29・実家到着
山の木々が夕日で染まる頃、やっと村に到着した。
門番が二人いるのは昔と一緒だな。違うのが一つ。
じゅうたんの上で腕を組んで立っている奴がいるのだが、何者だ?そんな疑問もすぐに解消した。
”ぷぉ~ぷぉ~ぷぉ~ぷぉ~~ん”警笛の相手はあいつか!
”ぷぉぷぉぷぉぷぉ~ん”サミィがすかさず警笛を返す。
そのやり取りを聞いて門番の二人が腹を抱えて笑い出し、じゅうたんのヒトは飛び跳ねて手を振ってくる。
「同胞よ、ようこそ」門番の片割れは笑いを堪えるのに必死で挨拶どころではない。
「久しぶりの帰省だからって他人行儀は冷たいんじゃないか?」返答しながら頭の被り物を脱ぐ。
「なんだヴィリュークか!久しぶりだなぁ、すっかり砂エルフになっちまったな」
「ブラスコにカルジェロ、元気だったか?」幼馴染の二人が門番をやっていた。
「おう、見ての通りよ。それよr」
「あなた、さっきの警笛なにアレ?あんな音出せるなんて聞いたことないんだけど!」
興奮した女エルフが、自分のじゅうたんを滑る様に寄せて捲くし立ててくる。
「えっと、どちらさん?」
「あぁ、お前が村を出て、暫く後に入ってきた織物職人のエステルだよ」
「で、何が違うの?魔法陣?じゃないわね、私のじゅうたんでも少し鳴らせるもの。操作方法のコツ教えて。どうやって発見したの?偶然?それとも猛練習したとか?よく見ると昔のデザインのじゅうたんね。でも模様も綺麗で、ぱっと見でも魔法陣の構成もすごくバランスよく整っているのが分かるわ。ねぇねぇ、後で時間無い?メンテナンスするのに来たんでしょ?ロハにしてあげるから調べさせてyo」
なんだろう、既視感が半端ないのだが。
「とまぁ、じゅうたんの事になると暴走する残念さんだ」
「これさえなければ、なぁ。嫁の貰い手が、ごふ」
「あなたたち、失礼ね!仕事熱心と言いなさい。近所のおば様達からは是非息子の嫁に!って引く手数多あまたなんだから!」
「その息子たちから、ことごとく断られているくせして……ぐっ、なんて不憫な」
ドッ、ボフッ。ギギギ……
「むぃ……鳩尾、に、一撃、て……」
「いき、遅れ…め」
ギロヌ「なにか?」とばっちりはご免だ。
「いや?なにも?」無表情で返すのが肝心。
「そいや、ギルドは相変わらずおんぼろか?移動してないよな?到着報告しないと」
「変わるわけないじゃない。けど今にも歩き出しそうなくらい古いのは確かね」
よし、警笛について上手く逸らせたみたいだ。
「必要な事済ませたら色々吐いてもらうから」
逸れていませんでした。それどころかしゃべるまでついて来そうです。めんどくせぇ。
警笛魔法陣を消すと、名残惜しそうにサミィが陣があった所を叩く。しかしすぐに興味は村の様子に移り、あちこちキョロキョロ忙しない。
当然じゅうたんでそのままギルド前まで乗り付ける。周りを見ると他のエルフのじゅうたんが見えるが、おそらく帰宅の途についているのだろう。
エルフの村のギルドは、古めかしい建物である。
物心ついた時からここに建っているのだが、これからも存在していくのだろう。これが無くなるだなんて想像もできない。
入口をくぐり窓口を見やると、これまた見知った顔があった。
カウンターに肘を付き、中の女性に声をかける。
「おばちゃん、久しぶり。到着報告頼む」
ぬぅっと左手が伸び、頭を鷲掴みされギリギリと締め付けられる。
右手で俺の首元のタグを引っ張り出し、到着報告の処理をしていく。
「お・姉・さ・ん、とお呼び、ヴィリューク。久しぶりに帰ってきたかと思ったら第一声がそれかい?」
「いやいや、おばのミリヴィリスと同い年ですよね」
「ほう、ミリーにも今のセリフ伝えておこうか。手紙のやり取りは続いているし、あんた仕事であいつの職場行ってるんだろ?」ぎりりと締め付けが強くなってくる。
「お姉さま、結婚してから貫禄ついたのでは御座いませんか?」
「減らず口を叩くのはどの口だい?」今度はほっぺたを両手で引っ張られる。
「ひひゃいひひゃい、ひひすひまひは。ほへんははい」<痛い痛い、言い過ぎました。ごめんなさい>
