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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
隣国にて~災難〜
151/196

回想・庭園・出港、そして


本章最終回。


お楽しみいただけたら幸いです。








隻腕となって俺は戦闘スタイルを変えざるを得なくなった。


以前は片手剣に盾を持ったスタイルで、弓よりは投擲武器を好んで使った。


使用するものも魔剣や魔盾、その類いばかり。魔力がこもってないのは投げナイフくらいか。ジャベリンだって魔槍だったし、ブーメランだってそうだ。


片腕となってこれらがどこまで使えるか確認した所、魔盾は仕方ないとして、ブーメランとジャベリンがどうにも勝手が違う。


一番気になるのは投擲時のバランスだ。


投擲前、投擲時、投擲後、いずれもちぐはぐで、以前と比べて飛距離も勢いもない。もし最盛期と同等なものを為そうとするならばやり方を変えねばならないし、身体にいびつな負荷がかかるのは本末転倒だ。


もう程々で妥協することにする。


一応投げナイフは問題ない。しかし精度も威力も遜色ないが、左手でも投げていた分手数が減った。




無銘の魔刀を使うようになって、投擲武器の使用頻度は下がった。しかしそれは水術を飛ばしての牽制に変わっただけで、攻撃を飛ばす回数が減ったわけではない。


水針・水弾・水刃、形は違えど投擲の経験があってこその練度(精度・威力)である。


だが魔刀は両手持ちだ。攻撃も防御もこれ一本で賄う。


そう単純な事ではないのだが、水使いである俺が水鳥流剣術に出会えて、これを修められたことは大変幸運だったと今でも思う。


あの時は跡継ぎ騒ぎで逃げていた所はあるが、この剣術が嫌だったわけではない。振り返って見ても、むしろ性に合っていたと言えよう。


だが隻腕となった今、積み上げて来たものが崩れ落ちてしまった。


不幸中の幸い、ヴィクターとの一戦で方向性は見えている。いや、そうならざるを得ない。


当面は隻腕剣法を確立することが課題で、使えるものは全て使わなければ立ち行かなくなる。


理想は水術寄りの水鳥流剣術だ。


だがヴィクター戦の時出来て、現在思うようにいかない事がある。


それは水術で左前腕を作り、両手持ちで剣を振るう事だ。


腕もどきを作ることは容易い。物を掴むことも可能だ。しかし剣を振るうと違和感・ずれが生じる。


一閃なら問題ない。


だがヴィクターとやり合った時のような動きが出来ないのだ。素早い連撃を繰り出そうとすると、思うように動いてくれない。


何が違うのだろうか。ならばそれが掴めるまで繰り返すまでである。


隻腕での立ち回り、水腕両手持ちでの立ち回り、水術、体術。考えることが多すぎる。






使節団の護衛として同行していたのだが、あの一件以来護衛として勘定されなくなった。


今や使節団視点だと負傷者扱いで、帝国視点だと賠償相手である。


帝国にとってヴィクターの一件は、個人としても相手国としても何かしらの賠償をする必要が出来てしまった。


帝国の国宝である、時間遅延の箱を使わせてもらっているのはその一環だ。本当は城のどこかにある魔脈の保管庫に安置せねばならないのだが、お目こぼしで時折持ち出している。


「では、箱はこちらでお預かりいたします」


「よろしくお願いします」


どういう訳かローラ皇女が使節団の、いや、俺のホステス役を担う事になった。


とはいっても彼女が全てを仕切るわけではない。言うなれば片腕を失った俺の無聊を慰めに来たといったところである。


お茶に誘ってくれたのもそういう訳だ。




「ここ最近騎士団を相手に剣を振るってらっしゃるとか。お身体は回復なさったのでしょうか」


「それがまだ万全ではないのです、ローラ様。それを彼ったら無理して剣を振るって……ローラ様からも言ってやって下さいませ」


「まぁ!ナスリーン様に心配かけてはいけませんね、ヴィリューク様。無理なさると回復が遅くなりますよ」


「申し訳ありません」


今日はナスリーンが同行しているのだが、彼女たちはすっかりと打ち解け、名前で呼び合うようになった。当然エステルともである。


少し離れた芝生ではバドとローラ皇女の愛猫であるミネットがじゃれ合い、さらに離れた所からサミィが見守っているのが見える。


初対面では驚かされたミネットだったが、今やすっかりバドと打ち解けている。ネコを捕食対象と見なさないのは、偏にサミィの教育の賜物であろう。


「件の騎士については騎士団内で衝撃が走ったそうです。次期副団長と目されていた彼が、なぜこのような凶行に走ったのか、生きているのであればなぜ釈明に現れないのか、本当に裏社会と関係があるのか、このままでは本当に第一騎士団の面目は丸潰れになってしまいます」


