52・砂男・眠り男
【魔力欠乏症】
【慢性───】
自身の魔力を貯められる量に対して、少ない一定の量までしか貯められない症状。回復薬を用いて全回復させても、時間を置くと元の量まで減少してしまう。魔力がゼロになることはなく、日常生活に支障はない。
【急性───】
魔力健常者が急激な魔力減少により、めまい・倦怠感・疲労感がでる状態。必要魔力の大きな魔法の発動、魔道具へ過剰に魔力供給した際に起こりやすい。一つの症例として、魔力供給機関の上で居眠りをし、回復する傍から吸引を繰り返し昏睡状態になった例も。過去には魔力を消費する状況が無いにもかかわらず、欠乏症にかかった例もあり。原因は特定されていない。
「砂しかない砂漠で、どうやったら欠乏症になるんだ!」
「怒鳴らないでダイアン。ヴィリューク、一旦下ろして。じゅうたんの上じゃ出来ることも出来ないわ」
エステルの指示でじゅうたんを降ろすと、ダイアンと二人掛かりで天幕を立て、砂を掘って少しでもマシな環境を整える。
「回復薬はあるが、意識が無いんじゃ飲ませられないぞ」
「少しづつ舌に垂らすのが定石なんだけど、そんな悠長な事してられないわ」
「手間がかかろうと構わねぇ、俺が面倒みるから薬と道具をよこせ!」
「もっといい方法があるっていってんの!落ち着きなさい!」
「……ダイアンうるさいよ。おちおち寝てられやしない」弱々しくナスリーンが口を開いた。
んくっんくっ
ナスリーンが喉を鳴らして回復薬を飲み干している。
「んぼぁ、まっずっ。水ちょうだい、口の中が苦い」
「市販のものじゃないから。師匠の特製回復薬は効くわよ」
水袋を出すと引っ手繰って飲み始める。
「ぷはー。おばさまの薬じゃ仕方ないね。子供の頃は無理やり飲まされたし。泣いても許してくれないんだよね」
ナスリーンが苦い思い出に頭を掻くと、砂がパラパラ落ちてくる。
「取り敢えずアレシアを何とかしないと。僕の方は時間稼ぎができたからね」
収納魔法陣からエステルは自分の荷物を引っ張り出した。
いわずもがな。彼女のじゅうたんである。
「さ、アレシアをこっちに移してくれる?ナスリーンはそこね」
言われるがままに、ダイアンがアレシアをお姫様抱っこでそっと横たえ、足元にはナスリーン。ダイアンと俺はじゅうたんの外だ。
「■■ ■■■ ■■ 風繭」じゅうたんの外でエステルが呪文を唱える。
まさに空気でできた繭。さわると弾力があり弾き返され、内側ではナスリーンが興味津々で感触を楽しんでいる。
そこにエステルが手を突き入れるが、繭は割れないし萎まない。
手のひらを下に掲げ何やら操作していると、アレシアの顔の横に小さな箱が出てくる。
「お?お?なんか魔力が濃くなってきたよ」
「じゅうたんに貯めた魔力をその箱から放出しているんだけど、効率を上げるために繭で包んだんだ。肌や呼吸で吸収すると回復も早いからね」
「はぁ、沁みるねぇ」
「ア、アレシアは大丈夫なんだな?!」
”る゛る゛る゛る゛る゛る゛”
突然サミィが威嚇とも警戒とも取れる鳴き声を発した。
「サミィ!」
俺の声を無視して、サミィはひたすら視えない何かに警告を発し、じゅうたんの周囲を回りはじめる。
ザアアアアア
サミィが何周か周った時、座っていたナスリーンの髪から大量の砂が流れ落ちた。
「ひいぃ」
