48・調査隊、出発の日
先週はお休みさせていただき、すみませんというかありがとうございました。
職場が変わり妄想時間は変わらないのですが、執筆時間が少なくなりました。
頑張っていきますので今後とも宜しくお願い致します。
まだ暗い時間に目が覚めた。
外は見ていないが、空が白み始める頃合いだろう。
しっかりと覚醒してしまったあたり、身体は既に仕事モードに切り替わっているようだ。
……サミィは戻ってこなかったな。門で待つか。
身支度は簡単に終わる。ぐるりと忘れ物がないか確認して部屋を出ると、階下の食堂へ降りる。
宿屋夫婦が仕事を開始しているのは当然として、エステルが待機しているのには驚いた。
「おはよ、ヴィリューク」
「おはようエステル。眠れなかったのか?」少し目が腫れぼったく見える。
「努力はしたんだけどね」
「砂漠の旅はいくらでも睡眠時間はあるから大丈夫だ。井戸いってくるから、荷物見ていてくれ」
エステルはあくびをかみ殺し、手をひらひらさせて合図する。
井戸で顔を洗い、水を一杯飲む。自分の水袋に補充をし、頼まれてはいないが宿の水瓶も満たしたやる。
チェックアウトを済ませ、ギルドを経由して門へ向かおう。大丈夫だとは思うが、積み残しが無いとも限らない。
しかし市場へ向かって生鮮食品の補充は怠らない。日数にして二・三日だろうが、自腹を切ってでもしっかりしたものは食べたいのだ。
一通り済ませ、ギルドに寄ってみるとそんな心配は杞憂で、早番の職員さん達にお見送りを受ける羽目になった。
ギルド長とウルリカさんが先程門に向かったばかりで、たまたま職員さんたちが残っていたらしい。
門前の広場に到着すると、俺たちが最後だった。
日の出からそんなに時間が経ってないのに勢揃いとは、気合の入り方が……いや、単純にじゅうたんが楽しみなだけなのかもしれない。
「おはようございます。皆さんお早いですね」
皆さんにそれぞれ挨拶を交わしていくが、旅装が……ちょっと。
ギルド長・ウルリカさん・ファルロフは見送りだからいつも通りの服装だ。それは分かる。
ナスリーンは経験があるのだろう。白く長い男物のガラビアを身に着けている。今は外してあるが、目元だけが出るヴェールもついている。彼女は問題ない。
アレシアは旅装としては問題ない。伸縮性に富んだパンツ、長袖のシャツをメインに数枚重ね着をしている。暑くなったら脱いでいくのだろう。しかし砂漠向きとは言えない。
論外なのはダイアンだった。お前は今からどこのダンジョンに潜るんだ?
右手には柄の短い斧槍…いや、あれは斧だな。左手に大型のカイトシールド。面積で比べると俺のタワーシールドよりでかいかもしれない。
頭は面無しのヘルム。上半身は盾の防御をあてにしているのか、それでもハードレザーと金属を併用した胴鎧・肩当・篭手を装備。
その代わりブーツがごつかった。当然のように革靴には金属板の補強が施されている。あのつま先の補強は、踏みつけられても潰されないためのものか?
足跡を見ると複数の釘で引っ掻いたような跡である。裏にスパイクでも打ち付けてるのだろう。
はぁ、出発前から気合が入りすぎだ。何と言って説得しよう?
