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56・宝珠と魔法陣

しばらく難産が続きそうです(ノД`)・゜・。

調理場の通用口をくぐると、中央には作業台と壁際にはかまどやら色々並んでいた。


暗いなと思っていると、すぐさま明りが灯される。


ナスリーンの杖の先が点灯し、エステルの手のひらの上には光球が生まれている。


さらに壁際にあった小物に杖を掲げると、同調するように小物も光りはじめる。


「何回か前の調査隊が設置した魔力灯だよ。一回注ぐだけで半日点灯してくれるんだ」


目的地まで一定間隔で設置されてるらしく、光源が照らせなくなりそうな位置に新たな魔力灯が設置されている。


通過する都度、ナスリーンが杖で明りを灯していく。


「経年劣化で動作不良をおこさないんだな」


「単純な造りだし、素材も吟味しているんだね。帰り道にでも私がチェックしようか?」


「そう言えば魔法陣の大家(たいか)がいたんだっけ。メンテナンス料上乗せするから頼むよ」


素材が変わっても、元々の造形は王宮のものである。魔力灯で照らされる見事な回廊に見とれながら俺たちは順路を進む。




「しかしえらく遠回りね。さっきの通用口から直線距離だと大して進んでないわよ」


「アレシアよく分かるわね。こう閉鎖空間だと私にはさっぱりよ」


「けどエステルだったら初見の森とか目印付けずに大丈夫でしょ?得手不得手ってことよ」


「アレシアはすげえんだぜ、建物とか洞窟とか一度歩いたところは完璧に地図に起こせるんだぜ」


「ダイアン、それ余所で口にするなよ。アレシア、俺は聞かなかったから。皆もいいな?」


素晴らしい特技だが、地図作製能力は悪用はもとより、悪意の目で見られると官憲の目がうるさいし、裏稼業の者に目を付けられたらもっと面倒だ。


「ヴィリューク、地図作製ってだけでそこまで気を使うって、今まで何してきたのよ」


「ははっ」軽く笑って誤魔化すにとどめる。




今まで破壊された扉は無かったのに、ここにきて初めて遭遇した。


しかも、明らかに重要な部屋の頑丈であった扉だ。


当然、砂岩の扉と化しているのだが、その厚さは侵入者を防ぐには十分であった。


その大きな扉に、さらにヒトが一人通れるくらいの金属の扉が設置されている。


「すっごく不自然なんですけど」


「後付けだからねー。この扉の向こうが重要でね、この扉を設置できる位穴をあけるのにも相当苦労したらしいよ。」


「鍵穴もノブもないな」


「そこは当然……■■■ ■■ 解錠(アンロック)


「「「「…………」」」」


「あ、あれ?そんなに魔力こめて閉めたっけ?■■■ ■■ 解錠(アンロック)!」


スー


今度こそ音もなく扉が開いていく。


そこは宝物庫。


金銀財宝、国宝級の武具・防具、様々な宝飾品や魔道具が収められた場所だった(・・・)


