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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
隣国にて~災難〜
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漁村・吉報・幽霊


キリの良い所で切ったら今回は短めです。


前話のあとがきのレスポンスが無かったので、主人公には地獄を、ヒロインズには悪夢を見てもらう事にしました(けして八つ当たりではない)


尤も当分先の事なのですが(´・ω・`)







漁船が戻ったのは目的の港ではなく小さな漁村だった。


船での漁の方法は網ではなく、高値で売れる魚を狙った一本釣りだった。それでも一応村人総出で行う地引網もある。


獲れた魚はここで選別され、近隣の農村や俺の目的地である港街へ行商に行くらしい。


港街へは生簀代わりの樽で運ばれ、各種店舗に卸されるものから下町で売り捌かれるものまでさまざまだ。


店の場合は生きたまま卸されるが、下町の場合は希望すればその場で捌くサービスも行っている。


臭う魚の内臓の始末も行商人のサービスの一環である。


そんな臭う物も農村へ持って行けば有難がられる代物なのだ。


農村に持って行かなくとも、街の富裕層宅の庭には二・三本は果樹が植えられている。お得意先の家へ行けば普通に通用口は開かれ、果樹の所まで案内されるのだ。


そこは果樹の幹を囲むように深めの溝が掘られており、そこへ魚の内臓を入れたら土をかぶせる。


掘られた溝が埋め尽くされれば、あとは普通に手入れをすればよい。時期が来れば実がなり、それは甘く実るだろう。


客は魚を買っているだけなのに、季節ごとに食卓には果実が添えられる。


行商人は煩わしい処理が簡単になり、魚も売れてお得意様も得られる。


そんな日々を暮らしている漁村の船に、自分は助けられたのだ。




その日に獲れた魚は、その日のうちに運ばれる。


魚の入った樽を載せた馬車に同乗させてくれるというので、半日弱ほど離れた港町まで送ってもらう事にした。


「少ないが船の修繕に当ててくれ」


助けてくれた漁船の船長に金貨を握らせるが、ひげの船長は突っ返してきた。


「俺ぁ金を貰うために、お(めえ)を助けたんじゃねぇ」


村では昔から海での人助けで金を貰うなと教え込まれているそうだ。


ならばこういう時にうってつけの物が有る。ナスリーンが作った魔珠だ。


目の前で珠を二つ魔力で染め、それぞれ巾着に入れると片方を渡して使い方を説明する。


「困ったことがあったら珠を染めてくれ。助けに飛んでいくが、距離があるからギリギリまで耐えるな。間に合わなかったら本末転倒だからな」


俺の方は間違わないように巾着に目印を付けて腰のポーチへしまう。魔珠も結構溜まってきており、日々の確認を怠れなくなってきている。


船長は訝しげに巾着を眺めるが、納得はしてくれたようで受取ってくれた。


「気を付けてな」


「ああ、ありがとう」


行商担当の若者が手にした手綱で合図を送ると、二頭立ての荷馬車が進みだす。


港町までまだかかるだろうから、今のうちに魔道書簡でナスリーンに無事を知らせよう。




★☆★☆




イグライツ帝国、海の玄関口バザルバウ。


親善使節団は港街バザルバウで一泊。久しぶりに揺れない寝台で熟睡した。


翌日は朝食もしっかりと取り、帝都イグライツへ馬車に揺られて出発。同じ揺れでも馬車と船では違う様で、一行の中で気分を悪くするものはいなかった。




帝都まで馬車だと二日の日程だ。


その中で一人、消沈した様子で馬車に揺られるナスリーン。彼女だけ食が進んでいない。


同行しているナスリーン担当の侍女も、何とか食事を摂らせようとするのだが、あまり芳しくはなかった。


ヴィリュークが無事であれば必ず連絡を寄越すはず。連絡が来るとしたら魔道書簡か彼が染めた魔珠のどちらかである。


ナスリーンは落ち着かぬ様子で何度も魔道書簡を開いては閉じ、魔珠が入った巾着を覗き込み、そんなナスリーンを同乗しているオルセン伯爵や侍女も気持ちを慮ってか、見て見ぬふりをしている。




