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25・スナネコ、能力開眼

配達に来ただけだったのに、同行者が一名、じゃない一匹増えてしまった。




「いい時間だからそろそろおいとましますかね」そう言って俺は席を立つ。


「えー、まだいいじゃない」予想通りの姉さんの返事が返ってくる。


『どこいくの?』


「宿を取ってあるからそちらに行くんだよ……あー、あそこはネコ大丈夫かな」


それも心配であるが、心配なのがサミィという存在である。ネコマタの能力であったり、言葉を話せると知れたら混乱が予想されるし、捕まえられたら何がどうなるか予想もつかない。


その懸念を伝えると、平然とサミィは返答する。


『これ、しゃべっているように聞こえるけど、実際はしゃべってないのよ。なんていうのかしら……言葉を直接あなたたちに伝えているの。仮にこの部屋を聞き耳しているヒトがいても、聞こえるのはあなたたちの声だけよ』


「なんと!念話がつかえるのですか!そういうスキルがあるとは聞いたことがありますが、これがそうなのですね!」セツガさんの興奮が止まらない。


『だから周りに一杯ヒトがいても、ヴィリュークだけに話すこともできるわ。そこで「にゃあ」と一声鳴けば……』


「ネコが特別でなくて俺が特別となる訳か。中々考えたな」


「気をつけなさいよ。時と場所によってはあんたがが白い目で見られるわよ」


姉さん厳しい。思わずグッと言葉に詰まる。


『そこは私が賢いスナネコを演じればいいのよ。感謝なさい』


お前がいなければいらぬ苦労だとは言えず、ジト目を投げかけ黙る。


『なによ、不満なの?』


「とんでもありませんぜ、お嬢」


軽い応酬をし、改めていとまを告げる。




「遊びに来てね!絶対よ!」


ミリー姉さんとセツガさんが門まで見送ってくれる。俺の時は部屋でバイバイなのに……いやそれでいいのだが釈然としない。


サミィは”にゃーにゃー”鳴きながら尻尾を揺らして正門ど真ん中を出ていく。


俺はいつも通り門番に挨拶して出ていくが、ネコを見送る研究員二人に対し門番は一瞬視線を向け、俺に対し視線で”なんだあれ”と、ちらちら問いかける。


俺は”やってられんからいいからほっとけ”とばかりに肩をすくめてその場を立ち去った。


次回来る時までに”スナネコは顔パスで通せ”と通達が流れていそうで怖い。




重い……重くて暑くてかなわん……


と言うのも、先程まで追い越し追い越されながらサミィと歩いていたのだが、進むにつれ当然混雑してくる。


小さいスナネコが足元をチョロチョロすれば、踏み潰されそうで危ない。


1・ならばどうするか。

2・安全な所にいればいい。

3・安全な所はどこだ。

4・高いところなら踏まれないね。


『ちょっとかがんで』と言われるがままにすると、ととんと背中を駆け上がり、首に重みがかかる。


サミィは襟巻き宜しく首に巻き付いており、時々頬をひげがくすぐる。そして猫背気味と言うか、落とさない様に前傾姿勢だ。


ちくちょう、不自然な姿勢は地味に腰に来る。暑いし重い。邪険に出来ないところが俺の甘いところなのか……


ちくしょう、何かないか?『ねぇ、あっちからいい匂いがするよ』乗っている方はいい気なもんだ。


ちくしょう、楽しやがって…運んでもらってる、という感謝の気持ちはないのか。


などとネガティブな思考に陥っていたが、あるものを思い出しカバンに手を突っ込む。


しばしあさって引っ張り出したのは、丈夫な布で縫製された何の変哲もないトートバックである。


口を大きく開けサミィに入る様に促すと、すぐさま飛び込み中でもぞもぞすると頭だけ出し”にゃー”と鳴く。あぁ、首元がスーッとする。


「これならお互いいいだろ」バックを肩から引っかけ、移動を再開する。




さっきは気づかなかったが、結構目立っていたんだな。


前から来るヒト達の視線がすごい。好奇の視線はまぁ当然として、生温かい見守るような視線は勘弁願いたい。しかも女性だけでなく、時々いい年のおっさんからも投げ掛けられるのだ。さっさと消耗品を買い揃えて宿に戻ろう。


