することになる。


試しに手を後ろに組んで、顎を上に付きだしてみてほしい。前を見るのも大変だし歩くのにも苦労するだろう。


顎を引くと手が上に上がるので痛みを伴うし、手を下げれば髪が引っ張られて痛い。


なので面白半分でやらないように……そんな状況にそうそう陥るとは思えないが。




「ん…んん」


「あ、気付いたみたいね」


まだ意識が朦朧としているようだ。


「ん、んぐぐ、ぐひっ。なんだ?お前ら、これを解け、解かぬか!」


そう言われて解く訳がなかろうに。


「立場はこっちが上だよ。幾つか質問に答えてくれれば悪いようにしないから」


「ふん、ハーフエルフ風情が偉そうな口を叩くな」


「縛られて転がされているのに随分と強気だな」


ダイアンがサミィを抱いてサソリ男の視線の前に立つ。


「ネネネネコー、そそその悪魔を近づけるな!!」


ままならない身体で、少しでも遠ざかろうと必死に這いずって逃げようとする。


その様子にダイアンは悪い笑顔で近寄る。


「なんだぁ?サミィが怖いのか?ひどい奴だな、こんなに可愛いのに」


片腕で抱き抱えると、もう片方の手でサミィの前脚を取り、招く様に前脚を動かす。


「忌まわしいネコと言うだけでなく、言葉をしゃべって尻尾が二本生えてるんだぞ。お前は悪魔をどうして事も無げに抱き上げられる?」


「あー、ん……尻尾は一本だけど?しかし悪魔とはひどい言い草だな。ほれほれ」


ダイアンは抱き上げているサミィをサソリ男に近づける。


「ひ、ひ、ひぃぃぃぃ。や、やめ、やめろぉぉ、ぅぐぎぎぎぎ」


触れるか触れないかと言う所まで近づけるとパニックを起こし始めてしまい、縛られているのも構わず暴れ出してしまう。


「ダイアン、サミィ連れて離れろ!」


このままだと首だけでなく、肩や腕を痛めてしまう。いや、それ以上になっては不味い。


「落ち着け!おい、あんた!ネコは遠くにやったから!大丈夫だから落ち着け!」


声を掛けても落ち着く様子が無い。ナイフを取り出すと、のけぞらせているロープを切断する。




呼吸がましになったおかげか、しばらくそっとしておいたら大人しくなってくれた。


こちらと言えば、どうしたものかと黙りこくってしまう。


エステルはじゅうたんに乗って魔法陣に夢中になってる。相変わらずだな。


切っ掛けは向こうからやって来た。


「ちくしょう、ネコは駄目なんだよぅ」


静かな玄室だが小さな呟きがはっきり聞こえた。


「折角静かに研究できていたのに……順調だったのに……」


「ねぇ、何の研究をしていたの?」これは糸口か?とナスリーンが水を向ける。


「うるさい!ただ見てるだけの奴らが口出しするな!私の邪魔をするな!」


ばっさりと拒絶されてしまい、取り付く島もないとはこの事か。


気付いたらエステルがいない……と思ったらじゅうたんで天井近くまで昇っていた。魔法陣の全体を眺めてるようだ。


「ねぇ」


何事か見上げるが、その次を話さない。


「ねぇってば!」


うるさいな。思わず眉をしかめてしまう。


「返事しなさい!サソリ男!」


「うるさいこのクソエルフ!お前のせいでこうなったんだ!」


罵声で返されたが、そんなことはお構いなしにエステルは話を続ける。


「この魔法陣って送還の魔法陣でしょ?面白い工程を踏んでるわね!」


「お、ぉぅ……」


「精霊の送還儀式工程をしっかり認識できているのも驚きだけど、工程を略さず細分化して魔法陣に起こすだなんて大変だったでしょう。生半可な腕じゃできないわ」


「ま、まぁな……」


現実界(こちら)側のモノを精霊界(あちら)側のモノへ変換する魔法陣なんて作ろうと思っても作れないわよ!それに、変換しつつ向こう側に送り還してるんでしょ?これって……」


「そのままにしておいても何れ消えてしまうが、それでは駄目なんだ。向こうのモノがこちらに来てしまったんだぞ。ならばちゃんと送り還しててやらないと、世界は衰退の一途だ」


「ふーん……見事な魔法陣だけど、もう少し最適化できるわy」


「なんだと!どこだ?!ええい、この縄を解け!邪魔だ!」


俺達の静止も間に合わず、降りてきたエステルはさっさとロープを切り、サソリ男をじゅうたんに乗せて説明を始める。


おいおい、そんな簡単にそいつをじゅうたんに乗せるな。呆れて他の皆の元へ戻る。


「どうなってるの、あれ?」


「つまりは似た者同士ってことだ。うちのばぁさま然りギルド長然り、ある意味バカばっかりだな」


「こういうのを類は友を呼ぶっていうんだな」


「で、どうするの?あれ」


二人はじゅうたんを降り、今度は紙を引っ張り出して魔法陣の検討を始めたようだ。フリーハンドで描き込まれていく魔法陣に、サソリ男は嬉しそうに見入っている。


「気の済むまでやらせいたらいいんじゃないか?まぁ、飯時になったら声を掛けよう」


「ヴィリューク君、ありがとね」


「何だいきなり」


突然ナスリーンが礼を言ってきた。


「エステルがいてくれなかったら、あのアンドロスコーピオンと遭遇出来なかったし、あんな感じにもならなかったろ?連れてきてくれたのは君だし、ここまでの道のりも凄く助かってる。サミィが協力してくれているのも君が切っ掛けだ、それに……」


「全ての発端はあんたがじゅうたんに乗りたいと言ったことだ。それでいいじゃないか」


こそばゆくなってきたので言葉を遮っておしまいにする。


再び様子を伺うと、二人の周りに紙が散乱している。


随分とペースが早いが、帰りの出発はしばらく先になりそうだ。



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お読みいただきありがとうございます。

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