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20・取引?

しっかりと種を付けた植木鉢は、残すは乾燥のみなのでそのまま放置されている。


「それでね、カリムさんとこのお子さんのこと全然覚えてないのよ。仮にも相棒ならば家族構成とか覚えていてもいいじゃない。名前は自分のとこじゃないから覚えられないかもしれないけど、年齢とか男の子とか女の子とか、ね?しかも男装していたとはいえ、カミーユちゃんみたいなかわいこちゃんを男の子と勘違いするのよ?これはもうダメでしょ?鈍いにもほどがあるわ。そんなのだからウチの娘からそっぽ向かれちゃうのよ。年頃の娘へのお土産を”何やら便利そうだ”ってよくわからない工具とか買ってくるのよ。もー私だってそんなお土産はいやだわ。でもねぇ、たまにアクセサリーとか甘いものを持ってくるのよ。たまになんだけどね。もー、不意打ちは卑怯よね!んもう……それでn」


助けてくれ、よくここまで口が回るもんだ。てか、口が乾かないのか?淹れてくれた俺のカップのお茶は大分少なくなっているのに、ナフルさんは一口飲んだだけでこの絶好調ぶりである。


「ナフル~、お客さんかい?あまり困らせちゃだめだよ」


あの声はおっさん!呑気なあの声が天の助けに聞こえるとは!


「エルネストさん!依頼は大丈夫でしたか?預かっていた荷物を持ってきましたよ!」隙をついて会話の流れを切る。


「あぁ、おかげさんで間に合ったよ。なんだよヴィリューク、馬鹿丁寧なうえ名前で呼ばれると逆に気持ち悪いぞ」


「HAHAHA、なにを言っているのですか。今出しますから荷物を検めて下さい」


流れるようにじゅうたんを広げ、収納魔法陣をから荷物を出すと店の隅に積み上げる。整理して入れているので出し忘れはない……はず。


素早く巻き上げたじゅうたんは即元通りに袋に入れてしまう。


「カミーユは昨晩家まで無事送り届けたので安心してださい。ちょっと用事が残っているので失礼致します。そうそう、一か月ほど配達ルートにはいませんので遭難しては駄目ですよ。じゃ、奥さんお茶ごちそうさま。ではまたーーーー……」


矢継ぎ早に捲くし立てて、俺は足早に店を後にする。後ろから声が聞こえなくもないが気のせいだ、きっと。


「おーい、昼飯くらい食って……け、て、早いなおい」既に姿は見えなくなっていた。




色々と捲くし立てたおかげで、無事振り切ることができた様だ。


しかし気疲れか、めちゃくちゃ消耗してしまった。いつもならば数日じっくり休めるのだが、明日には実家に向けて出発しないと。


食料や消耗品を補給せねば。あと、空荷で王都まで行くほど馬鹿馬鹿しいものはないので、ギルドに寄って単発の依頼でも探そう。




結局受けた依頼は馴染みの客の依頼、というか身内の依頼であった。


依頼品は写本など書物類、依頼主は緑化研究所。担当者はミリヴィリス。


ねーちゃん国の予算でなに買っているんだよ。封印されている中身が真っ当なシロモノであることを願うばかりだ。


明日の出発に備え、燻製肉や日持ちのする野菜といった食料品から始まり、日用品や消耗品を買い足していく。


折角だ、港町なのだから魚の干物も買っていくとしますか。昼飯は適当に屋台の買い食いで済ませる。


そのかわり夜は宿屋の食堂で豪勢にいこう。もちろん良い酒もつけてな!


その日、俺は残りの中途半端な時間をぶらぶらして過ごした。




翌日、出発は朝一という訳にはいかなかった。


昨晩はついついあれもこれもと飲み食いしたあとの就寝だったので、目覚めも日の出の後だ。


普通に考えれば十分に速いのだが、朝一でじゅうたんをかっ飛ばせば昼飯前に例の渓谷を通過し、安全な場所まで行けるのだ。


まぁ、あれだけ威嚇したんだ。昨日の今日で襲っては来るまい。




案の定、いつもの時間に渓谷を通過は無理だった。


出口のあたりで既にいい時間になってしまったので、昼飯にすることにした。


干上がった川(ワジ)の辺りに木が生えており、木陰ができていたので食後はそこで昼寝でもするかな。


いつもの燻製肉スープに、初日は焼き立てパンと生野菜が市場で購入できるのでそれも添える。


一つのメニューがハマると連続して作ってしまうのが俺のくせだ。まぁ、独り身ってのはこんなもんじゃないか?