いつもの店に保存食を買いに行く。ありがたいことに店の主人はいつも通りに接客してくれた。奥さんが目を輝かせて近寄ってきたのだが、主人が遮って俺の応対をしてくれた。


淡々と俺の注文に対して品揃えをしてくれ、いつものように”毎度、また宜しく”と送り出してくれた。唯一違ったのはサミィを一瞥して、「燻製をそいつにもやるなら煮るなりして塩抜きをしてやれ。ネコにはちと塩辛い」と表情を変えずに話したことか。


サミィを見ても全く表情を変えなかったのに気遣ってくれたが、実はネコ好きなのだろうか?どちらでもよいがあの接客態度は大変好ましい、また来よう。




◯屋に着くと、まだ夕食には気持ち早いのか客はまばらで、中に入るとおやじさんが手ずから配膳していた。


「おう、ヴィリュークお帰り」


「今晩もよろしく」「にゃー」脇に抱えたバックからサミィも挨拶する。


「む、お前さんいつからネコなぞ飼いだした?」


「ちょっと訳ありでね。しばらく一緒に行動するようになった。ひょっとして拙ずいか?」


「大人しくしてくれればいいが、動物に言って聞かせるのも無理だろう。部屋に閉じ込めても爪とぎされてはかなわんしなぁ」


「結構頭いいから俺が言い聞かせれば大丈夫だ。それにいろいろ役に立つぞ」今更、別の宿を探すのも結構手間だし。


「役立つたぁネズミでも取ってくれるのか?」胡乱げな表情で返してくる。


プーンと小さく音がしたので脇を見やると、サミィのひげが震えており、止まったと思ったら俺に一言。


「にゃー『ネズミ、いるわよ』」


「いけるか?」


「みゃう『もちろん』」


そうと分かれば話は早い。




「ヴィリューク、ネコと話出来るのか?」


「ネコと言うかこいつとなんだが……おやじさん、こいつがネズミ退治して役立てば問題ないよな?」


「ん~?出来るのか?出来るのであれば……まぁ、な」


心変わりされる前に始めてしまおう。バックを床に置き、サミィを出してやる。


バックから出てきたサミィは、プルッと身を震わせると真っ直ぐ厨房へ向かう。


着いた先は食材がまとめておいてある壁際の棚だ。隣には氷を利用した保冷庫もある。まだ庶民の間では魔力を使うものより、こちらのほうが一般的である。


サミィは棚の前をうろついていたが、棚の横の整理前の食材の入った袋に前足を掛け一言。


「にゃう『これどけて』」


おやじさんに通訳すると、俺も手伝って壁際を広く空ける。


「なんもないじゃないか」


「小さな穴くらいですね」


おやじさんの声に俺も同意する。そこには1センチ強、2センチに満たない位の穴が一つだけあった。


そんな俺たちの声を無視してサミィは穴の前に陣取る。また小さくプーンと音が聞こえ始めた。




☆★☆★




頭上で外野が好き勝手話しているのを無視して、ネズミの侵入口を探る。


ヴィリュークと魔力を交換してから、感覚が拡大し魔力の操作が楽になったのが分かる。穴に鼻を突っ込み臭いを探るが、ネズミの匂いは薄い。そんなに利用されていないのだろう。


埋めてしまえば今後の被害は防げるだろうが、今は目に見えるように退治しないとアピールにならない。


気配を探っていくと、自然にひげが震えていく。結構奥深い穴で、どこまで続いているか索敵の手が届かない。敵ねずみはどこかと懸命に続けていると、索敵範囲ギリギリのあたりで何か動いた事に気付く。


……なんだろう。何に気付いたのかよくわからない。少なくともネズミという生き物を知覚出来ておらず、それ以外の何かの動きに気付いたのだ。


とにかくそこへ神経を集中させる……すると身体からなにかパラパラと床に落ちた。


”ヴィリューク、こいつ砂まみれじゃないか?”


”あー、今度からちゃんと掃ってから連れてくるよ”


頭上の声にハッと気づく。砂だ、砂が動いているんだ!


