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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
砂エルフ、旅情篇
179/195

山賊もどき

前回のあらすじ(2024/05/23 12:10頃)



執筆中ノートPCがテバイスエラーで突如再起動

2、3行書き始めたばかりだから、まぁいいか

再起動完了、ワードを立ち上げファイル読み込み

ん?白いな、ファイルは合ってるし。ん?OneDrive保存済?

ま、まてHDDにも保存してたはず

し、しろいだと_| ̄|○ il||li

自動保存オンで真っさらなデータ上書き!?



もうダメだ、おしまいだぁ……と沈んでいましたが、皆様の励ましのお陰でなんとか復活。


月刊砂えるふ、更新です!







村娘(キャリー)の攻勢は事あるごとに続いたが、マリーとセウィムの間に特段の効果を及ぼすことはなかった。


そうこうするうちにキャラバンの商売は滞りなく終了し、馬車は列をなして村を出発。


通りすがりの村人が手を振って見送ってくれたが、彼女の姿を見かけることはなかった。


あの年頃の子供だ、家の仕事を言いつけられているのだろう。


今回の出来事も子供の頃の思い出として、いずれは色褪せていくことだろう。




馬車は彼方に見える山を目指し、道はアップダウンを繰り返すが徐々に勾配が上がっていく。


「へぇ、セウィムさんってほんとあちこち回っていたんですね」


「回っていたといっても、王都を中心にした村を周回していただけだよ」


自分にとってはどうということのない話題であっても、違う環境に住んでいた相手にとっては興味深い話題であったりする。


後方から途切れ途切れに聞こえてくる余人を交えない会話。となると若い二人の会話は尽きない。


キャラバンは結構な距離を進んできたにもかかわらず、今現在護衛の仕事は開店休業となっている。


いや、道中の警戒は怠ってはいないし、夜の見張りもほかの護衛とローテーションを組んでこなしているのだ。無駄飯食いでは決してない。


そして眼前にはそびえたつ山。


「なぁオルソン、あの山は山賊とか出るのか?」


ゴーレム馬まかせの馬上から、並走している馬車の馭者台へ問いかける。


「賊、なぁ」

「山賊じゃあ、ないのだが」


オルソンだけでなく隣の馭者も言い淀む。


「はっきりしないな、出るのか?出ないのか?」


オルソンは渋い顔をしながら、その原因を口にした。


「前に出たのは“押し買い”だよ」


気付くと山道に入っており、道幅は馬車同士が何とか擦れ違える程度。前を塞がれて襲撃されると、来た道を戻ろうにも手間取っているうちにやられてしまう。


「って、押し買い?」


押し売りなら聞いたことがあるが、なんだそれは。


「ああ、それは───」


怪訝な顔をしていたのだろう。補足説明をしようとするオルソンを、列の前方からの大声が遮った。


「止まれ、とまれーっ!」


突然手綱が引かれ(いなな)く馬たち。車体を(きし)ませ連鎖して止まる車列。


「何事だ!」


馬車を飛び降りて前方へ駆け出すオルソンだが、護衛が先陣を切って状況確認しないでどうする。


クレティエンヌの馬体を蹴って先頭へ駆け出すと、ヴァロを駆って先頭を目指していたバルボーザを追い抜く。


「何事だ!」


一気に先頭に躍り出ると、そこには髭面の男が三人。


「キャラバンのリーダーはいるかい」


声を上げる男のにやけ面が気に食わないが、どうも様子がおかしい。


風体は山賊なのだが、遠間から弓で狙ってくる気配もなければ、武器を抜いて威嚇もしてこない。


男たちは腰に長めの山刀を吊るしているのだが、山賊・盗賊の定石は1・人数を揃える(もしくは居るように装う)、2・これ見よがしに武器をちらつかせ威嚇する、3・言動、風体で相手を委縮させ抵抗する気を無くす。


