36・結婚の成果、もしくは対価
四日前に突然アクセス急増。
調べてみると昨日時点で、日刊ランキング258位。
そもそもの発端は何だったのか?焦りまくりです。
PV22000達成
ユニーク3500達成です。
皆さんに面白いものを提供出来るよう頑張ります。
豆腐メンタル(木綿)ではありますが、感想をお寄せいただけたら今後に生かしたいと思います。
朝の特訓も三日目だ。
ばあさまの指導の下、エステルと組手をしていると、籠を背負った子供たちが通りかかった。
「「「ししょー、おはようございます」」」
「おはよう~、どこいくの?」
「みんなで山菜取りに行ってきます」一番年上の男の子が返事をする。
「気を付けてね、今の季節は熊も下りてこないと思うけど万が一ってのもあるから」
会話しながら近寄ってくると、籠に付けられた熊除けの鈴がカラコロ音を立てる。
「大丈夫、鈴もあるし!」真ん中の男の子が元気よく答える。
すると静かにしていた一番小さい女の子が訊ねてくる。
「ししょー、そのだいているのはネコ?」
「なに?ネコを見るのは初めて?」
三人そろってうなずく。
「撫でてあげて。優しくね」
三者三様、そっとそっと撫でていく。
「おっきいみみー、わたしたちみたいだねぇ」女の子が頭を撫でていくと、耳がへにょっとつぶれる。
プルッとサミィが頭を振ると、女の子が反射的に手を引っ込める。それでもそーっと伸ばしてくる女の子の手を、今度はサミィが舐めていく。
「ざらざらしてるー、くすぐったーい」
「そうだ!ぼくたちみたいな耳をしてるからエルフネコだね!」真ん中の男の子が宣言する。子供の思い付きと言うものは微笑ましいものだ。
「えー、そんなの聞いたことがないよ」一番年上の子は現実的だ。
「まぁまぁ、そう言いなさんな。サミィ、この子たちに寄るとお前さんはエルフネコだそうよ。どう?」
「にゃー『別に構わないわ』」
ばあさまは、膝にのせているサミィの前足を取って動かしながら返事をする。
「エルフネコでいい、って言ってるわ」
「「「ししょーネコの言葉わかるんだ、すごーい!」」」
更にもう片方の前足を取ると、サミィは後ろ足立ちになり、ばあさまは腹話術宜しくこう宣言する。
「山菜がいっぱい採れるよう、エルフネコの祝福を授けよう。近こうよれーい」
面白がって近寄る子供たち。
男の子二人には額へにくきゅうを”むぎゅ”と押し付ける。
女の子には額から更に、ほっぺたを両にくきゅうで挟み込む。
「「あーっ、シィナばっかりずるい!」」
「エイツァもビイトもお兄さんなんだから、広い心を持ちなさい。シィナはまだ小さいから、ちょっと多めなのよ」
二人は少し不満そうだが、シィナは両手をほっぺたにあててご満悦だ。
「さ、早く行かないと夕方までに帰ってこれなくなるわ。いってらっしゃい」
慌てた様子で三人は、熊除け鈴をカラコロ鳴らしながら走り出す。
「「「いってきまーす」」」
「ばあさまは弟子が一杯だな」
「週に何回か子供たちに体術とか精霊魔法を教えてるんですよ。初めは”先生”だったんですが、私が”師匠”って呼んでいたらいつの間にか子供たちもそう呼ぶようになったんです」
「やー子供は可愛いわね~。生意気なのもいるけどね~」
組手も終わり一息ついたので、棍の準備をしているとばあさまから声がかかる。
「今日はここまでにしましょう。いい加減じゅうたんの整備を終わらせないといけないわ」
「そうだ、もう呼び出した理由を教えてくれてもいいんじゃないか?」
「ん~、まぁ、やってもらいたいことは変わらないわ。砂漠を飛んでもらいたいの。ただ、行き先と運ぶものがちょっとね」
何やらはっきりしない返答で気持ち悪い。わざわざ俺を呼び出さねばならない理由は何だ。
「兎に角その依頼のためには、お前のじゅうたんを万全にしないといけないの。てことで、早めのお昼を済ませて作業に入りましょう」
昼食後、ばあさまとエステルは玄室にこもった。
万が一来客があっても、大声を出せばブラウニーが呼び出してくれる。
そういう俺は、母屋の工房で装備品の手入れをしている。こうも得物が多いと大変で、掃除だの研ぎや柄の手入れをせねばならない。
幸いなことに、先日の三人組が昨日到着している。
