表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/196

46・飯のタネ

二番煎じどころか数百番煎じにならないように考えてみました。どうでしょう。

他の作者様の作品で拝見したことがないのですが、ちょっと弱いですかね?

早朝いつも通りに目覚めた俺は、いつもの様に宿の裏手で顔を洗い、朝食のおまけに釣られて水汲みを手伝った。


そして席に着き、いつもの様にお茶をすする。


俺の宿屋での変わらない日常だ。


ボーっとしていると、女将が背の高いテーブルを宿の前に並べ始める。


「奥さんおはよ~う」パンの香ばしい匂いをさせながら、どこぞの奥さんが女将に挨拶する。


「あら、おはようございます。今朝も頑張りましょうね」


「おはようさん」今度は大きな籠を背負った主婦がやってくる。


三々五々集まった三人の主婦は、おしゃべりをしながらテーブルを出し、パンに切れ目を入れ、野菜を切り出していく。


何事か知らないが、これから仕事に行く態の若い男たちが二・三人、その前をたむろし始める。


そこに宿の旦那が、脂の焼けた良い匂いをさせる大皿を手に登場する。


「みんな、おはよう。今日も頼む」




「お待たせ!焼き立て出来立てだよ!ご注文どうぞ!」


その声を合図に、男たちが集まってくる。


「一本くれ」

「俺は二本だ」

「普通のを一本、もう一本はカリカリで頼む」


「カリカリは時間かかるけどいいかい?」




何事かと首を伸ばして覗いてみると、いつぞや俺がここで色々”はさんだ”パンだった。


切れ目を入れてある焼き立てパンに、野菜・ベーコンを挟んで売っているのだ。


皿にのせたパンを受け取った男たちは、テーブルまで移動し食べ始める。


「カリカリ焼けたぞ」旦那が女将にカリカリベーコンを持ってくる。


「カリカリのお客さん、お待たせ」よく見ると待っていた客の皿の模様は他の物と違い、カリカリの載った皿は皆と同じものだ。ほう、それを差し替えることで注文ミスを無くしているのか。




