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28・山道のルール

その夜は全員焚火の周りで過ごした。


戦力外だった二人は、緊張が解けた反動でヘロヘロになってしまたので取り敢えず休ませている。


ゴダーヴを先に横にさせて俺が先に見張りに着いたが、交代の時間まで何事もなく交代後も無事朝を迎えられた。




全員で朝飯を食べ終え、今後の方針について相談を持ち掛けられた。


俺は今日中に到着しないといけないので、じゅうたんをかっ飛ばす旨を伝える。


聞いてみると目的地は、全員俺の実家のエルフの村だった。となると馬車で一日の距離に、野営地があったはず。


現状を確認してみると、どうやら俺が知っていた時より設備も整っている様子。到着できれば、昨晩の様な事態は避けられるだろう。




「暫くはあっちで過ごす予定だから、到着したら訪ねてきてくれ。それから予定の日に着かなかったら様子を見に来るから、もしものときは無茶しないで安全な所で身を守ってな!」


アイドリング状態のじゅうたんの上で、三人に伝える。サミィは定位置で丸まっている。


「スピードの出し過ぎで事故るなよ」


「お気をつけてー」


「では、あちらで会いましょう」


挨拶もそこそこにじゅうたんを発進させる。


「じゃ、またな」




少しじゅうたんを飛ばすと、あっという間に彼らの姿は見えなくなる。


『あなたのそばは面白いことが一杯ね』丸まりながらもこちらを見やるサミィ。


「当事者としては平和が一番なんだが」


『何をいってるの?力がある所に厄介ごとが来るのは自然な事よ』


「失敬な。俺を厄病神やくびょうがみみたいに言うんじゃない」


『いずれにせよあなたの傍にいれば退屈はしないでしょ、それにご飯も美味しいしね。これからもよろしくね』独り言ちるとそのまま目をつむって眠りに入ってしまう。


「少なくとも飯の分位は働けよ」こちらも小さくつぶやく。


すると返事のつもりか、身体に沿わせていた尻尾をゆらゆらと振ってきた。




そろそろ昼時という頃合いに野営地に到着した。馬車の一日の行程を半日で消化した計算だ。


この野営地は、エルフの村から馬車で一日の距離なので利用者も多い。主な利用者は行商人と言うこともあり、ルールを守って利用され、更に定期的に村がしっかりと維持管理をしている。




その昔、現王都からエルフの村までの道は獣道以上山道以下。自分たち以外が通ることを考慮していなかった。エルフの基本的な移動はじゅうたんか、身体強化しての自力である。


別に他種族を拒んでいた訳ではないが、結果として村を訪れるのはそれなりの地力を備えたものだけとなった。


必要なものは山や森で採取するし、それ以外の物はじゅうたんで町まで一っ飛び。今ほど容量はなかったが、魔法陣収納も完備していたので運搬にも問題はない。





野営地ここの成り立ちが、野営地の一角にある石碑に残されている。


それによると、切っ掛けは例の人造精霊の一件だそうだ。


最終局面、街に迫る人造精霊からの避難民はあちこちに流れた。当然エルフの村も例外ではなかったが、悪路の為避難民の歩みは遅く、また間違って本当の獣道に入って遭難したものもいたという。


そうまでしてエルフの村を目指したのは”精霊には精霊使いがいれば何とかなるのでは”といった他力本願的な望みを当時のヒト達は願ったからかもしれない。




しかしそこに溜め息交じりに立ち尽くす一人のドワーフがいたらしい。


そのドワーフはあまりの悪路に業を煮やした……ではなく、カッとなった?イラッと来た?ムカついた?ひょっとするとこれから歩く道を見ただけで嫌になったのかもしれない。


その時ドワーフが何を思ったのか定かではないが、分かっていることは、感情の赴くまま魔力が尽きるまで力を振るい続けたということだ。


以下は石碑に残っている証言だ。




★☆★☆




ドワーフは仲間であろうエルフにじゅうたんを用意させ、道を切り開く。腕を振るうと木々が切断され、傾いて倒れつつある木々をじゅうたんに乗ったエルフが次々と魔法陣に収納していく。


