17・おさまる所におさまる
棘のバリケードは、盾で防御しながら突破した。
薄そうなところに当たりを付けて、男二人掛かりで盾越しに押し込んでいくと継ぎ目が見つかった。
継ぎ目をぶっ壊したら今度はそこを盾で押し開ける。移動式で作りが甘かったことも幸いし、少し苦労しながらも通り抜けることができた。
当然このようなシロモノを再利用されない様に、火をつけて出発する。バリケード以外に燃えるものはないから延焼もしないので安全だ。
砂丘を迂回するより早いとはいえ、時間を喰ってしまった。無事砂丘の間を抜けると、彼方に小さく港町が見えてくる。
「あともうちょっとだ!」嬉しそうにおっちゃんが声を上げる。
「カミーユ、この調子なら間に合うぞ!……カミーユ?」
じゅうたんに座っている彼女の様子がおかしい。こちらに向けて口角を上げているのは笑っているつもりなのか、よく見ると虚ろな目をしている。
と思ったら、ぱたりと倒れてしまったではないか!リディを飛び下り即座にじゅうたんも停止させる。
すぐさま具合を見ると体温が高い。無理させてしまったか、この暑さの中の移動はやめておいた方がよいだろう。
おっさんと協力して、楽な姿勢で寝かせてやる。当然日陰も作ってやり、水も惜しみなく使って冷やしてやる。
「ち、大丈夫って言葉を鵜呑みにしちまった。まだこんなに小さいのに……気ぃつかいやがって……」
「そう言うな、俺だって気付かなかった。で、どうする」
「……ヴィリューク。頼みがあるんだが」
時間が迫る。
彼方にリディが一騎早足で進んでいくのが見える。目的地が目の前だから出来るペースだ。
あの後俺たちは最低限の荷物を梱包し直した。じゅうたんからカミーユを動かせないとなると、走るのはおっさんだ。
依頼品の荷物と万が一の為の短剣一本、水は二袋持たせた。おっさんの店の商品は時間に余裕があるので、こちらで預かる。
街から街までほぼ無補給で行けるリディではあるが、頑張って欲しいのでここで水を与えた。
足りなくなったらまた集めればいい。
状況だけみると時間ぎりぎりなのだが、おっさんは根拠のない自信に満ち満ちて出発していった。
もう任せるしかないので、こちらはカミーユの様子を見て日が落ちたら町に向かおうかと思う。
カミーユの額に乗せていた濡れ手拭いを交換しようと手を伸ばすと、もう気温も相まって半分乾いていた。
固く絞ったものと交換すると、ぽそぽそと声がした。
「すみません、足手まといになってばかりで、ぅっく。ヴィリュークさんには迷惑かけてばかりで……ぇぐ」
情けなさからか泣いてしまっているようだ。額の手拭いを目まで隠れるように、広げてあてがってやる。
「ガイドの腕は問題ないんだ。あとは身体鍛えて体調を整えられるようになればいい。はじめから上手く出来る奴なんか稀だ」
「でも……」
「いいから寝ろ。気温が下がったら出発するからな。俺も昼寝だ」慰めるように頭をポンと叩くと、俺も荷物を枕に一眠りすることにした。
俺たちが出発したのは、日が傾き始めた頃であった。
この調子だと到着は夜遅くだろう。気温が下がる頃合いに距離を稼ぐ輩は多く、ましてやちょっと無理して進めば町に着くのであれば無理をするのは当然である。
誰しも保存食よりも美味い飯、砂地よりも柔らかい寝台の方がいいに決まっている。
そんな奴らが多い為、町の門は真夜中まで開いている。まさにヒトは町の光を目指して歩を進めるのだ
新鮮な野菜や、港町に着くからには魚を頬張りたいと思うのも当然である。
そしてじゅうたん二人乗りの上、荷物も全部積み込み、リディは空荷で走っている。
「め~し、め~し、ついたらなにを食おうかな~♪」
「そんなにご飯が恋しいのですか?」
「当然だ!街で美味い飯が食べれる!俺は美味い飯を食べるために生きているのだ!」
「じゃ、じゃあ、今度ご馳走してあげますよ。一杯お世話になりましたし……」ごにょごにょ……
「ん?じゃあそのうち頼むよ」
二人と一匹は、町を目指してご機嫌で進むのであった。
夜も更け、酒盛りをしている者もそろそろ帰宅しようかという頃合いに、ようやっと町に到着する。
俺たちの姿を見て詰所から門番達が出てくるのが見える。
「よう、珍しいな。あんたがこんな時間に到着するなんて」リーダー格の顔見知りの兵士が声をかけてくる。
「や、ご覧の通りだよ。あと砂丘の間の盗賊どもを蹴散らしといた。殺しはしなかったが、思い切り脅してさ、堅気に戻ってくるといいがね」
「無理じゃねーか?暫くしたら元通りが関の山だ。ともあれお疲れさん。タグをよろしく」
やっぱそうだろうな、と思いながら、二人そろって首から下げたタグを見せ、門を通過する。
「今回のこまごました事は明日にしよう。家はどっちだ?」
「ぃぇ、ここでだいじょぶです。や、その、めだち……」
「ここまできて遠慮するな。どっちだ。とりあえず中央広場までいくか」
「あ、あや、ちょtt」
観念したのか、カミーユが道案内をし自宅まで到着したのだが、遠回りだったようでちょっと時間がかかった。
どうやらじゅうたんで送られて目立つのが恥ずかしかったらしい。今更降ろせるかっての!
そのあともちょっとしたひと騒動があった。
彼女の両親が無事を喜び感情をあらわにしたり、エルネストのおっさんから事前情報がいっていたのだろう、謝罪と感謝の雨あられと言った感じで状況からすれば理解できるのだが、旅の疲れもあるのでそこそこの説明をして逃げてきた。
当然連絡先はエルネストのおっさんの店を言っておいた。感謝されるのは悪くないが、どうも俺は一言言ってくれれば満足してしまうらしく、そそくさと逃げてしまうのだ。
カミーユも俺の手を握りしめて、改めてお礼を言ってくるのだが、俺は額に手をあて体温を測ると「しっかり休んでこれからも頑張れよ」と言ってその場を後にする。
俺にとってはこれはもう過ぎたことだ。顔見知りが増えただけであって、恩に着せてどうこうってことはない。飯や酒をおごってもらってそれで終了。
今回のことも少し波が荒れた程度の話だ。波が収まれば忘れてしまう。
なので、俺は空いている宿屋の心配で頭が一杯であった。
つたないモノをお読みいただいて恐縮です。