「ね、ね、じゅうたんは?その筒の奴?早く出してよ」ナスリーンが急かしてくる。つまりはこの人が今回の発端なんだなぁ。
「今出しますからそんなに迫らないでください」ナスリーン、近いわ。しかも背負っていたじゅうたんを持ち上げてくる。
「あら、見た目より軽いのね」
「あーっ、もう。こちらでやりますから引っ張らないでください」
じゅうたんを降ろし広げていく。
「緻密で綺麗な模様のじゅうたんね。だけど……」アレシアの言葉をダイアンが大きな声で遮る。
「あんだぁ?ちっちゃくてボロいじゅうたんだなぁ!この程度の物その辺にいくらでもあるだろ!しかもこれじゃ全員乗れないし!」
まだこれからだというのに、せっかちな奴らだ。しかも俺のじゅうたんを襤褸呼ばわりするとは……ふん。
「ちょっと離れて下さい。あー、エステルの辺りまで離れて。では、いきます」
じゅうたんに乗り、十分離れたのを確認すると魔力を注ぐ。
”ぼふん”
二人乗りのゆったりサイズのじゅうたんは、俺の魔力に反応して本来の姿を現す。
アイドリング時でも魔力消費は微々たるものだし、魔力効率もいいので外部に漏れなどないのだが、あえて少し多めの魔力を消費させダイアンに見せ付けてやる。
「ヴィリューク!出力抑えて!」これ位どうってこと無いのだが、限界性能を知らないエステルが慌てはじめるので通常出力に戻す。
ちろりと視線を向けるとやっこさん目を丸くしていたので、若干溜飲が下がった。
「さて、お嬢様方お待たせしました。どうぞこちらへ。エステル、悪いが手荷物を収納してくれ」
エステルを先頭に乗り込み始めるが、一番に乗り込もうとするダイアンに意地悪く声を掛ける。
「戦士どの」
「あ?なんだ?」
「レディファーストでお願いします」
ナスリーン、アレシアの順に乗り始め、エステルは手荷物を受け取ると収納魔法陣に入れていく。
「わるいねー、ダイアン」アレシアがわざと軽口をたたき、ダイアンは拳を握りしめ、平静を保っている。
次は自分とばかりに歩を進めるダイアンに、再度声を掛ける。
「戦士どの」
「あんだよ!」
「そのスパイク付きブーツはお脱ぎください。じゅうたんが傷つきます。代わりにこれを」
男物の大きなサイズのサンダルを引っ張り出し、手渡す。
「俺の足はこんなに大きくない!」
「あいにくそれしかございませんで、ご不便をおかけしますがお願いします」
馬鹿丁寧に下手に出るので、そうそう我儘は言えまい。ふふ。
渋々ダイアンはサンダルに履き替える。サイズはぴったりだった。気持ち赤面し、その目は”余計なことは言うな”と語っている。
さぁ乗り込もうとするところへ、またしても声を掛ける。
「戦士どの」
「今度は何だっていうんだ!何か文句あっか!!」
「色々すみません。どうぞお乗りください」
「お、おう」
こぶしを振り上げはしたが下ろす先は無く、大変ばつが悪い。
「ヴィリュークくーん。私からもあやまるから、あまりダイアンをいじめないでね~」
ナスリーンからの言葉にダイアンの表情が変わる。
「な!じゃ、やっぱりわざとだったのか!?っこの!」
「ダイアン!そもそも君がじゅうたんを襤褸呼ばわりするのがいけないんだよ!見た目に騙されてはいけない…ってこれじゃ僕も襤褸って言ってるね。ごめんなさい」
なんか脱力してしまった。
「あぁ~……もういいですよ。年代物なのは確かですし。実力を見せるために、高高度での立体機動でも体験してもらおうかと思いましたが、やめときます」
「ヴィリューク、一般人にそれはやりすぎだって……」エステルから呆れ声が上がるがしかとする。
「なにそれ、面白そう!」
「いや、ナスリーンさん。乗り慣れているエルフでも辛い奴ですから、それ」
エステルは窘め、アレシアとダイアンは、俺とナスリーンを冷めた目で見てくる。……俺も一緒のくくりにされるのか?