座ったまま砂から逃げるナスリーン。
意識不明のアレシアの髪からは砂があふれ出し、箱は既に砂に埋もれアレシアも埋もれ始めている。このまま放っとくと、生き埋めは時間の問題だ。
自分の髪から砂が湧き出た感触に腰を抜かしたナスリーンは、四つん這いで繭から脱出する。
ナスリーンから落ちた砂の塊は、大きくなりながら箱があった辺りへ移動し始める。
砂の魔物……砂男みたいだがどこか違う。上位種はどんな奴だったか思い出せない……のどまで出かかってるのに……
「ま、まりょ、止めないと!」
「駄目だ。そのまま出し続けろ。その間に態勢を整える。ダイアン手伝え!」
「どうすりゃいい!」
「アレシアを砂から引っこ抜く。片足持て!1・2・3でいくぞ」
「おう」
「「1・2・3!」」
砂の重みがあったが、無事引っ張り出せた。
「砂を残さず掃え!エステル、ナスリーンを手伝え。アレシアは俺とダイアンだ」
各々髪を捌いて砂を掃っていくが、俺たちが掃うのとは別に砂が勝手に飛び出していく。
「水も使え!」
小樽を出し髪から砂を洗い流すのだが、その間もエステルのじゅうたんには、砂の小山が大きくなっていく。
念のため小樽を追加して洗い残しが無いようにし、こっそり水操作も駆使して一粒残らず洗い流した。
頭に布を巻いて、砂がまた付かないようにしてアレシアをダイアンに任す。
「エステル、水操作で徹底的に洗え。一粒も残すな!」
「っ!操作はできるけど、残ってるかどうかなんて分からないわよ」エステルが小声で怒鳴り返してくる。
「ち、水の感覚までは感じられないか。代われ、俺がやるから水を流してくれ」
髪の生え際から頭頂部、耳の後ろから側頭部、後頭部から襟足までの地肌を洗っていき、髪に残っている汚れや肝心の砂粒を水に取り込む傍から捨てていく。
当のナスリーンはなすがまま、身を任しているかと思ったら呑気な反応が返ってきた。
「あぁ~気持ちいぃ~頭のてっぺんのちょと前の方がかゆいかな~」
残っていた水を投げ捨て、頭を布でグルグル巻きにしてやると、露わになったデコを指で一発弾いてやる。
「呆けた事言ってないで、アレシアと俺のじゅうたんまで避難してろ。エステルは放出してる魔力を止めて俺のじゅうたんで上空に退避。急げ!」
エステルのじゅうたんでは、未だ砂がうごめいていおり、高さも俺の胸辺りまで成長している。アレシアがあれに取り込まれたかと思うとぞっとする。
ナスリーンとアレシアがじゅうたんで待機し、収納魔法陣から俺とダイアンは武器と盾を取り出し構える。
周囲を回って威嚇していたサミィは俺たちの隣に並び、臨戦態勢だ。
「まずはじゅうたんから引き離す」
「放置して逃げるってのは?」
「ない。傷つけるなよ、エステルが泣くぞ」
ダイアンが大型カイトシールドを構え、俺も剣を収めてバックラーを構える。
「チャージする」助走の為に少し後退するダイアン。
「俺はバッシュだ。先行する」
「なぁーぅ」サミィも一緒に肩を並べているが、違和感を感じるどころか砂漠では逆に頼もしい。
「止めるわよ!」
エステルは掛け声とともに魔力の放出を止め、風繭も解除。一気に跳び退ると走ってじゅうたんに飛び乗り、上空へ退避する。
それを見て俺は走り出すと、数拍置いてダイアンが追従する。しかし軟らかい砂は足を取られて走りにくい。