到着してすぐにお誘いが来て、改めて酒だ飯だと親交を深めたのである。その際、鋳掛屋師弟には諸々の研ぎを依頼した。
俺も研ぎは出来るが、専門家のそれには足下も及ばない。触れてみれば理解してもらえるだろう。不注意に触れようものならば、そこから血がにじむのである。
親方は鍛冶が本職であろうとも、それに類する仕事のほとんどを修めている。
午前中に様子を伺ってみると、既に依頼した研ぎは終わっていた。専門家の仕事の手際をまざまざと見せられてしまった。
こうなると自分の仕事をしっかりと勤めねばと、気合を入れて手入れに臨んでみたのである。
……気付けばあんなにあった得物の山も無くなっていた。黙々と集中出来ると、こうも効率が良いものなのか。
時間は夕方にはまだ早い午後と言ったところか。
じゅうたんの二人はまだ出で来ないので、先日使わなかったこれで遊ぼうとしますかね。
今回のおもちゃは投擲槍と投槍器、投槍器は別名アトラトルとも言う。
主にジャベリンは見通しの悪い森林地域で発達し、その他の発達した地方では大型の獲物のとどめを刺すために用いられてきた。
過去形なのは、既に歴史上の武器と言っても差支えないからだ。
遠くの敵を倒したいなら弓矢があれば良いし、現在では長射程の魔法も開発されている。
幸いなことにエルフは間伐の習慣があるので、見通しの良いエルフの森では弓矢が使われ、発達してきたのだ。
くだんの投槍器の形状は、一見細長い棒である。
握りとなる片方は、下方に角度をつけて曲がっており、本体は槍が載せられるように溝が削られている。
反対側の端は、槍の石突が当たる様に溝は貫通されていない。この様に溝に槍をセットし、後はいつもの様に投げるだけである。
俺の投槍器には細やかな装飾が施されているが、それは飽くまで装飾であり魔法陣ではない。その代わり持ち手の先端に魔石がはめ込まれている。つまりは魔石を核に付与魔法が施されていると言う事だ。
ばあさまは模様の様に魔法陣を装飾するので、これは恐らく以前話に合った相方のドワーフの作なのだろう。
嫌がらせの様に投擲武器ばかり作っていったって言っていたしな。
これの有無でどれ位変わるか比較すると、通常熟練したマッチョ男子が投擲しても、飛距離は百メートルにも満たない。しかも命中度外視で飛距離目的で投げてもそれ位だ。
投槍器を使うとどうなるか、過去に記録がある。
普通の体格をした男子が直径一メートルの的で挑戦してみた所、130メートル先の的に命中させたそうだ。
魔法付与なしでの比較でさえこれだけの差である。付与したらどの様な記録が出るか、推して知るべしである。
てことでやってみた。
流石にこの敷地の幅は百メートルもない。端から端で精々三十メートル程度なので、的を小さくしてみる。
投槍器しか持ってこなかったので、倉庫を漁りジャベリン(練習用だ)と弓用の的(約三十センチ四方の板に三重丸が描いてある)を持ち出す。
塀に的を立掛け、反対の塀まで歩測しながら歩いていくと三十三メートル。多少の誤差はあるだろう。
切りのいいところで、三十メートルの所に目印の線を引いておく。まずは投槍器なしでやってみよう。
思い切り投げて塀を貫通しては危ないので、精度重視で投げることにする。
あ、サミィを呼んで砂の壁を作って貰えば良かったんじゃないか。む……今更呼ぶのもナニなのでこのまま続行。
軽く助走をし、ゆったりと、しかし身体全体を使って投げる。
……うん、外しようがない。
左右五回ずつ投擲したところで、的が割れた。弓用の木の的に槍を当てているのだから、良くもったほうか?
利き手でない左だと、当たるが精度が右より悪いな。
改めて新しい的をセットし、今度は俺の投槍器を使って試す。
更に力を加減しないと……これも訓練だ。
投槍器に槍をセットし先程と同じように……いや、さらに加減をして投げる。
加減して投げられた槍は、およそ槍らしからぬ飛び方をする。
ふわりと風にのる様に、そう、切り裂くのではなく、乗る様に飛んだ槍は軽い音を立てて真ん中に的中。
左右両方で試してみたが、全て的中。
魔法付与されている投槍器とはいえ、性能が凄すぎて参考にならないし訓練にもならない。付与者、自重しろ。
投槍器なんか売ってないだろうなぁ、作り方とかばあさま知ってるかな?
