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55・砂漠のとある蜘蛛

ずっとずっと先を妄想していたら内容が……

相変わらず話が進んでません<(_ _)>

調査隊隊長ナスリーンに予定を訊ねてみると、ざっくりと教えてくれた。


まずは市街の探索だそうだ。


街の状態だけでなく、危険な魔物・魔獣が住み着いていないか。


発見した場合、当然討伐もしていく。


当然一日では無理なので、四日から五日位かかる。






到着して三日目。市街の探索は順調だ。


「ったく、何で俺がこんなことまで……」


「ヴィリュークいい加減に受け入れなよ」


「契約外もいいところだっての」


「また始まった」






到着初日、まずは拠点を定め、そこを起点に探索を始めた。


当然俺は留守番である。契約での俺の役目は、往復の道を安全に・可能な限り快適に対象者(おきゃくさま)を運ぶことだ。


なので探索は彼女らの仕事。


留守番の俺は彼女らの為に食事の準備をし、戻ってきた時には快適に過ごしてもらえるよう拠点を整える。


いつもやっている準備が少し増えた程度。あっという間だ。


保存処理をした乾燥野菜や、燻製肉を水で戻しておく。こっそり俺も水を補充しているので余裕があるのだ。


留守番なのだから武器・防具はちゃんと用意しておく。


魔盾はカイトシールドを背負うにとどめる。バックラーとタワーシールドは装備はしないが出しておき、天幕の日陰の下だ。


熱くなって持てないだなんて目も当てられない。




遠くから声が聞こえた。


暫くすると複数の足音や何かの移動する音も混ざってくる。


「ヴィリュークー」


誰かが俺を呼んでるなと思ったら、三十メートル先の角をエステルとアレシアが横滑りしながら曲がり、走ってくる。


少し遅れてダイアンがナスリーンを前に抱えて曲がってくると、家ほどもある大きな生物が曲がり切れずに砂岩の家屋にぶつかった。


「っしゃー!ヴィリュークじゅうたん出せ!一旦逃げるぞ!」


その怒鳴り声に対して俺は返答せず、黙っていつものブーメランを二本とジャベリンを用意。


砂岩を押しのけて現れたのは……でかい蜘蛛だ。なにを食ったらあそこまで大きくなるんだろう。


黙して二本を投擲した時点で、アレシアとエステルが横を通過。じゅうたんに飛び乗った。


「ヴィリューク、なにしてんの!」ええい、エステルうるさい。


加速が付けば速いのだろうが、大きさも相まって蜘蛛は歩みが遅い。


そこへ弧を描いたブーメランが左右から頭に直撃。外傷は見受けられないが、脳震盪を起こした模様。


ふぁっさーと毛の生えた足を痙攣させながら、それでも前に進もうとする。


「頑丈だな」ジャベリンを投槍器にセットしながら呟く。


「ダイアン伏せろ!」


射角上邪魔だったダイアンが伏せると、大蜘蛛の頭への視界が開ける。


ステップを踏み魔力を込めて投げた瞬間、結果が分かる。


狙い過たず、ジャベリンは大蜘蛛の頭を貫く。


あの程度の敵ならば四人で対応できるはずなのに、いったいどうしたのやら。




頭を貫かれてるにも拘らず未だに大蜘蛛の足が痙攣しているが、そのうち治まるだろう。


「ダイアン、おもいー」ナスリーンがダイアンの下敷きになって庇われている。


あの体格にフル装備では結構重いだろうが、持ち上がらなくとも抜け出せそうなものだがな。


「起きても大丈夫だぞ」歩み寄りながら声を掛けると、ようやくダイアンが体を起こす。


「ふぅ」


「何があったんだ、一体?」旋回半径を狭くしながら戻ってきたブーメランを受け止めながら問いかける。


「坂道の上にあいつが丸まってたんだよ」はぁ?






