39・新作披露は全てに優先される
三連休普通に仕事してたら、危うく更新を忘れる所でした。
危ない危ない。
明るさにふと気付く。
今回はちゃんと実家の自分のベットで目が覚めた。
隣にエステルはいないし、サミィもいない。穏やかな朝だ。ほっとしている自分がいる。
エステルは自室だろう。サミィは思いのほか魔力を消耗したらしく、例の玄室のソファに寝かしてきた。あとで迎えに行かねば。
あの後、大きな騒ぎもなく事件は一先ず収まった。
子供たちの怪我は大したこともなく、疲労がたまっている程度。よく食べよく眠れば、すぐに回復するだろう。
山賊どもは例の空中機動で疲労困憊、歩くのがやっとで、急遽作られた土牢の中(魔法で深さ四メートルの穴をばあさまが掘った)で大人しくしている。
日が明けてから、一枚のじゅうたんが現状を知らせるべく、隣の領主宛にギルド長の手紙を運んでいった。昨晩に引き続き、各種制限の解除がなされているので、早馬はもとより通常より早く相手に到着するはずだ。
昨日と同じ朝の食卓。
穏やかな食卓に、ギルド長も一緒に朝食をとっている。
何でも支度をしている所にふらりとやってきて、「朝飯食わせてくれ」と挨拶もそこそこにテーブルに突っ伏したらしい。
ばあさまは「仕方ないわね」と言って普通に一人前追加をエステルに命じたそうだ。
「ナヴィイド、あなたが来るのも久しぶりね」
「色々と話すことがあったし。ギルドハウスよりもなんとなくこっちの方がよさそうだったんでな」
「ギルド長、暫く来てなかったんですか?」
「いつも不思議だったのですが、なぜギルド長がここで一緒に朝ご飯食べてるんです?」
「エステル、今更?何も言わないから知ってるものと思ってたわ…ナヴィイドは私のいとこでね、数少ない血縁者だから遠慮するなっていってあるの」
なるほど、とばかりにポンと手を鳴らしてくる。
「いとこは言ったものの、腐れ縁でなぁ……何度こいつの尻拭いをしたことやら」
「あんまりな関係過ぎて、みんなからは”お前らくっついちまえ”とかよく言われたわねぇ」
「人身御供だな、くっつけってのは。俺を生贄にして世の安寧を保つ……ってやつだ」お茶を一口飲みわざとらしくため息をつく。
「それを言うなら私だって。毎度小言ばかりのあなたとくっつくなだんて、ありえないわ」
微妙な表情で見つめあう。
「ま、お互いにお互いの良縁が見つかったのは幸いか」
「お互い先に逝かれて、お互いに逝きそびれちゃったけどね」
新しいお茶を淹れて本題が始まる。
「昨日はありがとう。間一髪で事が収まったと聞いている」
ギルド長からの第一声は礼から始まった、気にしないでくれとばかりに先を促す。
「子供たちの親がそのうち挨拶に来るだろう。山賊たちに関してもおっつけ山向こうから護送車が来るだろうし心配はいらん。しかし山の手入れも善し悪しだなぁ」
山賊どもへの尋問によると、ちょくちょくこちらを偵察していたらしい。常に退路の確保とか妙な所でマメなん奴らだ。間伐とかで足元が整備され、山歩きにも慣れていたのも、あいまったのだろう。それにより、街道の早馬に近い速度でこちらに出没できたのではないかと推測される。
「はぁ、ヤースミーン。お前、遠くの情報を一瞬で届けられる道具とか開発できないのか?」ギルド長、被害がなかったとはいえ今回の騒動でお疲れらしい。
「ん……あるにはあるけど、精々一キロ圏内で音声を届ける程度のものならば……しかし送り手・受け手が常時それなりに魔力を消費するから、使用場面は限定されるわ」
「そう都合のいいものは無いか、はぁ」
お互いお茶をぐいっと一口。
気付くとエステルの様子がおかしい。そわそわしている。
声をかけていいのかわるいのか、案はあるのだが自分の提案に自信が持てないらしく、もじもじしている。
「ばあさま、エステルがなんかあるらしい」
「ちょ、ヴィry、わたしはなんにも」
「エステル、何かいいものでもあるのか?師匠に認められる一品なら独立も夢じゃないだろう」ギルド長がさり気なくハードルを上げてくる。
「なに、いつの間に作ったのよ?勿体付けないで見せなさい」
観念したのか、分かりましたと呟くとエステルは二階に上がっていく。
「あの子、工房じゃなくて自分の部屋に行ったわね」
「それがどうかしたか?」
「私に内緒で何かを作っていたってこと。なにをそんなに秘密にしていたのかしら」ばあさまの好奇心が首をもたげてきたらしい。
さほど間を置かずにエステルが戻ってきた。なにやら綺麗な装丁の本を二冊、胸元に抱えている。
「どうぞ」席に着くとテーブルにそっと置いた。
ばあさまとギルド長が一冊づつ手に取り検分を始める。二冊ともスッキリとしたデザインであるが、如いて言うならば男性好み・女性好みに分けられるか。
パラパラと中をめくってみるが、なんてことはない。まだ未使用の日記帳である。しかも罫線の引かれ方から察するに、交換日記のようだ。
「「……」」黙って視線を合わせる。
ただの日記帳を持ってくるはずはない、いやそう思いたいと言い聞かせるようにあちこち調べ始める二人。
あまりの念の入れように恥ずかしいのか、エステルの耳が少し赤くなり始めている。
「あ、あの!」
「まて!」