ローラ皇女はカップを傾け、喉を湿らせる。


「騎士団が負け続けながらもヴィリューク様の剣のお相手を続けているのは、副団長の再選別にかこつけているからでしょう。これ幸いと利用してしまって申し訳ございません、ナスリーン様」


「───だからといって、やりすぎては駄目よ」


ナスリーンに睨まれてしまった。


「ん゛ん゛、実は頼みたいことがある」


俺は咳払いで誤魔化して話を切り出した。


「真偽は定かでないが情報を入手した。それを試すには二つの方法があるのだが、どちらかをお願いしたい。……箱で保管してもらっている俺の左腕を、魔脈に曝すように置いてもらうのは可能か?」


「便宜を図るよう仰せつかっておりますので、承諾は得られると思いますが、そうすることによって何か得られるのでしょうか?」


「“四肢のいずれかを切断された場合、可能な限り早急に露出した魔脈のそばに置くべし。さすれば百年後には結晶化し、本人の魔力で動く【輝く腕】とならん。”どこぞのエルフがそう言ったらしい」


誰がそのエルフから聞いたのかは明らかにしなかったが、とたんにナスリーンの目が胡乱(うろん)げになる。


「誰から聞いたか知らないけれど胡散臭いわ。そもそもどれくらいかかるの?」


ローラ皇女もこくこくと頷いている。


「ざっと百年らしい」


「「はぁ」」


片手を額に当てたり頬に当てたりの違いはあるが、二人そろって溜め息を吐いた。


「キリのよい長い年数ですね。情報主は普人の方ですか?」


「それにエルフから聞いたと言うだけで訝しさが増すわ。それこそジャスミンおば様並みのエルフでないと信用できないわね」


「ばあさま並みのエルフとか背筋が凍るわ!」


あんなのが二人もいてたまるか。


(エルフのジャスミン……どこかで聞いた気が?)


ローラ皇女は記憶を探るが思い出せない。


「置かせて貰えたとして百年後に取りに来るの?百年後の帝国がすんなり渡してくれるかしら」


「私も孫や曽孫世代の事までは……」


国と契約を結んだとしても、普人の国家が百年前の契約の履行を求められたとしたら、良くて混乱悪ければ反発するだろう。


「なんとなく予感はしていた。そこでもう一つの方法だ。俺のじゅうたんを魔力タンクとして使う。その為にじゅうたんを渡すので魔脈の近くに置いて欲しい。既にそれなりに溜まっているから、三日もあれば満タンになるはずだ」


「大丈夫なの?」


「貯蔵量、消費速度も問題ない。エステルの計算では四週間は箱を動かせられるらしい」


「ふーん、なら何とかなりそうね」


だがナスリーンは良く分かっていない。規格外の魔力貯蔵量を誇る俺のじゅうたんを使って、あの箱は四週間しか動かない。ここでも燃費の悪さが証明されたのだ。


「その場合の流れはどのようになるのでしょうか」


国宝レベルの箱を貸与するのだ、懸念は当然だ。


「ああ、ラスタハール城には持ち込まないので余計な心配はいらない。エステルのじゅうたんで直送してもらうから人目にはつかないし、空ならば襲われる心配もない」


どこに運び込むかを言及していないが、彼女がそのまま報告しても勘のいい者ならば第三の魔脈があることを感付くであろう。


「それからエステルが、単に借りるのも心苦しいから改良設計図を起こし、複写して渡してくれるそうだ。事が済んだら信頼のおける船長に託して返却するか、直接俺が届けに来てもいい」


「かいりょうせっけいず、ですか。エステル様は本当に多才でいらっしゃいますね」


「流石に製作までは手が回らないそうよ」


ミスリルを板にし、魔法陣を刻み、組み上げようとするとしたら、それはもうドワーフの領分である。


それも腕利きの、だ。




ふと見渡すとサミィの姿はあるが、バドとミネットの姿が無い。


辺りを窺うと低い生け垣の向こうで、バドがバサバサと暴れているのが見えた。十秒ほど静かになったかと思うと、今度は羽ばたいて帰って来る。


ミネットは?