ダイアンの話を整理するとこうだ。


市街の探索とは言っても確認作業だ。


足元は精々ヘビやサソリを警戒する程度なので、持ってきた棒で地面を叩きながら移動すればよい。


そもそも探索者なのだからその辺の気配察知や索敵はお手の物だし、実際の所危険生物の類いは全くいなかった。それまでは。


油断が無かったとは言わないが、それは丁字路の坂道で待ち構えていた。


見通しの良い一本道かと思ったら、脇道に坂がある。


坂の下を通過中に先頭のダイアンが坂の上の物体に気付き、注意を喚起した瞬間それは転がり落ちてきた。


全員が慌てて来た道を戻り、難を逃れてホッとしたのは気が早かった。


壁にぶつかった丸い物体から毛の生えた長い足が、一本、二本と出てくるではないか。


”いいぃやぁぁぁぁぁ!”


メイン火力が悲鳴を上げて腰を抜かした。


火力あっての壁役である。火力が使い物にならないと分かると、ここは逃げるしかない。


全員来た道を走って戻る。ナスリーンはダイアンに抱きかかえられてだが。


追いかけてきたのは初めて見る蜘蛛。全高約三メートル以上、足を広げると六~七メートルはあろうか。全身にふっさりとした毛に覆われ砂の保護色となり、八つの黒々とした目が獲物を映す。


坂道を転がって天敵から逃れるのは聞いたことが有るが、こいつは獲物としとめるために利用しているようだ。


幸運なことに大蜘蛛の走るスピードは人並みほど。


不運なことに大蜘蛛は諦めが悪いようだ。


直線を逃げると追いつかれると考えた三人は(ナスリーンは抱えられたまま)、右へ左へと曲がり大蜘蛛の速度を殺して逃げてきたが、撒くことは叶わず俺のいる所まで逃げてきたのであった。






「あれしき火球(ファイアボール)の二・三発でいけるだろ?」


「俺もそう思うんだが、どうしたんだナスリーン?」


「わかんない……思わず悲鳴が出ちゃったんだよ。いや、蜘蛛なんかごまんと見てきたよ、大きいのから小さいのまで。ハエトリクモなんか可愛いよね。だけどあの大きさ、全身の長い毛、口からはみ出た牙……うぅ、思い返すだけで寒気がする」