砂漠で賊をあしらってきた俺だが、今回は流石に勝手が違う。それでも前に出て彼らの盾にならねばならない。


「はーっ、はーっ、はーっ」


息切れがきこえたので視線を投げると、オルソンが到着するのが見えた。


「久しぶりじゃないかオルソン。今回もあんたが?」


「久しぶりじゃねぇ、デニス。まさか、またじゃないだろうな」


「そう言うなよ。俺とあんたの仲じゃないか」


「どんな仲だ!必要なら村長の一筆貰って来いって言ったよな、一筆あるのか?」


「それは……なぁ?」


山賊ではない?山賊もどきか?にやけて両手でポーズを取るのが不愉快だ。オルソンが言う一筆も貰っていないのだろう。


「知り合いみたいだが誰だ」


オルソンは苦虫を嚙み潰したような顔で吐き捨てる。


「これから行く村の村長の三男坊だよ」




オルソンから聞き出した経緯はこうだ。


この山を含めた地域一帯は中継地なのだそうだ。近隣の森や山で育った獣たちが、この地を経由して新天地へ旅立っていく。


しかし旅立った先には、既にそこを縄張りとしているものがいるわけで、当然新たな縄張り争いが勃発する。


自然淘汰がなされて、森や山の中で循環していればよいのだがそうはならず、あぶれた獣たちは森から出、山を下り、人里に現れ、拓いた畑に出没して被害を及ぼす。


村にも猟師はいるのだが、最盛期には手が足りない。そこで白羽の矢が立ったのが、村であぶれた次男三男坊たちである。


親から継ぐ農地がない弟は、継いだ兄の下働きをするか、新たに自分の土地を拓くしかない。しかしここで畑を荒らす害獣の駆除は、彼らにとって都合のいい食い扶持となった。


また、害獣を駆除することにより、無駄飯食いと蔑まれることもなくなる。なにより食肉の入手と剥ぎ取った皮を(なめ)せば、村にとっても貴重な現金収入となる。


しかし──


「おい、勝手に馬車を漁るんじゃねぇ」


「肉とか木の実とかはもう飽き飽きなんだよ……おっ、酒じゃん、チーズもあるじゃないか」


押し買い──勝手に商品を漁り、強引に買い取る。


「やめろ!それは売り先が決まっているんだ!」


「そいつはわりぃな。少し戻しておくぜ」


……勝手なのやら、聞き分けがよいのやら。


「あんたの村から注文受けたものだってあるんだ、デニス!向こうで数が大きく違えば契約違反になるのは分かるだろう?何回目だと思っているんだ!」


今回が初めてではないようで、つまりオルソンは納品先の変更を、村長から一筆貰って来いと言っていたのだ。


「よし!それじゃあ俺も一緒に村まで行って(ナシ)をつけてやるよ。証人がいれば村長(おやじ)もごねないだろ?」


名案思いついたとばかりに両手を打ち付け止まらぬデニスに、オルソンはついに折れるしかなかったが、そこで引っ込む彼ではなかった。


山賊もどきの村人とは言え、その風体は商人たちが及び腰になるには充分であった。


オルソンは商人と山賊もどきの間に入って少しでも被害を抑え、手が回らぬ所には護衛を配し、威嚇・恫喝から商人を守らせ押し買いに対抗していく。


結果、初めにあった商品の山は、抵抗の末に小さな山に落ち着いたのであった。


被害(買取)になった商品は漏れなくリストに上げて持ってこい!デニス、内容を確認してサインしろ!」


「名前は書けるが、何が書いてあるかなんてわかんねぇよ」


村長の三男、まさかの文盲であった。


「いい加減、読み書きを覚えろ!読み上げるから確認しろっ!」


非正規(イレギュラー)の対応に片が付いたのは、それからさらに時間が経ってからであった。




「よし出発だ!時間がとられたから少し急ぐぞ」


「すまねぇなぁ、乗せてもらってよ……っとと、乗り心地はいまいちだな」


「嫌なら降りろ。街を走る乗合馬車じゃないんだ」


「そう噛みつくなって。買うだけじゃなくて、いろいろと出してやったじゃないか」


塩対応のオルソンに怯まず、デニスはどこまでも通常運転だ。


実際商品が売れて馬車にスペースが開いたならば、そこを埋めるべく仕入れを行う。空荷で馬車を走らせるなど商人失格である。


「あの品質の革じゃなかったら突き返してやったのに……くそっ」


押し買いの代金の一部として用意されたのは、害獣駆除の副産物であった。この山賊もどきたちの加工技術はなかなかのもので、その良品質の副産物(なめし革)をみすみす見逃せるほどオルソンの眼は曇っていなかった。