そんな俺たちを尻目に、サミィの小さな身体が追い抜いていく。
後ろからナスリーンの声が聞こえてくる。
「そいつら眠り男よ!捕まったら魔力を吸われるわ!気を付けて!」
思い出した。やはり上位種か。やっかいな上に二体もいやがる。
”シャァァァァァァ”
そんな事は関係ないとばかりに、サミィが飛びかかる。
小さな身体の鋭い爪を大きく振りかぶり上から下へ振り下ろすと、スリーパーの身体の砂が弛んだように見えた。
振り下ろした勢いで自ずと身体が一回転し、そのまま体当たりをするかに見えたが、後ろから走る俺たちの目に入ったのは白く光る二本の尻尾。
小さく体を丸めた勢いで二本の尻尾を叩きつけると、スリーパーの身体を構成していた砂が崩れはじめる。
役目は終わったとばかりに、着地後走り抜ける姿を視界の端に捉えながら、次に控えた俺はバックラーを叩きつける。
砂の身体の崩壊はさらに進行し、明らかに質感の違う砂の珠が現れた。
しかし俺も同様にスリーパーの脇を走り抜ける。
最後に控えしはダイアン。
足場の悪いこの場所でも、勢いに乗った突進は脅威だ。
振り返ると丁度、盾全体で体当たりした所だった。勢いはそれで止まらず、押し倒し、押し潰してしまう。
上手くとどめを刺せたのか、崩れた砂が散り散りとなる。
まずは一匹。
二匹目は魔力を求めてじゅうたんの上をうごめいていたが、もう出てこないと分かると俺たちに標的を定めた。
そのままどこか行ってしまえばいいものを、欲張りやがって。
スリーパーの見た目はスライムに似てなくもないが、まず違うのが下から上へ砂が対流していることだ。
そして触手のような砂の腕を叩きつけてくる。
衝撃に押しつぶされようものなら、さらに圧し掛かり、身動きが取れない様にして魔力を吸うのだろう。
とにかく、核とも言えるあの砂の珠を砕かねば倒せない。
「くそっ、何かないかっ」
俺はシャムシールで斬り付けず、ひたすら突きに徹している。
肉体があればいいのだが、砂なので斬っても全く効果が無いのだ。ならば突きで核に当たることに賭けた方がいい。
ダイアンは斧の重さで砂の触手を叩き斬り、少しでも身体の砂を減らそうとしてるのだが、あまり効果が無い。
折角斬り落としても、またくっついて元に戻るのだ。
一匹目を倒した連携でいこうとしたのだが、こいつが結構素早い。いや地の利もあるせいで俺達より確実に早い。
一旦逃げて態勢を整えようにも捕まるだろうし、軟らかい砂のせいで、速度も体力もジリ貧だ。
普通の砂地ならばここまで苦戦はしないだろう。
サミィは爪での牽制に終始している。体格差もそうだが、あの尻尾攻撃を出してないところを見ると、乱発できない攻撃なのかもしれない。
「ナスリーン!魔力回復はどうだ?」
「火球なら二発!」
「ダイアン!」
「いつでもいいぞ!」
ナスリーンは返事をせず即座に詠唱に入る。
「■■■ ■ ■■ 火球!」
爆炎と共に命中し、煙が立ち昇る。
煙が晴れるのを待たずに走り出すが、砂に足が取られて思う様に駆け寄れない。
先に接敵したのはダイアンだ。
丁度煙が晴れるタイミングで間合いに入れたのだが、斧を振るうには軸足が逆である。
いや、意図的にだったのかもしれない。
大型カイトシールドを振りかざすと、スコップの様に振り下ろし、スリーパーの身体の砂をこそぎとる。
おしい!