少しすると同じ生垣から出てくると、ぶるりと身を震わせ、座り込んで顔を洗い始めた。


何があったか(・・・・・・)は知らないが、迷子になっていないなら問題ない。


「ローラ様、そろそろ……」


ローラ皇女のメイドのカレンが声をかけてきた。


「それではナスリーン様、ヴィリューク様」


「それではまた」


俺も会釈を返し、今日のお茶会はつつがなく終了した。




★☆★☆




皇帝イグライツの私室に騎士団長が呼び出されたのは夕食後の事だった。


その時間帯を指定されたのだが、騎士団長は呼び出し理由と無理矢理食事を詰め込んだせいもあって、ろくに味など分からなかった。


「閣下、どうぞお入りください」


「失礼します。お呼びにより参上いたしました」


執事に誘われ騎士団長は入室すると、皇帝イグライツの執務机の前で直立不動となる。


「そのように畏まるな。楽にせよ」


「はっ」


許しがあったので休めの姿勢を取ったが、彼は微動だにしない。しかしその姿を見て皇帝イグライツは息を吐く。


「公の場ではなくここにわざわざ呼び出したのだから、もう少し楽にせよ」


「はっ」


返事を返しても変わらぬ姿勢に、鼻から息がもれる。


「お前の所のヴィクター捜索は打ち切りだ。指名手配は継続するが、騎士団による捜索は終了。あとは警邏隊が引き継ぐ」


ある程度は知らされているので、団長の姿勢に変化はない。


「執拗にやり過ぎると地下深く潜られるからな。まぁ鉱山送りでは済まない事は、向こうも承知しているだろうから必死にもなるだろう」


罪状としては十分に死刑なのだが、背後関係など情報は吐き出させねばならない。だが自白後に死刑になると分かれば、だんまりを決め込む事は想像に難くない。


「その辺りは担当者に悩んでもらうとして……今回の件、騎士団の責は不問とする」


責任は問わないと言われたが、喜色は浮かべない騎士団長。


国内に(・・・)対して第一騎士団が汚名を雪ぐのは生中なことではない。罰と言えばそれが罰であろう。団員達も相応の目で見られるだろうから、一層引き締めねばならん。それはお前が一番良く分かっているだろうから、俺からはこれ以上追及はしない。───甘いかな、俺は」