もうじき帝都イグライツに到着しようかと言う午後、歓声が上がった。


「ヴィリューク!」


魔道書簡を開いて声を上げた彼女に、何がどうした、と一々聞かない。彼女の想い人からの連絡に決まっている。


「馬車を戻して!迎えに行かなきゃ!」


「いけません!もう帝都は目の前です。それを引き返したら何事かと思われてしまいます!」


事実、彼方には帝都イグライツの街並みが見え、使節団の馬車の前後には目的地を同じにする商人の馬車などが散見できている。


「でも、でもっ」


「お任せください。万事滞りなく彼をナスリーン様の元へお連れ致します。つきましては魔道書簡(それ)をお借りしてもよろしいですか?」


対外的に表情などいくらでも隠せる彼女ではあったが、今回の件はさすがににじみ出るものが有る。しかし無事と分かった今、取り繕ってなどいられない。


それでもオルセン伯爵は魔道書簡を彼女から引き取り、彼宛にここまで来るための手順をしたためはじめ、それに付随する関係各所への手配に頭を巡らせはじめた。




★☆★☆




港町バザルバウの門をくぐった先の広場で荷馬車と別れた。日も傾いており、夕暮れまで時間の問題だ。


道中でナスリーンへは魔道書簡で無事を伝えたのだが途中から筆跡が変わり、誰が書いているのかと思えば使節団の団長であるオルセン伯爵だった。


直ぐに追いかけて合流すると書いたのだが、バラク船長が俺の事を捜しに出港しているらしく、定期的に戻るはずだから安心させてやってくれと返事があった。


その他にも帝都イグライツまでの情報、帝都に着いた後の行先、合流するための手筈は整い次第知らせてくれるとの事。


向こうは丁度、帝都を臨める位置に辿り着いたらしく、到着したら一両日中に手配をしてくれるそうだ。


直ぐでなくとも俺が到着するまでに何とかしてくれれば問題はないし、間に合わなくとも魔道書簡でやり取りすれば何とでもなる。


それよりも驚いたのはエステルがこちらに向かっているって事だ。


ナスリーンからすれば連絡しないわけにいかないだろうが、何とも余計な心配をかけたようで申し訳ない気持ちで一杯である。


このあとエステル側の魔道書簡にも無事を知らせないとなぁ。


“無事だから帰れ”なんて言えないし……怒るだろう……観念して怒られるしかないか……


この後細々としたやり取りを終え、憂鬱になりながらエステルへの魔道書簡を開くのだが、意外とやり取りは簡潔に終わった。


しかし“首を洗って待ってなさい”と気になる一文が。


つまり書簡での遣り取りでは間怠(まだる)っこしいってことだ。直接顔を拝んでからが本番とか、程々で勘弁願いたい。




とまぁ、書簡での遣り取りを終え、魚の行商の荷馬車とも分かれ、港まで移動してきた。


流石この国の玄関口である港。


桟橋には幾つもの船がつけられ、遠くには順番待ちの船が停泊している。


桟橋前の広場には、積み下ろし前なのか後なのか、とにかく荷物が幾つもの山を成している。


何とも壮観な眺めだ。


そして俺達が乗って来た船はどれだ?


外から見るより乗っていた時間の方が多いせいもあってよく覚えていない。帆柱は何本だったか……二本……三本……うん、最低二本はあった。


帆の形は……四角、三角、両方あった。うん。


───つまり碌に覚えていなかった。はぁ。


こういう時は港を仕切っている所だ。


港湾管理局、もしくは入国管理や税関の類いを当たってみよう。




「んあ?バラクんとこの船なら昨日出港()ていったぞ。なんでもこないだの嵐で海に落ちた奴がいたとかで、そいつを探すんだと。気持ちは分からんでもないが、無駄足だろうなぁ。乗組員をここに残して情報を集めさせてっから、夕方には戻って来るだろうさ」