地面にも異変はある。ドワーフが地面に両手をついて暫くすると、ぼこぼこと切り株が地表に出てくるではないか。


切り株にじゅうたんが横付けされると、ドワーフが蹴転がして収納する。全て取り除くと、同様の所作で平らに道を均し、踏み固めたかの様に整地していく。


緩やかな傾斜をつけて排水も考えている所を察するに、この手の作業は初めてではないらしい。


地表に突出している石を取り除こうと魔力を込めたら大岩が出てきたこともあった。逆に大穴になってしまったので更に深く掘り進め、平らになる様に埋め直す。


避難民たちはその光景を唖然として見ていたが、腰を下ろして休憩し始めた二人に老夫婦が近寄る。


大変な山道に半ば諦めていた所、すざましい勢いで道を切り拓く二人に感銘を覚えたらしい。老夫婦は手持ち少ない自分たちの食料を二人に振舞った。


エルフは遠慮していたのだが、ドワーフは助かったとばかりにもりもり食べ始める。その様子を見ていた避難民たちが、少しづつ食料を提供し始めるのだが、ドワーフは明らかに彼らが無理をしていると見て取った。


ドワーフは立ち上がると、少し待つようにと一言残して山に入っていった。何をするか察したエルフはじゅうたんを飛ばしどこかへ去っていく。


日も傾いたころ、別々の方向から二人が戻ってくる。


ドワーフはイノシシを一頭担いで山から出てきた。どうやったのか、イノシシは耳から血が流して絶命している。


エルフはじゅうたんを着陸させると、収納魔法陣から水やら山菜やら大樽小樽で次々と並べてくる。


最後に魔法陣から出てきたのは、大人が一抱えするほどの鍋三つ。


材料は山ほど、人手も余っている。女衆は包丁を手に鍋の周りに集まり、男衆はナイフを片手にイノシシに集まった。


暫くすると炊煙が立ち上り、宴会が始まった。




次の日の朝、昨日の残りのイノシシ鍋で朝食を済ませてもドワーフは動かなかった。尋ねてみても”しばし待て”としか答えない。


相方のエルフの姿が見えないので、これまた聞いても答えは一緒である。


どれくらいたったであろうか。立ち上がったドワーフが街の方をじっと見つめ、ニヤリと笑うと昨日の続きとばかりに歩き出す。


何を見つけたかはすぐに分かった。


エルフのじゅうたんの編隊が、空を一直線に飛んで来る。しかも一枚のじゅうたんに数人の人影が見え、それが編隊飛行でくるのだ。


先頭はもちろん相方のエルフだ。後ろには厳めしい顔つきの男のドワーフが胡坐をかいている。


避難民の横を編隊が通り過ぎていく。


その編隊は現場で待ち構えていたドワーフの前に黙って整列する。


ドワーフは一言”エルフの村まで道を整備する”


