43・王都ギルドにて
諸事情で今回は短いです。
王都までの道中は特に問題なし。
行きで夜営した河原で今回も一泊し、野生動物等の襲撃はなかったのは前回の件が威嚇になったかは定かではないが、何事もなく良かった。
王都へ入るための列は相変わらずスムーズに流れてはいたが、そこは王都。それなりの行列はある。
じゅうたんに乗って並んでいると、珍しさから周りに注目を浴びる。
俺は慣れているけれども、エステルはジロジロと見られはしないが明らかな他人の視線に居心地が悪そうだ。
山側から入る事はまれなので、視線が多いのかもしれない。
砂漠側はいつも出入りしているので、門番も門の利用者もじゅうたんを見慣れているからなぁ。
門番のチェックも問題なく終わり、そのままじゅうたんで通過する。
街に入ったらまずギルドへ行く。配達人としての習慣だ。ギルドに緊急の依頼が入った場合、所在が明らかな人員から手配していくからだ。
余程のことがない限り休暇中の俺にお鉢が回っては来ないのだが、例の依頼やエステルの魔道具の件もあるので、アポ取りの為にもギルドでタグ登録はしておく。
内部に入るとやはり王都のギルド。
夕方のピーク前にも拘わらずカウンターが全て埋まっているので、その内の一つに並び順番を待つ。
”おい、砂エルフが女連れているぞ”
”見慣れない女だな”
”ちっ、砂エルフめ”
”あぁん、いい仲になってじゅうたんに乗せて貰おうとおもってたのに”
”よく見ろ、奴と同じ筒の袋を担いでいるぞ”
”まさかあの女もじゅうたん持ちか!”
何やら背後が五月蝿い。俺へのセリフはどうとでもなるが、エステルへのセリフが不穏というか心配である。
そうこうしてると順番が回ってきた。
いつもの様にタグを登録し、エステルにも同様にさせ、本来の目的のために口を開く。
「ギルド長へのアポイントを取りたい。村へのじゅうたんの件と言えば分かるはずだ。それと別件が一つ。エステル」
受付の女性職員へお願いをし、エステルに声をかける。
「ヤースミーン師からの紹介状です。ギルド長へお渡しください」エステルが紹介状を差し出す。
「都合を聞いてまいりますので、少しお待ちください」
女性職員が紹介状を手に、奥の扉に消える。
「ドキドキしてきた」エステルがぽつりとつぶやく。
さほど間をおかずに女性職員が戻ってきた。
「今からで宜しければお会いするとのことですが、いかがなさいますか?」
「ではお願いします」二つ返事で了解すると、扉の奥に案内される。
廊下を少し進むと、しっかりした造りの扉の前で止まり、ノックと共に声をかける。
「お連れいたしました」
「どうぞ」
勧められるがままに部屋に入ると、がっしりした身体つきの男が大きな机で書類を片付けていた。
なんだろう違和感がある。
顔全体にひげを生やした壮年の男性。ちらとこちらに投げ掛ける視線は穏やかなものだ。
「もうすぐ切りがいいので……そちらのソファにお掛け下さい。あ、お茶を人数分頼みます」
女性職員はかしこまりましたと返事をして、部屋を後にする。
突っ立っているのもナニなので大人しく席に着く。
伸びをする声が聞こえて振り向くと、男性が立ち上がった所だった。
トントンと何かを踏みしめる音がすると、彼の高さがそれに合わせて低くなる。
驚いて凝視していると、机からは彼の顔だけが見え、こちらに向かってくる。
回り込んで現れた姿、なんと王都のギルド長はドワーフだった。
ふう、と息を吐きながらドワーフはソファに腰を下ろした。
「おっと失礼。初めまして、ここのギルド長をしていますザルトシュです」
「配達人のヴィリュークです」
「織物職人をしてます、エステルと申します」緊張しているのか挨拶が固い。
ドワーフと言うと職人のイメージが強いが、この人はどちらかというと学者っぽいな。
「あなたが来て下さるとは。砂エルフのじゅうたんの噂はかねがね。どこまで聞いてらっしゃいますか?」
どうやらギルド長は俺の事を知っているようだ。
「なんでも旧王都へ調査隊の送迎をしてほしいとか」
うんうんと頷くギルド長。
「昔は私も参加していたのですが、こんな要職についてしまったので報告を受ける方になってしまったのです。のんびり過ごしていた頃が懐かしいです。あぁ隠居したい、趣味に浸りたい」
その一言がお茶を持ってきた女性職員の耳に入り”まだ現役でいて貰わないと困る”と返される。
「地図や食料・備品の類いはこちらで用意します。それであなたのじゅうたんですが、ヤースミーン師の手によるものと聞いてますが間違いないですか?」
お茶をすすりながら問いかけてくる。
「ええそうです」
「おぉ!ならば荷運び用のリディの分、経費削減出来ますね。砂漠でのガイド、一通りお願いしてもよろしいですね?」
その言葉を聞いてわざと渋面を作る。
「一通りでなく、全てでは無いですか?こちらに負担が増えるのですから、それに見合った報酬はお願いできるのですよね?」
すると畳まれた紙をスッとテーブルに押し出される。
「あなた個人への報酬を幾つか見繕ってみました。好きな候補を選んでください」
黙って紙を広げ、中を確認する。エステル、覗き見るんじゃない。
しかし特に隠すわけでもなく、好きに見させる。
そこに書かれていたのは様々な形での報酬であった。
金貨は言うに及ばず、希少な素材・一点物の魔道具・稀覯本は原典や写本がリストアップされている。
「ひゅ!付与術師ドミニクの”魔法陣大系”がある!リストにあるってことはコレ本物なんですよね!」エステルが食い付いた。
「本人の手による写本ですから、写本ミスはありませんよ。それと本人は飽くまでも酒神の神官を名乗ってますよ」
「「お前のような神官がいるか!!」」エステルとギルド長が声を合わせて叫んだ。
ちょっと驚いてしまったが、女性職員さんは冷めた目付きでそばに控えている。これは何かの鉄板ネタなんだろうか?
全く……お金での報酬ならば当り障りがないものを、それ以外のシロモノを要求したら何十年拘束されるか見当もつかない。
「もし魔道具とか要求したら”じゃあ、十回ほどヨロシク”とか言うのではないでしょうね」
「ふむ、残念。ぎっちりと契約で縛り付けようかと思ったのですが」
穏やかな顔をしていても百戦錬磨のギルド長。うっかりしてるとケツの毛まで毟られそうだ。
「現在私は定期便を休暇扱いで休んでますが、そちらはどうなりますか?」
お茶を一口。カップを置いて答える。
「いま代理で入ってくださってる方に、しばらく続けていただきます。腕が確かなら、王都までの直行便は良い稼ぎになるので嫌とは言わないでしょう」
それならば安心だな。
「それで出発はいつの予定で?」
「人員は既に待機中です。荷物が明日揃う予定ですので……明後日でもよろしいですか?」
「えらくまた急ですね」俺が来てなかったら、延々待っていたのだろうか。
「いや、”じゅうたんはまだか。早く乗りたい”と毎日確認に来るのですよ、その中に」
「……断ってもよいですか?」
「駄目です」
向こうのギルド長に”散々拒否権はない”と言い聞かされてたから分かってはいたが……ため息ばかり出る。
今月頭に親戚に不幸がありました。
市の斎場が四つしかないせいで順番待ち。
お盆当日に、お葬式と初七日法要って詰め込み過ぎです。
まぁ、順番待ちのお蔭で足を運べた訳ですが、結果を見ると色々考えさせられます。天国のおじさん、がんばったなぁ。
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