やっと手を放してくれた。謝罪の意が伝わってよかった。
「オルエッタさん相手によくそんな口が叩けるわね……」
事務職のくせにその腕っぷしの強さは嫁に行っても健在らしい。
「あらエステル、あんたの男?」
「「違います」」
「さっき村の入り口で初めて会ったばかりです」
「そうそう、この人のじゅうたんの」
「はいストップ」即座に待ったが掛かる。
「ヴィリューク、師匠に呼ばれたのは知っているよ。日が沈む前に早く帰りな。こいつの話に付き合ってると明日の朝になっちまうよ」
「オルエッタさん、ひどい!」
「それじゃまた、オルエッタさん。旦那さんによろしく」しれっと無視して逃げてしまおう。
室内をうろうろしていたサミィを抱き上げ、ギルドから逃げ出す。
「あ、待ちなさいよ。泊まる場所位教えなさい」
「お断りします」脱兎のごとく逃げ出した。
サミィはすぐさま見限りやがった。
『村の中を探検するわ。あなたの居場所は分かるから、ご飯用意しておいて』
だとさ。ちくしょう。
体力ではこっちに分があったのだが、地の利は向こうにあった。
むかし住んでいたとは言え、約十年ぶりだとちょっとづつ道が変わっている。
ショートカット出来る所があったり、道を物が塞いで通れなかったり狭くなっているといった具合だ。
「ちきしょ、撒いたと思ったらすぐ出てきやがる」
「ぜひゅ…ぜひゅ…めっけたぁ。いい加減…ぜひゅ、宿くらい、教えなさいよ」
辺りも暗くなり始めている。それに村の人間だ、調べれば俺の実家なんて遅かれ早かれ分かるだろう。
「宿じゃない」
「え?」
「実家だから今晩は遠慮しろ」
「仕方ないわね、分かったわ」
走るのをやめ、てくてくと実家へ歩きはじめると、エステルも黙ってついてくる。
目指すは、村で一本だけ不自然に大きな木の下だ。
「ねぇ」
「なんだ?」
「右とか左とか曲がらないの?」なにやら顔色が悪い?日が暮れてきたせいで良く見えない。
「いや?そうだ、ちょっと顔だせよ。遅れた説明を簡単にでもしてくれないと、俺もばあさまに怒られそうでな」
「ぅぇ……実家って…あの大樹?ですか?」なんか汗かきはじめたが大丈夫か?
「そうだが?」
とか言っているうちに到着。
大樹から十数メートル離れた所に工房兼住居があり、大樹の上には小振りなツリーハウス。
その二つを行き来するために、吊り橋が掛けられていた。
「ありゃ?また移築したのか?」出ていく前と比べ、樹と住居が離れている気がする。
「………」エステルが静かになっている。
「みゃーん」
「お、サミィ。もういいのか?」
『いいえ、ここが目的地なんだけど。ここはなに?とても”濃い”わよ』
「濃い?よくわからんが。ここが俺の実家なんだよ。入るぞ」
「ただいまー」扉をくぐり少し進むとリビング、その奥にテーブルがあり、ご馳走が並んでいる。
「おかえりー、遅かったねぇ。逆に助かったわ、今日はバカ弟子に料理を手伝えと言ったのに、薬味を取りに山へ行ったきり帰ってこないのよ。延々一人で料理しておったわ」
奥の台所からエプロンで手を拭きながら、ばあさまが出てくる。
ばあさまと言っても、薄っすらとほうれい線が滲む程度で、余計なしわなど見つからない。
寄る年波による変化と言えば、若いころはプラチナブロンドであったのがシルバーヘア(白髪ではない、いいね?)になったくらいか。
しかも長く、髪艶もよく手入れされている。
「へー、もう日が暮れるっていうのに心配だな」
「いや心配無用。たった今帰ってきたからな」にっこりと嗤う。
「ただいま戻りました。師匠」消え入りそうな声のエステル。
「おぉ心配したぞ、エステル。崖から落ちてやしないか、熊の襲われてやしないか、心が張り裂けそうだったわ」
「申し訳ございません……」
「……今晩飯抜き」
「これだけのご馳走を目の前にして飯抜きとか!」
エステルは、”後生ですから~”とか言ってばあさまの足にすがりつく。
「にゃぁぉ『良い匂いね、鳥?』」鳴き声でサミィに気付く二人。
「ばあさま、この匂いは山鳥の丸焼き?うれしいなぁ」