砂の珠が剥きだしになるが、抜き取るには至らず膝をついてしまう。
くっ、駄目だ。砂に足を取られ、間に合わないと分かる。
なので、分かるや否や身体を捻じり魔盾を投擲するが、足場が悪いとこうも遅いのか。
あと少しで当たる所で砂の珠が隠れてしまい、はじかれた魔盾は帰還軌道を取る。
そんな結果でもダイアンは声を張り上げ、皆を鼓舞する。
「あと一発ある!ヴィリューク今度は早めで頼むぜ!」
「いや、そいつはやめだ!エステル、投槍と投槍器を落としてくれ!」
戻ってきた魔盾をキャッチするが、装備はせずに下へ落とす。
「ぅぇー、ジャベリン、あった。スロウアー……ど、どこー?どこにしまったのぉー?」
「あぁ、ジャベリンだけでいい!よこせ!」
「エステル……私の──も出して……」
アレシアも意識を回復したようだ。身体を起こしたところが下から見えたと思ったら、上からジャベリンが落ちてきて思わず避ける。
「みんないい?やるわよ!」
ナスリーンから合図があり、ジャベリンを握りしめる。
ダイアンは足元の砂地を整え、身体を低くしているのは加速狙いだろう。しかも背中にサミィを乗せている。
「■■■ ■ ■■ 火球!」
着弾を待たずしてダイアンが走り出す。背中のサミィは落とされないように爪を立ててしがみ付いている。
俺は身体を捻転させ、ジャベリンの投擲姿勢に入った。
スリーパーは正面から受けて立つ様だ。足元の砂を吸い上げて分厚くなった身体で、こちらに向かってくる。
”ドゥーーン”
爆風を盾で防ぎながらダイアンは突進を止めない。
煙が少し晴れ、スリーパーの姿を認めるが勢いはそのままに大盾を振りかざす。
サミィはその背を駆け上り、もう一つ盾を踏み台にして高く跳躍。前脚を振りかざすだけでなく、思い切り背を反らして威力増加に努める。
火球の煙が晴れた。大量の砂を吹き飛ばしたが、珠は見えない。
ダイアンの大盾が振り下ろされる。大量の砂を削り取ったが、珠は見えない。
そこにサミィが爪を振り下ろし、回転して二本の尻尾も打ち下ろされる。爪の攻撃で砂が弛み、二本の尻尾で砂を叩き落した。
珠が……現れた!
引き絞られた弓から矢を放つように、反射的にジャベリンを投擲する。くっ、投槍器があればこんな足場ものともしないのに。
槍の三分の一ほどスリーパーの身体に突き立ったが、珠には掠る程度だった。しかしダメージは入ったらしく、砂の身体に隠れるスピードが明らかに遅い。
”ガシュッ”
矢が一本、珠を貫けずに弾かれ、砂に突き立った。
”ガッ”
新たな矢は見事に珠を貫通。
砂の珠は矢が刺さったまま砂に隠れようともがく。
しかし、もがく端から身体の砂が崩れていくではないか。
そこにダイアンが無造作に歩み寄ると、突き刺さった矢ごと珠を引っこ抜く。
その瞬間スリーパーの砂の身体が崩れ落ち、この突発的な戦闘が終わったと俺たちは武器を下ろすのであった。
「しまった!美味しいところ持ってかれた!エルフが弓矢で遅れを取ろうとは…くっ」
「いえいえ、あの鏃は特別なの。矢の差だから」
じゅうたんの上でエステルとアレシアが弓の腕を称えあっている。
一つ溜め息をつき、放置していた装備を回収すると、肝心のエステルのじゅうたんの状態を確認。
むう、貯蔵庫の魔力がほとんどないし。
「エステルー、じゅうたんに魔力補充しないとまともに飛ばないぞー」
そう声を掛けるとエステルは落下とも言える勢いでじゅうたんを着地させ、自らのじゅうたんに駆け寄ってきた。
「さぁ乗った乗った!こんなとこから一刻も早くおさらばするぞ!抜けるまで休憩は無しだ!」
何が原因か分からないが、安全な渓谷が見えるまで飛ばし続けよう。
感じとしては、一戦闘の三ターンから五ターン分くらい
あ、SW2.〇じゃないですYO
敵はゲームのR〇からパクrげふんげふん……参考にさせていただきました。
アカウント、まだ残っているかなぁ……
お読みいただきありがとうございます。