「うわぁ、もったいない……」


そこに収められていた宝物は例外なく砂岩と化していた。


「もったいないといったら、これが最たるものかな?」


ナスリーンの指さした先には、一対のクラウンとティアラがあった。


「当時の王様と王妃様が式典時につけていたものだよ。当時は貴金属の台座に宝石が散りばめられていたけど、今となってはただの石の王冠さ」


「石を削って作ろうと思っても無理だよな」


「ある意味値段がつけられないシロモノだわ」


確かにこの精密な細工を削り出して作るのは不可能だろう。素材としては二束三文、細工としては(正確には細工ではないが)値がつけられない。


「さ、本命はこっちだよ」


誘導された先には先程と同じ作りの扉があり、同様の手順で解錠された扉の先には底の見えない下り階段が続いている。


黙って階段を下りるナスリーンに俺達も黙って従う。




結構な段数を下りてきた。


段数を数えておけばどれくらいの深さか見当がついたのに、失敗した。


見えるのは前を進むナスリーンの後頭部と魔力灯の明かり、そして明りに照らされる階段と壁。


階段がようやく終わり、着いたところは小部屋であった。


そしてここにも扉が一つ。


「……この部屋、砂岩になっていない」


エステルの言葉に見渡すと、この部屋は石の壁、石の天井、石畳で作られており、階段は四段目まで石。


なんと五段目の途中から砂岩になっている。


「ここの扉の向こうは封印の間でね、入口のこの小部屋もおこぼれに与ってるんだよ。外からの魔力干渉を受けないんだけれども、見ての通り階段の五段目辺りが境界なんだね」


俺達はナスリーンの解説を黙って聞く。それが本当ならばこの扉の先に”あれ”が安置されているのだ。


この国に住む者ならば必ず聞かされる数百年前の歴史的事件。


そして”あれ”の存在。


「この扉の向こうに、実体化した融合精霊の核が安置されているんだよ」


それって重要機密じゃないのか?簡単に話しちゃ不味いだろうに。


「元々はくせのある魔道具……んー付与のかかったものを保管・封印するための部屋だったんだけど、それらを超えてとんでもないものが出現しちゃったからね。中に入ってたものを全て別の所に移したって訳」


「そんなシロモノ、その辺においそれと置けないだろうに……」


「だよねぇ、今の王都には当り障りのないものしかないと聞くし。ここ並みに魔脈の通った場所なんか早々ないもんね」


「え?今の王都じゃ保管できねぇのか?」


「ここと比べるとちょっと弱いんだよ。だけどここ並みかそれ以上の魔脈の通った場所に移したって聞いてるよ」


「……」

「……」


俺とエステルはお互いに視線を交わしたが、何も言わず視線を逸らす。


間違いなくばぁさまが絡んでいる。絶対実家の地下にあるはずだ。


いや、一部が俺のじゅうたんに収納されてる……


うわぁ、くせがあるどころか呪われた武器がじゅうたんに入ってるのだが!


……余計な思考を追い出すべく言葉を発する。


「ここに数百年前に猛威を振るった元凶が……」


「や、そんな昔じゃないよ。180年くらい前かな?研究所じゃなくてよかったねぇ、あそこでそんなこと言ったらミリーと一緒にセツガ君の講義に掴まってたよ」


「……」


「なぁ、入るなら早く入ろうぜ」


ダイアン、話をそらしてくれてありがとう。






杖を右手に掲げ、合言葉を唱える。そこから更に解錠魔法をナスリーンは詠唱する。


「『我は見守る者也、願わくば安らかな眠りが続かんことを』■■■ ■■ 解錠(アンロック)


先程のものとは違う、重みのある音と共に扉が内側に開いていく。


そこは自然に出来た空洞に、ヒトの手を加えた玄室であった。


扉を開けたそこは踊り場となっており、さらに下に降りる階段がある。


視界を遮るものは何もない。


いつから灯っているとも知れぬ魔力灯が玄室を明るく照らし、先頭に立って降りていくサミィに声がかかる。


「置いてあるものに触らないでね」


『ヴィリューク、あそこと同じ匂いがするわ』返事をしないで、ピンと立てた尻尾の先を軽く揺らしながら階段を降りるサミィ。


多少の凹凸があるものの、床は概ね平らである。振り返ると入ってきた扉や階段の人工物が見えたが、見栄えも考慮したのか違和感はあまりない。


ぞろぞろと玄室を進んでいくと、台座に載せられた琥珀色の大きな珠が見えてくる。


この辺りから凹凸が無くなり、台座を中心に結構な広さで地面が均されている。


すると前を歩いていたサミィが突然止まると、スンスンと臭いを嗅ぎながら歩みを再開する。


「あれね……」呟きが聞こえる。


近付くにつれ異様な大きさが顕わになる。


「でけぇ……」


「この大きさの核を持った精霊が実体化したのか……辺りが砂漠になるのもうなずけるな……」


直径一メートルはあろうか、これが核というのだから当時顕現した融合精霊の大きさも逆に想像つかない。


先日遭遇した蜘蛛どころではないだろう。分かるのはとんでもない大きさと言う事だけだ。


「■ ■ ■ 分析(アナライズ)