「お前の好物ばかり用意してあるよ」すがりつくバカ弟子を軽く足蹴にしつつ答える。
台所を覗くと料理がたくさん準備されていた。
「おおぅ。この量は食い切れなくないか?ばあさま、折角のご馳走を残すのも勿体無いから、晩飯抜きは勘弁してやったら?」
エステルが膝をつき、手を組んで祈る様に見つめてくる。
「……明日はいつもの倍は働いてもらうし、遅れた理由もきっちり説明してもらうからね」
反転、諸手を挙げてエステルは大喜びだ。
「うぅ、明日の仕事が怖い……」あ、そうでもないらしい。
「にゃうぅ『私のはあるんでしょうね』」
ばあさまの目がすぅ、と薄くなる。
「ヴィリューク、このネコは?」
「あぁ、サミィって言って砂漠から付いてきたんだ。旅の同行者かな?」
ばあさまは手を下から持っていき、指先であごの下、額、首周りをこすってやり、首から背中を手のひらで撫でていく。
そして人差し指の背で尻尾をするりと撫でた。
「……いい子だな。鳥はまだあるし、お前用の味付けで焼いてやろう」
そう言ってばあさまは台所に戻っていった。
『……ヴィリューク、ひょっとしたら感付かれたかもしれないわ』
「あ?何に気付くってんだ?」
「え?何か言った?」サミィとの会話にエステルが反応する。
「いや。サミィ、その辺で爪とぎするんじゃないぞ。そんな真似したら折角の鳥が”おあずけ”になるからな」と、ひょいと抱き上げて誤魔化す。
エステルはこれからのご馳走に意識が行ってしまっている。
「エステル!こっちきて手伝いな!」奥からばあさまの声が響く。
「はいぃぃぃ」
こっちは今のうちに、旅の埃を落としてくるかな。
「「「かんぱーい」」」杯をかかげ、声を上げる。
テーブルの上にはご馳走が並び、サミィ用には床にランチョンマットが敷かれ、山鳥のソテーが食べやすいように切り分けられている。
先ずは自己紹介から始まった。
エステルは港町出身のエルフで、実家はなにやら店を開いているとの事。
子供の頃にマルチな才能を発揮し港街ではあちこちに師事していたのだが、上を目指せるのにこのままではもったいないと言う話になった結果、父親の取引先の紹介でばあさまに弟子入りしたそうだ。
「むかしの神童も、今や織物狂いのじゅうたんバカさ」と、ばあさま酷評。
「師匠酷い!きちんとやっているじゃないですか!それを言うならなんで織物職人に剣術・体術の修行までついてくるんですか!」
ばあさま相変わらずだな。この様子だと付与魔法の延長で、魔法と名のつくものは何でも教え込まれていそうだ。
その後それぞれの近況報告となり、話も食事も酒も大変盛り上がる。
そしてエステルにとっては本日の本題、警笛の話が話題に上る。
「それで師匠、すごいんですよ。警笛が鳴るんです!」酒も入って薄っすらと顔が赤い。
「鳴るから警笛なんだろが、それだからお前はバカ弟子なんだ」こちらは当然のように変化なし。
「いや、警笛で音階を鳴らせちゃったんだ。普通は決まった単音でしょ?」あまりにも貧弱な語彙なので、思わずフォローに入る。
「……誰が鳴らしたと?」
「ヴィリュークさんが」
「俺じゃない」
「「じゃぁ誰が?」」
思わずついっと視線を逸らしてしまう。
その先にはサミィが一心不乱に鶏肉を咀嚼している。
「えー、ネコが警笛を鳴らすとか。冗談はよして欲しいわ」
「ほう、ネコが警笛を鳴らすと。それは見てみたいね」
見つめ合う師弟。
「凝り固まった思考や思い込みは応用が利かなくなるぞ、バカもん」
師匠の言葉にしゅんとする弟子。
「いやさ、信じられないのも当然だって。なにせ尻尾で鳴らすんだぜ」
あ……しまった、言ってもーた。
ごとりと音を立てて、ばあさまが椅子から立ち上がる。
「百聞は一見に如かず、だよ、お前たち。持つ物持って工房へ行くよ!」
「かしこまりぃ~!師匠!」
……バカバカ言われているのに、彼女って結構うちのばあさまを慕っているのかな?
引っ越しで更新が危ぶまれましたが、何とかなりましてホッとしてます。
お読みいただきありがとうございます。