気付くと索敵範囲が一気に広がっていた。範囲の形が歪で感知できないところがあるが、そこは砂がない所だからだろう。


今は敵ネズミに集中せねば。さっきの所には一匹しかいなかった。ふむ、その奥も砂が結構あるので索敵には事欠かない。


奥へ奥へと覗いていくと、もう三匹いた。これだけ退治できれば十分だろう。分かってしまえば簡単だ。こちらに追い出すならば退路を塞いでしまえ。


サミィがヒトであったならば、悪い笑顔でニヤリとしていたに違いない。




ネズミ達がいる巣穴の通路から砂が現れ始めた。初めは気にしていなかったが、それは次第に量を増し溢れて通路を塞いでしまった。


砂は止まる事を知らず、ネズミたちに迫ってくる。すぐさま向こう側へ抜ければ分岐もあって、如何様にも逃げれたのだがこうなってしまっては反対側へ逃げるしかない。


迫りくる砂に追われ、ネズミたちは一本道をひた走る。




穴の前に陣取っていたサミィが少し後退した。相変わらずひげが震え高音が聞こえるのだが、おやじさんは気付いてないようだ。


「あっ!」


よそ見をしていたらおやじさんの声がし、振り返る。


そこにはサミィの一撃で仕留められたネズミが一匹。


「ちくしょう、やっぱりいやがったか」


サミィはまだ臨戦態勢を解いていない。ひげが震え続けていると、今度は二匹まとめて飛び出し、まとめてサミィの爪の餌食となる。


更に続けて獲物を捜していく。


「みゃぁーおう」


穴の様子に変化はない。


「み゛ゃぁーお゛う」さらに力強く一声鳴く。


すると穴から砂があふれ、同時に砂まみれのネズミが一匹飛び出してくる


当然、サミィの前足一振りで終了した。



★☆★☆



「いやー最初は全然動きがなかったから疑っちまったが、一匹出てからはあっという間だったな。啖呵を切るだけはある。いや、すごかった」


上機嫌でおやじさんが肩をたたいてくるが、ちょっと痛い。


「うちのサミィは合格ですか?」と、一応聞いてみる。


「おうよ、サミィってのか。小っちゃな狩人さんにゃ報酬を渡さないとな。手羽のいいとこがあるんだ、お前さんも飯まだなんだろ?用意してやっから、その間にその子の砂掃って足をふいときな」


そう言って俺たちは厨房から追い出された。




店先でサミィの身体を綺麗にしながら、一連の流れを聞いていた。


どうも砂使いと言っても過言ではない能力を得ているようだ。俺が水に関して応用が利いているように、砂を使って様々な事が出来るようだ。後は試行錯誤して技として磨いていくばかりなのだが、既存の技を覚えるのではなく自分で編みださねばならないから、これはこれで大変だろう。


身綺麗になったサミィと席についてあれこれ話していると、両手にお盆を持っておやじさんが来た。


「ヴィリューク、ほんとに会話してるんだな。こんなの初めてだぜ」


「これからずっと続くよ」目の前に置かれたお盆を見ながら返答する。


「これからも贔屓にしてくれ。おちびちゃんもな。手羽先と手羽元だ、塩は極力控えてある。俺もガキの頃はネコを飼いたくてなぁ、親父に許してもらえなかったんだよ」


「先代にはいいのか?」


「今は俺が店主だからいいんだよ。だけど入るときは綺麗にしてから入ってくれよ、あと抜け毛が無いようにブラッシングもしてやれ」


「ほんと飼いたかったんだな。俺より詳しいじゃないか」


「これくらい基本だ。後これをやる」と言って板切れを渡してくる。


「なんだこりゃ?」


「爪とぎ用にやる。お前さんもじゅうたんでやられたら嫌だろ」


想像してしまって思わず顔をしかめてしまい、思い切り笑われた。


「サミィ、爪とぎ用に貰ったぞ」


横を見ると、サミィは両足で手羽先を押さえかぶりついていた。


「みゃーん『後で使うからそこに置いておいて。これおいしいわ』」


おやじさんに通訳してやると、食いっぷりにも満足したのか笑いながら厨房に戻っていった。




お読みいただきありがとうございます

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