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45・残念さに定評があると判明した関係者たち

ちょっと挨拶してから昼飯のつもりが、思いのほかギルドで時間を食ってしまった。


屋台ではすでに昼飯時のピークを過ぎたせいか、残り物しかない。


それでも、個別に買った野菜・パン・串焼きの肉を合体させて、まとめて食べながら歩く。


食べ終わる頃には常宿の”〇”に到着。一応個室で二部屋を確保。おかみさんには一部屋キャンセルの可能性も合わせて告げる。


普通の客なら断られるのだが、そこは長年の信頼であろう。日没までにチェックインしなければ、二人で一部屋で泊まる事にはなるが。




例の所(ミリー姉さんのとこの研究所)へ行ってみると案の定だった。


「ネコ?あぁ、入って行ったぞ」


「ミリヴィリスさんから言われた時は、話半分で聞いていたが本当にあるんだな」


何でも、ご丁寧に門番二人にネズミを一匹づつ手土産を持ってきて、堂々とド真ん中を通過していったとか。


サミィ、お前はどこでそんな事を覚えてくるんだ。




配達の仕事で来るより愛想よく通してもらった俺は、一直線でミリー姉さんの仕事場へ向かう。


仕事場の扉をノックしようとした時に、中から嬌声が聞こえてくる。


「いやーーん」


……いや、姉さんに限って昼間から情事にふける事はないだろ。そう思いつつも、扉をわざと音を立てて開ける。


「んもう、かわいいぃ~」


部屋の中ではヒトガタになったサミィが椅子に座り、コップを両手で持ってコクコクと水を飲んでいる所であった。


「姉さん、なんて声出してるんだ。外まで聞こえるぞ」


「あら、ヴィリューク来てたの。それよりサミィちゃんどうしちゃったの~?変身出来るだなんて聞いてないわよ~。しかもこんなに可愛くだなんて~んん~」


「取り敢えず語尾を伸ばすの止めろ」背筋がぞわぞわする。セツガさんも激しく頷いてる。


「それでサミィ。ヒトガタになって魔力は大丈夫なのか?」


「この部屋でなら大丈夫。ヴィリューク、ここの下にあれが通過しているわ。今ならわかる。砂の精霊の祠から細く魔力が立ち昇っているわ」


それを聞いてセツガさんが驚いて立ち上がったが、何かに気付いたのか再度椅子に座り直した。


「セツガさんどうかしましたか?」


「いえ、魔脈の噂は昔からある話なので。重要な都市は魔脈の上に建設されているというのがありましてね、成程…まさかサミィちゃんから事実を知らされるとは」


今の会話でそこまで察せられるとは、洞察力もさることながらこの人の知識量も相変わらずだな。




「あら、そんな魔力の吹き出し口に祠があって、よく肥大化しないわね」自分のブラシなのか、ヒトガタサミィの髪を梳りながら姉さんが突っ込む。


「出ている量もごく僅かなのかと。質の良さに調子に乗って大きくなろうものなら、維持できないのでしょう。あそこの砂地を維持して、自分たちを維持する位の量しかないと思われます」


「……漏れ出す量が増えないことを祈るばかりだな」


「「「………」」」


「最悪、私が契約しますよ。そうならないといいのですが」セツガさんが飄々と宣言する。


……他人事だ。他人事だが申し訳ない気持ちになってくる。


「そんな暗くならないで。来ないかもしれない事態に憂鬱になる必要はありません」努めて明るく振舞うセツガさん。


「そうよ!なんなら今から召喚士を探しておいて、いざとなったら送還してもらえばいいのよ!」


「そんなに簡単に見つかるのか?」


「だから今から探すんじゃない!もう、この話題はおしまい!で、いつまでこっちいられるの?サミィちゃん置いてきなさい!」


姉さん、仕事はいいのか。


「明後日の朝に出発する予定だ。サミィ、泊まるのもいいけど明日の夜か明後日の朝までに戻って来いよ。明後日なら砂漠側の門だ」


「行き先は砂漠?」表情は変わらないが、耳がピンと立ち小さく動いている。少し興奮している?


「そうだ。長期間いることになりそうだから、今のうちに街を堪能しときな」


その言葉を聞いて興奮しだすミリー姉さん。”今夜はここでお泊りよ~”と騒ぎ出すところに、”警備室から~”とストップをかける旦那(セツガさん)