戻って行く旦那に声を掛ける。


「同じ物をスープ付きで頼む。繁盛してるな」


「おかげさんで。あれから注文が多くてな、それなら商売にしちまえってことで、パン屋と八百屋を巻き込んだんだ」


どうやら女将と客を捌いているのは、パン屋と八百屋の女将達らしい。


「アイデア料としてたらふく食わして貰わんとなぁ、これは」


「ちょっと待ってろ。具沢山で持ってきてやる」


旦那がニヤリと笑い厨房に戻って行くと、入れ違いでエステルが姿を現す。


「おはよ」


「おはよう、よく眠れたか?」


コクコクと頷く。


「なにやら大盛況ね」


「手軽に食べられる朝飯を売り出したそうだ」


「おはよう、エルフの嬢ちゃん」


旦那が俺の朝飯と、エステルへのお茶を持って戻ってきた。


「おはようございます……あ、どうも」お茶を受け取りながらも、視線は俺の朝飯に向いている。


「……パンの切れ目に野菜とベーコンを入れているのね。ベーコンの脂と塩っ気で食べさせるのかぁ」


「これが中々好評でな。嬢ちゃん、もう朝飯にするなら準備するぞ」


「そうね、お願いするわ。ヴィリューク、いいもの持ってくるからゆっくり食べてて」


そう言うとエステルは自分の部屋へ戻って行った。


なんだろう、と俺は小首を傾げ、旦那は店先の女将にせっつかれて、ベーコンを焼きに戻った。




「お待たせ~。これをのせて食べてみて。こないだの胡椒のお礼よ」


エステルが持ってきたのは、瓶詰めの粒が残ったペースト状のものだ。色は…黄色と言うか茶と言うか、そんな感じだ。


「熟成を始めて一月だからそろっと頃合いよ。初心者はこれくらいからがいいかしら」


そう言って粒ペーストを半匙ほどベーコンの上に載せる。


「そんな目で見ない!毒じゃないんだから。まぁ、ちょっと刺激的だけどね」


お礼と言うからには、それ相応のものなのだろう。エステルを信頼して、大きく一口かぶりつく。


「んふ~」


これは、辛い。そして酸味が効いている。それがまたベーコンに合う。


一生懸命噛み締めていると、辛みが引いていきようやく嚥下する。


「これはまた新しい味だな。色んな肉で試すと面白そうだ」


「あら分かる?これに肉を漬け込んで焼いても美味しいわよ」


「ところでこれは何なんだ?」粒っぽいところから考えるに、何かの種の様だ。


「野菜の種よ、カラシ菜の種。葉っぱはよく食べられているらしいけどね。私のこれは特に辛い品種なの」


作り置きをしてあるのだろう、エステルの分を旦那が間を空けずに持ってきた。”ごゆっくり”と一言告げると、再度ベーコンを焼きに戻って行った。




「んぐんぐ、つけなくても美味しいけれど、私はつけた方が好みかな」


「んぐ、これは旨味が増すな。どうやって作るんだ?」


「作り方は簡単だけれど、結構力仕事よ。瓶に種と塩を入れて、ビネガーをひたひたになるくらいの量入れるの。種がビネガーを吸うのに三・四日かしら。吸って量が減ったら継ぎ足すの」


「ペーストになっているのは?」半匙ほどベーコンにかける。


「これが大変なのよ、すり鉢で潰していって、好みの粗さになるまでひたすら潰すの。潰し終わったら瓶に入れて二・三週間熟成。常温保存もできるし、それなりに保存できるわ。試した事は無いけれど、半年以上大丈夫らしいけどその前に食べ終わっちゃうのよね」お茶を一口。