それを受けて厳めしいドワーフが”かかれ!!”と号令をかけると、昨日と同じ光景が始まった。


しかし規模が違う。


半数のエルフが腕を振るうと木々が傾き、残りのエルフがじゅうたんに納めていく。


半数のドワーフが地面に手を付くと、足元を邪魔している切り株などがぼこぼこ地上に姿を現し、残りのドワーフの屈強な筋肉から繰り出される一撃によって障害物が宙に舞う。


当然じゅうたんがそれらを空中でキャッチ、地面に手を付いていたドワーフたちは魔力を流し続け、あっという間に整地させてしまう。


魔力が少なくなると、役割を交代して作業を続ける。


その光景を目の当たりにした避難民たちは、自然と彼らの仕事を手伝うようになった。




★☆★☆




……この石碑の内容、子供の頃うちのばあさまから聞かされた”若いころ”の話に酷似している。うん、嫌な予感しかしない。


石碑の文章はまだ続いているが、確かこの後<土木集団>ともいえる彼らは道を切り拓き整備を進め、この野営地に辿り着いたって聞いている。


大勢が村に流れてきたら混乱が予想されるってことで、この野営地に仮設住宅とかを建設したらしい。


当時の野営地はもっと広かったのだが、月日が経ち草木が侵食したせいで、現在の広さに落ち着いたんだそうだ。






パンと燻製肉を齧り簡単に昼飯を済ませると、俺は道を急ぐ。


野営地の使用状況から、この先を進んでいる馬車等はない。しかし、村から誰か来ることも考慮して飛ばさないといけない。


接触事故なんか真っ平ごめんだ。




しばらく進むと、”ぷぉーん”と警笛音のこだまが聞こえる。


あぁ、聞くまですっかり忘れていた。じゅうたんを操作すると、手のひら大の魔法陣が浮かび上がる。これに触れると先程と同様の警笛がなるのだ。


これから先の道はカーブが多く、見通しの悪いカーブを通過する際、事故防止で鳴らすのがルールなのだ。


馬車の通行ならば、馬の蹄の音や馬車の車輪音で接近を知るのは容易だが、じゅうたんは殆ど音がしない。風切り音もするが耳を澄まさねば聞き取れないくらいだ。


そして村から出発するじゅうたんは、五メートルほどの高度を維持し飛行する。そうすれば何かあっても高さで擦れ違えるからである。




しばらく進むと、要警笛のカーブが見えてきた。


「サミィ、大きな音がするが驚くなよ」一言注意しておく。


ん?なに?と言った感じで振り向いてくるが、カーブに差し掛かったので警笛を鳴らす。


”ぷぉーん”


警告したのにサミィは目を大きく見開き、尻尾をぱんぱんに膨らませて固まっている。


少し進むとまた見通しの悪いカーブがあったので、これまた鳴らす。


何度か鳴らしているとルールが分かったのか、自分もやってみたいと言い出した。


魔法陣をもう一つ出して、前足の辺りに設置してやる。


『あそこみたいなカーブで鳴らせばいいのね』


「そうだ、ネコが操作できるかわからんから駄目だったら俺が鳴らすぞ」聞いているのかいないのか、既に前足を持ち上げ待ち構えている。


カーブに差し掛かると、おっかなびっくり魔法陣を叩くサミィ。


”ぷ、ぷぉーん”おぉ、鳴った。しかも連打したのか音が重なったが、サミィ大満足。




その後のサミィは景色を楽しんでいるというより、警笛を楽しんでいる風であった。


”ぷぉーん”と普通に。


”ぷぉーーーーーん”と長く。


”ぷぉんぷぉん”と連打。


”ぷぉんぷぷぉん”とリズムを付けて。


何事もなく道を進んでいく。


俺たちの先を、誰かがじゅうたんで先行しているのだろうか、村から出てきたヒトか?時折サミィを真似たリズムの警笛が聞こえてくる。


それを聞いて、サミィの尻尾が機嫌よく左右に揺れている。




気付くと見覚えのある景色が広がった。


切立った岩が聳そびえ立ち、それを迂回するように道が続いている。


聞いた話では円柱状の一枚岩(一本岩?)だそうな。Uの字状の見通しの悪いカーブで道幅があるからいいものを、逸れると下を流れる川に真っ逆さまである。


「サミィ、カーブが続くから警笛を長めに鳴らしてくれ」


『まかせといて』


なぜにそんなに気合が入っている?


立ち上がると魔法陣の周りをグルグル回り出し、停止するとカーブを見やる。魔法陣は右後ろ脚の付け根辺りだ。


そこじゃ足が届かないぞ。


少し心配だったので声をかけようとすると、尻尾がくいっと曲がり魔法陣に触れた。


”ぷぉぷぉぷぉぷぉ~~~ん”


……器用な尻尾、じゃなくて!


連打については何も言うまい。けど、音階がつけられるだなんて初めて知ったわ。一打ごとに音が高くなったし。こんな機能付いていたんだ。




”びょ~みょ~……”


変な音が聞こえてきた。


”み゛ょ~”


……


「サミィ、さっきのもう一回鳴らしてくれ」


返事はなかったが、ストレッチをするように尻尾をしなやかに曲げていく。


”ぷぉぷぉぷぉぷぉ~~~ん”


うん、頼みはしたがちょっと過剰だ。


”ぷぉ~ぷぉ~ぴゅぅ…”


お、あちらさんんも真似ようと必死だな。




その後も過剰な警笛のやり取りは続き、見知らぬ相手の警笛も上達していった。


……これ、やり過ぎじゃなかな?村で怒られないといいのだが。

サンキューホーンは違法行為です。警告以外で警笛を使ってはいけません。

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