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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
エルフ、荒野を往く
130/196

”共同”作業

月間すなえるふ、ギリギリ間に合いました!






「おい、あれじゃないか?」


男たちが砦からこの小高い丘に到着し、道なき道を見張ること数日。遠くに二台の馬車を発見した。


「ろくすっぽ行商人も来ない所に馬車……間違いないだろう」


そもそも馬すらいない地域だ。馬どころか家畜すらいない。つまりは食われたか売り払われたかのどちらかである。


「なぁ、どっちの珠だっけ?」


「それくらい覚えろよ。青黒い珠の方だよ」


袋の中には数個の色違いの珠があり、男は青黒い珠を取り出すと握り締めて魔力を流す。


流し終えて手の中の珠を確認すると赤黒く変色していた。


「これ、本当に砦の方の珠も変わってんのかな?」


まだ若い偵察兵が首をかしげる。


「実際見ておいて、まだ信じられないのか?楽になっていいじゃないか。いつもだったら馬に飛び乗って報告に戻らにゃいけないんだぜ」


同僚が監視を続けながら答えを返す。


「適度に距離が離れたら追跡だ。こう、ただっ(ぴろ)いとバレやすいからな。慎重に行くぞ」


「何もない荒野だと潜伏も出来やしねぇからなぁ」


二人の偵察兵は、ぼやきながら追跡の準備をはじめた。






「閣下、合図が来ました。目下追跡中で、標的が村に入りましたら改めて合図が来る予定です」


「ご苦労」


返答してカルヴィンがこちらを向く。


「お聞きの通りです。ご提供いただきました魔珠は素晴らしいものですな。予め運用を決めておけば、情報がこうも早く伝わるとは。いやはや素晴らしい」


繰り返し称賛するカルヴィンに提供したのは、ナスリーンがいつぞや作成した、魔力を流すと変色する魔珠である。


「私からという事はくれぐれも───」


「分かっております。この事は内密に致しますので」


以前脅されたこともあって、面倒ごとにはなりたくないナスリーンであった。


「兵は揃っているな?」


「はっ!騎兵一個中隊百五十名、いつでも出発できます!」


「すぐに出発だ。村に入って何日もくつろぐとも思えん」


「お願いした立場ですが、一個中隊とか多いのではないでしょうか?」


「これも訓練です。丁度よい機会でしたので利用させていただきますよ」


心配そうなナスリーンへ、カルヴィンは笑い飛ばした。


「それでは俺は向こうに戻る。道中は彼女を宜しくお願いする。連絡は随時」


魔道書簡(ノート)経由で。気を付けてね」


はたから見れば仲睦まじいヴィリュークとナスリーン。


(私が生きている間に結婚式を挙げて欲しいものだ)