革張りの椅子に身体を預ける皇帝。


「───」


「ん?」


騎士団長が脳裏によぎった言葉を露わにする。


「国内、と申されましたが、国外、対ラスタハールへはどのような対応をなさるのですか」


「俺から謝罪と感謝を」


男が“くわっ”と目を見開いた。


「それから、遅延の箱を貸し出す」


「国宝のっ!」


騎士団長は直立不動になると最敬礼の姿勢を取った。


「申し訳ございませんっ!」


自身の剣の主に謝罪をさせ、国宝を出させるなどとは、何という屈辱。


この屈辱を晴らすには、ヴィクターを捕らえることが一番の近道なのだが、それも今さっき封じられたばかりだ。


「以上だ。下がってよいぞ」


決定は覆されない。


騎士団長はきびきびとした動きで部屋を辞したが、胸の内は重く不甲斐なさで一杯だった。




★☆★☆




ラスタハール親善使節団は予定の日程を超え、予備日を全て消化してなんとか最終日に帰国の途に就くことになった。


イグライツ側からは関係各所から見送りが来たが、前日に挨拶を済ませたにもかかわらず、ローラ皇女と第一騎士団の団長まで来てくれるとは思わなかった。


出港は昼頃の海風を待つので、時間の余裕はある。


先触れでバラク船長には知らせてあったので、船の準備は万端であったのだが───


「廻状をまわせ!捕まえて腕ェ斬り落としてサメの餌にしてくれる!」


俺の左腕が無い事に気付いたバラク船長は足早に詰め寄り、俺にとっては何度目かの説明をすると彼は嘆き・悲しみ、そして激高した。


「待て待て。第一騎士団も汚名を雪ぎたいはずだから、張り合わないで連携を取ったほうが───」


当の騎士団長が見送りに来ているのだ。事実、こちらへの視線が厳しい。


「義兄弟の契りは、そんな安いモンじゃあねぇ!」


そこにナスリーンが割って入って来た。


「罪状からすれば死罪相当だから妥当な線ね。けれども国側も捕まえて情報を吐き出させたら、あなたが言った処分方法の提案は聞いてくれるんじゃないかしら」


思うところがあるのだろうか、ナスリーンが物騒な事を言っている。そのナスリーンをバラク船長が視線を投げながら少し思案していると───


「姐さんが言うならそうするか」


あっさりと引き下がった。


「港湾管理局には手配済みなのだが、バラク船長からも口添えしてくれると助かる」


騎士団長の鋭い視線も少し和らいでのこの発言は、共同戦線の提案なのだろう。


「おう。甲板長、ひとっ走り頼む!そっちからも誰か出してくれるかい?」


「勿論だ」


出港前の慌ただしい中、新たな仕事が割り振られていく。これで海からの逃亡は、危険かつ難しいものとなった。


ヴィクターは今どこで何をしているのか、これからどうするのか、俺にはもう関係ない。


尤も、遭遇したのならばケリをつけねばならないだろう。


でもそれは今すぐではないし、場合によっては叶わないかもしれない。




別れの挨拶が済み、船員たちが慌ただしく甲板を駆け回る中、俺達は舷側で最後の別れをする。


「帆を上げろーっ!」


海からの風を受け、船は離岸しつつ進み始める。


帰りはエステルも乗船しており、途中まで一緒の船旅だ。港町シャーラルまで乗船すると、ばあさまのいるクァーシャライまで遠回りになるので、そこでエステルとはお別れだ。


彼女にはじゅうたんで先に向かってもらう。


俺達親善使節団は、港町シャーラルからオアシスを経由して王都ラスタハールまで戻って解散となる。


俺だけじゅうたんで“はいさようなら”という訳にはいかないのだ


まだまだ道のりは遠い。


桟橋と舷側で手を振り合っていたが、お互いが見えなくなるのは直ぐだった。




ふと右手で左ひじに触れ、ゆっくりとその先へと移ろう。


だがそれを妨げるものがいた。


右の上腕をナスリーンが、左の上腕をエステルが、ひしと(いだ)くのだった。


二人とも胸に掻き抱いてくる。さながら余計な事を考えるなと言うかのように。


左右の彼女たちの顔を見ると、ナスリーンは心配そうに見つめ、エステルは励ますように笑いかけてくる。


───ああ、変に落ち込んでいられない。やらねばならないことは山積みだ。


“CyuRuieaaaa!”