手慣れたものであっという間に出来た昼飯をつつきはじめるが、酒が残っているのか寝たりないのか、完食する前に睡魔が襲ってきた。


鍋にまだ肉とスープが残っている……と考えながらじゅうたんの上で俺は眠りに落ちてく。










それは巣穴の中から監視していた。


ヒトが何やらぺらぺらしたものの上に乗り移動していく。いつもは四足の獣の上に乗って移動してくるのに、これはまた変なヒトが来た。


更に監視を続けると、そいつは木陰に陣取り何やらいい匂いをさせてくる。どうやら食事のようだ。


どこからともなく取り出した食べ物を、ヒトはゆっくりと食べ始める。


自分がそんなにのんびり食べていたら、周りからかすめ取られてしまうのに呑気な奴だ。


しばらくすると、ヒトは腹が一杯になったのか昼寝に入ってしまう。


スンスンと匂いを探ると、まだ食べ物は残っているらしい。ここはおこぼれに与ろう。


ゆっくりと巣穴から身を乗り出し、静かに歩を進める。


太陽に熱せられた砂は熱くなっているが、足の裏に生えている長い毛のおかげでへっちゃらだ。


至近距離まで近づいたが、ヒトは穏やかな寝息を立てており、匂いの元まで問題なくたどり着けた


(これ)はなんだろう、側面に爪を立てると引っ掻き音が出てしまい、ピタリと停止する。


……ヒトは起きていない。今度は上からだ。なんだ、ちゃんと隙間があった。鼻を突っ込むと肉の香りが強くなり、汁の中に浮かぶ肉と野菜が見えた。


頭を突っ込み、肉にかぶり付く。こんなに肉は食べたことがなかった。あっという間に食べ尽くし、汁も残さず飲み干し舐めまわして一滴残らず胃袋に納めた。


更に舐めまわそうと身体を乗り出すと、ころんと鍋なかに収まると同時に蓋なにかが被さった。


頭を持ち上げると蓋なにかも持ち上がり、外の様子がうかがえる。閉じ込められていないと分かったので、ちょっと寛いでいこう。


狭い鍋なかは丸まっていると非常に落ち着く。暗い中食べ物の匂いも仄かにし、ちょっと幸せかもしれない。


そう思ったのも束の間、それはゆるゆるとまどろんでいった。




目覚めた時にまず”寝過ぎた”ということに気付いた。太陽の高さからして、配達中ならば一日の進行距離ノルマを達成するため飛ばさねばならない位だ。


そこは休暇中と言うことで、追々取り戻せばいいだろう。


のそりと起きた俺はあくびをかみ殺し、ゆっくりとじゅうたんを発進させる。


ええ、食べ残した鍋の中身なんぞ忘れていましたとも。




一日分の移動が終わり、夕飯をと思った時に昼間の食べ残しを思い出した。


しまったなと思いつつ、温かくて腐ったかそれを越して熱々で無事かどっちだろうと、背後に出しっぱなしの鍋を振り返る。


……蓋が少し持ち上がっている。それどころか上下に動いている。


おそるおそる蓋を取ると、茶色の塊が丸まっていた。プルッと震えると大きな耳がピンと立つ。


大きなあくびを一発かました不埒物はスナネコであった。ぐぐーっと伸びをして鍋から出てくるが、その身体は全く濡れてなく鍋の中身は空っぽだ。


「ごるああああぁぁぁ!」


鍋の中身が駄目になっていた可能性も忘れて、またもや飯を横取りされた俺は思わず怒鳴ってしまった。


怒声に驚いて一目散に逃げるスナネコ。十メートル位離れた所で止まると振り向いて”ナーォ”と鳴き、真っ直ぐに立てた尻尾を左右にゆらゆらさせている。


それは”ごちそうさま”なのか”またよろしく”なのか、それとも”このまぬけ”なのかは定かではない。


この鍋を使って料理をする気も起きず、水を出してゴシゴシ洗うと収納魔法陣に放り込んだ。


スナネコは同じ位置で毛づくろいを始めており、逃げ出す様子もない。もうほっといて、自分の飯の支度だ。


夕飯は買っておいた魚の干物にしよう。先ず一匹炙りはじめる。その間に固く焼しめたパンと、旅の初日でまだ残っている葉物野菜を準備する。


視線を上げるとスナネコが、砂に素早く何回も前足を振り下ろしている。


パンは固くても食べやすいように薄くスライス。大小のボウルを出し、大きい方に葉物をちぎっていれ、小さい方にオリーブオイル、ビネガー、塩をいれ、胡椒をごりごりと挽く。いずれも目分量だ。ぐるりとひと混ぜしたら葉物野菜へ回し入れて完了。


相変わらずスナネコは前足を振り下ろしているが、今度は違う場所で飛び跳ねている。


……無視無視。干物から目を離してはいけない。よし、いい感じで脂も浮いてきて、丁度良い焼け具合だ。


昨日のことが頭によぎる。今度は取られてなるものかと、夕飯をすべて抱え込む。


まずは魚の干物の首根っこにかぶり付く。うん、干すことで旨味が凝縮されていて美味い。


左手に干物を持ち、右手で野菜を食べ始め、薄切りパンをかじる。干物・野菜・パンと順番に、時々水に口をつける。


半分食べた頃合いに、二枚目の干物を炙りはじめる。


ゆっくりと噛み締めながら、干物を炙っていく。頻繁にひっくり返してはいけない。じっくりと炙っていく。


一匹目が頭と骨だけになった頃にやっと二匹目が焼き上がった。


一匹目の残骸を皿におき、二匹目をさぁ齧り付こうかと口開けた所で……


”にゃぉーん”横で鳴き声がする。


ふとみると、サソリが五匹綺麗に並んでいる。尻尾が千切れていたり、頭がつぶれていたり、止めがさしてある状態だ。


”たしったしっ”とサソリの横の砂を叩くスナネコ。こんな様子は聞いたことがない。


干物を指すと”にゃ”。サソリを指すと”にゃぁ”。


頭をひねり、想像し、これが答えかと想像した俺は、皿に炙った干物の半身をそいつの前に差し出し、サソリを全部回収した。


”にゃおーん”そいつは良い取引が出来たとでも言ってるかのように一声鳴き、食べ始めるのであった。


片や俺と言えば、騙されたというか、幻覚をかけられたのではないかと、ふるふると頭を振るのであった。


ヒトと取引をするスナネコ……獰猛と聞いていたのだが、俺の知っているスナネコとは違いすぎる。


そんな俺の思いをよそに、そいつは一心不乱に干物を咀嚼するのであった。





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