カルヴィンは温かい目で二人を見つめていた。






二台の馬車がゴトゴト揺れながら村の門をくぐる。


「やぁーっと交代が来たか」


「今晩は宴会だな」


「収穫・荷物の積み下ろしで明後日出発か。今日にでもおさらばしたいくらいだぜ」


見張りの男共からは、だらけた空気が漏れ出る。


「やる事やってれば、酒もバクチもやり放題なのはいいが、女を抱けないのだけがなぁ」


「村の女にゃ手を出すなって言われてるんだからしゃーないだろ」


「そうそう。帰ったら風呂屋へ行ってから高級店の娼婦(おんな)に会えるんだぜ」


「会うだけじゃねぇだろ、うへへへへ……泥臭い芋女なんざおよびじゃねぇぜ」


見張りの男たちの猥談は、馬車が通り過ぎてもしばらく続いていった。






子供たちの表情が思わしくないと感じていると、ダーリヤとナジュマが駆け寄って来る。


話を聞くと、案の定悪党共の来訪であった。


例の雑草を今日収穫し、明日には帰るとの事。


「随分と行動が早いな」


「手際が良いだけではなく、見張りの連中が交代して早く帰りたいのでしょう」


「奴らにしてみれば退屈な土地だからね」


そこに根付いている住人からすれば酷い言われようである。奴らさえ来なければ、慎ましくも代えがたい場所なのだから。


彼らのつぶやきを耳にし、ワーフィルは気にしないふりをするが、両脇の幼馴染から手に触れられるのに気づき、手を取って握り締める。


「早く奴らを何とかして、ここにも用水路を引かねばなりませんね。その前に植える作物の援助とか食料の支援とか、やることが沢山です」


「ラザック、気が早ぇって。まずは今晩、奴らをぶっ飛ばしてからだろ」


「三人ともそんな顔しないで。諸々の算段は付いているわ。まずは今晩を乗り切れば、この先良い事が待ってるわ」


などと子供たちをエステルが励ましていると、空が一瞬陰りじゅうたんが下りてくる。


「おかえりなさい!」


彼女は破顔して席を立つと、お茶の用意を始めた。




「予定通りに連中の馬車が村に入るのを騎士団でも確認した。騎兵一個中隊で向かっているところだ」


「間に合ってよかったわね。この機会を逃していたら、また一月以上待つ羽目になっていたわ」


ヴィリュークとアレシアの言葉に、その場の面々が首肯する。だが一個中隊という過剰兵力にはピンと来ていないようだ。


「で、どうする?偵察は行ってきたのだろう?」


「まぁな。たかが辺境の村にご立派な壁が出来ていたぜ。魔獣はびこる開拓村でも、あんな立派なのは無いだろうな」


「そうね。作成者の意図がつかめないわ」


“それはひとまず置いておいて”と断りを入れてアレシアが村の見取図を広げる。


「おそらく騎士団は、馬で接近後奇襲をかけるはずだ」


「上手くやってくれるといいけれど、村人を人質に取られると面倒よ」


なまじ出入り口が一ヶ所となると、追い詰められた者がそういった手段を取る可能性が出てくる。


どうしたものかと一同無言になっていると、ダイアンが胸元で支えていた剣を“ぽん”と叩いてのたまった。


「んじゃあ反対側に開けるか?出口」


彼女は毎度のことながら、思い切りのよい案を出してくる。






「なーんか建っているなぁ」


団長のカルヴィン自ら赴いてみると、荒野に壁で囲われた場所がある。


日が沈み、月明かりに照らされたそれは、もはや違和感しかない。


「建てた者の技量はとんでもないですが、考えた奴ありゃシロウトですな」


「全くだ。逃亡阻止のつもりかもしれんが、そもそも住人には逃げ先もないのだから。我々が来た今となっては、あの壁はさしずめ犯罪者たちの檻だな」


案内役の斥候二人と副官を供にやって来た彼であったが、今晩の作戦を思い悩む。


単純に犯罪者たちを無力化するのは簡単だ。


しかし敵を殺さず無力化し、村人たちの犠牲が無いようにするのは一ひねり必要だ。




彼らが野営地に戻ると、騎士とは違う身なりの者が数人たむろしていた。


「どうした、彼らは?」


特に騒ぎにもなっておらず、もしやと思ったら案の定ナスリーンの関係者であった。


「あぁ、カルヴィン丁度よかった。私の仲間よ。今晩の作戦の打ち合わせに来たのですって」


遮光処理がされた天幕からナスリーンが姿を現す。地図などを用いる場合はどうしても灯りが必要なため、今回は起伏や物陰が少ないと予想されて用意された備品である。


現状でも戦力は十分だが、わざわざ来たという事は何か案でも持ってきたのだろうか。


ともあれ彼は天幕へ(いざな)った。




カルヴィンら騎士団の基本方針はこうだ。


