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お互いの近況・付与界隈の現状・緊急依頼

絞りだして何とかギリ月内に間に合いました。

更新できない詐欺ではありませんよ(´・ω・`)

前回更新時は本当に目処が立っていなかったのです(*ノωノ)






ウルリカさんとの久しぶりの再会に、彼女が手ずから淹れてくれたお茶を飲みながら、互いの近況を教え合う。


当然彼女は自身の結婚を。


はにかみながら口を開く様子から、今現在幸せであろうと窺い知れる。


そしてそのお相手を紹介してもらおうとしたのだが、残念ながら商売で港街シャーラルへ出向いていて不在であった。


四日前に出発したので戻ってくるのは当分先だ。顔を拝むにしてもしばらく後になるだろう。




彼女の話が終わればこちらの話をせねばならない。


幸せな彼女に、俺の景気の悪い状況を伝えるのも憚られるが、これはこれで伝えぬわけにもいかない。


店までの道中で義手は装着済みなので、それを見せつつ当時の話をした。


会話の間ウルリカさんは俺とナスリーンと視線を交わし、話題となっている左頬の伊達な傷と左の義手への視線は控えめだったのは、彼女なりの気遣いなのだろう。


「不躾で申し訳ないのですが、どのように装着しているか見せて頂けませんか?」


「いいとも」


純粋な好奇心からの申し出に、二つ返事で席を立つ。すぐさまナスリーンがマントを脱ぐ手助けをしてくれた。


「こんな感じで付けている」


「失礼します」


彼女も席を立つと、俺の周囲を回り始め装着の仕組みを確認する。


「魔道具ではないのですね。技術のみで作られているとは……安くはないのでしょうが、べらぼうに高額でもない」


一目で看破するとはすばらしい目利きである。


「いい職人に出会えたよ。三日で形にしてくれた。期待以上だったから、今後の為にも投資してきた」


「その方、ご紹介いただいても?」


彼女の目が光った気がする。ナスリーンも一瞬身を強張らせてくらいだ。


「あ、ああ。エドガーという防具職人で、場所は───」


「───ありがとうございます。怪我の事は不幸な事でしたが、その出会いは幸運でしたね。うちの商会でも気にかけておきましょう」


評判の商会が気に掛けるという。ましてや彼女の事だ、額面通りではないだろう。あの防具職人夫婦には頑張ってもらいたい。


「ところで商会では主に何を扱っているの?」


ナスリーンの疑問ももっともだ。


「元々は雑貨商だったのですが、私がこんな調子ですので何でも扱っています。それでも手に負えない依頼が来た時には、対応できる私共の取引先を紹介しています。それを繰り返していたら、いつの間にかこのような事に」


なんてことは無いといった風に微笑むウルリカさんであったが、目利きと知識と人脈はギルド職員時代からの積上げの賜物であろう。




「折角だから、ばあさまへの土産を見繕ってもらおう」


「イグライツ土産は買ったじゃない。それを言うなら贈り物としてのほうが適切でしょ」


「ふふっ、お二人とも相変わらず仲がよろしいですね」


彼女の指摘に俺は平然としていたが、ナスリーンは“あ、いえ……”とどもってしまう。その様子の方に俺はつい笑みを浮かべてしまうのだが、それをも彼女は見通していた様で、彼女はまた“ふふっ”と笑う。