「で、アレは何?」

「俺が知るか」


窓の外にはパンを手にした男共が数人。その中の一人が仲間に押されて話しかけてくる。


「な、なぁ、エルフの嬢ちゃん。一匙俺たちのにもかけてくれないか?」


「なんでよ」確かにそんな義理もない。


「いやぁ……それをかけて食べてる兄ちゃんが、えらく美味そうに食べるもんだからよ。」

「そうそう、あの顔は反則だ」

「するってぇと試したくなるのが人情ってもんよ」


「「「なぁ、頼むよ。この通りだ」」」男共、パンを掲げて頭を下げる。


「……仕方ないわねぇ。一人一匙よ。よーく味わって食べなさいよね」


「「「おおおおお……」」」


ち、どいつもこいつも……ヒトの顔を見て食べたくなったとか失礼な奴らだ。

……が、この店にとってはいいデモンストレーションになったか。


「好みもあると思うから、全体的にはかけないからね。鼻に来るヒトもいるから、頬張りすぎちゃ駄目よ」


注意をしながらエステルが順番にカラシ菜の種のペーストをかけていく。


「……」


列の最後尾には、女将三人と旦那が申し訳なさそうにパンを持って並んでおり、旦那がこれまた申し訳なさそうに代表して口を開いた。


「いやさ、厨房と店先を往復していたら、あんたらが旨そうなものを付けて食べてるじゃないか。料理人としては是非とも味見させてもらいたくてだな」


「……料理人だなんて取って付けた様な理由ね。あげてもいいけど条件があるわ」


「な、なんだ?」反射的に身構える四人。


「一か月半くらいはもつかと思ったのに、無くなりそうなの。作るの手伝ってね」


「それは作り方も教えてくれると言う事か?」


「顔を見る度、要求されるのも面倒くさいじゃない。あ、レシピ代はちゃんと契約を交わしてもらうからね。やはりギルドでやるのかしら?」


「そうだが、一体どれ位なんだ」旦那が引き攣った顔で答える。


「ん~そこは相談しましょ、現実的な所で。ギルドの本職の方に相談すれば、丁度いいところを提案してくれるでしょ」


”そう身構えないで、まずは味を見て”と言ってエステルは、パンのベーコンに一匙かけてやるのだった。




朝から気苦労が絶えない。


この街に来てからエステルの稼ぎが凄いことになっている。しかもそれは自分から動かず、向こうからやってきた儲け話だ。


好き勝手やってると、トラブルとまでは言わないが周囲に迷惑を掛けそうだなぁ。誰かに後見人を押し付け……もとい、お願いしとこうか。


ギルド長あたりなら二つ返事で引き受けてくれそうだけれども、ウルリカさんにシワ寄せが行きそうだ。


まぁいいか、レシピで契約がどうのとか言っていたから、ついでに頼んでしまおう。


朝食ラッシュと宿のチェックアウトが落ち着いたのを見計らって、俺たちと宿からは女将とでギルドへやってきた。




「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件で」


今日は珍しく男性職員がカウンターに入っていた。


「俺は例の件の荷物の積み込みに。彼女たちはある契約を交わしたいってことで、ギルドに仲立ちをして欲しいと」


「かしこまりました。契約に関しては私が。誰か!ヴィリュークさんを倉庫まで案内してくれ!」


その声に素早くロレンサが反応し、俺の腕を取って案内し始める。


「ささ、ヴィリュークさんこっちですよ」


「お、おい。そんなに引っ張るな。エステルまたあとでな」


黙って手を振るエステルの目が、何か不機嫌そうに見える。なんでだ?


「それではお二人ともご案内します。商売の話となると、色々と聞き耳を立てる輩が多いですから専用の個室があるのです」


そうして男性職員を先頭に、ギルドの奥へ二人は案内されていく。




「おやっさーん、調査隊の物資受取りのヒトが来たよ~」


「おう、今行く!おめぇら用意しろ!」


倉庫から出てきたのは、筋骨隆々の中年の普人男性である。


「で、どこに載せればいいんだ?」


そこにいるのは、チビのギルド受付嬢(ロレンサ)と中年男性とは対照的なスラリとしたエルフ男性。周りには馬車も無ければ荷運びリディもいない。


大声で怒鳴ろうとするのをエルフが制し、肩から担いでいた筒状のものを地面に置く。


カバーを外し、ツイっとつま先で押すと丸められていたじゅうたんが広がっていく。


「調査隊がエルフのじゅうたんを手配出来たって噂は本当だったのか!!」


さらに中年オヤジは、好奇心いっぱいの表情で訊ねてくる。


「で、荷物はどうするんだ?」


その問いに対してエルフはじゅうたんに手を添えると、魔法陣が浮かび上がった。


「さ、魔法陣に荷物を載せていってくれ」


その言葉にオヤジは、後ろに控えていた部下から荷物を一つ引っ手繰ると、そっと載せてみた。


すると水面に小石を落としたかのように、荷物がゆっくりと魔法陣に沈んでいくではないか。


「なんか……面白れぇ!」


中年オヤジは部下から荷物を受取ると、一つ一つ載せて魔法陣に沈んでいくさまを嬉しそうに眺めていく。


「おやっさーん、俺たちにもやらせて下さいよ~」当然部下たちからブーイングが上がり、エルフからは呆れた口調のツッコミが入る。


「三つ四つ重ねても入るから、そんな非効率な事はやめてくれ。それと整理しながら納めるから、中身の申告もな」


「あんだよ、意外とつかえねぇな」部下の一人がダメ出しをしてくる。


「あんたの小銭しか入らないポケットと、ここの大容量の倉庫と一緒に考えてるようなものだぞ」


一瞬の間を置いて男たちが爆笑する。


「成程、分かりやすい例えだな。一つの隊商分程の荷物なんだ。入るだけでも凄いってこった。しかし、魔法陣の中で整理整頓されていると考えると、それはそれで驚きだな」


”それでははじめようか”と作業が滞った原因のオヤジが号令をかけると、部下からすかさずツッコミが入り、作業が始まった。




明るい仕事場だな、と思いながら俺は次から次へと来る荷物の仕分けの為に、魔法陣を操作していく。


途中、荷物を積み過ぎてバランスを崩した作業員が、荷物もろとも魔法陣に突っ込んでしまったが、荷物だけ綺麗に納まるという一幕があった。


作業員は、自分まで中に入るのではないかと肝を冷やしたらしいが、収納魔法陣に関して言えばそのような事は無い。


荷物を出すために腕は入るが、それ以上は入らない。せいぜい肩くらいまでである。恐らく心臓の鼓動が関係してるんじゃないかと思う。


以前、荷物が途中で引っかかり、調べてみるとネズミが紛れていたことがあった。その点、植物は全く問題ないが、虫に関しては不明である。


これも前にあったことだが、取り出した葉物野菜から芋虫がでてきて大変驚いた事がある。そうなると、色んなシチュエーションが想定されるが、怖いことになりそうなので止めておこう。