部隊を三つに分け、一つは村への突入、残り二つは包囲捕縛にあたる。


だが均等割りにして五十名の突入人員では多すぎる。最適な人員で程よく隙を作り、外に逃げた対象を捕まえることが理想の流れだ。


「壁を引き倒す!?」


先に隣の副官が声を上げたお陰で、カルヴィンは無様な声を上げずに済んだ。


「さすがに一面ごとは無理だから、切れ目を入れてそこだけを倒すのですって」


ナスリーンが事も無げに告げてくる。


「切る……?結構な高さと厚みですよ、可能なのですか?」


「どうやるかは知らないけれど、彼らがやると言っている以上可能なのでしょうね」


それを聞いた副官は言葉も出ず、何かを紡ごうと身振り手振りが大きくなるが、最後には諦めて溜め息をついた。


「……そちら側にも人を伏せさせておけば良いのですね」


「お手間かけます」


ヴィリュークたちはほとんど喋らず、最後はナスリーンの笑顔で打ち合わせは終わった。




今回の作戦にあたって、村人へは子供達を介して情報を流している。


ワーフィル生存の知らせは容易に受け入れてくれたのだが、村の救出作戦について伝えると、反応は芳しくなかった。


“何かあったらどうする”と。要は信用できないというのだ。


しかし繰り返される子供たちの説得に、親たちは(ようや)く受け入れてくれたのだった。


とは言え彼らを当てにするわけでもなく、今晩は扉に鍵をかけて引きこもることを厳命したのである。






じゅうたん二枚に分乗した俺達は、月明かりに照らされて村の上空に到着した。


深夜を数時間も過ぎると月も傾く。


村の周囲は静かなもので、知っていなければ人が伏せられているとは分からぬ程、騎士団の隠密ぶりは簡単には見破れない。


「結構幅があるな」


それぞれじゅうたんから土壁に飛び移り、俺とダイアンは壁のヘリでバランスを取った。


十分な幅はあるけれども、高所恐怖症の者ならば蹲ってしまうだろう。しかしじゅうたんで慣れている俺達にとって、どうと言うことは無い。


俺達の間にはどうするつもりか、ぼろマント姿のアレシアが立っており、視線を向けると“お構いなく”とばかりに笑顔が返される。


「この高さなら足をくじくこともなさそうだし、身体強化していれば尚更だ」


尤もそれは俺とダイアンだからであって、普通は骨折ものである。


「どう?いけそう?」


「見張り以外は寝ているだろう。待ち伏せされているならともかく、見た所各個撃破で問題あるまい」


「そう言うこった。騎士団も突入するしな」


ナスリーンの心配も、俺とダイアンの言葉で霧消されてしまう。


「じゃ、始めようか」




二枚のじゅうたんから(フック)が下りてくるので、壁の内から外へ向けて引っ掛けると、エステルとナスリーンが、じゅうたんを外へ向けて外れない様に軽くテンションをかける。


俺とダイアンは鉤を挟むように立つと、合言葉(コマンドワード)を唱える。


「身体強化」

「剛力招来」


淡い光が体を覆う。すかさず新たな言葉を紡ぐ。


「身体魔装」

「超力招来」


光が集束し、要所を守る鎧に変化。各々音もなく抜刀すると武器を担ぎ上げた。


「刃よ煌めけ」

「水刃」


二本の魔剣が振りかぶられ、彼らは壁から少し後方へ飛び退(すさ)る。


「ん゛っ」

「シッ」


“JyaRiririririri”


人生でまず聞くことのない、大きく耳障りな擦音が深夜に鳴り響く。


壁を切り下しながらの落下だった為か、着地の衝撃は微々たるものであった。


武器を引き抜いた二人は納刀して壁から十分に距離を取る。


音が鳴り響いた瞬間から、じゅうたんは外へ向けて壁の牽引を開始。


「「せぇ、のっ」」


息を合わせ、助走をつけて跳躍。土壁のど真ん中に衝撃が走る。


「お、おっ?」


傾ぐ壁の上辺で、アレシアがバランスを取ってしゃがみ込んでいる。


ゆっくりと壁が傾ぐと、アレシアは背中のマントを尻に敷くように股の間から引っ張り出し、傾斜のついた壁へ飛び降りた。


“Hyuuu”


甲高く喉を鳴らしながら、アレシアは足を掲げて壁を滑り降りる。だが彼女は最後まで滑り降りることなく、傾斜が浅くなると見切りをつけ、掲げた両足で壁を踏み込む。


宙を二転三転したアレシアは、飛び越えたヴィリュークとダイアンを尻目に地面で受け身を取ると、その勢いのまま、月夜の闇の隙間へ滑り込んだ。


“Douuuunnnn……”


地響きが鈍い音をたてる。


背後の芸当も露知らず、エステルは背後の土煙を眺めた。


(作りが良かったのが仇となったわね。引っ張って途中で折れなくて良かったわ)