「思い返すどころか後ろに実物があるんだがな」


「ひぅっ」


後を振り返らずにナスリーンは走って行ってしまう。


「さて、これはどうしたものか」


大蜘蛛の死骸を前に頭を悩ます。


死骸は身体を下に脚を上にしてひっくり返っているので、ジャベリンを抜くのにも苦労はしない。


「珍しい獲物なんだろうけど、どこを持って行ったものかな」


「牙は当然として、毒腺はちょっとねー」


隣にやって来たダイアンとアレシアが相談し始める。


「手が必要だったら声かけてくれ。俺は飯の用意の続きしてるから」


「あれ?いらないの?」


「興味ないし欲しかったら譲るよ。飯前に済ませとけよ」


「じゃ遠慮なく」


あとでナスリーンを宥めて残骸を燃やしておかないと。




☆★☆★





男は自分の隠し部屋で地上の様子を伺っていた。


砂の王都内くらいならば眷属とやり取りなぞ問題ない。


そして監視対象が二つに増えた。調査隊と大蜘蛛である。




「これはまた面白い」


調査隊と蜘蛛の追いかけっこである。


通過する道には既にサソリたちが配置されているので、視点を切り替えて観戦を楽しんでいる。


街角のギリギリを女たちが曲がり、大蜘蛛が曲がり切れず壁にぶつかった所など圧巻であった。


「映像記録の魔道具があったらなぁ……あれは砂と消えたし、設計図があればなぁ……でも材料もないしなぁ……」




「……ほう、あれを倒すか。大して強くはないが図体がでかくてやりにくい相手だったのに」


あの蜘蛛は男の眷属の優秀な個体を捕食して成長した相手だった。


分不相応な魔力的栄養を得て、蜘蛛は急成長。


地上に出るのを眷属に任せっきりにしたら、貴重な五匹しかいない頭の良い大型蠍を三匹に減らしてしまった。


魔力(エサ)を与えて似たような蜘蛛を作り出せぬかな……その前に新しい子をなんとかせねば……教育は今いる奴らにさせるとして……」




「ぐっ」


視界を共有していた眷属(サソリ)が、またしても弾き飛ばされたようだ


飛んでないのに飛んでいる視界に不快を覚え、別の視界に切り替える。


どうやら特定範囲内に接近すると排除されるようなので、眷属たちには不必要に近寄らぬよう指示を出す。


「くそっ、ネコめが!しかもただのネコじゃないな?少し念入りに部屋の隠蔽をしておいたほうが良さそうだ」





★☆★☆




「頼むよー、ヴィリューク君。また、あんな奴が出てきたとき君がいると安心なんだよ」


「ナスリーンで対応できるだろうが。死骸の処理で使った魔法、火球(ファイアボール)どころじゃないだろ?あれ一発で消し炭にできるんだから俺はいらないだろ」


「こんなに女の子が頼んでいるのに、君もつれないね」


ミリー姉さんと似た年のはずなのに女のk……ぅ、追及してはいけない。しかもここには女が四人……勝ち目はない。


「……分かったよ。しかし護衛として魔法使い(スペルキャスター)を雇った方がよかったんじゃないか?」


「そうね、精霊魔法だと必ずしも威力のある攻撃が出来るとは限らないから……」


エステルが申し訳なさそうにしてくる。


「まぁ、これから俺もついていくから。不意打ちにあっても気をしっかり保ってくれよ」


「やたっ!ヴィリューク君、女の子には優しくしておくといいことあるかもよ」




とか言われて三日目。冒頭に戻る訳だ。


幸か不幸か、あれっきり何も出てこない。


かと思うとサミィの様子が少しおかしい。


訊ねてみても”何でもない”と言うくせに、隠れているサソリやトカゲを弾き飛ばして憂さ晴らしをしている。


道の安全を確保してくれているので助かって入るのだが、俺が退屈で愚痴をこぼしていても大目に見てほしい。


そもそも運び屋の俺に探索者の真似事をさせるのはおかしいと思う。


そう言ったら”ちょどいいから探索者デビューしてしまえ”とか乱暴すぎるだろ。


しかし聞くところによると調査自体の難易度は低いらしい。ここに無事辿り着くまでが大変なのだそうだ。


過去の調査では、あの手の蜘蛛は一度も出てきていないとのこと。それ故の低難易度なのだ。


なので調査項目が追加された。


どこからか流れてきたのか、他にもいないのか、いるのならば討伐対象となる。


と、少し気合を入れていたのだが、ご覧の様にさっぱりなのだ。


結局のところ、その日も翌日も討伐対象となる生物が発見される事は無く、到着五日目にして最大の確認対象の元へ赴くことになる。





ナスリーンに連れてこられたのは、これまた砂岩と化した王宮の前であった。


正門は砂岩の一枚岩になってしまっており、穴をあけるのも困難なのが見て取れる。


「じゃ、こっちね」


先頭に立って案内をし始めるナスリーンに、アレシア・ダイアンが慌てて自らが先頭に立つ。


「何かあった時の為に私たちがいるんだから、気軽に先頭に立たないで!」


珍しくアレシアがおかんむりである。




右だ左だと道順を指示してくるナスリーンは、嫌々隊列中央に配置されている。


王宮の敷地内の建物は元々しっかりした造りだったのだろう。砂岩に変わっても倒壊している建物が全くない。


そのせいで死角も多く、アレシアとサミィがコンビを組んで索敵をしつつ進んでいる。


特に何を言ったわけでもないのに、率先して先頭に立ってくれるサミィが有り難い。


それにサミィが意思疎通ができる相手と分かってから、皆がサミィを”ヒト”同等に対応しているのも理由の一つではなかろうか。


ともかく、アレシアとサミィが連携を取って先頭に立ってくれているのだ。


そんな過剰な警戒網に何かが引っかかることもなく、ようやっと入口に辿り着いた。


「ここは?」


「うん、元調理場の通用口さ。入れるところはほかにもあるんだけど、目的地へはここからじゃないと行けないんだよ。大回りなんだけどね」


ここまでも結構な大回りであった。これからどこに連れて行かれるのだろうか。



お読みいただきありがとうございます。

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