食用となるシカやイノシシの肉は燻製にされ、皮は鞣されて革として商品価値を上げる。


しかし全てが商人たちに買い取られたわけではなく、村への輸送物として請け負ったのが大半である。


「そう睨むなよ。革職人に卸せばアンタたちもいい儲けになるだろ?」


まったくもってその通り。


言い返せないオルソンは、荷台のデニスを一睨みして視線を元に戻したが、前の馬車の荷台にも山賊もどきたちが同乗しており、どうしても視界に入る。


オルソンに気付いた彼らは態々手を振って来るが本人はもう辟易。“構うな”とばかりにシッシと手を払うのであった。




予定していた野営地についたのは、とっぷりと日が暮れてからであった。


川がちょうどカーブを描いている頂点には、角の丸まった大岩が一つ、そして砂や小石が堆積して川原となっている。


月明りでの野営準備となったが、川原には流木が流れ着いており燃やす木には事欠かず、あっという間に焚火が周囲を照らし始める。


キャラバンの面々も自分の仕事をこなしていくのだが、山賊もどきたちは臓物を抜いただけの鹿を二頭、川に沈めて冷やし始める。


おそらく村への土産なのだろう。


それだけでなく彼らは解体済の鹿肉を提供。肉はキャラバン全員にいきわたるには十分な量であった。


あと半日も馬車を走らせれば村に到着するとなると、食料消費を絞る必要もなく食事当番はストックを解放し、それなりに豪華な夕食が配られていく。


「ヴィリュークさんと出会ったのも川原で野営の時でしたね」


「あの時はセウィムと師匠の……ゴダーヴもいたか。あと行商人もひとりいたな」


食後の茶を出そうにも全員分には足りないので控える。自ずとカップの中身は白湯である。


「あの時は狼の群れに襲われたんだよ」


大げさなセウィムの身振りにマリーが反応する。


「えぇ~、大丈夫だったの?」


「大丈夫じゃなかったらここにはいないさ」


微笑ましい若い二人のやり取りに、周囲は余計な口を挟まない。


「あの時はヴィリュークさんの水術で狼を一網打尽にしてさ、順番に叩きのめしてやったんだよ」


さも自分も退治に尽力した言い回しだが、一々指摘するほど野暮ではない。それにあの当時の俺もまだまだ未熟だった自覚があるので、それに言及して藪蛇にはなりたくないからだ。