無心になって作業していたら、あっという間だった。


彼らも整理しながら運ぶ必要が無かったので、一日仕事かと思っていたら昼飯前に終わり、なぜか感謝される羽目に。


しかも収納魔法陣をもっと普及させてくれとか。その辺はギルドとか職人のエステルに頼んでくれ。俺はしがない運び屋だ。


荷物の受領のサインを済ませると、中に戻って昼飯を食べながらエステルを待つ。


食後のお茶をすすりはじめて、ようやく出てきた。二人もギルド職員も疲れた顔をしていたが、明るい表情であるところを見るとお互いに良い着地点で契約できたのだろう。


内容なんか興味ない。ヒトの財布の中身を気にしてどうする。自分ので精一杯だ。




エステルは俺と同じテーブルについて昼を取るようだが、女将は仕事が溜まってるとかで一服もそこそこに宿へ戻って行った。


午後の予定を尋ねると、ギルド長の工房を見に行くらしい。足りないものがあれば買い出しに行かねばならないとか。


その際に道案内が必要なので、俺にお鉢が回ってきた。まぁ、ギルド長はもとより職員さん達も暇じゃないしな。けれども工房までは案内してくれるそうだ。


工房はギルド長の自宅に隣接しており、家族の方たちには話が通ってるらしい。当然家賃も発生するので、家主としては掃除をして待っているとの事。


ギルド長宅に案内してもらい、挨拶もそこそこに工房を確認した結果、その日の午後は道案内と荷物運びで過ぎていったのだった。




日も暮れる頃、俺はエステルを伴ってくだんの高級料亭?に到着した。


話によると、調査中に例の通信魔道具のテストを一緒にしてしまうとのことで、開発者として同席するらしい。


とはいってるが、ギルド長がねじ込んだに決まってる。どこまで気に入ったのやら。


店の中に入ると先客が順番待ちをしている。なんだ、ギルド長一行じゃないか。付き添いでウルリカさんと調査隊の面々も揃っているらしい。


軽く挨拶をすると、丁度店員さんが現れたので、全員纏めて案内して貰う事となる。


こちらは俺とエステル。向こうはギルド長とウルリカさんを仲介として、調査隊の中心人物達と思われるのが四名だ。


個室に案内すると言うので、ぞろぞろついていく。ついていきながらメンバー達を品定めしていく。


一人目はほっそりとした普人の女性。無駄な肉を殆どつけてないといった感じか。けれども女性らしさはしっかりと残っている。


二人目は大柄の普人の女性。けして太っている訳ではない。男でもその体型を維持するのは大変だろうに、だが心無い者が見たら余計な野次を飛ばすこと必至だ。


三人目。じいさんだ。普人の老人だ。そのくせ、顔がつやつやしている。恐らく調査隊に欠かすことのできないスキルを兼ね備えているので、参加しているのだろう。


四人目は胡散臭い。フードを目深にかぶっていて性別も定かではない。まぁ、調査隊の一員として正体不明という訳にもいくまい。そこはギルド長に追求しよう。




個室に案内されると、案内されるままに席に着く。


ギルド長が、ちょっと話があるので料理を出すのは少し待つようにと伝えると、店員はそそくさと個室から退出。


「皆さんお集まりくださり、ありがとうございます。今回は特別な移動手段を手配でき、調査隊も必要な人員のみに搾る事が出来ました。少人数と言う事もあり、結束を高めるためにもささやかではありますが食事会を設けさせていただきました。是非、楽しんでいらしてください。まずはそれぞれご紹介してまいります」


ウルリカさんがギルド長に代わり進行していくと、フードの四人目が気付いたようで、かぶっていた物を脱ぎ、その顔を露わにした。


現れた顔は女性であった。別にここまで来たら性別なんて些末時だ。フードから現れた耳は普人と比べると長くはあるが、エルフと比べると短い。形も若干丸みを帯びている。


驚いたことに、フードまでかぶって正体を隠してきた女性は、ハーフエルフだった。

と、言うことで”粒マスタード”でした。

今回書くにあたり、市販のもので味を確かめてみたのですが、えらくマイルドでした。たまねぎとか入っているせいなのかな?記憶ではもう少し辛かったのですが。


活動報告にも書きましたが、来週の更新は諸事情でお休みさせてください。

申し訳ございません。


お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