彼女の本来の仕事が開始された。




あらかじめ分担されていたのだろう。


アレシアがナスリーンの読み上げる分析結果を書き留めていく。


手持ち無沙汰な我々は好き勝手している。


サミィとダイアンは玄室内をうろうろ見て回り、エステルは邪魔にならぬよう核と台座を様々な角度からスケッチし始める。


俺も暇つぶしに水の気配を探っていく。






★☆★☆






今回の調査隊は本当に妙な構成だ。


人数も半分以下だしエルフが二人もいる。


ハーフエルフの女は何度か来ているが、なにか感付いてエルフを二人も連れて来たのだろうか。


いや、隠蔽は完璧だ。今までもそうだし、これからもばれる要素はない。


わざわざ何回も見に来ずとも、こちらでちゃんと管理してやってるのにご苦労な事だ。と言うか来るんじゃない。




半人半蠍の身になってから、あの核を何とかできないか研究を重ねてきたのだ。


調査隊と自称しているあやつらは現状を確認するのみで、何とかしようとなんてこれっぽちも考えていない。


それよりも私の研究の成果を自然現象と受け止めている節がある。


普通に呼び出した精霊(もの)ならば時間が経てばそのうち還るだろうが、ここまでこちらの世界に定着させてしまった存在が自然に還る訳が無かろうに。


……まぁ、その辺りが分かる者が軒並み砂に変わってしまっているから、あれこれ言っても仕方ない。


唯一生き残った者としては、後始末の責任がある。




見つかりたくないとは言っても奴らの様子は気になる。


玄室に潜り込ませた眷属経由で様子を伺う。


あのネコさえいなければもっと接近させられるのだが、地上で散々追い払われたので隅の方で伺う羽目になった。


……相変わらず状態を確認しているだけのようだな。


そもそもここに来る理由だって盗難や悪用を心配して来てるようだが、この過酷な砂漠を渡ってくる情熱的な悪の魔術師なんか居てたまるか。


いたとしても途中でのたれ死ぬわ。


”なんだろう、この台座……なんか…んー”


ザッ


女エルフの言葉に思わず立ち上がってしまう。


あれに気付くか。あの女エルフ何者だ?いや、まだ少し違和感を感じているに過ぎない。


一時停止させて隠した魔法陣を見たならともかく、魔法陣の効果を効率よく核に働きかけるだけの機能の台座を見て、意味を見いだせる奴がいてたまるか。


”んー、伝達?導線?吸収とは違う…。ナスリーン、この台座ってなんか役割あるの?”


”いや?ただ核を載せてるだけだけど”


なんだとっ!まずい、折角順調にきているのに、余計なところをいじられたら台無しになる!


女エルフは台座から離れ、周囲をウロウロし始めたたのも束の間、再度台座の前に戻って来ると両手の手のひらをそれに向けて何やら始める。


”これかな?”


その言葉は死の宣告に等しかった。


どう魔力操作をしたのか分からない。核の台座を中心に隠してあった魔法陣が一瞬暴かれた。


露わになった魔法陣はすぐに見えなくなったが、一瞬といえども彼らが認識するには十分な時間である。


”な、なにっ?今の魔法陣!”


眷属との接続はそのままに、置いてあった石の短杖(ワンド)を引っ掴むと、隠し部屋を飛び出した。






★☆★☆






「な、なにっ?今の魔法陣!」


「取り敢えず魔法陣が見えた範囲から出よう」


俺の提案に皆が従った訳ではない。エステルが自分のじゅうたんに乗って台座を調べている。万が一の時、緊急退避できるようにだ。


「んー、単純に隠してるだけだと思うんだよねー。どこかしらっと…これかな?」


何をどう操作したか知らんが本職は違った。


何も無かったはずの床から大きな魔法陣が現れ、反射的に後退(あとずさ)ってしまう。


しかしエステルは慣れたもので、じゅうたんで移動しながら魔法陣を調べ始める。


「大丈夫だよ。今のところ作動してないから。しかし何のための魔法陣かなぁ。少なくとも何かしら特定の目的のために、ゼロから作られた魔法陣だね。ちょっと魔力流してみようか」


「やめろ!何が起こるか分からないのに試しに動かそうとするな!!」


俺の静止の声に、第三者の声が追従してきた。




「お前たち、そ、その魔法陣から、は、はなれろ!」


噛みはしなかったが裏返った男の声に俺たちが振り向くと玄室の壁が開いており、異形の男が短杖(ワンド)をこちらに向けていた。


半裸の男であったが問題はそこではない。男の下半身は甲殻で覆われ、足は複数。さらにはサソリの尻尾を備えている。


「アンドロスコーピオン……」ナスリーンの呟きが玄室に響いた。


お読みいただきありがとうございます。

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