「すごいですね」


「四人いたから撃退できたのさ」


キラキラとした目のマリーを微妙な表情に落とすには忍びない。セウィムの格好いいイメージを維持するのだ。




それでも夜が更けていくに連れ、一人二人と寝床へ帰っていく。


残るのは夜番の護衛たちだ。


今晩は三交代のうちの中番。


微睡みながら横になっていると、初番の者の接近する気配に意識が覚める。身体をゆすられる前に身を起こすと、手を伸ばした姿勢で男が固まっていた。


「お、おう。寝てなかったのか?」


「いや、寝ていたさ。気配で、ね」


護衛仲間の男に軽く驚かれる。


そんな驚きも睡魔の方が大きかったようで、“じゃ、あとはよろしく”と欠伸交じりで交代だ。




川のそばでの野営ということもあり、夜が更けるにつれ寒さが増してくる。就寝中の者たちは馬車の中で毛布に包まり縮こまっているだろう。


見張りは精々、焚火のそばで肩から毛布に包まる程度だが、俺は砂漠で配達稼業をしていた頃から愛用しているフード付きマントがある。


「うう、寒ぃ」


俺と当番はもう一人。


寒さに震えて焚火にかけてある薬缶から白湯を注ぐ。


「飲み過ぎると近くなるぞ」


「分かってるよ」


トイレに立てば毛布の内側にため込んだ暖気が逃げてしまう。ジレンマに苛まれながら、せめてもと白湯の入ったカップで指先を温め、さらには頬にもあてがっていく。




川の水音のせいで周囲の気配が探りにくい。


川原の砂や小石を踏みしめる音があれば、それはそれで気付きそうなものだが、そこまで大きな音を立てる相手ならそれ以前に気配を感じるものだ。


ぼんやりと周囲を伺い続けていると、時折なにか一瞬光るものが見える。あれは恐らく鹿だろう。


焚火の明かりを鹿の眼が一瞬反射しているのだ。


こちらの気配を感じて近寄っても来ない。恐らく水を飲みに来たに違いない。


突然その鹿の群れが川に飛び込んで渡り始める。


理由はすぐに分かった。捕食者の群れ、狼だ。鹿たちは体高の差を生かして渡河し、狼から逃れたのだ。


見逃したのか諦めたのかは分からない。だが狼はこちらにも気付いたようだ。


さてどうする?


隣では見張りの相方が、肩口の毛布を頭から引っかぶった。


「そんなに寒いのか?」


「さみぃよ。アンタよく平気だな」


「確かに冷えるな……ちょっと素振りしていいか」


「うえぇ……すきにしろよ」


フードを脱ぎ、マントの裾を払って抜刀する。


明かり届かぬ彼方で、こちらを伺う気配が散開するのが分かる。


その一つに向けて意識を細く絞り、上段から一振り。素振りであるし何より距離がある。届くわけがない。


しかしこちらを伺う気配が失せた。


続けて連続で切り下しからの切り上げ。


二つ、気配が失せる。


「おお、なんかすげぇな」


何が起こっているのかも知らずに、相方が呑気に見入っていた。


そこに一つ鋭い気配が現れると、次々と呼応する気配たち。


間違いなく群れのリーダーであろう。


ならば──多人数相手の水鳥流の型を一つ。


納刀してから一閃。そこから連続する足さばきから、ひたすら魔刀を振るい続ける。


気勢は上げずに振るうが、どうしても鋭い呼気が漏れてしまう。


そして最後。


“シッ!“


彼方の群れのリーダー目掛け、踏み込み、下から喉元への切り上げ。


残心。


納刀。


「ふう」


「おおお」


相方が小さく拍手してくれ、群れの気配は去っていた。


「なんか見ていただけなのに体が熱くなっちまったよ」


「そいつはよかった」


そして次の当番に引き継ぎをして寝たが、その晩は何が起こることもなく朝を迎えた。




見張り当番の者へは、よほど寝過ごさない限りは寝かせてくれる。


それでも担当が朝飯の準備をする音で目が覚めると、各々川から水を汲んで顔を洗っていた。


「おはよう」


「おはようございます」

「おはようさん」

「はよーっす」


言い回しは違うがそれぞれ朝の挨拶を返してくれる。


「おはようございます、ヴィリュークさん」


「おはよう、セウィム」


さっぱりした顔で挨拶を交わす。


「昨晩は何事もなかったですね。出会ったときみたいに、狼が来るかと身構えちゃいましたけど、ぐっすりでした……あっ、マリー」


仲良くなるのもあっという間だ。


「よう、ヴィリューク」

「よう、バルボーザ」


桶に水を汲んできたバルボーザは、顔を洗うとともに丹念に髭も洗い、しっかりと水気を拭き取りながら髭を梳き上げていった。


「昨晩は稽古に身が入っていたようだな」


髭用の櫛をそっとポーチへ納めるバルボーザ。


「──うるさかったか?」


「いや、静かにできた(・・・・・・)だろう」


彼にはお見通しだったようである。






イイねボタンで励ましてくださった皆様、ありがとうございました!


何とか間に合いました。本編書いていた頃は当たり前のペースだったんだよなぁ。

それでもひらめいて書けた文章は、あったことは覚えていても思い出すことが叶わなかったですし、元通りにはなりませんでした。


それでも筆を折らずに済んで胸を撫で下ろしております。


お読みいただきありがとうございました。


ブクマ、イイねボタン、一言、お待ちしております。


これからも「エルフ、砂に生きる」をよろしくお願いいたします。


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