「ヤースミーン様への贈り物となると、張り切って提案させていただきませんとね」


確かウルリカさんはばあさまとの面識はないはず。だが職員時代にどういった人物かは聞き及んでいるのだろう。


“少しお待ちください”と断りを入れてバックヤードに入ると、さほど間を置かずに何かを携えて戻り、袋のそれをテーブルの上に置いた。


「付与、収納が、施されている?」


ナスリーンを見ると彼女も黙って頷いた。


ウルリカさんと言えば、俺達の反応を楽しむかのようにその布の袋を開けるが、付与収納のはずなのに出てきた木箱の大きさは袋とほぼ変わらないものだった。


袋を脇に避け、一抱えある平たい木箱を開けると、中からは白いティーカップが四脚と、白い一輪挿しが収められていた。


緩衝材も上等なもので、深い青に染められた絹で作られた小さなクッションが敷き詰められ、蓋を取っただけの状態でも見栄えがする代物だ。


「白磁で一揃い、定期的に入荷はありますが数は少なく、うちの人気商品です」


「うん、いただこう」


自信満々の口上に、こちらも即決する。


いい値段がするはずが、お手頃価格に値引きをしてくれた。それでもそこらの品物とは訳が違う。


いくらだったかって?無粋なことを聞くもんじゃあない。




「気になることがあるのだけれども」


前置きをするナスリーン。“見えている”彼女の事だ、恐らく俺と同じ事が気になっているのだろう。ウルリカさんも微笑んで先を促す。


「付与収納の袋で間違いありませんよね?見た所、容量拡張が不十分ですが、わざわざこれを使用する理由は何でしょうか?」


「何といいましょうか……要求していることは容量ではないから、でしょうか。基本的にこれらの袋は外からの衝撃を中に通しません。つまるところ、割れ物・衝撃に弱い物を入れておくと、重量軽減かつ安全に持ち運びが出来るのです」


「それはまた良く思いついたな。その為に容量を抑えて付与のコストダウンを図るとか、やり手商会が考えることは普通とは違うな」


俺とナスリーンで一頻り感心していたのだが、ウルリカさんは眉を下げて“実はそうではないのです”と否定した。


「ここ十年近く、付与術師の世代交代が滞っているのです。その結果、商品の質は下がり、値段は上がっています。ですが製作しても売れていかないのです」


どういうことだ。ウルリカさんの言葉は続く。


「世間で言う一般的な付与収納は、背嚢サイズで荷馬車一台の半分の容量が目安でした。多少の誤差はあれどもそれが基本です。荷馬車が壊れた時、直せる職人は探せば見つかります。ですが付与収納の場合は簡単にはいきません。付与術師と鞄職人の両方がいなければならないのです。ただの鞄や袋ならばシロウト仕事で取り繕うことも出来るのですが、付与収納の類いはそうはいきません」


「繕い?エステルが作ってくれた奴は堅牢と言うか、摩耗に強くする魔法陣がついてそんな心配は───」


腰に巻いてある付与ポーチは、さらに防刃やら警報やら盛り沢山である。


「エステルさんは超一流の職人ですよ。他の方とは比較になりませんし、あの方の作品は、下手をすれば一般平民の年収以上の価値があります」


言外に“価値を知らないで使っているのですか?”と言われている気がする。いや、言われているのだろう。


「とまぁ、万が一修理をするにも出来るところは限られ、売れない事には新たな鞄に付与をされることも無く、仕事が無ければ弟子も来ず、弟子がいないという事は技術の継承がなされないという事です」


「八方塞がりじゃない!」


「そうなのです、ナスリーンさん。そこで私は視点を変えました。容量の特性はこの際無視し、内部へ衝撃を通さない付与収納へ特化しました。富裕層向けの高級品ならば定期的な発注も出せますし、そうすることによって職人の技術向上や継承も可能になります」


そこまで視野に入れているとは凄いとしか言いようがない。結果として明らかになるのは先であろうが、素晴らしい考えである。




「修理がどうこうって言っていたけれども、付与の鞄とか背嚢が壊れた話とか聞いた事ないわ」


「事実かどうかは分からないが、行商人や配達員界隈で定番の話がある」


「私もギルドにいた頃にちらりと聞いた事がありまして、主人からもその手の話を聞きました」


何の事かと言うと、背負っていた付与背嚢が壊れた行商人の話である。


幾つかのバリエーションがあるが主軸はこうだ。


勇んで仕入れをした行商人が、付与背嚢一杯に商品を詰め込んで旅立った。壊れた原因もいくつか種類があり、限界まで詰め込み過ぎたとかもともとボロだったとか様々である。そしてお約束なのは道中で背嚢が破れ、道のど真ん中で商品をぶちまけるところだ。次の展開にも種類がある。

しかたなしに道端で露店を開くと、二束三文で買い叩かれる展開や、親切な行商人仲間が適価で買い取ってくれる展開、全く売れずに付与が無くなった背嚢に詰められるだけ詰め歩き出す展開と、これまた様々だ。