村人救出は始まったばかりである。






★☆★☆






地震がほぼ無いこの国の住民にとって、突然の地響きは文字通り驚天動地であった。


予め知らされていた騎士団員たちですら、思わず声が漏れてしまう程である。


だが知らされていない者たちはどうか。


外にいる見張りの男たちは、地響きに腰が抜け、音の方向を凝視し、村人たちは飛び起き家族一塊になって震えている。


熟睡していた犯罪者たちはどうか。


大半は腰を半分抜かしながらも確認しに表へ出てきたが、約数名は足腰もしっかりと武器を手にし、物陰に隠れながら様子を窺っている。




(いけ)


小さな合図と共に革鎧の団員たちが足を忍ばせて走り出す。


それに呼応して後方からは弓が一斉射。


見張り人数に対して過剰であるが、矢の風切り音に気付いて逃げようとする見張りの背中や足に突き刺さる。


“あ゛あ゛っ”

“ぐっ”


男たちのくぐもった悲鳴が上がる。


「投降しろ。抵抗すれば容赦はしない」


「てめぇら何モン……」

「へ、兵士?!なんで?」


状況が分からなかった犯罪者であったが、革鎧の胸元にある紋章に気付き驚愕を露わにすると抵抗する気も失せてしまう。


「一人残らず捕らえろ」


下士官が言葉少なに指示を出す。背後関係を明らかにするため、一人でも多くの情報源が必要だ。




「ひとり見っけ」


「おんなぁ?てめぇ何モンだ?」


明らかに占拠していた者の一人だ。ダイアン相手に短剣を抜き放つが、彼女のフランベルジュの前では爪楊枝同然である。


「血で汚すのも嫌だなぁ~」


彼女が剣を納めるのを見て、“なめんじゃねぇ”と斬りかかる男であったが、鞘と柄と蹴りの三連撃で簡単に沈む。


「あぁ、面倒くさい。意識の無い奴を縛るのも手間なんだよなぁ」


そうぼやきながら彼女は手加減をせずに、男をきつく縛り上げていく。


(村人の被害とか、気にし過ぎだったんじゃないかなぁ。何とかできそうだぞ)


縛り上げた男を目立つところに転がし、ダイアンは次の相手を探し始めた。




手首のスナップを利かせると、手の中の水の鞭が弾けるように男の顔に直撃し、派手に引っくり返った。


ヴィリュークはそのまま水の鞭で縛り上げ、手首を返すと男は強引に引きずられて捕縛者の列に加わった。


「くそったれ!放し……」


しかしヴィリュークの無言の殺気に当てられると、威勢の良い啖呵は立ち消え、合計三名の拘束者はおとなしく付き従った。




(なんだ、あのバケモンは)


男は気配を殺して一部始終を目撃していた。


(ほかにも大勢入り込んでやがる。隠れてやり過ごすのは無理だろうし……何とかして村から抜け出すしかねぇ……)


方針を決めた男は、そそくさと物陰を移動していく。


だが彼の様子の一部始終も、気配を消したアレシアに監視されていた。




(あ、もう一人出て来た)


ナスリーンとエステルはじゅうたんを浮かせて、壁の切れ目の影に隠れている。


今まで通過していった男たちも含めて、壁向こうの荒野の様子を窺う事はあっても、不思議と頭上を気にする者はいなかった。


今までの男たちは、壁を抜けると全速力で荒野へ走り出し、疲れて速度が鈍った所で待ち伏せていた兵士たちに拘束されていった。


だがこの男は逃げ急いだりはせず、壁の切れ目を通過しても匍匐前進を続けていく。


その隠形は大したものだったが、まさか頭上から丸見えとは思いもよらず、今度は壁に沿って這いずっていく。


村から離れて伏せている兵士たちからは、男の存在を確認できなかったが、エステルがじゅうたんの上で白布を揺らしながら男の上を付いていっているので、それを目印にじわじわと包囲を狭められていった。


そして村から十分な距離を確保した男であったが、自分が囲まれていることに気付き、革鎧の集団がゆっくり立ち上がるのを見て、“自分もヤキが回ったか”と仰向けになって観念すると、予想外のものが宙にあった。


宙に浮いているじゅうたんからは耳の長い女が見下ろしており、目が合うと彼女は気まずげに小さく手を振って飛んで行ってしまった。






捕縛者が一定数になると、騎士団は村の中央に彼らを集め出した。


事前情報で占拠者は十一名とあったので、今回村にやって来た者も同数と想定している。そして拘束されているのは二十名。残りの人数を確定させるために、彼らを尋問するのだが思いのほか口が堅い。しかし村のどこかに潜んでいるのは確かなので、ここまでくれば外で待機している者達も動員してシラミ潰しである。