そんなやり取りをしていると、一台の馬車が到着した。
ウルリカさんが御者に指示すると、荷台から次々と食料が下ろされる。
「市場に手配しておいた食料です。鮮度が命ですので、朝一入荷のいいところをお願いしていたのです」
生鮮食品は足が速い。それでもこれはありがたい。手配されているならさっき市場に寄る必要はなかったかな。しかしこの人数だ。少し豪華にすれば食材を消費できるだろう。
……なにやら見覚えのある箱に入っている。
「ウルリカさん、この箱は?」
「あら、ご存知です?この箱に入れておくと鮮度が保たれるのですよ。何でも一介の商人が考案・作成したとか。ヴィリュークさん達と同じエルフが手掛けているそうです」薄っすらと笑みを浮かべて教えてくれた。
「ありがたい。食事は大事だ」礼を言うと、彼女の薄かった笑みが深まり、こちらも何やら悪くない気持ちになる。
「にゃぁーん『おまたせ』」サミィが路地から姿を現し、到着した。
「や、サミィ。おはよう」
「にゃぁ『なに?こいつら』」
「そう警戒するな、同乗者だ。お客さんだから大丈夫だ」
じゅうたんの横に現れたサミィは、耳を横に伏せ、気持ち身体の毛が逆立っているようにも見える。見慣れないヒト達に警戒しているのか。
そしてサミィの声が聞こえない三人は(エステルは聞こえているらしい)、ネコと会話している俺にうろんげな目で見ている。
しかし俺は、ナスリーンの目がサミィにも向いている事に気付かなかった。
「さぁ行くぞ」
声を掛けじゅうたんの先頭に座ると、サミィが当然のように俺の横に陣取る。
「それでは」
見送りのヒト達や門番達に挨拶すると、ゆるやかにじゅうたんを発進させる。
『ぽーん』
しまった。すっかり油断していた。サミィがごく普通に警笛魔法陣を出し、出発の?警笛音を鳴らしてしまった。
影になって見えてないといいのだが、後ろを振り返る事が出来ない。
しかし声は聞こえてくる。
「ねぇエステルさん。あのネコ、ヴィリューク君の飼いネコ?」
「え?ええぇ?!本人が言うに違うらしいです、旅の道連れだとか」
「?飼いネコでなくて道連れ?普通にじゅうたんに乗ってきたけど違うんだ?」
追及されるのも面倒なので、割って入り話を逸らす。
「気温が上がる前に距離を稼ぎます。朝も早かったので二度寝してもいいですし、この辺ならまだ景色も楽しめますよ」
朝も早いので先行している馬車もない。じゅうたんをゆっくり加速させていくと、巡航速度に達するのはすぐであった。
とは言え、馬車や騎乗したリディと比べると段違いの速度である。
ちらと振り返ると、未体験の速度にエステルを除いた三人が、興奮気味の笑顔で周囲を見渡している。
ナスリーンが風で飛ばない様にヴェールを押さえているのを見て、魔法陣を追加で起動する。
すると、切り裂いていた風がそよ風程度まで減衰されていく。
「ヴィリューク君」
「ん?」ナスリーンの声に一瞬振り返る。わき見運転はいけない。
「ありがと」
風防領域を展開させた礼だろう。了解とばかりに片手を上げて返礼する。
日も昇りはじめ、街で暮らしていれば朝飯という頃合い。
「朝飯どうする?」後ろに声を掛ける。
「そうだ!朝ごはんにしよう!」ナスリーンの宣言により、飯を広げられるところを見つけて休憩となった。
この辺はまだ木陰に入ると涼しいが、砂漠になると日影は重要性を増し、命にかかわり呑気に涼んでいられない。
例の保存箱の一つを開けると二食分の弁当が入っていた。誰の指図か知れないがこれは嬉しい。昼の手間も省けるしな。
円座して弁当を広げ始める。
「こうして外でお弁当を広げるのも気持ちいいね~」ナスリーンは一人ニコニコ上機嫌である。
「ナスリーン、さん、はあまり外に出ないので?」
「ヴィリューク君、無理にさん付けしなくていいよ。呼びやすいのでいいから。みんなもそれでいいよね?」
「だな、俺もさん付けされたら背中が痒くていけねぇから」弁当をパクつきながらダイアンも賛成する。
「それを言ったら”君”付けってのはこそばゆいんだが」
「いやぁ、ミリーは似た寿命での初めての友達でね、その友達から聞かされる弟分の話は何とも親近感がわいてしまってしまったわけなんだよ。それもセツガが勤めだす様になってからはなりを潜めたんだけど、君が配達業を始めてからミリーがまた再燃してね。いやぁ、セツガとのやり取りは面白かった!」
「え!それってエルフの恋バナってやつ?!それは貴重だわぁ~♪」アレシアが身悶えている。やめてくれい。
「……だから、君ってのは……」アレシア、大人しくしてくれ。
「つい出ちゃうから、まぁいいじゃん」
……あきらめるか、はぁ。
「詳細を聞いてないが、砂漠に向かえばいいのか?」
「え?行き先きいてないの?」
「え?地図みせてないの?」
エステルとアレシアが異口同音に指摘してくる。
「言ってなかったっけ?」
「酒場の一件で聞きそびれたな」
ナスリーンと俺が口々に返答。
「ぷはー」
ダイアン、茶は入れたが我関せずってスタイルはよろしくないぞ。
ナスリーンが地図を示しながら説明するに、過去の調査団の片道は約十日から十一日。進路の障害で多少前後したとの事。
既に昼前にして馬車での一日弱の行程を踏破済みである。普通であればこの場所は早めの宿泊地である。
むう、久しぶりの砂漠行きで飛ばし過ぎてしまった。反省。
てことは旧王都まで約五日の行程なのだろうか?しかし単純計算なのでそうはいかないだろう。
地図にはいままでの実績を加筆しているのだろう。色々と物騒なものが見える。
砂岩の渓谷ってのは、底に一応水が視認できるのか。
流砂って、じゅうたんなら平気だがリディだと厳しいんじゃないか?
