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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
本編

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23/200

23・スナネコの困惑

ぐったりとしたスナネコを連れて、俺たちは研究室に戻ってきた。


取り敢えず大きめのクッションに寝かせたが、意識を取り戻す気配はない。


「さて、どうしたもんかね?」


「なんかこう、ぱぱーっと治せる魔法とかないの?」


「ミリー、魔法に対しての認識がお子様並みですよ」セツガさんが呆れてたしなめる。


「まず、出来る所からはじめますか」俺はスナネコを仰向けにして、そっと腹に手を当てる。


「意識があったら野生のスナネコの腹なんか絶対見れないだろうな」


「なになに?なにするの?」


「身体の水分が足りているとか、血液の流れで滞ってるところが無いかとか……ね。集中するのでちょっと静かに」


そう言ってあてがった両手に神経を集中させると、血流の中心である心臓がすぐわかった。


流れは一定のリズムで量も一定量であることが分かった。とくには異常がない。身体の水分量も普通で、脱水症という訳でもないようだ。


「体調に異常はないようだな。ネコ特有の病気まではわからんから、もしそうだったらお手上げだ」


「ですね、緑化とかで植物の研究はしてますが、砂漠の動物は流石に範囲外です」申し訳なさそうなセツガさん。


「そういえば、なんであんな空き地があるんだ?結構な広さがあるんだから、なにか利用できそうだと思うのだが」


「うーん、なんでだっけ?」


「あれ?ミリーは聞いたことありませんか?研究所の砂の精霊の話?」


どうやらまたセツガさんのスイッチが入ったようだ。今回のは穏やかそうなのでちょっと安心かも。






まぁ私も伝え聞いた話なので、そこはご了承ください。


ここが国立の研究所になる前の話らしいです。例の化け物が王都の手前で阻止されたとはいえ、王都に全く影響がなかった訳ではありません。


植物は枯れ始め、既存の井戸は水が出なくなり、深い井戸を掘らねば水を得られなかったそうです。


しかし例の人造精霊を封印した後、ゆっくりではありますが元に戻っていったそうです。「完全に」という訳にはいきませんでしたが。


前置きが長い?えー……はい。


この研究所の前身である、有志による緑化チームはある時期、怒りと困惑に苛まれていたそうです。


王都内の虫食いのような枯れた土地を順調に緑化していったのですが、一か所だけ芳しくないところがあったのです。


芳しくないというよりも、原因不明の不安定な土地があったというべきでしょうか。


それがよりにもよって、自分たちの本部に隣接した土地とあっては面目が潰れる……というのは言い過ぎかもしれません。他の場所は成功しているのですから。


しかし対外的にはよろしくないですよね?緑化を目指しているチーム本部の隣が、緑と枯れ地のまだら模様だとしたら。


彼らも指をくわえていた訳ではありません。別の土地での成功した方法を試すのですが、始めは良いのです。植物は芽を出し、ちゃんと大きくなるのです。しかしある程度大きくなると、突然立ち枯れしてしまうのです。


え?前置きが長い?


いや、こう言うのは順序立ててですね……ああ、仕方ないですね。


ぶっちゃけると当時のヒト達は、原因は自然的なものではないと結論付けた訳です。何かしら外的要因が加わっていると、ね。


ちょっと勘繰ったら一発で当たってしまったのです。原因は砂の妖精でした。


ああ、封印された奴とは別の個体ですよ、それがどこをどう彷徨ったのか、王都のその区画にまで流れ着いてしまったようなのです。


四大精霊とかでしたら、宥めすかして移動してもらった事例はよく聞きますが、砂の精霊って……マイナーすぎて使役している精霊使いもいなければ対応事例もなく、現在においても公式に確認されているのはここの一体のみです。


”あれ?私、子供のころ本を読んだことあるよ”


”確か何でも望みをかなえてくれるって触れ込みだけど、叶った望みは間違ってないけど間違っているって奴だっけ”