「ギルドにいた頃、その様な目に遭った方を一人だけ知っております」


「ほんとにいたんだ」


その話は俺も聞いた事が無い。


「幸いなことにその方は仕入れ時に災難に遭われたそうです。大損をすることは無く、新たな輸送手段を講じて無事に行商に赴くことが出来たと、本人から笑い話で聞かされました。恐らくその方の話が元に、尾ひれがついて世間に広まったのでしょう」


噂が噂を呼ぶ、というやつか。思いかけず話に花が咲いた。




「御免!店主はおられるか!?」


店の扉が大きな声と共に開かれた。


「会頭、大きな声をあげられてどうなさいましたか。他のお客様もいらっしゃいます、声を落としてください」


飛び込んできたのは髪も口髭も白くなった老普人の男だ。お付きの者を引き連れているが、明らかに一人身綺麗な男がいる。


「ご自身で直接いらっしゃるとは……使いの者を寄越していただければ、こちらから出向きましたのにどうなさったのですか」


ウルリカさんは申し訳ないと目配せをして、その老会頭とやらと俺達から遠ざかる。内密の話もあるだろうし、当然の行動だろう。




★☆★☆




「来客中だったか、すまんなウルリカ」


コーデル会頭。


私に見合い話を持ってきて、結婚の切掛けを作ったのはこの人だ。


「時間が惜しい。単刀直入に聞くが、砂漠を縦断できる者に心当たりはないか?」


「無くはないですが、配達関連はギルドにお願いした方が確実ですよ」


「そのギルドに依頼を出したら丁度出払っているそうだ。次の到着予定の者が二日後、そいつを到着するなり即座に出発させる事は無理ときた」


当然だ。砂漠の移動は過酷である。慣れた者であっても数日の休暇を取って、体力の回復を図るのが定石なのだ。


「何をそんなに急いでいらっしゃるのですか?」


すると会頭は顔を近づけ声を潜める。


「港街シャーラルから魔道書簡で連絡があった。うちの支店からだ。先般イグライツから親善使節団が帰国しただろう。その使節団を乗せた船が自前で仕入れた商品の中に、掘り出し物があったのだ」


「掘り出し物ですか」


ふとした予感にエルフの客人たちに視線を向けるが、彼らはゆったりとティーカップ片手にくつろいでいる。


「イグライツの潰れた商会が、借金を清算するために諸々売りに出したのだ」


会頭によると店の在庫や備品だけではなく、商会主の私財も対象だったそうだ。潰れた原因が蒐集癖を拗らせたせいもあり、私物は相当数に上ったとの事。精査して売りに出せばそれなりの金額になったのだろうが、返済期限が迫っていたせいもありコレクションは十把一絡げにオークションにかけられたそうだ。


「一体なにを買い込んで来たか知りませんが、その船の者も相当の目利きか好き者のどちらかですね」


「好き者、の方だろうな。一介の航海士が仲間に資金を募ってやったらしいから、このような儲けも二度や三度ではないのだろう」


「どちらかと言うと、私はその航海士とやらに興味がわきますわ」


余程鼻が利くのだろうが、博打紛いのオークションに乗る船員も大概である。尤もその賭けに勝ったからコーデル会頭がうちに駆け込んできたのだ。




★☆★☆




「はっはっは。それで急遽現金輸送をせねばならんのだが、信用ができ実力がある奴はいないか?」


「為替ではダメ……なのでしょうね。私の伝手はギルド所属時から変わっておりませんよ。ギルドの返事がそうなのであれば、私がお手伝いできることはございません」


先程からのウルリカさんとコーデル会頭の会話は全て聞こえている。


二人の声は大きくは無いが潜めているわけでもないので、エルフの耳にかかっては筒抜けなのだ。


しかも静かにお茶を傾けていれば尚更である。


「ここまでが前置きだ」


二人は突如声を落として話し始めるが、何とかまだ聞こえる。


(表向きはそれらの購入資金の輸送、額はでかいのは目くらましだ。囮も複数出すが本命はこいつの護送、そしてシャーラルでこいつが作る物を受取ってとんぼ返りして欲しい)


横に控えているのは薬師か?清潔感がある独特の生成りのローブは、薬師特有の仕立てである。しかし目くらましの相手は盗賊相手ではなさそうだ。


(……何かの特効薬ですか?)