答えどころかヒントも拒絶して、ばあさまは日記帳を調べていく。しかし先に気付いたのはギルド長だった。
「ん?ああ、カバーは外れるか……ふむ」外したカバーを手に取り内側を調べ始める。
その内側には、様々な形をモチーフとした幾何学模様が片面に縦三横二合計六つ、両面で十二個描かれていた。
それに気付いたばあさまも、自分の方のカバーを外し模様を一つ一つ調べていく。
「これは面白い。新しい書式の魔法陣か。これはまた違った美しさだな」
陣を辿っていく指がふと止まる。
「ん?これは……複写とも違う。精査・識別ときて複写をして……それを……送る…いったいどこへ?」
取り敢えずは後回し。反対側をじっと見る、そこに書かれた一つの陣を見て声を上げる。
「……受取り、これは!」
「気付かれたみたいですね」カバーを受取り、二枚広げて並べる。
「これは二枚一組の新しい意思疎通手段です。カバーをはめた帳面に書かれた内容を、対になっている帳面にそっくりそのまま複写します。師匠の道具は音声を遠く離れた相手に伝えるものですよね。使用時の情報量も多いですし、待機時の使用魔力も大きいので伝達距離も使用魔力も使い勝手はよろしくない」
同席者が説明に黙って頷く。
「どうにかしてコストを下げられないかと考えた結果、文字情報ならばいいのではないかと。さらに文字として識別させるのもやめました」
「どういうことだ?」
「いっそ、帳面に書かれたものをそのまま送ってしまえと」
ギルド長は少し考えてピンと来たようだ。
「……絵とかも送れるってことか」
「精密なものは送れないのですが、使用には十分かと思います」
「どれくらいの距離まで届くの?」
「普通に使う分にはこの村から実家の港街まではいけます。あとは魔力を注げば注ぐほど遠距離とのやり取りが可能です」
「注ぐと言っても個人差があるから難しくないか?」
なにやら”ふふん”といった顔をされた。一々ムカつくのもバカらしい。新しいものを得意気に解説するのは、ばあさまと一緒だ。
「そんなこともあろうかと、小規模ではありますがマナ変換と魔力貯蔵が出来る様にしてあります」
「……なるほど。場合によっては魔力を注ぐ者が同一人物である必要はないという訳だ」
「ご明察です、ギルド長。頻繁な”会話”をするならば、また遠距離で”会話”するならば、人数を集めて魔力供給をすればいいのです。けれど、その前に貯蔵をもう少し改良しますけどね」
ここまで、俺とばあさまは無言であった。やり取りはギルド長任せ。
「エステル」
「はい師匠」
「……」
「……」
「もう、教える事は無いわ。免許皆伝、一人前ね」
「ひぇ、ひゃ、みゃだ、教わりたいことはてゃくさんありますです!」
慌てふためいたエステルの口調がとんでもないことになっている。
「あなたは私と同じになる必要はないわ。そしてあなたの作ったこれは私の発想を超えている」
「け、けど、師匠の教えがあってこれを作れたんです!」
「それはあなたの実力よ。現に私はその発想に至らなかった」
まだ何か言いたそうに、しかし言葉にならず身振り手振りだけのエステル。
「設計図があれば私にも作れるでしょう。でも設計図はあなたのものよ。それは基礎となる大切なもの。それを作り出せない者がごまんといるのよ」
手を握りしめ涙目になってばあさまと会話するエステル。それを俺とギルド長は黙って見つめている。
「これで独立ね。おめでとう。これについて詳細をもうちょっと纏めてもらわないといけないけれど、将来この魔道具は国家間・ギルド間限定で重要なやり取りがなされること間違いないわ」
「!!?!え?それはいったい!?」
突然エステルがあたふたし始める。
「最新の情報は金より重いわ。一分一秒過ぎる毎に価値が下がる状況もある。あなたの魔道具はその価値を大幅に上げるものよ。これだけ重要過ぎると、開発者保護のため秘匿しなくちゃいけないけれど、雪だるま式にお金が入ってくるわ。億万長者ね!この魔道具で名声は上げられないけれども、あなたなら別のところで有名になれるでしょ」
「ぃえ…そんなつもりは、まった…く無いのです、が…」
なにやら様子がおかしい。
「私はちょっとした、小さな望みを…叶えたい、だけ、だったのです……」
でっち上げた建前が斜め上に展開し、大事になってしまった為オロオロしはじめるエステル。何をしたかったのか。
「「……?」」
作成者の困惑に、こちらも困ってしまっているばあさまとギルド長。
「なにか不服というか、意図していた展開があったのかね?」やさしくギルド長が訊ねる。
「エステル、私はあなたの成長がとてもうれしいの。巣立っていくのは寂しいけれど、一人前になった弟子を祝福したい気持ちに偽りはないわ」
「……億万長者なんて望んでません。望んでいたのは」
「「「……」」」
黙って次の言葉を俺たちは待つ。
「……私、いつか、恋人が出来たら、交換日記を交わしたかっただけなんです」
ばあさまは生温かい目つきでエステルを見る。
ギルド長は、乙女の反応に頭をかきむしる。
俺はこの状況を収めるにはどうしたものかと、深く深く溜め息を付いた。
俺がばあさまに呼ばれた訳を聞くはずだったのに、またお預けかよ。一体いつになったら……ふぅ
エステルだって夢見る女の子なんです(ぇ
お読みいただきありがとうございます。