俺達の目の前の舷側に、船の周囲を飛んでいたバドが声を上げ、羽を畳みながら着地するのであった。




★☆★☆




親善使節団が帰国の途に就いてから一月経過した頃、平穏に戻った第四皇女ローラの日常に、ちょっとした異変が起こった。


最初に気付いたのはメイドのカレンだ。


皇女の愛猫、ミネットのお腹がふくらんでいるのだ。


たしかに食事量は増えた。しかし肥満とも違う気がする。あれこれ頭を悩ませるカレンであったが答えは出ない。


だが答えは別方向からあっさりとやって来た。




年上の同僚が退職の挨拶に来たのだ。


メイドが辞めるにあたり、わざわざ挨拶に来る理由。


結婚だ。


職場の同僚に対してマウントを取るための者もいるが、彼女は礼儀として訪れたようだ。


「相手方へご挨拶しに行ったら“お家は安泰だ”とかはしゃいじゃって!」

「跡継ぎもまだなのに気が早いわぁ」

「あなた安産型だからすぐじゃないの?」


女同士の会話なので、明け透けだったりする。男がいないメイドの控室だから特にそうだ。


「あ」


ふっとカレンの中で腑に落ちた。


ミネットは妊娠している。


だが相手のオスネコは何処から?近辺にミネット以外のネコはいないはずだし目撃したことも無い。


厩舎では馬と一緒にネコもいるとは聞いた事があるが、ローラ皇女の私室とは方向が反対だ。


いずれにせよ報告をして厩番にミネットを見せれば白黒はっきりするかもしれない。


カレンは同僚にお祝いを述べ“用事を思い出したから”とその場を辞した。




「こりゃ妊娠してる、ます」


厩舎前で厩番が取ってつけた敬語で断言した。


聞きたいことがあれば呼びつければいいだけなのだが、ただの厩番を皇女の部屋(もしくはその区画)に来させるわけにもいかない。


なのでメイドのカレンがミネットを連れて赴いた次第だ。


「うちのもメスですが、どこからタネを拾ってきたンすかねぇ」


取り敢えずは丁寧に話そうとはしているようだ。


「庭師の方たちにも聞き込みをお願いできますか」


空から鳥が飛んでくるのとは違う。蟻の一穴よりなんとやら、とも言う。


城内への侵入経路の可能性は早期に潰さねばならない。例えそれがネコの抜け穴であってもだ。


「わかりやした。取り敢えず、あと一か月もすりゃ子猫が生まれるはずですンで、環境を整えてやった方がいいっす」


「それはどのように?」


「まずですね───」


厩番の若い男は、鼻の下が伸びないようにしながら、カレンに教え始めるのであった。




そして四十日ほど経ったある日。


「ローラ!至急などと呼びだすとは何事だ!」


皇帝イグライツはローラ皇女の私室の扉を大きな声を上げて開け放つ。


だがそれに怯むことなく、ローラ皇女は皇帝を睨みつけ“しぃ~”と口元に指を立てる。


「何事だ」


娘の意外な反応に声を潜めるルーカス・イグライツ。その姿は皇帝ではなく一人の父親である。


「お父様、私のミネットが無事出産しました。しかも四匹です」


「……可愛いのは分かるが、それが呼び出す程の事か?」


「はい。ご案内しますので静かにこちらへ」


メイドのカレンが隣室の扉をそっとあけると、ローラも静々と父親を先導する。


足を忍ばせて入室したのだが、気配を察した小さな生き物が“にーにー、みーみー”と鳴き始める。


ローラたちが部屋の隅にある箱に近寄ると、次第に鳴き声は聞こえなくなっていく。


さらに近寄り箱を覗いてみると、そこにはミネットが子ネコたちに授乳をしている最中であった。


子ネコたちも食事中であれば静かになろうというものだ。


ルーカス・イグライツが自ら箱を覗いてみると、そこには薄い色ながらも三色の毛並みをした子ネコが、必死に母乳を飲んでいる姿であった。


「むっ、こいつは……」


思わず声が漏れ手が伸びたが、すかさずその手をローラが阻止する。


「抱き上げるのはもう少し大きくなってからです。私も我慢しているのですから」


「むぅ、すまぬ」


二人が見下ろす子ネコたち、その一匹の背中には一対の小さな翼が生えていた。




子ネコたちはすくすくと育ち、部屋を動き回るのは直ぐであった。


様子を見計らい確認すると、羽無しの三毛猫は全てメス、羽有りの三毛猫はオスであった。


よちよち歩く姿は周囲に保護欲を掻き立てさせ、メスネコ達は皇帝派閥の有力者たちに引き取られることが決定。


歩くと一緒に羽が動いてしまうオスネコは、皇帝イグライツが自ら引き取ると宣言した。


そして有翼の三毛猫が巻き起こす騒動は、また別のお話し。








一年間本章にお付き合い下さりありがとうございます。


プロット時点では、もっと主人公をキズモノにするはずだったのですが、被害はこの程度で収まりました。


さて隻腕キャラといえば、皆さまアニメ・漫画で様々なキャラクターが思い浮かぶことでしょう。

ですが私、小説では見かけたことがほとんどございません。


私が最初に出会ったのは、ハヤカワ書房・マイケル・ムアコック著「紅衣の公子コルム」でした。

この方ダークなファンタジーばかり書く方で、初版が1982年でご存じの方は少ないと思います。

嵐をもたらすもの・ストームブリンガーという剣もムアコック氏によるものです。


小説で隻腕主人公は彼しか思い浮かびません。あぁ、隻眼でもあります。

(小説で隻腕キャラがいたら、ぜひ教えてください)


つらつらと書いてしまいました(*ノωノ)


次回作はまだ何も考えておりません。更新も未定です。

義手作成の話にするか、時系列を吹っ飛ばして老エルフの話を書くか、どうしよう……

リクエストがあったらそっちにするかもしれません。


長々とお付き合いくださいましてありがとうございます。


本章の感想を頂けたら嬉しく思います。

お読みいただきありがとうございました。



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