(そうだ。当初、薬の材料をこちらへ運ばせるつもりだったのだが妨害が入ってな。)


「ヴィリューク、ダメよ」


「ナスリーン」


彼女の耳にも聞こえているらしい。


(患者にはまだ余裕があるが、材料はこの機会を逃したら次の入荷はいつになるか分からんそうだ。さすがにそうなると手遅れになる)


(わかりませんね。こちらの薬師の方でないと調薬できないのですか?材料輸送が妨害されたのなら製品にすればよいと思うのですが)


(それがこいつにしか作れないのだ。よくわからんが繊細な作業らしい)


「といった事情なのだよ、ヴィリューク殿。引き受けて頂けないだろうか」


コーデル会頭は突然声量を戻すと、俺に話しかけてきた。始めから俺に感付いていたのか、もしくはこの店にいると知らせを受け、格好のタイミングとばかりに乗り込んできたに違いない。


「聞こえていたのだろう?難病に苦しんでいる方が居るのだ」


「お断りします。彼は依頼を受けられる状態ではありません」




そこへすかさずナスリーンが割って入った。


言葉だけではなく、俺の左前面に出て庇うようにして、だ。


「状態?状況ではなく状態と言ったか。身体の調子の問題かね?砂エルフの異名を持つ君らしくも無い」


「駄目なものは駄目なんです、他を当たって下さい!」


「だんまりの上、砂エルフとあろうものが女の陰に隠れて恥ずかしくないのかね」


「安い挑発ですね。こちらの都合も考えずに何様ですか!」


なにをこの二人は熱くなっているのだ。もう少し情や利に訴えかけてくるのかと思っていたら、これでは子供の喧嘩である。


「ナスリーン、ちょっと」

「コーデル会頭、落ち着いてください」


それぞれ割って入って落ち着かせたのだが、これでは彼にも事情を話さぬわけにもいくまい。




「───なんと!」


噂として広がるならまだしも、直接説明してばかりいる気がする。


「うーん……」


唸りながらもチラ見してくるコーデル会頭。


「ならば誰か推薦できる人物はおらぬかね?」


その発言は代替案のつもりであろう。無理強いは出来ないと諦めたようだ。


「配達人や運び屋として推薦できる者はいますが、荒事が予想されるとなると残念ながらいませんね」


「むう。ならば砂漠慣れした護衛を加えるか。いるのならば紹介してくれたまえ」


ようやっと胸を撫で下ろしたが、ふと要人と思しき患者が気になった。


「ところでその患者というのはどちらの方ですか?」


「ん?ひょっとして聞き(およ)んでいない?だとしたらこの件を話して良いものか。いや、君の腕の件を知っていれば、逆に打診が出来ないのも頷けるか……」


コーデル会頭は顎髭をしごきながら悩んでいたが、決心がついたようだ。


「この薬を必要とされているのは、オルセン伯爵の父君だ。その病は爵位を譲られた原因と言えよう」


深く息を吐いてしまう。


喧伝する事柄でもないが、オルセン伯爵には気を使われていたようだ。五体満足ではない事が悔やまれる。


ならば動かねば。


「ナスリーン、すまん。行ってくる」


「もう!こっちはこんなに心配しているっていうのに!どうして身体に負担をかけるの?!片道じゃないのよ、往復なのよ!」


「砂漠の旅程はどうと言うことは無いと思う。危険なのはシャーラル近辺だろう。到着前、出発後、待ち伏せに適している地形がある。もしくは調薬の為の滞在中だろう。そこはギルドに便宜を図ってもらえばいい」


「もう!」


地団太を踏む彼女なんて初めて見た気がする。


“ドン!ドンドン!”

“ふうぅぅ”

“ドン”


「サミィを連れて行ってちょうだい、それが条件よ。砂漠の旅でバドは足手まといでしょう、バドはこっちで預かるわ」


「お、おう……伯爵にはよろしく伝えて欲しい」


「わ、わかった。それは任せてくれ」


「報酬もはずんでもらうわ!特別依頼なんだから安くはないよよ!」


“きっ”と睨むナスリーンなのだが、コーデル会頭だけではなく俺も一緒に睨まれた。


「出発は明朝でいいな?」


「それで構わない」


一言も発していなかった薬師が返答した。







そして次回更新こそ怪しいです(*ノωノ)

お読みいただきありがとうございました。

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