軟らかい砂と言う表記に頭を悩ませたが、すぐに気づいた。砂が軟らかくて、リディが踏みしめてもなかなか進めないのだ。軟らかいというのもおかしな表現で、踏みしめようとすると足がずぶずぶと砂に沈んでいき大変歩きにくい。一日苦労しても数キロも進めないだろう。
旧王都の周辺に×印がいくつかある。
「これはなんだ?」
「ん、そこは魔物と遭遇した地点だよ」
ナスリーンが仕切り直して説明を続ける。
「斥候による偵察には問題はなかった。しかし、それ以上の隠蔽がなされていたのかもしれない。とにかく、魔物の襲撃があったんだよ」
「もしくは擬態をしているか、注意しておこう。サミィ、頼むぞ……あれ?サミィ?」
ダイアンが黙って樹の上を指し示す。ち、頬張りすぎてしゃべれないだけかよ。一生懸命咀嚼しているが、頬が噛み締める度に膨らんでいる。
すると鳥の羽ばたき音と共に鳥が飛び立っていった。
と、同時に葉擦れの音と同時にサミィが落ちてくる。
”ンギャー”と背中から落ちてきたのだが空中で身体をねじり、ちゃんと足から着地するあたりはネコならではだろう。
皆の視線が集まっているの気付いたサミィは、座って前足で顔を洗いはじめる。さも”なにもありませんでしたよ”といった態で。
その様子を見て女性陣がクスクス笑っているので、深く追及するのはやめておこう。
弁当を食べ終わった俺たちは、気ままな旅でもないのでさっさとじゅうたんに乗り、出発する。
昼飯もじゅうたんを止めて弁当を食べた。朝用昼用と分けてあったからもしやと思ったが、期待通りに弁当の中身は違うものだった。手配してくれたヒトの気遣いが素晴らしい。
じゅうたんに座りっぱなしも身体に悪いので、適度に休憩を入れていく。
「はぁ、エルフのじゅうたんってのはとんでもないわね」アレシアのつぶやきが聞こえてくる。
現在、荒野とも草原ともいえない地帯を飛んでいる。じきに荒野となり、さらに進めば砂漠へ突入だ。
「普通なら二日はかかるのに……乗り心地もいいし、これに慣れたら身を持ち崩すわ」アレシアは結構ストイックなのかもしれない。
夕方には荒野と砂漠の境目に到着した。
この荒野も砂漠と見なしてもよいのだろうが、砂が出てくるのはこの”境目”からだ。
荒野の端は崖になっており、崖の上から見下ろすと眼下には一面砂の海が広がる。
「ひゃー、なんとも絶景だな」
ダイアンが声を上げた先には、なだらかな一面の砂と彼方には砂丘が連なっている。
そして夕日が砂を真っ赤に染め上げている。
「この先は過酷な環境なのに、ここだけ切り取ると美しい風景だ……」ナスリーンがそう呟く。
いつもなら日没まで進むのだが、調整の為にもここで泊まるかな。
夕飯の支度もそうだが、食後に明日からの支度の指導を考えるとげんなりしてしまう。
とにかくやらねばならない事だ。
ガイドとしての仕事は全うしなければならない。
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感想は最新話でなくとも構いません。
お読みいただきありがとうございます。