セツガさん、こんな姉で良いのか?いや姉さん、セツガさんを捕まえておけよ。


巻き込まれたくないので、さっさと(いとま)を告げる。




調査に行くにあたって、諸々準備してくれるとは聞いたが、私物は補充せねばならない。


砂漠用の消耗品や嗜好品、村では使い捨ててもいい投げナイフなんかなかったので、武器屋にも寄る。


投げナイフはあったのだが、装飾に凝ったものとか業物とかである。俺がけして貧乏性ではないと強く言いたい。


こないだ丸太相手に披露した得物はどうしたって?あれらはそれなりに愛着があるので、出来れば無くしたり駄目にしたくない。


ということで、武器屋では程よい品質の一切装飾のない投げナイフを十数本購入。


定期的に行われている調査らしいから、荒事は無いと思う。


ただ、最近大きな得物ばかり振り回しているので、小回りの利く物が欲しくなったのだ。使わないことに越した事は無いが練習はしておかないと。




ギルドに戻ると、もう日が沈もうとする頃合いだった。


中に入るとカウンターにウルリカさんは居らず、若い子の…えー、名前は……ロ……。


「ヴィリュークさんお帰りなさい」


「あぁ…ロ…ロレンサ、ただいま」よかった、思い出せた。


「戻られたらお通しするようにと。どうぞこちらへ」嬉しそうにロレンサが先導していく。


ギルド長の部屋の前に来ると、ノックして中に声を掛ける。


「ロレンサです。ヴィリュークさんをお連れしました」


扉が開くとウルリカさんが顔を出し、中に招き入れる。


そこには休憩中なのか、お茶を飲んでいるエステルとギルド長、給仕役に回っているウルリカさんがいた。


「ウルリカさんありがとうございます。疲れていませんか?」


「いえお気遣いなく、わたくしは大丈夫です」


するとお茶を飲んでいたエステルがむくれはじめる。


「こっちに労いの言葉の一つもないのぉ?」


「労いも何も、お前さんは好きなことをやってただけだろ」


「いえ、エステルさんにはギルド長のブレーキ役になっていただき、助かっております」


ウルリカさんの言葉にエステルは得意満面である。お前さん村での所業を棚に上げて、よくもそんなドヤ顔できるな。


つい言葉に出してしまいそうになるところをぐっと我慢し、声を掛けてやる。


「そうか……お疲れ様」


俺たちがやり取りをしている横でギルド長は、写本の魔法陣(仮)に夢中である。


お茶も一啜りだけで、魔法陣を指で辿って内容を把握しようと必死である。


「ギルド長も暫く開店休業ですかね」


「そこは大丈夫です。取り上げて餌にすれば、必死で仕事をしますよ。何と言いますか……はい、物凄い集中力で」


部下にそこまでの手段を取らせるとは、ギルド長の駄目さ加減と有能さが垣間見える。




「進捗はどうなんだ?」


「半分弱、写し終えたわ」


しれっとエステルは答えるが、相当なペースじゃないのか?


「ただねぇ、この後のページは時間がかかるわ。魔法陣の精密さが後ろに行けば行く程、緻密になっていくのよ。丸々一ページ魔法陣だったり、連結魔法陣ひとつの説明に五ページ使ってたりするのよ、とんでもなく凄いわ」


専門家にそこまで言わせるとは相当なのだろう。


「この【魔法陣大系】はまさに最先端の書物ね。書かれた当時はきっと最先端すぎて、半分も理解されなかったと思うわ」


「”ようやく時代が追いついた”ってやつか」


「こっそり私も読んでいるのですが、大変高度な技術です。付与術師ドミニクの作品は、殆ど再現できていないのですよ」


魔法陣から顔を上げたギルド長が注釈をいれてくる。


「ギルド長……」ウルリカさんが窘める。まるでため息をつく様に。これで何回目だろう、苦労しているな。


「そんな声を出さないでください。元はと言えば私の私物だったのですから」


「売り先もない希少な素材や資料の買い過ぎで、ご自身の工房の身代を棒に振りましたよね」


「う……」


「その本を担保にギルドが借金を立て替えましたけれども、結局払えませんでしたよね」


「あぅ……」


「それでも足りなくて、ギルドで働くことになり今やギルド長とか、有能なんですか?無能なんですか?」


「ぐぅぅぅ」


とうとうテーブルに突っ伏して悶えるギルド長。


「ウルリカさん、どうかその辺で勘弁してやってください」


ばあさまの関係者はこうも極端なのだろうか?エステル然りミリー姉さん然り……。ひょっとして俺も、自分で気づかないところで同様の評価を受けていたりするのだろうか。


……怖くて他人に聞けない。




「ん゛ん゛、エステル、それでどうするんだ?」


咳払いをして話題を変えていく。


「仮設の魔法陣では非効率だから、この際写本用の道具を作るわ。写本が終わったら、お城の関係部署のお偉いさんを紹介してくれるって」


「就職どころか一攫千金だな」


「そうよね。一回実家に帰ろうかと思ったけれど、帰れないなら手紙でも出そうかしら」


「それがいい。タイミングが合うならば俺が配達してやるよ」


調査から帰った時、まだ王都にいるようだったら配達してやる約束になった。


俺が調査の間、エステルはギルド長の使われていない工房に間借りさせていただき、正式な写本用の魔道具を作成することになったとの事。


国が食指を動かさなくともギルドが、ギルドが駄目でも個人的に写本の依頼を受ければいい。いくらでも商売の可能性は転がっている。





本日はここまでにさせて、また明日だ。


エステルを宿まで連れてチェックインさせないといけない。


ギルド関係者の方々に暇を告げ、宿まで走る。


エステルが文句を言ってきたが、事情を話し、飯が美味いところだと言うと静かになった上にペースが速まった。うん、分かりやすい。


宿にはギリギリ間に合ったが、連れてきたのがエルフで女と分かると、旦那も女将も目の色が変わった。


そんな関係じゃないというのに、なんでこうも詮索好きになってしまったのか。程よく放っておいて欲しい。


エステルもエステルだ。


上手く質問に対してじらし、”美味しいものがあったら~”だとか”美味しいお酒が欲しいな~”とか勿体をつけ、タダで色々せしめてる。


酒場でウエイトレスでもやったら、助平な酔っ払いの財布を空に出来るんじゃないのか?


……多彩な奴てことで済ませられん。少し大人しくしていろ。なんで俺がハラハラしなくてはいけないんだ。


前後不覚になる前に連行して、割り当ての部屋のベッドに運ぶ。噂になるの不本意なので女将にも手伝ってもらい、宿のマスターキーで外から施錠してもらう。




なんで俺がこんなにも世話を焼かねばならないのだろう。早く悠々自適な一人暮らしに戻りたい。

感想・評価お待ちしております。

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