それです。お二人が言うように、せいぜい残っているのは子供向けの童話くらいなのです。


で、解決に向けて招聘した精霊使いは別の精霊と契約済だったり、砂の精霊と関わりたくないと拒否する者ばかりで、駄目だったのです。


討伐?いやいや、あんなことがあった後ですよ。前例はありませんでしたが、うっかり討伐して周りの砂漠から精霊の報復とかを当時のヒト達は恐れたのです。


当時のヒト達は、砂の精霊と対話を重ねました。ほっとけばあちこち徘徊して草木を枯らし、最終的にそれこそ砂漠化ですから。


結果として砂の精霊には住処を作ってあげました。ええ、封印ではありません。居場所を作ることによって移動範囲を限定したのです。それが例の祠ですね。


精霊の力は現状維持のために活動し、それ以外は微睡んでいると伝え聞いております。






「スナネコはその砂の精霊の祠でなにしていたんだろう」


「あの様子からすると、何か変なものでも食べたんじゃない?」


「砂地ですよ、変な果実とかキノコなんか生える余地はありません」


うーん、とそろって黙り込んでしまう。


「まさか野良ちゃん、砂の精霊を食べちゃったとか!」


「いやいや、そもそもさわれるのか?」


「条件がそろえばさわれなくもないですが……スナネコがその条件を満たせるとは思えません」


うーん、と再度そろって黙り込んでしまう。


「一個一個、可能性を排除するしかありませんね」 


「と言うと?」


「体調は安定しているんでしょ?てことは、原因はそれ以外よ。可能性として何がある?」


うーん、と三度そろって黙り込んでしまう。


「砂の精霊を食べたと仮定して、あんな感じに挙動不審になるのか?」


「動きが二種類……最後の二足歩行は別として……あったわ」


「でしたら視みてみましょう。百聞はなんとやらと言いますし」


腐ってもエルフ、精霊視はお手の物だ。三人そろって黙って凝視する。


「うーん、よくわからん」


「あっ、野良ちゃん尻尾がもう一本ある!実体の無い尻尾を持ってるてことは、ただのスナネコじゃないわね!」


「ふむ、その実体の無い尻尾の色とは別の色が、スナネコの中にありますね」


尻尾から色をたどっていくと、確かに体の中には別の色が入り混じっているのが分かる。


「スナネコの物とは違う何かがある?」


「色の分布は……スナネコの方が若干広い…かな?同じくらい?拮抗しているわね」


「どちらかに肩入れしたら一色に染まりますかねぇ」


問題はどちらに肩入れするかだ。


「で、どっち?」


「「スナネコ」」夫婦未満がハモって答える。


「なぜに……?」気だるげに二人を見ながら一応尋ねる。


「だって可愛いじゃない。しかもネズミ退治もしてくれるのよ!ぜひぜひここに居ついてほしいわ!」


「肩入れする場合、どちらか一方に力を貸すということです。恐らく魔力を分け与えれば良いかと思いますが、分ける場合相手側に与えてはいけません。その点スナネコは一歩リードしています」


どこがだろうか?視線で先を促す。


「尻尾ですよ。実体の無い尻尾目がけて魔力を与えるのです。そういう点でスナネコは有利なんです。……と、偉そうに言いましたが、ネズミを捕ってきて交渉するネコですよ。興味は尽きません」


素直に”気に入った”といえばいいのになぁ。


「確かに。無くすには惜しい奴だよな。受け取ってくれるかな」




二本目の尻尾には触れることができないので、両手で包み込むようにして魔力を送り込む。


ヒトと魔力量キャパシティが違うだろうから、少しづつ与えていく。


「……少し、濃くなってきてない?」


「色の分布も増え始めた気がします」


二人の答えに対して、少しづつ供給量を増やしていくと何やら音がしてくる。言葉にするならば、プーンとかピーンって音だ。


ふと気付くと、気持ちスナネコの頭が持ち上がっている。じっと見ていると、半眼になった顔をこちらに向けてくる……。


ひげが……振動している?そしてゆっくりと頭を持ち上げ口を開くと……ぱくぅ、と指を咥えられた!噛みつかれはしなかったが、そのままチューチュー吸われた!


お乳は出ないぞ~……じゃなくて!!?!魔力を吸われている!!


「おぉ、直接吸いにいきましたか。どんどん色が染まっていきますね」


指を咥えるだけで魔力を吸えるはずなのだが、なんでしゃぶられているんだろうか。……今度は前足がそえられてくる。爪をたてられたらいやだなあ。


っ痛っっ。


痛みに対し反射的に、しゃぶられていた指を引き抜くと指には噛まれた跡がついていた。引っ掻かれるのでなく噛まれるとは……血が出なくてよかった。


にゃぅーん(もっとちょうだい)


「「「え?」」」


にゃあ(ちょうだい)


「……噛むなよ」おずおずと指を差し出す。


にゃあ(わかった)


「しゃべった?」


「と言うか、鳴き声が理解できるって感じかしら」


「聞いてみた方が早いでしょう。先程は会話が成り立っていましたし。……君は何者ですか?ただのスナネコではないようですが」


スナネコはちらりとセツガさんを見上げたが、すぐ元に戻ってしまう。


”視て”みると既に八割方スナネコの色に染まっている。


「返事をしろ。それにもう安定しているんだろ?あんまり欲張って吸うんじゃない」そう言ってしゃぶっている指を、ゆっくりと引っ張り出す。


『ふう、ごちそうさま。あとありがと、たすかったわ』


「あら、鳴かなくても聞こえるわね」


『えぇ、やり方が分かったから。それからさっきのこたえだけど、あなたたちの言葉をかりるなら、あたしはスナネコよ』


「普通のスナネコはヒトと会話したりしないぞ」


『ええ、ふつうのスナネコじゃないわ。ちょっと上のそんざいになれたスナネコよ……』ちょっと不本意な口調だな。


「なにやら現状に満足していない様子ですね」


『なりたいものになれなかったから』


「え?スナネコのあなたが何になりたかったの?」


『あたしはね……』


お座りして居住まいを正したスナネコは、二本の尻尾を揺らしながら答える。


『あたしは、猫妖精ケットシーになりたかったの。でもなるには……足りなかったわ』




『……申し上げにくいのですが……ネコは猫妖精ケットシーにはなれません……』


ぅあ、わざわざこの場面で言わなくてもいいじゃないか、セツガさん!


『な、なれるってきいたもん!ちいさいころに会ったケットシーが、経験をつめばなれるっていったもん!』


スナネコがムキになって対抗してくる……


「それは……スナネコから更に上の存在になれる……と言う意味ではないですか?それに既にあなたはひとつ上にステップアップしていると思いますよ」優しく諭すセツガさん……




「私も聞きかじりですが、その存在はヒトの言葉を操り、時にはヒトへ変化も出来るそうです。更に修行を積めば色々な技能も取得が可能だそうです」


『そ、そんなこと!あたしはケットシーに!!』ぶふぁ!!?!


「「「ぐふぁ!」」」ぐっ…砂が…あふれてきた……


「べっべっ、こ、これは、??!?」


セツガさんが砂を吐き出しながら答える。


「ぐっ、ネコマタだけでなくスナカケの能力まで会得しましたか。何と言う素質ですか」


『ふえぇぇ!な、なにーーー?』


スナネコ、大混乱。






ブックマークの数に一喜一憂です。しおりだとブックマークとして増えないのでしょうか。

ともあれ、読んでいただきありがとうございます。

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