港湾管理局を訪ねると、職員の親父から一発で情報入手できた。今日戻って来るのか。馴染みの店があるなら、そこで待っている方が会えそうだ。


もしかしたらと聞いてみると、案の定あるらしい。もちろんその場所を詳しく聞いておいた。




辿り着いた酒場は、二階建ての広い店だった。


やって来る客は船乗りか港湾関係者ばかりらしく、フードを被った如何にも陸の者の風体の自分姿は好奇の視線で出迎えられた。


厨房への出入り口から離れた壁際には、酒呑み用のバーカウンターがあり、バーテンダーがグラスを磨いて準備に余念がない。


まだ日が暮れたばかりのせいか、背後のテーブル席には数組の客しか座っていない。


ここまでの道中、如何にもといった安い居酒屋のランプからは魚脂が燃える臭いがしたが、この店では光量は低いがいくつもの魔導ランプで店内を照らしていた。


空いている席のテーブルには魔導ランプが置かれ、客が座ると真上の梁に引っ掛けられる仕組みらしい。


結構上のクラスの店なのだろうか。




「ここをバラク船長が良く利用すると聞いて来たのだが」


開店まもない店を見渡せば、彼がいないことは分かりきっているので、そう声をかけたのだが、禿頭のバーテンダーはグラスを磨く手を止めず、こちらを見つめるだけだった。


ああ、そういうことか。


銀貨を五枚カウンターに積み上げて注文する。


「酒と何かつまめるものを一つ二つ頼む」


「ああ、乗組員を連れてよく来る」


するりと硬貨を収めると、彼の口の滑りも良くなったようだ。


「彼らの定位置があるのなら、そこで待たせてもらいたいのだが」


黙って頷く禿頭のバーテンダーは壁際の一角を指さす。


高めのスツールを滑り降り、指し示された席に腰を下ろすと直ぐに酒とつまみが並べられた。


彼がランプを上に吊るそうとするのでそれを制止し、船長たちが来るまでそのままにしてもらう。


なかなか趣のあるランプじゃないか。




★☆★☆




二日かけてのヴィリュークさんの捜索は空振りに終わった。


この海域では潮目の関係で漂流物が集まる場所がある。そこを中心に見張りを立てて航行したのだが、彼の姿は無かった。


漂流物を回収して調べてみると、あの時投棄した救命資材が幾つか見つかったので、見当外れではない筈なのだ。


「バラク船長、一旦戻りやしょう」


甲板長が進言してくるが、あきらめきれなくて返事が出来ない。


「あれだけの水術師っす。生きていれば飲み水の心配はないっすよ。ひょっとしたら他所の船が救助してくれてるかもしれやせんぜ」


「港に戻るぞ。その間もしっかり周りを捜せ!」


甲板上の乗組員からは威勢のいい返事が帰って来たが、見込みの無い作業から解放される喜びの声かと思うと、その通りだと思いつつも怒りと不甲斐なさで一杯になった。




港に着くと情報収集に残した乗組員が戻って来た。


最近入港した船へは、入港したおおよその時間・救助者の有無・航行してきた方角などを聞き取り、港湾事務所には情報集めを依頼したと報告があがる。


さらには近隣の漁村の場所を聞いて来たので、明日にでも調べて回るとの事。


結果は思わしくなかったが、こいつの仕事に不備はない。むしろよくやってくれている。


「明日も頼むぞ。これで明日に備えてくれ」


彼にポケットマネーから銀貨を五枚ほど渡してやると、甲板長と航海士がやって来た。


「半舷休息を指示しときました。うちらも行きましょう」


今晩はいつもの店で飯を食いながら打ち合わせだ。




うちの船は他所の船と比べると上等の部類に入る。


常に帳尻合わせの航海で凌いでいる貧乏商船とは比べ物にならない。


船の手入れは常に欠かさないし、船の性能も乗組員の腕も最高だ。信用度も国から依頼が来るくらいである。


その中での今回の事故。しかも自らの失態だ。最悪、彼の遺体だけでも発見したい。


などと考えているうちに、馴染みの店に到着。この店の常連になるには、俺達くらいの稼ぎが必要だ。


どやどやと店に入るが、先頭のうちの(もん)が先に進まない。


「おい、早くはいれって───」


「せっ、せんちょう……」


「「「ひっ!」」」


前の集団が何かにビビっている。


「いったい何があるってんだ」


前をかき分けて進んだ店内には、まばらに埋まっている席と────


俺達の定位置の席に座り、テーブルのランプを眺める男が一人。


この店は席が埋まると、テーブルのランプを真上の梁に引っ掛ける。だがそこに居るはずの彼に対して、周りの席に座っている客たちはみな平然としているし、従業員たちも同様だ。


という事は……あそこに座っている者は俺達にしか見えていない。


という事は……あそこに座っているのは生者ではない。


という事は……あそこに座って見えるのは俺達の関係者である。


入り口で俺達が固まっていると、向こうに気付かれてしまった。


顔をこちらに向け、被っていたマントのフードを脱ぐと、耳飾りを付けたエルフの耳と色白の顔をランプが下から照らし出す。


「やぁ、バラク船長。待ってたよ」


待ち合わせの友人へ挨拶をするように、そのエルフは穏やかなトーンで声をかけてきた。


「「「ぎゃああああぁぁぁぁ!!?!」」」


“お出かけ気分で海の底へご案内“といった調子の言葉に、魔よけの印も切れず、俺達は声を揃えて絶叫した。







プロット未完成部分に手を付け始めたのですが、これがまたまぁ進まない進まない(ノД`)・゜・。

次話は問題ないのですが、その次が……(´・ω・`)


一言、評価、お待ちしております。

今話もお読みいただきありがとうございました。



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[良い点] ちょっと拗ねた作者が可愛い [一言] 更新ありがとうございます。悪夢と地獄ならやはり地獄のほうが酷いと思います。
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