村のあちこちで湧き上がっていた罵り声もなくなり、代わりに辺境騎士団の投降の呼びかけが響きだすと、村人は窓の隙間から外の様子を窺い始める。


騎士団の他に、じゅうたん組は二手に分かれて出口を見張り、ヴィリュークとダイアンはカルヴィンらと共に捕縛者の監視についた。


シラミ潰しとは言っても投入するのは外の人員の半数以下だ。それ以外は出口を封鎖する。


そこへラザックがワーフィルを伴って現れた。


ここに来るじゅうたんに同乗していたのだが、作戦に参加できるはずもなく、最後方で待機していたのだ。


「「「ワーフィル!」」」


大好きな相手の姿、死んだと思っていた息子の姿を見て、ダーリヤとナジュマ、ワーフィルの母親が家から飛び出してきた。


しかし飛び出してきたのは三人だけではなかった。




飛び出したナジュマの家の影から男が飛び出し、彼女を背後から抱き上げると首元に短刀を這わせる。


「ナジュマ!」


「寄るんじゃねえ!」


一番近くにいたワーフィルが飛び掛かるが、あっけなく蹴り飛ばされ地面に転がる。


「「あぁっ!」」


すかさず母親とダーリヤが助け起こすが、彼は二人を自分の背に隠して相手を睨みつける。


「おおっと、動くんじゃねぇぞ。動いたら俺の手もすべっちまうぜぇ」


「これだけ囲まれて逃げられると思うな。武器を捨てて投降しろ!」


「ちげぇよ。人質を殺されたくなかったら俺を見逃せ。おう、そうだ。こいつらの縄も切ってもらおうか」


「「「かしらぁ!」」」


好き勝手な事を言う男。


だが騎士団が“はい分かりました”と要求を呑める筈もなく、地面に転がされている男たちが“早くほどけ”と勢いづいても、団員たちは拘束を緩めない。


この動きを皮切りに、村人たちが続々と姿を現し騒動が大きくなる。男たちを刺激しない為にも、団員たちが家に戻る様に促すが、全く持って効果なしである。


ナジュマを人質にとった男も、隙を突かれぬ為に視線を大きく動かし、牽制に予断が無い。




その喧噪の中、するりと一つの影が滑り寄る。


男が視界の端の影に気付いた時にはもうそこに居たのだ。


「私が代わりになります。その子を───」


女の声だ。


大きなストールを頭から被り手を伸ばしてくる。だがその手はナジュマではなく、握りしめている短剣に伸びるではないか。


男が反射的に振り払った短剣は空を切ったのに、手の甲を何かに引っかけられる感覚を覚える。


「うっ」


うめき声と同時に短剣がこぼれ落ちる。いつもならばこれしき空中でキャッチするのも容易いはずなのに、動かした腕も、開いた手の平も、思うように力が入らない。


次に男の視界に映ったものは、拳を振りかぶるエルフと大女であった。




「御免なさいね、怖がらせちゃって」


ストールの女の正体はアレシアだった。顔を露わにし、ストールを腰のポーチに入れながら詫びてくる。


「ひやひやさせやがって。一足遅いんだよ」


文句を付けるダイアンの足元には、ナジュマをかばうワーフィルの姿がある。


そこへダーリヤが泣き声を上げながら駆け寄って抱き付いた。


「がはっ……」


その離れた場所では殴り飛ばされた男が、ヴィリュークによって吊し上げられている。


「う、うでが……」


アレシアへ振り返ると、手の内側には指にはめられた鉤爪が見える。ご丁寧に手を振っているので丸見えだ。爪の先に麻痺毒を塗ったに違いない。


(こんなことばかりやっているとガラが悪くなっちまうなぁ)


ヴィリュークは、身体強化をかけ、男を吊るし、数個の水球を浮かべ、これでもかと殺気を浴びせかけた。


結果、男はすんなりと自供し、作戦は無事完了した。






ケリを付ける所まで書き進めていたら遅くなりました。すみません。

次回でこの章も完結の予定です。

お読みいただきありがとうございました。


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