形状の見本は目の前にあるから、自分で作って見るのもいいのかもしれない。
ならば村の木工職人に聞いてみるか。丁度良い素材があれば買ってみよう。
のんびり歩いていると、ギルドの喫茶スペースでブラスコとカルジェロがお茶をしていた。
ギルド前の広場では、行商人が店を開いており村の奥様達が商品を品定めしている。
「おぅ、ヴィリューク!」
「おう、休憩か?」
「いや、もう交代だ。お前も飲んで行けよ」
会話だけ聞くと酒盛りと変わらないが、ちょっと付き合っていこうか。
オルエッタさんがギルドカウンターではなく喫茶カウンターにいるので声をかける。
「あれ、オルエッタさん転職したのか?」
「んなわけあるか!兼任だよ、け・ん・に・ん!さっさと注文しな!」
「コーヒーくれ」
「そんな高級品あるか!あんたにゃ水で十分だよ!」
「オルエッタさん、お客にそんな乱暴な言葉使いは感心しないな」
「うるさい!」
オルエッタさんは俺に向けてコップに入った水をかけてきた……が、俺が水使いってのを忘れているな。
反射的に避けた水飛沫を空中で一纏めにする。
空中に浮かぶ水の玉を腹立たしげに睨みつけられてもなぁ。
「おーいヴィリュークー。あまりオルエッタをからかわないでやってくれー」遠くからカルジェロの声がする。
「……口が過ぎました。お茶下さい」すぃーっとコップに水を戻しながら彼女に詫びた。
「…ふー、ヴィリューク、あんたは何時までたっても悪ガキだよ」彼女は手にしたコップの水をぐいっと一気にあおると、お茶を淹れはじめた
それを確認して、取り敢えず二人のいる席に戻る。
「なんでああも過剰に反応するかね」
「気が強いのもあるけど、ありゃあ相性としか言いようがないんじゃないか?」
「てことはカルジェロ、お前とは相性が良かったてことか?」
「ブラスコ、どういうことだ?」
「あれ?ヴィリューク、村で誰と誰がくっついたって知らんのか?」
「誰が結婚したかは知ってるが、誰とってのは知ら……ぇえ!?まさか!」
背後から威圧感があったかと思ったら、テーブルにお茶が静かに置かれた。ハッと振り向くとお盆を抱えたオルエッタさんが笑顔で立っていた。ぅぉ、なんか逆に怖えぇ。
「なんだいヴィリューク、あたしとカルジェロとじゃ似合わないとでも言うのかい?」と言いながらカルジェロの隣に寄り添って立つオルエッタさん。まさかのまさからしい。
「オルエッタ、そんなこと言わない」
「だって!!」
その様子を尻目にブラスコに小声で話す。
「なにあれ、ベタ惚れじゃないか」
「カルジェロによると気の強いところが好みだったらしい。アプローチはアイツからだったが、今じゃ見ての通りだ」
「姉さん女房だろ、あいつ年上好きだったのか?」
「そこら辺は聞かない方がいい。怒り→宥め→激甘空間のコンボが来るぞ」
「うへぇ」
「結婚十二年目で子供が二人いるし、三人目が出来たと言われても俺は驚かないね」
「ブラスコんとこは?」
「うちは十年で男の子一人だな。嫁は愛してるが、あそこまで甘々じゃないぞ」
「はン、どうだか!」オルエッタさんが割って入ってきた、って聞こえてたか。
「ビイト君が言ってたわ。時々、いえ、よく息子そっちのけでイチャラブしてるそうじゃない!」
あぁ、聞くに堪えない。逃げ出してぇ。誰かたーすーけーてーぇぇぇ
甘々な言い合いから家庭の愚痴・世間話と移行して会話が続くと、夕日が沈み始める。
「あら?あの子達帰ってこないわね」
「どこか出かけているのか?」
「うちとブラスコの子で、弁当付きで山菜を取りに行ってるのよ」
あぁ、午前中のあの子達か、そういえばうちの横を通って山に入っていったな。
「心配だったら、じゅうたんだそうか?メンテ中だけどそろそろ終わるはずだし」
「それだったら俺たちのもだそう。カルジェロいいよな?三枚で探せば確実だろ?」
「だな。大丈夫だと思っていても心配しちまう辺り、俺たち親バカだよなぁ」
「カルジェロ!呑気な事いってないで!あの子達に気付けれちゃいけないけど、細心の注意は払うべきよ!」
……親バカなんだろうけど、この親バカっぷりは何故か否定できないな。俺も結婚して子供が出来たら理解できるのだろうか。
そんなやり取りをしていると、馬のひづめの音が複数聞こえてきた。
すぐに音の発生源は現れ、馬上の男が一人、そして誰も乗せてない馬を引いてこちらに走ってくる。
……早馬か?伝令とかの時に、馬を乗り潰さぬよう交互に乗り継いで目的地へ向かうアレだ。
「緊急通達だ!ギルドの担当者を呼んでくれ!あと馬を、馬を頼む!」
長時間、馬を駆ってきたのだろう。馬から降りてギルド内に入ろうとするのだが、足が震えて真っ直ぐに歩けない。
カルジェロは馬の手綱を預かって厩へ向かい、俺とブラスコで肩を貸し中へ誘導する。オルエッタさんはスカートを翻してギルド長を呼びながら中へ戻っていった。
彼は中に入る前から兎に角叫んでくる。
「山賊狩りで頭目を逃してしまった!そいつを含めて数人この近辺に逃げ込んでくるかもしれん!警戒してくれ!」
くっ、詳細を問質したいが、全員揃ってからの方がいいので、ぐっと我慢する。
場合によっては長い夜になるかもしれない。
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「やぁ、君たち。ちょっと道を教えてくれないか?」
無精髭で酒の飲み過ぎで腹が膨れた男が三人、道を塞いでいた。肩には山刀を担いでおり、道を尋ねるつもりなどさらさらないのは明白だった。
エルフの子供たちは通るに通れず、村を目前にしてじりじりと後退していくのであった。
拙い作品ではありますが、皆さんの評価・ブックマークがモチベーションとなっております。
これからも微力を尽くして頑張ります。
お読みいただきありがとうございます。




